銀河の竜を駆る少女   作:Garbage

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複雑な感情

 

 

 

 

(怖いけど、それ以上に楽しい……か。思っている以上に純粋な子ね)

 

 遊希になくてエヴァにあるもの。それはデュエルを純粋に楽しもうという気持ちである。もちろん遊希もエヴァと同じようにデュエルは好きであるが、心の底から結果を度外視して楽しもうという気持ちは持ち合わせていなかった。鈴とのデュエルでも、千春とのデュエルでも、皐月とのデュエルでも彼女は勝利をもぎ取ってきた。それだけ遊希にとって“勝利”というものの為す意味は大きかった。

 

(私は結果を度外視しない。どれほど楽しかったとしても負けては意味がないから)

 

 同じ女性であり同じ年齢、そして同じプロの世界に生きたデュエリストである二人。それでも価値観には大きな差が生じている。だからこそ遊希はより一層エヴァに対して対抗心を燃やす。

 

「私のターン、ドロー!」

「さてフォーミュラ・シンクロンの効果と今のドローで得たその2枚の手札でどう返すか……見せてもらおうかしら」

「……お前もデュエリストならこんな言葉を聞いたことは無いか?“墓地は第二の手札”という言葉をな。私のスタンバイフェイズにゲームから除外されているPSYフレームロード・Ωは私のフィールドに、お前の銀河剣聖は手札に戻る」

 

 デュエルモンスターズの黎明期は墓地のモンスターを再利用できるカードは死者蘇生や《リビングデッドの呼び声》など数が少なかった。しかし、今となっては墓地で発動できる効果を持ったカードが数多く存在しており、墓地送りやデッキ破壊がメリットになるケースが多い。墓地は第二の手札、という言葉はまさに今のデュエルモンスターズの実情をよく表している言葉と言えた。そしてそれはエヴァのデッキにおいても十分に言えることであった。

 

「そして私は墓地のBF-大旆のヴァーユの効果を発動する! 墓地のこのカードとチューナー以外のBFモンスター1体をゲームから除外し、そのレベルの合計のBFのSモンスター1体をエクストラデッキから効果を無効にして特殊召喚する! 私が除外するのはレベル4の残夜のクリス。よってレベル5のBF1体を特殊召喚させてもらう! 特殊召喚するのはA BF-五月雨のソハヤだ!」

 

 BFモンスターをS素材としてS召喚されたA BF-五月雨のソハヤはその効果でチューナーモンスターとして扱われるが、ヴァーユによる特殊召喚はS召喚とは扱われない。そして効果も無効化されていることから、この時のソハヤはレベル5で効果のないモンスターに過ぎなかった。

 

「そして私は墓地のゾンビキャリアの効果を発動! 手札1枚をデッキトップに戻し、このカードを墓地から特殊召喚する!」

「これでレベル7のシンクロ召喚が可能になった……」

「私はレベル5の五月雨のソハヤに、レベル2のチューナーモンスター、ゾンビキャリアをチューニング!“冷たき雨が落ちる空に響くは悲壮なる雷鳴。漆黒の翼よ、朋友の志を力に敵を撃て!”シンクロ召喚! レベル7《A BF-涙雨のチドリ》!!」

 

《A BF-涙雨のチドリ》

シンクロ・効果モンスター

星7/闇属性/鳥獣族/攻2600/守2000

チューナー+チューナー以外のモンスター1体以上

(1):「BF」モンスターを素材としてS召喚したこのカードはチューナーとして扱う。

(2):このカードの攻撃力は自分の墓地の「BF」モンスターの数×300アップする。

(3):このカードが破壊され墓地へ送られた時、「A BF-涙雨のチドリ」以外の自分の墓地の鳥獣族Sモンスター1体を対象として発動できる。そのモンスターを特殊召喚する。

 

「BFを素材としてS召喚した涙雨のチドリはチューナーとして扱う。そしてこのカードの攻撃力は墓地のBFモンスターの数×300ポイントアップする!」

 

 エヴァの墓地に存在するBFは除外されたヴァーユとクリスを除けば8体。よってその攻撃力は2400ポイントアップする。

 

A BF-涙雨のチドリ ATK2600→5000

 

「攻撃力……5000」

「バトルだ! まずはPSYフレームロード・Ωで守備表示のフォトン・バニッシャーを攻撃!“PSY・ディメンションバースト”!」

 

PSYフレームロード・Ω ATK2800 VS フォトン・バニッシャー DEF0

 

「そして涙雨のチドリで銀河眼の光波刃竜を攻撃!“雷鳴の一撃 ライトニング・スラッシュ”!」

 

A BF-涙雨のチドリ ATK5000 VS 銀河眼の光波刃竜 ATK3200

 

 雷電を帯びた刀の一振りが、両腕を顔の前で交差させて守ろうとした光波刃竜をその両腕の刃ごと両断する。迸る雷の衝撃が遊希の身体を襲った。デュエルディスクの進化は以前とは比べ物にならないようで、デュエルの激しさによって痺れや熱などといった人体に怪我を及ぼさない程度の影響を及ぼすこともできるようになっていた。

 

遊希 LP7200→5400

 

