銀河の竜を駆る少女   作:Garbage

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目覚めし第二の精霊

 

 

 

 

☆TURN05(エヴァ)

 

「私のターン、ドロー……このドローカードはゾンビキャリアの効果で戻されたもの。なので前まで私の手札にあったものだがな」

「そうね。ゾンビキャリアの効果は便利だけど、ドローロックがかけられてしまう。だから起死回生の手はそう簡単には引き入れられない」

「ああ、そうだな。だが……この手札がその起死回生のためのものだとしたら?」

 

 そう言ってエヴァは不敵に微笑む。いくら強力なカードでも発動条件を満たしていなければ腐るだけ。そこがカードゲームの難しいところであるが、逆を言ってしまえばその発動条件すら満たしていれば、挽回の一手になるということでもあった。

 

「行くぞ。まず私は墓地のPSYフレームロード・Ωの効果を発動。墓地のこのカードと私か相手の墓地のカード1枚をそれぞれ持ち主のデッキに戻す。私はPSYフレームロード・Ωと墓地のA BF-五月雨のソハヤをエクストラデッキに戻す」

 

 遊希は前のターン終了時にヴァーユの墓地シンクロは不可能である、と踏んでいたが、その時彼女はこのPSYフレームロード・Ωの3つ目の効果を失念してしまっていた。これでエヴァは再びA BF-五月雨のソハヤのS召喚が可能になる。

 

(そうだ。PSYフレームロード・Ωの効果が……)

「私は手札から魔法カード、闇の誘惑を発動。デッキからカードを2枚ドローし、その後手札の闇属性モンスター1体をゲームから除外する。私が除外するのはBF-疾風のゲイルだ。そして更に私は手札のBF-毒風のシムーンの効果を発動!」

「毒風のシムーン……!!」

「自分のデッキから2枚目の黒い旋風を発動し、このカードを手札から召喚する! これは効果による召喚のため、召喚権を使わない。BFモンスターの召喚に成功したことで黒い旋風の効果が発動。デッキからシムーン以下の攻撃力のBFモンスター、南風のアウステルを手札に加える! そしてそのアウステルを召喚! 再び黒い旋風とアウステルの効果が発動する!」

 

チェーン2(エヴァ):BF-南風のアウステル

チェーン1(エヴァ):黒い旋風

 

「黒い旋風の効果でデッキからアウステル以下の攻撃力を持つBF-砂塵のハルマッタンを手札に加え、アウステルの効果で除外されているゲイルを私のフィールドに特殊召喚する! そしてフィールドに同名以外のBFが存在することで、ハルマッタンを特殊召喚! 自身の効果でハルマッタンのレベルをゲイルのレベル分アップさせる!」

 

BF-砂塵のハルマッタン 星2→5

 

「疾風のゲイルの効果を発動。相手フィールドのモンスターの攻守の値を半分にする。対象は銀河眼の光子竜だ!」

 

銀河眼の光子竜 ATK3000/DEF2500→ATK1500/DEF1250

 

「……相変わらず面倒な効果ね。でも、光子竜は自身を除外することでステータスを元に戻すことができるわ。仮に光子竜を一時的のフィールドから退かすことで私のライフを削ってもそのBFたちではバニッシャーすら倒せない」

「確かにその通りだ。だが、これで終わりではない! 私は墓地の大旆のヴァーユの効果を発動! 墓地の黒槍のブラストと大旆のヴァーユをゲームから除外し、エクストラデッキからレベル5のA BF-五月雨のソハヤを特殊召喚する! さて、これで下準備は整った」

「下準備?」

 

 エヴァのフィールドにはメインモンスターゾーンにレベル6のシムーンとレベル4のアウステル、そしてレベル3のゲイルが存在し、EXゾーンにはレベル5のSモンスターであるソハヤが存在している。ここからエヴァが取れる展開先はレベル8か9の闇属性SモンスターのS召喚、そして闇属性モンスターのリンク召喚である。

 シムーンの効果を発動したターン、エヴァは闇属性以外のモンスターを特殊召喚できなくなるためだ。BFデッキは全モンスターが闇属性であるため純構築であればあまり困らない制約ではあるが、エクストラデッキにはPSYフレームロード・Ωやハリファイバーのように他の属性のモンスターも入っている。そのため汎用素材で召喚できるモンスターがエクストラデッキにある場合は決して軽視していいデメリットではなかった。

 

「……天宮 遊希よ」

「何かしら?」

「私は憧れのあなたとデュエルができて今とても幸せな気分だ。そしてこれから3年間同じ学校で共に学びあい、共に高めあうことができることに、とてもわくわくしている」

 

 このタイミングで何を言い出すのか、と遊希は少しむず痒くなりながらも素直にありがとう、と礼を言う。そんな彼女から礼を言われたことに嬉しくなってはにかんだエヴァは、すぐに決意を込めた眼差しを遊希に向けた。それは紛れもなくプロデュエリストたる少女のもの。

 

