銀河の竜を駆る少女   作:Garbage

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精霊と精霊

 

 

 

 

 

 アカデミアの大会は第二日程となり、4つあったブロックは2つへと再編成された。そして、新規Aブロックには遊希と千春、新規Bブロックには鈴と皐月が振り分けられた。初日で多くの学生デュエリストが姿を消し、そのうちの半分以上は1年生だった。そのため第二日程において生き残っている遊希たちは必然的に1年生の中でも上位に位置する。

 それでも人数が減り、第一日程を勝ち抜けた強者と当たる確率も高くなっているため、この四人が確実に決勝に行けるという保証は持てない。さらに今回は初日のように4つに分かれたわけではないので、予選でルームメイト同士のデュエルがあるかもしれなかった。

 ただ、どうしてもデュエルをしなければならない、という場面になった時を除いて決勝までルームメイト同士ではデュエルはしない、と事前に取り決めをしていた。もちろんデッキの中身は各自把握しているため、仲間内のメタを立てることは容易であろう。しかし、そのメタが必ずしも通用するとは限らない。

 例えば、仮に遊希と当たった時のことを考えて光属性モンスターに対するメタカードを仕込んでいた場合。遊希相手に勝つことができても、他の属性のデッキを使うデュエリストとデュエルをする場合、そのメタカード完全に事故要因となってしまう。そのためあらゆるデッキに対応できるデッキを作ることがデュエリストたちには求められていた。

 

(この二日間、あたしは他の街のカードショップを回って色んな人とデュエルした。全部勝てたわけじゃないけど、自分のデッキの強みや弱点を理解することもできた。そこで学んだことを活かせるようにしないと……)

 

 Bブロックに振り分けられた鈴は皐月と別れると、早速デュエルの相手を探していた。恐らく相手はほとんどが上級生となるだろう。それでも負ける気はしないし負けるわけにもいかなかった。

 

(遊希……遊希に追いつかないと!)

「あ、あの……」

 

 左腕にはめたデュエルディスクをじっと見つめていた鈴に誰かが声をかける。声のした方向を向くと、少しおどおどした様子の少女がこちらを見つめていた。

 

「何かしら?」

「私と……デュエルをしてくれません……か?」

 

 声をかけてきたのは千春ほどではないにしても小柄で小動物のような印象を受ける少女だった。制服のリボンの色からみて1年生のようである。しかし、鈴はその少女を見て数点の疑問を覚えた。

 鈴はアカデミアに入学以降、上級生はともかく同級生とはそれなりに交流を結ぶようにしていた。校長の娘、ということもあって近づいてくる生徒は多かったし何より人付き合いが苦手な遊希のために仲介役も買うようにしていたため、女子生徒なら大半の生徒と面識がある。

 しかし、今自分の目の前にいるこの少女に関しては鈴は全く面識がないのだ。その弱々しい声に似つかぬきりっとした眼、毛先に癖のついた髪の色は銀よりの白髪、そして髪型はツーサイドアップ。遊希やエヴァ同様一度見たらまず忘れないような美少女だ。

 

(……うーん、どうしても思い出せないわね)

「あ、あの……」

「あっ、ごめんなさい。あたしで良ければデュエル、応じるわよ!」

 

 しかし、相手が誰であろうと構わない。今の自分に求められていることは一つだけ。それは勝つ、というだけである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「私はライフ2000をコストに魔法カード、銀河天翔を発動。墓地のフォトンモンスター1体とデッキの同じレベルのギャラクシーモンスター1体を特殊召喚します」

 

遊希 LP6800→LP4800

 

「させるか!《剣闘獣ヘラクレイノス》の効果を発動!」

 

《剣闘獣ヘラクレイノス》

融合・効果モンスター

星8/炎属性/獣戦士族/攻3000/守2800

「剣闘獣ラクエル」+「剣闘獣」と名のついたモンスター×2

自分フィールド上の上記のカードをデッキに戻した場合のみ、エクストラデッキから特殊召喚できる(「融合」魔法カードは必要としない)。

このカードがフィールド上に表側表示で存在する限り、手札を1枚捨てる事で、魔法・罠カードの発動を無効にし破壊する。

 