「っ……! まさかそんな攻撃力のモンスターを出してくるとは」

―――耐性のフルアーマード・ウィング、攻撃力のチドリといったところか。チドリは耐性を持たないが、破壊され墓地に送られることで墓地の鳥獣族Sモンスターを特殊召喚できる。

(チドリを倒してもフルアーマード・ウィングが出てくるってこと。なら答えは簡単よ)

(……こっちには攻撃力5000のチドリがいる。なのに全く動揺する素振りを見せていない。まだ安心はできないか)

「私はこれでターンエンドだ!」

 

 

エヴァ LP5400 手札1枚

デッキ:30 メインモンスターゾーン:1(PSYフレームロード・Ω)EXゾーン:1(A BF-涙雨のチドリ)魔法・罠:0 墓地:10 Pゾーン:青/赤 除外:5 エクストラデッキ:7(0)

遊希 LP5400 手札2枚

デッキ:31 メインモンスターゾーン:0 EXゾーン:0 魔法・罠:0 墓地:8 Pゾーン:青/赤 除外:0 エクストラデッキ:12(0)

 

エヴァ

 □□□□□

 □□Ω□□□

  □ 涙

□□□□□□

 □□□□□

遊希

 

○凡例

涙・・・A BF-涙雨のチドリ

 

 

「すごい……」

 

 エヴァが盤石のフィールドを組み立て、ワンショットキルを狙えるだけのモンスターを揃えれば、残されたカードでその布陣を切り裂く遊希。そしてそんな遊希を墓地のカードを駆使して再度突き崩すエヴァ。そんな二人のデュエルを見て鈴は思わず感嘆の言葉を漏らす。

 

「鈴、よく見ておくんだ。これが、プロのデュエルだよ」

 

 竜司は教育者として、そして一人の父親として教え子であり娘である鈴に優しく語り掛ける。

 

「先行のエヴァくんは強固なモンスターを立て、PSYフレームロード・Ωを駆使して相手の展開を挫こうとした。だが、後攻の天宮くんはそれすらも乗り越えて激しく攻め立てた。二人は限られた手段において常に自分たちの考え得る中で最善の手を尽くしているんだ。彼女たちのことを考慮して静かな環境でデュエルをさせてあげようと思っていたが、これは生徒たち皆に見せてあげるべきだったかな」

「ねえパパ……それを見れるあたしってもしかして凄くツイてる?」

「ああ、そうかもしれないね」

 

 

☆TURN04(遊希)

 

「私のターン、ドロー!」

「相手のスタンバイフェイズにPSYフレームロード・Ωの2つ目の効果を発動! 除外されているBF-大旆のヴァーユを私の墓地に戻す。そして相手メインフェイズにフィールドのPSYフレームロード・Ωの効果を発動! フィールドのこのカードをゲームから除外し、相手の手札をランダムに1枚除外する!」

 

 反撃に出たい遊希であるが、そんな彼女の妨害を執拗に行ってくるのがPSYフレームロード・Ωだ。かつて制限カードに指定される前は先攻で3体S召喚してはその効果で先攻ハンデスを行い、相手に何もさせずに勝利するという戦法が流行したほどである。自身の効果も相まって維持しやすいこのモンスターはレベル8のSモンスターを出せるデッキであれば制限カードとなった後でも多くのデュエリストに愛用されている。

 

(む、除外されたのはまた銀河剣聖か。わかっていない残り2枚が何かを知りたかったが)

「ラッキーだったわね。しかし、鬱陶しいったらないわねそいつは」

「そういう効果だからな。恨むのであればI2社のカードデザイナーを恨んでくれ」

「これで私の手札は残り2枚。この2枚では反撃は難しい……困ったわ。困ったからそんな時は魔法カード、貪欲な壺を発動。墓地のモンスター5体をデッキに戻し、2枚ドローする。戻すのはフォトン・バニッシャー、フォトン・オービタル、光子竜皇、FA・フォトン、光波刃竜の5体よ」

 

 メインデッキに魔導師とオービタルの2枚が、エクストラデッキには3体の銀河眼が戻る。ドロー効果もそうだが、遊希にとっては1枚しか存在していないエクストラデッキの銀河眼たちを再利用できる方が大きかった。

 

「私は手札から魔法カード、フォトン・サンクチュアリを発動! フィールドにフォトン・トークン2体を守備表示で特殊召喚するわ。そして自分フィールドにフォトンモンスターが存在することにより、フォトン・バニッシャーを攻撃表示で特殊召喚!」

「そのカードは!」

「特殊召喚に成功したフォトン・バニッシャーの効果。デッキから2体目の銀河眼の光子竜を手札に加える。そして攻撃力2000のフォトン・トークン2体をリリースし、銀河眼の光子竜を特殊召喚! そしてバトルよ! 銀河眼の光子竜でA BF-涙雨のチドリを攻撃!」

 

銀河眼の光子竜 ATK3000 VS A BF-涙雨のチドリ ATK5000

 

