デュエル大会の開始時刻は午前10時。その時間を知らすチャイムが鳴ると同時に学生たちは事前に振り分けられたエリアでデュエルに挑まなければならない。遊希と鈴は早めに目を覚ますと、いつもより早めに朝食の準備を始める。今朝は隣室の千春と皐月も招いて四人で朝食を作った。ゴールデンウイークの時の出来事もあってか、自然と遊希も台所に立つことが多くなっていた。
彼女は一人暮らしの期間が長かったため、塩分や糖分といったものの調整に気を使っており、それが結果的に不規則になりがちな10代の少女たちの栄養調整に役立っていたのである。
「しかし、遊希がこんな料理上手だったとはね! てっきり下手だから作りたがらないのかと思ったわ!」
「失礼ね、面倒だっただけよ。一人暮らしをなめないでちょうだい」
「ですが、こうして皆さんで一緒に作った料理は自分ひとりで作った料理より美味しく感じるのは何故でしょうか?」
「それだけ私たちが仲良くなった、ってことじゃない?」
朝食を取りながら繰り広げられるガールズトーク。これから彼女たちは勝ち続けなければならない激しい戦いに赴くのである。その前くらいは他愛ない話でリラックスしたかったのだろう。取り分け、大舞台に立った経験のない遊希以外の三人は前の日から緊張が見て取れた。
―――肩の力を抜いてもらえればいいな。
(そうね。全員が全員決勝に行けるかはわからない。けど後悔しないでもらいたいわね。もちろん、私もだけど……)
―――そうだな。
光子竜はそう言うが、光子竜も光子竜で遊希の中に未だに迷いを感じているのを理解していた。プロ経験のある彼女は鈴たちを気遣っているが、実のところ一番精神面に不安を抱えていたのは遊希だったのである。
各人の様々な思惑が入り混じる中、時間は刻々と過ぎていき、時計の針は9時半を指していた。遊希たちは制服に着替え、部屋の外に出ると互いに手を繋ぎあって輪になった。
「いい! この大会、どこまで行けるかわからないけど、目指すはただ一つよ!」
「はい。私たちは……決勝まで行きます」
「色々なデュエリストと対峙するかもしれないけど……私たちに求められるもの、それは……」
「勝つ! 勝つ! 勝つ! それだけよ!!」
円陣を組んで「オーッ!」と勢いよく四人は叫ぶ。そして遊希、鈴、千春、皐月の4人はそれぞれの戦場となる予選エリアへと向かった。四人は誰も振り返ることはなかった。次に会うのは決勝の舞台、そう心に決めていたから。
*
セントラル校全体に大会開始を告げるチャイムが鳴り響く。Aブロックに振り分けられた遊希はエリア内を一人歩いていた。この間何人かのデュエリストと遭遇したが、皆遊希とデュエルすることはなかった。同級生はもちろんのこと、遊希の存在は上級生たちの間にも響き渡っており、初戦から遊希に当たりたくない、という生徒が大半だったのだ。
(ったく……これじゃいつまで経ってもカードを集められないじゃない)
―――変に有名すぎるのも困ったものだな。
(まあいいわ。みんな初戦に当たるのが嫌なだけでそのうち嫌でも向かってくるでしょう)
その時、遊希の耳に何処からか明るいリズムの音楽が聞こえてきた。こんな時にどこの誰が何をしているのだろうか、と音楽のする方に向かっていく。そうして辿り着いたのは音楽準備室だった。
誰かいるのだろうか、と思った遊希は準備室の部屋をノックしてみる。音楽は聞こえてくるのだが、反応はない。ドアノブを捻ってみると、鍵が開いていたので中を覗いてみた。すると音楽準備室の中には、制服とはまた違う、フリフリの衣装を着た少女が姿見の前で踊っていた。ラジカセから流れるのはテレビの歌番組で聞いたことのあるアイドルグループの曲であり、その少女は無我夢中で振りを確認しているようだった。
(……まさかのアイドル?)
―――……アイドルとは何だ?
(アイドルってのは歌を歌ったり踊ったりする可愛い女の子やイケメンの男の子がなる職業よ)
―――この学校にそんな職業の人間がいるのか?