「手札を1枚捨てることでその発動を無効にして破壊する!」

「ヘラクレイノスの効果で止めてくることは予想できていましたよ。なのでその効果にチェーンして罠カード、無限泡影を発動します」

「無限泡影だと!?」

 

チェーン3(遊希):無限泡影

チェーン2(3年生男子):剣闘獣ヘラクレイノス

チェーン1(遊希):銀河天翔

 

「チェーン3の無限泡影の効果でチェーン2のヘラクレイノスの効果は無効になります。そしてチェーン1の銀河天翔の効果で墓地の銀河眼の光子竜1体とデッキから同じレベルの銀河剣聖を特殊召喚します!」

 

 一方、Aブロックに振り分けられた遊希はパズル完成まであとカード1枚を残すのみとなっていた。このデュエルに勝利すれば遊希は必要なだけのカードを揃えることができる。

 

「私はレベル8の銀河眼の光子竜と銀河剣聖でオーバーレイ! 2体のモンスターでオーバーレイネットワークを構築。エクシーズ召喚! 現れよ! No.62 銀河眼の光子竜皇!!」

 

 融合召喚ながら、融合カードを必要としない融合召喚を行う【剣闘獣】デッキを使う3年生男子は、手札コスト1枚で無効化効果を発動できるヘラクレイノスを軸に徹底的に遊希の行動を制限しようとした。しかし、相手のデッキが剣闘獣と見抜いた遊希は、それを更に上回るタクティクスで相手を圧倒していた。

 

「バトルです。銀河眼の光子竜皇で剣闘獣ヘラクレイノスを攻撃! そして光子竜皇のX素材を1つ取り除き、光子竜皇の効果を発動。このダメージステップ時のみ、自身の攻撃力をフィールドのXモンスターのランクの数×200ポイントアップさせます!」

 

No.62 銀河眼の光子竜皇 ORU:2→1 ATK4000→ATK5600

 

「攻撃力5600だと!?」

「これで終わりです、先輩。エタニティ・フォトン・ストリーム!!」

 

No.62 銀河眼の光子竜皇 ATK5600 VS 剣闘獣ヘラクレイノス ATK3000

 

3年生男子 LP2600→0

 

 この攻撃により、遊希の対戦相手である3年生男子の残りライフ2600が一気に0となり、遊希の勝利が確定した。遊希は6戦して全勝と元プロデュエリストの名に恥じない戦績を収めることができた。

 大会第一日程は友乃のような癖の強い上級生を相手にするなど、戸惑うことも多かった彼女であるが、個性溢れるライバルたちとのデュエルや、鈴の母である蘭との再会など様々なことを経験したことで入学当初と比べて確実にレベルアップしていたのだ。

 

「これでパズルカードは全て集まったわけだけど……どうすればいいのかしら」

―――パズルなのだろう? 重ねてみればいいではないか。

 

 遊希は対戦相手の3年生からパズルカードを受け取るとこれまで集めたカードを重ねてみた。6枚のカードを重ねると、それが1枚のカードとなった。そしてカードの中心部には専用の機械でのみ読み込むことができるバーコードが現れ、さらに決勝進出者は全てのパズルカードを集め終えた後にどこに行けばいいのか、という情報も明らかになった。

 

―――ほら、できたぞ。

(ありがと。でも得意気になるのはやめて。なんか腹立つから)

―――……で、遊希。我々はどこへ向かえばいいんだ?

