「……やっぱ出てきたか。竜破壊の剣士!」
《竜破壊の剣士-バスター・ブレイダー》
融合・効果モンスター
星8/光属性/戦士族/攻2800/守2500
「バスター・ブレイダー」+ドラゴン族モンスター
このカードは融合召喚でしか特殊召喚できない。
(1):このカードは直接攻撃できない。
(2):このカードの攻撃力・守備力は、相手のフィールド・墓地のドラゴン族モンスターの数×1000アップする。
(3):このカードがモンスターゾーンに存在する限り、相手フィールドのドラゴン族モンスターは守備表示になり、相手はドラゴン族モンスターの効果を発動できない。
(4):このカードが守備表示モンスターを攻撃した場合、その守備力を攻撃力が超えた分だけ戦闘ダメージを与える。
「竜破壊の剣士-バスター・ブレイダーの攻撃力・守備力は相手のフィールド・墓地のドラゴン族モンスターの数×1000ポイントアップしますわ。あなたのフィールドにはブルーアイズ・カオス・MAX・ドラゴンが、墓地には7体のドラゴン族モンスターが存在します。よってバスター・ブレイダーの攻撃力・守備力は―――8000ポイントアップします!!」
竜破壊の剣士-バスター・ブレイダー ATK2800/DEF2500→ATK10800/DEF10500
「攻撃力10800……」
「更にこのカードがモンスターゾーンに存在する限り、あなたはドラゴン族モンスターの効果を発動できず、ドラゴン族モンスターは守備表示になります」
ブルーアイズ・カオス・MAX・ドラゴン DEF0
「そしてこのカードはダイレクトアタックはできませんが、貫通効果を持っていますわ」
「ってことはこのまま攻撃が通ればあたしが受けるのは10800ダメージ……オーバーキルにもほどがあるんじゃないの!?」
「あなたのようなデュエリスト、二度と立ち上がれないようにして差し上げてますわ! バトル! その剣を以てブルーアイズ・カオス・MAX・ドラゴンを切り捨てなさい!“破壊剣・竜絶閃”!!」
竜破壊の剣士-バスター・ブレイダー ATK10800 VS ブルーアイズ・カオス・MAX・ドラゴン DEF0
「これで―――!!」
バスター・ブレイダーの剣の切っ先がカオス・MAXの身体に達しようとした瞬間である。攻めかかったバスター・ブレイダーの身体が強制的に守備態勢へと変わったのは。
「なっ!?」
「……危なかったわ。最初はカオス・MAXとのコンボ狙いで入れたつもりだったけど、温存しておいて」
よく目を凝らしてみると、バスター・ブレイダーの身体にはコードのようなものが取り付けられており、その先にはテレビゲームのコントローラーを模した機械のようなものが浮かんでいた。
「速攻魔法《エネミーコントローラー》を発動。1つ目の効果でバスター・ブレイダーを守備表示に変えたのよ」
《エネミーコントローラー》
速攻魔法
(1):以下の効果から1つを選択して発動できる。
●相手フィールドの表側表示モンスター1体を対象として発動できる。その相手の表側表示モンスターの表示形式を変更する。
●自分フィールドのモンスター1体をリリースし、相手フィールドの表側表示モンスター1体を対象として発動できる。その表側表示モンスターのコントロールをエンドフェイズまで得る。
「まさかそんなカードを……」
エネミーコントローラーはカオス・MAXの攻撃に合わせて使うタイミングはあったのだが、前のバトルフェイズで攻撃対象であったダークネスメタルはそれほど守備力が低いモンスターではなく、エネミーコントローラーで表示形式を変更して倍ダメージの貫通を通したところで与えるダメージはそれほど多くならない。それならば黒刃竜の融合素材として墓地に送ったバスター・ブレイダーの存在から桜のエクストラデッキにまず間違いなく投入されているであろう竜破壊の剣士-バスター・ブレイダーの攻撃に備える防御用のカードとしてしまおうと鈴は考えていたのだ。
「間一髪ってやつかしらねー」
「……ところであなたコマンドは入力いたしましたの?」
コマンド、という聞き慣れない言葉に首を傾げる鈴。そんな彼女の顔を見た桜は実に意地悪そうな笑みを見せた。時に女性という存在は男性よりも野蛮な一面を見せるものであるが、それがまさにこの時であったのだろう。
「かつて青眼使いとして名を馳せた海馬 瀬人はエネミーコントローラーの効果を発動する際に指定のコマンドを入力したそうですわ。あなたはなさいませんの?」
「えっ? いや、そんなん入れなくても発動できるんだけど」
「なさいませんの~? 青眼を使うのに~? 海馬 瀬人もやったのに~?」