(聞いたことないわね)
遊希が光子竜の質問に答えていた時、人の気配を感じたのか、振り向いた少女と目が合った。
「あーっ!!」
少女は嬉しそうな声を上げて遊希の元に近づいてきた。あまりに急に近づいてきたので遊希は思わず後ずさりする。
「あなた、天宮 遊希ちゃんだよね!? 」
遊希はそのアイドル風の少女が上履きの色から上級生であることを察知する。なんだお前は、と言って突っぱねれば楽なのかもしれないが、一応上級生である。無下に扱うことはできないと敬語で応対することにした。
「え、ええ。そうですけど……」
「私ね、ずっとテレビであなたのこと応援してたんだよ! だからこの学校に入ってきてくれて本当に嬉しかったんだ! 握手して!」
「は、はい……」
遊希はその少女のあまりの迫力にされるがままだった。すると少女は自分ばかりが一方的に喋ってしまっていることに気が付いたのかはっ、と手で口を抑える。
「ごめんごめん、私ばっかり喋っちゃったね。私は2年生の前島 友乃(まえじま ゆの)! アイドル研究会の部長をやってるんだよ!」
「アイドル……研究会?」
「うん! まあ部員は私一人なんだけどね……だからこの大会で成績を残して部員を勧誘するの! それでアイドルになって歌って踊れるデュエリストになるんだ!」
このまま友乃のペースで喋られては気圧されたままになってしまう。これからデュエルをするかもしれない相手にデュエル前からペースを掴まれてしまうとやり辛いと感じた遊希は話をデュエルのことへと変えることにした。
「そうですか……前島先輩。先輩はもうデュエルは?」
「えーとね、ちょっと前に1回デュエルして勝ったよ! だから持っているカードは2枚!」
遊希はその外見からまだデュエルはしていない、と思っていたが彼女は既にカードを2枚所有していた。見た目こそアイドルを志望するだけあって可憐な少女であるが、デュエルには普通に勝てるだけの腕前を持っているようだった。
「それで遊希ちゃんは?」
「……私は、まだ1戦も」
「だったらさ! 私とデュエルしよっ? 遊希ちゃんってすごく強いしプロの世界でも活躍していたんだよね! だったらそんな強い人とデュエルすれば私もアイドルに近づけるはず!」
純粋かつキラキラとした笑顔を見せる友乃を前に、遊希自分とデュエルすることでアイドルになれるとは限らない、と言うことはできなかった。ただ、今まで自分を避けてきた他の学生とは違って遊希の実力を認めた上で遊希とデュエルをしたい、と言う友乃の気持ちは素直に嬉しかった。
「そ・れ・に……遊希ちゃんに勝ったらアイドル研究会の知名度が上がって入部志望の可愛い女の子が増えるはず!……にしし」
良くも悪くも正直な人だな、と遊希は内心苦笑いした。何はともあれ、デュエルをするには準備室では狭すぎるため、デュエルができそうな場所に移動することにした。友乃はアイドル衣装のまま移動していたため、必要以上に他の学生の注目を集めてしまい、その結果二人のデュエルには大会中にも関わらず数人のギャラリーが集まる始末だった。
「じゃあデュエルディスクちゃんに先攻後攻の決定権を決めてもらおうね!」
そう言ってディスクを起動する二人。互いのディスクが反応しあった結果、先攻後攻の決定権は友乃に委ねられた。
(あ、やっぱり)
―――遊希、お前は本当にその手の運がないな。
(うるさい。改めて言われると結構傷つくんだから)
「じゃあねぇ……友乃の先攻で!」
「わかりました。では私が後攻ですね」
「うん! じゃあ、前島 友乃のアイドルらしいデュエルで……みんなのハートを撃ち抜いちゃうんだからねっ!!」
「……じゃあ行きますか」
アイドルを自称するだけあって、笑顔がやたら眩しい。遊希にとってはエヴァとはまた違った意味でやり辛い相手になりそうであった。
「「デュエル!!」」
先攻:友乃
後攻:遊希
友乃 LP8000 手札5枚
デッキ:35 メインモンスターゾーン:0 EXゾーン:0 魔法・罠:0 墓地:0 Pゾーン:青/赤 除外:0 エクストラデッキ:15(0)
遊希 LP8000 手札5枚
デッキ:35 メインモンスターゾーン:0 EXゾーン:0 魔法・罠:0 墓地:0 Pゾーン:青/赤 除外:0 エクストラデッキ:15(0)
友乃
□□□□□
□□□□□□
□ □
□□□□□□
□□□□□
遊希
☆TURN01(友乃)
「友乃ちゃんのターンだよ! まず私はモンスターをセットするよー!」
友乃はまずモンスターをセットする。遊希は彼女がどんなデッキを使うのか後攻としてできるだけ早く見極めたかった。
(……アイドルとか言うくらいだから使うカードにも拘りがありそうね)
―――そういうものなのか?
(恐らくね。たぶんアイドルらしい可愛いカードを使うかもしれないわ。例えばファンシーな絵柄の【マドルチェ】とか【ナチュル】とか)
―――なるほど。だが、仮にマドルチェだとして初手でモンスターをセットするだろうか?