「銀河眼の光子竜の効果を発動! このカードと、このカードと戦闘を行う相手モンスター1体をバトルフェイズ終了時までゲームから除外する!」

「チドリ!……だが、そんなものは一時的な気休めにすぎん!」

「気休めね、確かに。でもこのカードを見てそんなことが言えるかしら? 手札から速攻魔法、異次元からの埋葬を発動!!」

 

 銀河眼の光子竜と異次元からの埋葬。このコンボは遊希が皐月とのデュエルで決めてみせたコンボであった。

 

「異次元からの埋葬の効果は知っているわね? 互いのゲームから除外されているモンスターを3体までコントローラーの墓地に戻すことができる」

「……まさか」

「そのまさかよ! 私が墓地に戻すのはあなたの涙雨のチドリ、PSYフレームロード・Ω、水晶機巧-ハリファイバーの3体。そして銀河眼の光子竜の効果で除外されたモンスターは除外ゾーンを離れてしまえばもう戻れない」

 

 PSYフレームロード・Ωは3つ目の効果で自身をエクストラデッキに戻すことができるが、破壊以外の方法で墓地に送られることになったチドリの効果は発動しない。随分と遠回りな方法ではあるが、エヴァは結果的にチドリの帰還とフルアーマード・ウィングの蘇生、そしてPSYフレームロード・Ωのハンデス効果をわずか2枚のカードで封じられる形になってしまった。

 

(なんと型破りな……だが、それでこそ世界を魅了した伝説のデュエリストといえるな)

「バトルフェイズを終了。除外されていた光子竜はフィールドに戻る。私はこれでターンエンドよ」

 

 

エヴァ LP5400 手札1枚

デッキ:30 メインモンスターゾーン:0 EXゾーン:0 魔法・罠:0 墓地:16 Pゾーン:青/赤 除外:2 エクストラデッキ:7(0)

遊希 LP5400 手札0枚

デッキ:29 メインモンスターゾーン:2(銀河眼の光子竜、フォトン・バニッシャー)EXゾーン:0 魔法・罠:0 墓地:5 Pゾーン:青/赤 除外:1 エクストラデッキ:15(0)

 

エヴァ

 □□□□□

 □□□□□□

  □ □

□□□バ光□

 □□□□□

遊希

 

 

(彼女の手札は1枚。そしてあのデッキトップは前のターンにゾンビキャリアの効果で戻された1枚。故に新しいドローカードを期待することはそうはできないはず。BFデッキだけあって展開力は普通のデッキの比ではないかもしれないけど、ここからの逆転はさすがに現実的ではない。PSYフレームロード・Ωの効果で墓地に戻された大旆のヴァーユは墓地シンクロはできるけど……それでも彼女のデッキに2枚目のソハヤがなければそれも不可能。そしてライフは同じでも、光子竜とバニッシャーで攻めれば残りライフはわずか400。このデュエル貰ったわ!)

 

 遊希は内心でこのデュエルの勝利を確信しつつあった。しかし、その一方で光子竜はそんな遊希の様子を不穏に思っていた。

 

(―――相手のライフはまだ5400も残っている。なのに何故勝ちを確信する?)

 

 かつて光子竜はプロ時代に遊希が竜司から言われたある言葉を思い出していた。過去に最強を誇ったとあるデュエリストは「勝利を確信した瞬間、その決闘者はすでに負けている」という言葉を残しており、竜司はこの言葉を常に胸に刻んでデュエルに臨んでいた。

 そんな彼の薫陶を受けてデュエルに臨んでいた遊希であったが、まだ幼かった彼女は今と違ってそういったミスを犯すことも少なくなく、掴みかけた勝利を取りこぼしては涙することも多かった。そしてそれを反省して今のような圧倒的なデュエルができるだけの実力をつけるに至ったのだ。

 しかし、遊希は何故かこの時ばかりは勝利を確信してしまっていた。普段最後の最後まで冷静なはずの遊希が。その理由は光子竜にもわからなかった。

 

(遊希……何故お前はそこまで勝ちに逸る?)

 

 逸る遊希に心配する光子竜。一方で対するエヴァの心中も穏やかなものではなかった。遊希のフィールドには攻撃力3000の銀河眼の光子竜がいる。自分のデッキにおいて素の攻撃力で光子竜の3000を上回るモンスターは存在しない。そのためこのターンで何としてもSモンスターの召喚に繋げる必要があった。

 彼女も10歳の時にプロデュエリストとして華々しくデビューしたが、それでもデュエリストということを除けばまだ15歳のうら若き少女なのである。流れ落ちる汗を拭う余裕すらなかった。

 

(ライフにはまだ余裕があると言っていいだろう。だが、このまま手を打てなければ負けるのは私だ。だが、勝つための道筋は私は描けている。描けてはいるが……)

 

 エヴァは自分のエクストラデッキに目線を落とす。通常エクストラデッキには15枚までカードを入れることができるのだが、エヴァはその15枚のうち数枚ほどデュエルでは使わないと決めていたカードがあった。

 

(……ここ数年で私もデュエリストとして成長したはずだ。もう“あの時”のようなことは起きないし、起こさせない。ならば、この力に縋るしかない!!)

 

 二人の少女の心の中には形こそ違えど、複雑な感情が渦巻いていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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