「きっとこの先あなたとはたくさんデュエルができると思う。そのきっかけになったこのデュエルを私はずっと忘れない。だからずっと忘れないであろうこのデュエル、私が貰う!」

 

 遊希の身体に悪寒が走る。ここからエヴァが出せる逆転の手段などそうないはずなのだが、デュエリストとしての直感が告げるのだ。ここでエヴァが出すモンスターこそこのデュエルの勝敗を決めかねない存在である、と。

 

「天宮 遊希、あなたはこのデュエルで光子竜はもちろんたくさんのモンスターを私に見せてくれた。ならば私も特別なモンスターを使ってその気持ちに応えたいと思う!」

「特別なモンスター?」

 

 その言葉を聞いて遊希はデュエルの前に竜司と鈴から聞いた話を思い出した。エヴァはかつて大会で竜司に勝ち優勝した時、この世に1枚しかないカードを手に入れていたということを。

 

「今からそのモンスターを見せてやろう! 私はレベル5のA BF-五月雨のソハヤに、レベル3のBF-疾風のゲイルをチューニング!」

 

 ソハヤが変化した5つの星と、ゲイルが変化した3つのリングが重なり合い、やがてその姿は巨大な竜へと姿を変える。その力はエヴァがこれまで召喚してきたモンスターとは明らかに異なる―――精霊である光子竜はそれを敏感に感じ取った。

 

(―――この波動はまさか……!!)

 

 

 

 

 

―――“黒き嵐吹き荒ぶ世界は紅蓮の炎に包まれる。唯一無二たる覇者の力をその心胆に刻み込め!!”―――

 

 

 

 

 

―――シンクロ召喚!!―――

 

 

 

 

 

 灼熱の炎の中より現れたのは悪魔のような姿を持ちながら片方の角が折れ、全身に刻印のような傷を負った真紅のドラゴン。しかし、そのモンスターを見た時、この場で唯一そのモンスターのことを知っているはずの竜司は驚きを隠せなかった。何故ならそのモンスターはかつて自分がエヴァと競い合ってまで手に入れようとしていた希少なモンスター―――《レッド・デーモンズ・ドラゴン》と似て否なるものだったからだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――今こそ我が声に応えよ!! 《レッド・デーモンズ・ドラゴン・スカーライト》!!―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

《レッド・デーモンズ・ドラゴン・スカーライト》

シンクロ・効果モンスター

星8/闇属性/ドラゴン族/攻3000/守2500

チューナー+チューナー以外のモンスター1体以上

(1):このカードのカード名は、フィールド・墓地に存在する限り「レッド・デーモンズ・ドラゴン」として扱う。

(2):1ターンに1度、自分メインフェイズに発動できる。このカード以外の、このカードの攻撃力以下の攻撃力を持つ特殊召喚された効果モンスターを全て破壊する。その後、この効果で破壊したモンスターの数×500ダメージを相手に与える。

 

 

「レッド・デーモンズ・ドラゴン・スカーライト……」

―――遊希!

 

 召喚されたドラゴンを見た瞬間、光子竜が遊希に呼びかける。その声にいつも沈着さはなかった。

 

(何よ、こんな時に!)

―――こいつだ……

(こいつ、ってこのモンスターが何だっていうのよ!)

―――彼女を……エヴァを探すときに私が感知した波動の正体だ。

(!?……なんですって。じゃあ)

―――あれは“デュエルモンスターズの精霊”だ。

 

 自分と同じ力を感じ取った光子竜がスカーライトを精霊と断定する。確かにこれまで現れたモンスターたちとは異なり、スカーライトは精霊である光子竜の存在を感じ取ったのかそれに呼応するかのように激しく咆哮している。

 しかし、遊希はまだスカーライトの言葉を理解することはできなかった。光子竜曰く向こうが心を開かないと、人間と精霊はおろか精霊同士でも言葉を交わすことすらできないという。

 

(この世界にデュエルモンスターズの精霊はあんただけじゃなかったの?)

―――そのはずだ。だが、何らかの形でこの世界に舞い降りたとしか言えん。

(……っ)

 

 光子竜の言葉を聞いて遊希の表情が曇る。だが、今の時点では精霊であるかないか、ということよりもまずは勝つことが最優先であった。光子竜の攻撃力はゲイルの効果で下げられてしまっているが、光子竜を除外してスカーライトを含めたモンスターの総攻撃を受けたとしても、遊希のライフはまだ残る。このターンの敗北は無い―――しかし、それが遊希の誤算であった。

 

「レッド・デーモンズ・ドラゴン・スカーライトの効果を発動!! このカードの攻撃力以下の特殊召喚された効果モンスターを破壊し、その数×500ポイントのダメージを相手ライフに与える!!」

「なっ……全体破壊!?」

「全てを焼き尽くせ!!―――“アブソリュート・パワーフレイム”!!」

 

 スカーライトがプロテクターのようなものがついた肥大した右腕で大地を殴りつけると、轟音と共に地中深くのマグマが噴出するかのように火柱が上がった。それが遊希のフィールドの光子竜とフォトン・バニッシャーを、そしてエヴァのフィールドのハルマッタンを飲み込んでいく。灼熱の炎に包まれた光子竜は為す術もなく、ただ断末魔の叫びをあげながら灰となって消えていってしまった。

 

―――ぐああっ! やはり……この力はっ……!!