(もしかしたらリクルーターの可能性もあるかもしれないわ)
しかし、そんな遊希の見立ては、友乃の発動したカードによってあっさり打ち砕かれる。
「そして友乃はこのカードを発動するよ! 永続魔法《機甲部隊の最前線》!」
《機甲部隊の最前線(マシンナーズ・フロントライン)》
永続魔法
機械族モンスターが戦闘によって破壊され自分の墓地へ送られた時、そのモンスターより攻撃力の低い、同じ属性の機械族モンスター1体を自分のデッキから特殊召喚する事ができる。この効果は1ターンに1度しか使用できない。
「……えっ? 機甲部隊の最前線?」
「そしてもう1枚カードをセットしてターンエンドだよ!」
友乃 LP8000 手札3枚
デッキ:35 メインモンスターゾーン:1 EXゾーン:0 魔法・罠:1(機甲部隊の最前線)墓地:0 Pゾーン:青/赤 除外:0 エクストラデッキ:15(0)
遊希 LP8000 手札5枚
デッキ:35 メインモンスターゾーン:0 EXゾーン:0 魔法・罠:0 墓地:0 Pゾーン:青/赤 除外:0 エクストラデッキ:15(0)
友乃
□□機□□
□□モ□□□
□ □
□□□□□□
□□□□□
遊希
○凡例
モ・・・セットモンスター
機・・・機甲部隊の最前線
☆TURN02(遊希)
「私のターン、ドロー」
(機甲部隊の最前線。機甲部隊の最前線かぁ……)
後攻の遊希がカードをドローする。友乃の発動したカードは機甲部隊の最前線。予想だにしなかったカードを発動されたことに遊希はやや動揺していた。
―――アイドルは可愛らしいカードを使うんじゃなかったのか?
(……わ、私だって見通しを誤ることくらいあるわよ。笑うなら後で笑いなさいな)
「私のフィールドにモンスターが存在しない場合、このカードは手札から特殊召喚できます。現れなさい、フォトン・スラッシャー。そして自分フィールドにフォトンモンスターが存在することにより、手札より更にフォトン・バニッシャーを特殊召喚します」
見立てが多少外れたくらいで慌てるのはまだ早い。遊希の手札には幸いにも初手からフォトン・スラッシャーとフォトン・バニッシャーの2体が揃っていた。
「特殊召喚に成功したバニッシャーの効果でデッキから銀河眼の光子竜1体を手札に加えます。そして私はフォトン・スラッシャーとフォトン・バニッシャーでオーバーレイ! 2体のフォトンモンスターでオーバーレイネットワークを構築。エクシーズ召喚! 来なさい、輝光帝ギャラクシオン! ギャラクシオンのX素材を2つ取り除き、効果を発動します。デッキから銀河眼の光子竜1体を特殊召喚!」
ギャラクシオンの効果で1体目の光子竜がフィールドに舞い降りる。入学式の時以来に見る光子竜の輝きに対峙する友乃は純粋に「きれーい!!」と子供のような感想を述べていた。やはりこの調子で振る舞われると色々と調子を崩されかねないと遊希は改めて感じさせられる。
「バトルです。銀河眼の光子竜でセットモンスターを攻撃します! “破滅のフォトン・ストリーム”!」
「セットモンスターは《可変機獣 ガンナードラゴン》ちゃんだよ!」
《可変機獣 ガンナードラゴン》
効果モンスター
星7/闇属性/機械族/攻2800/守2000
(1):このカードはリリースなしで通常召喚できる。
(2):このカードの(1)の方法で通常召喚したこのカードの元々の攻撃力・守備力は半分になる。
「ガンナードラゴン!?」
「通常召喚、つまりリリースなしでセットしたガンナードラゴンちゃんのステータスは半分になっちゃうの」
可変機獣ガンナードラゴン ATK2800/DEF2000→ATK1400/DEF1000
銀河眼の光子竜 ATK3000 VS 可変機獣 ガンナードラゴン DEF1000
「ガンナードラゴンちゃんは破壊されちゃうけど、表側表示の機甲部隊の最前線の効果が発動するよ! ガンナードラゴンちゃんと同じ属性で攻撃力の低い機械族モンスター1体を特殊召喚しちゃいます! さあ、ワクワクドキドキのコンサートの始まりよ!《リボルバー・ドラゴン》ちゃん!!」
友乃のフィールドには頭部と両腕が拳銃のような形をした機械の竜が特殊召喚される。その銃口は遊希を今にも撃ち抜かんと怪しく光り輝いていた。