実技試験で行われるデュエルのルールは以下の通りである。
・初期ライフは互いに8000
・先攻を取ったプレイヤーは最初のターンにドローを行えない
・先攻のプレイヤーはバトルフェイズおよびメインフェイズ2を行えない
ルールはマスタールール4。特に何の変哲もない通常のルールと同じだ。だが、試験という緊張感の高まる場において普段と同じようにデュエルができるかどうかも試される。ちなみにこのアカデミアにおいてはデュエルディスクがデュエル前にコンピューターでランダムでどちらのデュエリストが先攻後攻の決定権を得れるかを決める仕組みになっていた。
一般的にはじゃんけんやコイントスが有名であるが、相手より先に先攻を宣言した者がそのまま先攻になるなどというローカルルールもあったため、国や地域ごとの混同を避けるためにこの仕組みに統一したそうだ。
「では、デュエルディスクのスイッチを押してもらおうか」
二人にそう告げるのはこのデュエルの審判を務める“ミハエル・シュトラウス”。ドイツ人のプロデュエリストであり、星乃 竜司が新校長に就任するにあたって旧知の仲である彼の要請を受けて新年度から教頭を務めることになった者である。
「あなたが審判を務められるのですね。どうぞお手柔らかにお願いします」
「久しいな。“銀河の姫君”―――天宮 遊希」
プロ時代の遊希は美しい黒髪と白い肌のコンストラクト、そして使用するカードからいつの間にかそんな異名が付いていた。小さい頃ならともかく、今その名を呼ばれるのはあまりいい気分はしない。
「……その呼び名は恥ずかしいんですが」
「君のデュエルを見るのはいつ振りになるだろうかね。これは勝敗ではなくデュエルの質およびデュエリストの技量を見る試験とはいえ、かつての君を知る私が落胆するようなデュエルだけはしないで貰いたいな」
遊希を見出してプロの世界へと送り込んだ竜司と旧知の仲、ということはミハエルもまた遊希とは知らない仲ではないということになる。最も遊希は対戦相手に高圧的な態度を取りがちで、小言も多いミハエルのことはやや苦手に思っており、デュエル以外の場ではできれば関わり合いになりたくない相手であった。
「ところで天宮君。竜司……星乃先生から聞いたが君は試験の開始時間に遅刻したそうだな」
「ああ……まあそうなりますね。でもこうしてデュエル開始には間に合ったからいいじゃないですか」
「確かに試験も受ける事はできる。しかし、これから君は学生として皆と共同生活を送るのだ。共同生活において協調性が欠けているのは問題ではなかろうか?」
プロ時代から協調性の欠片もない人に言われたくない、と遊希は内心で舌を出す。
「じゃあなんですか……罰でも与えようかと?」
「そういう訳ではない。ただ君は引退してだいぶ経つとはいえ、幼少の身で世界を相手取ったデュエリストだ。そんな君のデュエルを他の受験生にも見せてあげたいのだが」
天宮 遊希という存在は遊希自身が思っている以上に大きな存在だ。わずか3年間とはいえ、10歳まで大人のプロデュエリスト相手に戦い抜いた彼女を同年代の少年少女デュエリストが知らないわけがなく、彼女に憧れたためにこの道を選んだデュエリストは数知れない。そんな彼らに対して遊希のこのデュエルを中継し、今後の経験として彼女のデュエルから学んでもらいたい。それが後進のデュエリストの育成を任せられた竜司ら教師陣の狙いだったのだ。
「なんだ、そういうことですか。私は別に構いませんが……」
遊希はそう言って対戦相手の男子生徒の方を見る。男子生徒は最初は躊躇するような様子を見せたが、結果的にその申し出を了承した。
「おっと、話が途切れてしまったな。先攻後攻の決定権はどちらに渡った?」
デュエルディスク内蔵のコンピューターによって選ばれた結果、先攻後攻の決定権は男子生徒に渡り、遊希は後攻となった。
先攻はカードを最初のターンドローできず、バトルフェイズも行えないが、手札誘発系のカードを除けば相手を気にせずモンスターを展開することができる。特に先攻1ターン目に強力な効果を持つモンスターをフィールドに召喚できればそのまま勝負が決まることも多い。
一方の後攻は相手のセットした魔法・罠に注意を配る必要があるが、ドローフェイズを行えるため、相手の様子を見ながらその後の作戦をじっくりと考える事ができるという利点がある。それでも初手に相手モンスターを退けられるモンスターが来なければ次のターン以降は相手に優位を築かれてしまうため、このゲームにおいては基本的に後攻が不利であると言わざるを得なかった。
「では、二人とも。準備はいいかね?」
「……はい、いつでも」
(相手はあの天宮 遊希。でもずっとデュエルの世界から離れていたのなら、今のデッキを知らないはず。相手がプロだろうがなんだろうが勝ってみせる!)