「光子竜!!」

「破壊されたモンスターは3体。よって1500のダメージを受けてもらう!」

 

遊希 LP5400→3900

 

 スカーライトの効果により、遊希のフィールドのモンスターは全滅。一方でエヴァのフィールドにはスカーライトとシムーン、アウステルの3体が存在している。シムーンとアウステルは通常召喚されたモンスターであるため、スカーライトの効果で破壊されない。エヴァのフィールドに存在する3体のモンスターの総攻撃力の合計は―――6000。

 

「う……そ……」

 

 遊希はこの状況をすぐに受け入れることができなかった。自分を守るモンスターはなく、セットカードもない。この先に自分を待っているものは、デュエリストとして一番味わいたくないものであった。

 

「これで終わりだ、バトル! アウステルとシムーンでダイレクトアタック!」

 

BF-南風のアウステル ATK1400

 

BF-毒風のシムーン ATK1600

 

遊希 LP3900→900

 

「きゃあああああっ!!」

―――遊希!!

「レッド・デーモンズ・ドラゴン・スカーライトでダイレクトアタック!“灼熱のクリムゾン・ヘル・バーニング”!!」

 

レッド・デーモンズ・ドラゴン・スカーライト ATK3000

 

遊希 LP900→0

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――っ!!」

 

 光子竜が精霊と睨むスカーライトの攻撃によってライフが0になった遊希の身体が大きく吹き飛ぶ。その攻撃はソリッドビジョンのはずなのだが、その様はまるで実際にダメージを受けたかのように見えた。

 

「遊希っ!!」

 

 それを見た鈴が倒れこんだ遊希の元に駆け寄る。地面に叩きつけられた遊希に奇跡的に大きな怪我はなく、意識もはっきりしているようだった。しかし、今の彼女は鈴が幾度となく呼びかけてもどこか放心状態という感じだった。

 

「……また、ダメだった」

 

 一方、デュエルの勝者であるエヴァも勝ったにも関わらず悲しげな顔を浮かべながらその場に座り込んでしまった。そちらには竜司が向かい、今の彼女の言葉の意図を確かめる。竜司の包み込むような穏やかな顔を見たエヴァは、竜司に、そして遊希と鈴にレッド・デーモンズ・ドラゴン・スカーライトがエヴァの元に現れた経緯を話し始めた。

 それは今から3年ほど前に遡る。プロデュエリストとしてエヴァが大会に備えて自宅でデッキ調整をしていた時のことだった。彼女が手に取り眺めていたレッド・デーモンズ・ドラゴンのカードが突如紅く激しい光を放ち出したのである。それは一瞬の出来事だった。その光が収まった後にエヴァがカードを見ると、レッド・デーモンズ・ドラゴンのカードは似て非なる存在であるレッド・デーモンズ・ドラゴン・スカーライトへと変化していたという。

 当然カードが突然書き換わる、といった類の話を周囲は信じてくれなかったが、エヴァがそのスカーライトを使って相手のデュエリストに攻撃をすると、意図せずに相手のデュエリストを負傷させてしまう事故が多発した。それからエヴァはスカーライトをデュエルで使うことを止めてしまっていたのである。

 

「そうか……だから君は公の場において一度もレッド・デーモンズ・ドラゴンを出さなかったんだね?」

「はい。でももうあれから3年も経ち、私は人としてもデュエリストとしても成長することができた。故にこのカードを使いこなせると思っていましたが……」

 

 エヴァの様子を見る限り、彼女はスカーライトが精霊だということには気づいていないようだった。最もスカーライトが精霊であると知っているのはこの場を除いても遊希と光子竜のみなのだが。

 

「そうか……何にせよ今日は二人とも疲れたろう? 私がエヴァくんを案内がてら寮の部屋へ連れていく。鈴は天宮くんのことを頼めるだろうか?」

「うん、わかったよパパ」

 

 鈴はどこか虚ろな眼をしている遊希に肩を貸すと、ゆっくり歩き始める。遊希の意識ははっきりしているのだが、遊希は一言も言葉を発することなく、虚ろな表情を浮かべたままずっと黙り込んでしまっていた。鈴は一体遊希に何があったのだろうか、と疑問に思いながら寮の部屋へ向かう。

 その途上、ポケットに入れていた鈴のスマートフォンが揺れた。竜司から無料通話アプリで連絡が来ていたのだ。鈴は遊希に見えないようにこっそりとスマートフォンを開いて目を通す。その画面には竜司からのこのようなメッセージが載せられていた。

 

 

「今日は遊希くんを見守ってあげてほしい。彼女は強く凛々しいが、同時にとても繊細でか弱い子だから」

 

 

 鈴はこの時、父の言葉の意味が理解できなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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