「……場所は講堂ね。そう言えば封鎖されていたわ」

 

 決勝進出者が向かう場所。それはアカデミアの最上階にある講堂だった。普段は月一の朝礼くらいでしか使わない場所であるため、学生たちにはあまり馴染みのない場所であった。だが、それ故に決勝進出者のみが入れる場所、という意味では納得の選出であると言える。ここから階段をいくつも登らなければならないという欠点を除けば。

 

「ったく、疲れちゃうわね」

―――まあ、いい運動になるんじゃないか? お前は普段から出不精な訳だしな。

「……取り敢えずさっさと行って一休みしましょう」

 

 遊希はアカデミアの最上階へと向かう。光子竜の言う通り、確かに最近運動不足気味ということもあってか最上階に向かうまでに遊希はすっかりバテてしまっていた。それでも自分がアカデミア最強を決めるための大会の予選を勝ち抜き、決勝トーナメント進出を決めることができた、ということに彼女は久しぶりに充実感を感じていた。

 やはり元プロデュエリストの血が騒ぐのか、勝負事に勝つのは今の彼女においても至高の快感となっていたのである。最もそれだけで満足などしていないし、してはいけなかった。

 

「ここでいいのかしら……」

 

 辿り着いた行動の入口には奇妙な機械が取り付けられていた。その機械の中心部には駅やコンビニエンスストアのレジで見掛けるような長方形の精密機器。遊希はそこに完成したカードをかざしてみる。すると機械がそのカードに記された情報を読み取った。パズルが完成することで、コンピューターがそのデュエリストの情報を認識できるようになるのだ。

 

『……カードニンショウカンリョウ。オメデトウゴザイマス。アマミヤ ユウキサン。ケッショウシンシュツデス。ナカ二オハイリクダサイ』

 

 電子音声の案内によって講堂の扉の鍵が開いた。遊希は女子が一人で開けるには少し重い講堂の扉を押し開ける。昼下がりの講堂は電灯こそ点いていないものの、差し込む太陽の光でだいぶ明るい印象を受けた。周辺を見渡しながら一歩一歩講堂の中へと入っていく遊希。まだ誰もいないのだろうか、と一番乗りの快感を味わおうとした瞬間、何処からかこの国ものではない言語の歌が聞こえてきた。

 

「Ой, ты песня, песенка девичья,Ты лети за ясным солнцем вслед, И бойцу на дальнем пограничье От Катюши передай привет……」

「……」

―――あいにく、2番乗りだったようだな。

(そうね)

 

 光子竜と共に苦笑いした遊希は歌声を頼りに綺麗な声の主の元へと小走りで駆けていった。

 

「……あなたの方が早かったようね、エヴァ」

 

 遊希は窓から外を眺めながらロシア語の歌を歌っていたエヴァに声をかける。遠い日本で何不自由ない生活をしているようだったが、彼女も彼女で故国の土が恋しくなったのだろうか。そんなエヴァは遊希が来ていたことに気付いていなかったようで、遊希を見た瞬間、驚きのあまりその場に転んでしまった。

 

「いたた……」

「ほら、大丈夫?」

「私は大丈夫だ。ところで……今のは聞いていたか?」

 

 遊希の手を取って起き上がったエヴァは、そう言いながらこちらを見つめてきた。今のは、というのは間違いなく彼女が口ずさんでいた歌であろう。自分以外に誰もいないと思って歌を口ずさんでいたのを他人に聞かれてしまえば恥ずかしい、というのは万国共通なのだろう。

 

「えっと、その。歌、上手いのね」

「やはり聞いていたのだな!」

 

 遊希は傷つけないようにとその歌の上手さを褒めることにした。実際聞いてみてエヴァの歌声はとても綺麗なものだったのだから、これはお世辞ではない。しかし、歌の上手い下手という問題ではなく、聞かれていたという事実がエヴァにとっては恥ずかしいものだったようで、彼女は両手で顔を覆ってはその場にしゃがみこんでしまった。

 

「……ところでここに来たということはお前も決勝に行くのか?」

「ええ、一応ね」

「そうか! お前が来てくれるのであれば嬉しいぞ!」

 