(……今日の夕食何にしようかな)
デュエルに臨む2人はそれぞれ相手がどのようなことを考えているかなどわかるはずはない。しかし、気合を入れる男子生徒に対して遊希は何処吹く風といった様子なのは周囲の人間からも見て取れた。
「「デュエル!!」」
先攻:男子生徒
後攻:遊希
男子生徒 LP8000 手札:5枚
デッキ:35 メインモンスターゾーン:0 EXゾーン:0 魔法・罠:0 墓地:0 Pゾーン:青/赤 除外:0 エクストラデッキ:15(0)
遊希 LP8000 手札:5枚
デッキ:35 メインモンスターゾーン:0 EXゾーン:0 魔法・罠:0 墓地:0 Pゾーン:青/赤 除外:0 エクストラデッキ:15(0)
☆TURN01(男子生徒)
「俺のターン!」
(……これはいい手札だ。これなら押し切れる!)
ドローした最初の手札を見た男子生徒の顔には笑みがこぼれる。それを見た遊希は彼の手札が理想的なものであることを即座に見抜いた。
「俺は手札から魔法カード《閃刀起動-エンゲージ》を発動!」
《閃刀起動-エンゲージ》
通常魔法
(1):自分のメインモンスターゾーンにモンスターが存在しない場合に発動できる。デッキから「閃刀起動-エンゲージ」以外の「閃刀」カード1枚を手札に加える。その後、自分の墓地に魔法カードが3枚以上存在する場合、自分はデッキから1枚ドローできる。
(はい、やっぱり【閃刀姫】でした)
【閃刀姫】は【閃刀】と名のついた多種多様な魔法カードを使い分けて戦っていくデッキであり、その大半がメインモンスターゾーンにモンスターが存在しないことを条件に指定している。メインモンスターゾーンを常に空けていくおくことが求められるが、属するモンスターとのシナジーから多くのデュエリストが結果を残すために使っている、まさに今“強い”デッキの代表格と言えた。
「俺はデッキから《閃刀機-ホーネットビット》を手札に加える! そしてホーネットビットを発動!」
《閃刀機-ホーネットビット》
速攻魔法(制限カード)
(1):自分のメインモンスターゾーンにモンスターが存在しない場合に発動できる。
自分フィールドに「閃刀姫トークン」(戦士族・闇・星1・攻/守0)1体を守備表示で特殊召喚する。このトークンはリリースできない。自分の墓地に魔法カードが3枚以上存在する場合、そのトークンの攻撃力・守備力は1500になる。
「ホーネットビットの発動にチェーンして手札から《増殖するG》の効果を発動するわ」
《増殖するG》
効果モンスター
星2/地属性/昆虫族/攻500/守200
このカード名の効果は1ターンに1度しか使用できず、相手ターンでも発動できる。
(1):このカードを手札から墓地へ送って発動できる。このターン、以下の効果を適用する。●相手がモンスターの特殊召喚に成功する度に、自分はデッキから1枚ドローしなければならない。
チェーン2(遊希):増殖するG
チェーン1(男子生徒):閃刀機-ホーネットビット
「チェーンするカードはあるかしら。《灰流うらら》を使うなら今よ?」
「……チェーンするカードはない。増殖するGの効果が適用された後、チェーン1のホーネットビットの効果で俺のフィールドに閃刀姫トークン1体を守備表示で特殊召喚する!」
「モンスターが特殊召喚されたことで私はデッキからカードを1枚ドローするわ」
増殖するGによるドローを最小限に留めるのであれば、これ以上の展開を控えるという選択肢もあるだろう。しかし、相手はあの天宮 遊希。少しでも守りに入ればきっと圧し潰される。それのリスクを鑑みれば、男子生徒にここで退くという決断は下せなかった。
「そして俺はこの閃刀姫トークン1体をリンクマーカーにセット!」
男子生徒がそう宣言すると、デュエルフィールドの上空には周囲8か所に三角形のマークがついた正方形の物体が現れる。これが遊希がデュエルの世界から離れた後に登場した新しい召喚法―――“リンク召喚”であった。
「アローヘッド確認。召喚条件は《炎属性以外の閃刀姫と名のついたモンスター1体》。サーキットコンバイン! 出撃せよ! リンク1《閃刀姫-カガリ》!」
《閃刀姫-カガリ》
リンク・効果モンスター
リンク1/炎属性/機械族/攻1500
【リンクマーカー:左上】
炎属性以外の「閃刀姫」モンスター1体
自分は「閃刀姫-カガリ」を1ターンに1度しか特殊召喚できない。
(1):このカードが特殊召喚に成功した場合、自分の墓地の「閃刀」魔法カード1枚を対象として発動できる。そのカードを手札に加える。
(2):このカードの攻撃力は自分の墓地の魔法カードの数×100アップする。
「なるほど……これがリンク召喚なのね。リンクマーカーを向いている方向にしかエクストラデッキからモンスターを特殊召喚できないという。あ、デッキから1枚ドローするわね」
「特殊召喚に成功したカガリの効果を発動! 墓地の閃刀魔法カード、ホーネットビットを手札に加える」
(これが【閃刀姫】の定番コンボ、か。1ターンに1度の発動制限がないパワーカードを多数有するデッキ……厄介ね。I2社は何を考えてこんなカードを作ったのかしら?)