海馬 瀬人に比べて実力も実績も劣る。勝っているところが何もない鈴のようなデュエリストがあの海馬 瀬人ですら入力したコマンドを入力せずにエネミーコントローラーを発動するというのは海馬 瀬人および青眼に対する冒とくではないか。もちろんこれはこじつけであり、桜の挑発であるが、それを笑って流せるほど鈴はまだ大人ではなかった。
「あんた……後で覚えときなさいよ! 上!左!下!右!A!!」
元来の生真面目なところが出てしまった鈴は別にやらなくてもいいのにコマンド入力をする。もちろん今更入れたところで何かが変わるわけもないのだが。
「はい、よくできましたわ。私はバトルフェイズを終了。メインフェイズ2に移りますが、これでターンエンドですわ。一時しのぎのカードで防いだところで気休めにもなりませんのに」
「っ……」
桜 LP4600 手札2枚
デッキ:24 メインモンスターゾーン:0(竜破壊の剣士-バスター・ブレイダー)EXゾーン:0 魔法・罠:0 墓地:13 Pゾーン:青/赤 除外:0 エクストラデッキ:13(0)
鈴 LP6000 手札0枚
デッキ:25 メインモンスターゾーン:1(ブルーアイズ・カオス・MAX・ドラゴン)EXゾーン:0 魔法・罠:0 墓地:14 Pゾーン:青/赤 除外:1 エクストラデッキ:13(0)
桜
□□□□□
□□□□□□
□ 竜
□□□□M□
□□□□□
鈴
○凡例
竜・・・竜破壊の剣士-バスター・ブレイダー
☆TURN06(鈴)
(悔しいけど、藤堂先輩の言う通りだ。どっちにしてもこのターンでバスター・ブレイダーを倒せるカードを引かなきゃあたしに勝ち目はない)
竜破壊の剣士-バスター・ブレイダーが存在する限り、あらゆるドラゴン族モンスターは強制的に守備表示に変更させられるため、鈴は常に大貫通ダメージの危機に晒されている状況だ。文字通りこのドローが命運を分けると言っていいだろう。
「あたしは負けない! あたしのデッキ、応えて! あたしのターン、ドロー!!」
「無駄ですわ! バスター・ブレイダーを倒せるドラゴンなど……!」
「あたしは魔法カード、貪欲な壺を発動! 墓地の銀龍、混沌龍、青眼の亜白龍、伝説の白石、白き霊龍の5体をデッキに戻してシャッフル。そして2枚ドローするわ!!」
墓地が肥えたデュエル中盤以降に発動する機会が多いことから、一部のデュエリストからは「困った時の貪欲な壺」と揶揄される貪欲な壺。その異名が表す通り、今の鈴は藁にも縋る気持ちでこのカードを引き当て、そして発動した。
「……まさかこの2枚を引いちゃうなんてね。このデュエル、あたしの勝ちよ!」
「なっ……!?」
「まずは魔法カード、死者蘇生を発動! 墓地の精霊龍を守備表示で特殊召喚するわ! そして墓地の太古の白石の効果を発動! このカードをゲームから除外して墓地の青眼カード1枚を手札に加える。青眼の白龍を手札に戻す。そして手札を1枚捨てて速攻魔法発動!―――《超融合》!!」
《超融合》
速攻魔法(制限カード、2018/10/01から準制限カード)
このカードの発動に対して魔法・罠・モンスターの効果は発動できない。
(1):手札を1枚捨てて発動できる。自分・相手フィールドから融合モンスターカードによって決められた融合素材モンスターを墓地へ送り、その融合モンスター1体をエクストラデッキから融合召喚する。
「超融合……まさか、精霊龍を蘇生させたのは!」
「そのまさかよ! あたしはドラゴン族のSモンスターである青眼の精霊龍とあんたのフィールドの戦士族モンスター、竜破壊の剣士-バスター・ブレイダーの2体を融合!!」
鈴のフィールドの青眼の精霊龍と桜のフィールドの竜破壊の剣士-バスター・ブレイダーの2体が強大な力によって引き寄せられ、その命を一つのものへと変える。そして現れたのは人身竜面で槍を持った騎士であった。
「“伝説を受け継ぐ精霊の龍よ。竜を斬る破壊の剣士よ。今一つとなりて、波動の力操る竜騎士として生まれ変われ!!”融合召喚!! 来なさい!《波動竜騎士 ドラゴエクィテス》!!」
《波動竜騎士 ドラゴエクィテス》
融合・効果モンスター
星10/風属性/ドラゴン族/攻3200/守2000
ドラゴン族シンクロモンスター+戦士族モンスター
このカードは融合召喚でのみエクストラデッキから特殊召喚する事ができる。
1ターンに1度、墓地に存在するドラゴン族のシンクロモンスター1体をゲームから除外し、エンドフェイズ時までそのモンスターと同名カードとして扱い、同じ効果を得る事ができる。また、このカードがフィールド上に表側攻撃表示で存在する限り、相手のカードの効果によって発生する自分への効果ダメージは代わりに相手が受ける。
「ドラゴエクィテス……なぜそのようなモンスターを!!」