改めて自分が相手取っているデッキの強さを噛み締める遊希。だが、そこに一切動揺は無かった。
「じゃあカガリの効果にチェーンして、私は手札から罠カードを発動。通常罠《無限泡影》」
《無限泡影》(むげんほうよう)
通常罠
自分フィールドにカードが存在しない場合、このカードの発動は手札からもできる。
(1):相手フィールドの表側表示モンスター1体を対象として発動できる。そのモンスターの効果をターン終了時まで無効にする。
セットされていたこのカードを発動した場合、さらにこのターン、このカードと同じ縦列の他の魔法・罠カードの効果は無効化される。
「む、無限泡影……」
チェーン2(遊希):無限泡影→閃刀姫-カガリ
チェーン1(男子生徒):閃刀姫-カガリ
「無限泡影は自分フィールドにカードが存在しない場合、手札から発動できる。チェーン2の無限泡影の効果でカガリの効果は無効。よって墓地のホーネットビットを回収できない。制限カードを使いまわせないのは痛かったわね」
「……俺はカードを3枚セット。これでターンエンドだ」
(えっ?)
ターン終了に伴って無限泡影の効果は切れる。これによって、カガリの2つ目の効果によってカガリの攻撃力が上昇する。
閃刀姫-カガリ ATK1500→1700
男子生徒 LP8000 手札:1枚
デッキ:34 メインモンスターゾーン:0 EXゾーン:1(閃刀姫-カガリ)魔法・罠:3 墓地:2 Pゾーン:青/赤 除外:0 エクストラデッキ:14(0)
遊希 LP8000 手札:5枚
デッキ:33 メインモンスターゾーン:0 EXゾーン:0 魔法・罠:0 墓地:2 Pゾーン:青/赤 除外:0 エクストラデッキ:15(0)
男子生徒
□伏伏伏□
□□□□□場
閃 □
場□□□□□
□□□□□
遊希
※凡例
閃:閃刀姫-カガリ
伏:セットカード
場:フィールド魔法ゾーン
(むぅ……)
―――どうした?
(増殖するGをこっちが発動していたとはいえ、なんでカガリをそのままにしたのか、と思っただけよ)
―――……確かに。狙ったのか、それともプレイングミスか。どちらにせよ気を緩めるなよ。
(勿論。このターンで決めるから)
☆TURN02(遊希)
「私のターン、ドローよ。メインモンスターゾーンにモンスターが存在しない状況を作ることが閃刀姫の常套戦術よね?」
「……だから何だよ」
「そのセットカード……セットするということは相手ターンでも発動な速攻魔法。汎用性を考えるに《閃刀機-ウィドウアンカー》辺りかしら?」
遊希のその言葉に男子生徒は微かに焦りの色を見せる。デッキに投入される代表的なカードの名前を適当に言っただけであるが、彼の様子からそれは図星であったようだ。
「どのカードも面倒な効果を持っているわね。だけどそのカード……発動させてあげないから」
次の瞬間、男子生徒のEXゾーンで戦闘態勢を取っていたカガリの姿が消える。その代わりに、彼のメインモンスターゾーンには巨大なロボットのようなモンスターが現れていた。
「私は閃刀姫-カガリをリリースして、あなたのフィールドに《壊星壊獣ジズキエル》を特殊召喚させて貰ったわ」
《壊星壊獣ジズキエル》
効果モンスター
星10/光属性/機械族/攻3300/守2600
(1):このカードは相手フィールドのモンスター1体をリリースし、手札から相手フィールドに攻撃表示で特殊召喚できる。
(2):相手フィールドに「壊獣」モンスターが存在する場合、このカードは手札から攻撃表示で特殊召喚できる。
(3):「壊獣」モンスターは自分フィールドに1体しか表側表示で存在できない。
(4):カード1枚のみを対象とする魔法・罠・モンスターの効果が発動した時、自分・相手フィールドの壊獣カウンターを3つ取り除いて発動できる。その効果を無効にし、フィールドのカード1枚を選んで破壊できる。
「か、【壊獣】……」
「【閃刀姫】の弱点は主に2つ。1つは魔法カードの発動を封じられること。《王宮の勅命》とか出された時はたまったものではないわ。最もそのカードは魔法・罠を除去できる効果を持ったモンスター……《トポロジック・トゥリスバエナ》とかで対処できるけど。そしてもう1つはメインモンスターゾーンにモンスターを召喚“させられる”こと。取り分け採用率の高い【壊獣】を出されるのは天敵と言っていいわね。さてあなたは……
―――狩られる準備はできているかしら?―――
劇中において「初登場した」カードについては《》でカード名を挟み、効果を記載します。また読みが難しいカードについてのみカード名の後に振り仮名を振ります。