「それはもちろんバスター・ブレイダー対策よ。バスター・ブレイダーはドラゴンの天敵、ドラゴン族デッキを使うデュエリストとしては見過ごせない存在だもの。そして、そのモンスターに対する解答がこの超融合よ!」
青眼は幸いにも精霊龍や銀龍といったドラゴン族のSモンスターが存在しており、そのモンスターと戦士族モンスターであるバスター・ブレイダーを融合させることでドラゴエクィテスの召喚条件を満たす。自分のフィールドに攻撃力3000を超えるモンスターを用意しつつ、相手フィールドのモンスターを融合素材にすることで間接的に除去できる超融合はまさにメタを打ち破る手段の一つとしてかなり的確なものであるといえたのだ。
「ブルーアイズ・カオス・MAX・ドラゴンを攻撃表示に変更。そしてバトル! 波動竜騎士 ドラゴエクィテスでダイレクトアタック!“スパイラル・ジャベリン”!!」
波動竜騎士 ドラゴエクィテス ATK3200
桜 LP4600→1400
「まさか……この私が敗れるというの?」
信じられない、といった表情を浮かべる桜であるが、小さくため息をつくと同時に穏やかな表情に戻る。プロである父・雄一郎の教えにはこういう言葉があった。
―――デュエリストはライフが尽きるその瞬間までデュエリストとしての矜持を保て。
(……例え敗れたとしても、最後まで堂々としていろ。そういうことなのですね、お父様)
「今回は、今回は貴女に勝ちを譲ってあげますわ。ですが、誓いなさい」
「誓う?」
「私が倒すまで、誰にも負けないと!!」
「……わかった、尽力するわ」
「むぅ、ここはもっと強い言葉で言いなさいな」
「まあ、まだまだ未熟者ってことで。ということでこれで終わり! ブルーアイズ・カオス・MAX・ドラゴンでダイレクトアタック! 混沌のマキシマム・バースト!!」
ブルーアイズ・カオス・MAX・ドラゴン ATK4000
桜 LP1400→0
*
「えっと、まあ今回はあたしが勝ったけど……どっちに転んでもおかしくないデュエルでした。このデュエルを糧に今後とも切磋琢磨していきましょうね」
「私、馴れ合いは好きじゃありませんの」
パズルカードを受け取った鈴はハンカチで悔し涙を拭う桜にそう告げるが、彼女の態度はなおも辛辣だった。
「……素直じゃないんだから。でもまあ、同じプロの娘って共通点があるんだし、相談くらいは乗ってあげますよ?」
「……ま、まあそっちが相談に乗ってほしいなら話を聞いてあげないこともありませんわよ」
最後まで二人の向いている方向は逆だった。しかし、不格好ながら、この時二人にはまた普通とは違った形で絆が生まれたのかもしれなかった。
「あ、ところで先輩」
デュエルが終わり、二人はそれぞれ別の相手を探しに行こうとしていた時。鈴がふと桜を呼び止める。
「なんですの? 私はこの敗戦を補わなければいけませんのに」
「先輩にお手本を見せてほしいんですが、エネミーコントローラーの」
「エ、エネミーコントローラーのお手本?」
「ええ。やっぱりあたしまだコマンド入力が下手で……だから是非先輩にお手本を見せて貰いたいんです!」
このデュエルに勝てたとはいえ、たまたま貪欲な壺をドローし、たまたま貪欲な壺の効果でドローしたカードに超融合と死者蘇生があったからこそこのデュエルに勝つことができた。それでは本当に自分の実力で勝ったことにはならない。鈴はそう思っていた。そのため、ここは上級生かつ自分と同じプロデュエリストを父親に持つ者同士として桜に教えを乞い、さらに自分を高める。
―――という気持ちは更々無かった。デュエル中に煽って平静さを失わせる目的とはいえ、やる必要のないエネミーコントローラーのコマンド入力をさせられたのだ。それならば同じ苦しみを、同じ恥ずかしさを桜に味合わせてやらなければ気が済まなかったのだ。
「い、いいですわ! 一度しかやりませんからね!」
(……あ、それでもやってくれちゃうんだ)
「行きますわよ……上!! 左!! 下!! 右!! A!!」
「ごめんなさ~い。ちょっと先輩の滑舌が悪くてよく聞き取れませんでした。もう一度、お願いできますか?」
「なっ!? ぐぬぬ……上!!! 左!!! 下!!! 右!!! A!!! どうですの!!」
「あ、すいませ~ん。パズルカード組んでて聞いてませんでした~ もう一度、お願いしまぁ~す」
「ほ、星乃 鈴!! あなたという方はぁぁぁ!!」
その後、大会の予選中であるにも関わらず、掴み合い、取っ組み合いの喧嘩にまで発展してしまった二人は騒ぎを聞きつけたミハエルに捕まり、そのまま校長室で竜司とミハエルのありがたいお話を聞かされてしまったのはまた別の話である。