 口調こそで尊大であるが、その表情は例えるならば万華鏡のように変化するエヴァ。恥ずかしがったと思ったらにっこりと太陽のような笑みを見せる。愛嬌たっぷりの彼女のファンが世界中に存在する理由がわかったような気がした遊希だった。

 

「私もよ。まあ、あなたなら勝ち進んでくると思っていたわ。戦績はどうだったの?」

「ふっ、私はエヴァ・ジムリアだぞ? そこいらのデュエリストと一緒にされては困る」

「あら、そこまで同じなのね」

「まさかお前も全勝なのか、流石だな。だが、着いたのは私の方が少しばかり早かったぞ! まあほんの5分の差なのだが……」

 

 エヴァは遊希同様同級生上級生関係なく全勝という形で1番乗りで決勝トーナメント進出を決めた。彼女が遊希より早くここに着いたことに関しては現役プロデュエリストならびに外国人の美少女とデュエルがしたい、と思った生徒たちが突貫してきたという理由があるが。

 

(……皐月といいこういうタイプの女子が受けるのかしら。うちじゃ)

―――人間の好みとはよくわからんな。

(そういうあんたはどうなのよ?)

―――……まあお前のような面倒な女は嫌だな。

(っ、なんかムカつくわね)

 

 遊希はデュエルディスクにセットされたデッキから光子竜のカードを取り出すと、一発強烈なデコピンを食らわせる。遊希の脳裏には痛がる光子竜のうめき声が響き渡った。

 

「どうしたんだ、突然カードを弾いたりして」

「別に。こいつがちょっとね……」

「……遊希は精霊とそんなコミュニケーションも取れるんだな。羨ましい限りだ」

 

 遊希とのデュエル以降、エヴァはレッド・デーモンズ・ドラゴン・スカーライトを再封印した。精霊を宿す遊希だからあの程度で済んだことであり、もしほかの学生相手にコントロールできないスカーライトを出そうものならきっと大怪我を負わせてしまうだろう。

 ただ今日の今日まで何もしてこなかった彼女ではない。エクストラデッキから外しても、エヴァはスカーライトのカードを肌身離さず持ち続けていた。そうすれば精霊ときっと分かり合える、一縷の望みをそこに託して。

 

「エヴァ……」

「できればこの大会もスカーライトと一緒に戦いたかった。だが……それは叶わなかった。私になくてお前にあるものとは、なんなのだろうな」

「エヴァ。あなた……今デュエルはできるかしら?」

「デュエルだと? できなくはないが……」

 

 あのデュエル以降、遊希も遊希で何かエヴァのためにできないか考えていた。ただし遊希はデュエリストになる前から光子竜とコンタクトを取ることに成功していた。そればかりは生まれ持った才能の差であり、遊希やエヴァがいくら頑張っても変えられないこと。しかし、デュエルモンスターズの精霊に自分をマスターとして認めさせるならデュエルを通すほかない。

 

「こいつが……光子竜が言っていたの。人間と精霊を紡ぐことは難しくとも、精霊同士ならより確実にネットワークを作ることができるかもしれない、って」

「ええと、それは……どういうことだ?」

「要するに光子竜にスカーライトとコミュニケーションを取ってもらうのよ。そうすればエヴァの気持ちも少し回りくどいけど伝えることができるかもしれない、ってことよ」

 

 それを聞いてエヴァの不安そうな顔が少し綻ぶ。光子竜の提案でもあるが、それが確実にできるとは限らない。精霊の力に大きく依存することになるため、遊希にとってもエヴァにとっても大きな賭けとなるだろう。

 しかし、それが例え分の悪い賭けであったとしてもエヴァはそれに縋り付いた。どんな形であれ自分に宿った精霊とコミュニケーションを取ることができる。そして何よりスカーライトの力で周りの人間を傷つけずに済むのだから。

 

「本当は決勝トーナメントでやりたかったけど……私は改めて今ここであなたにデュエルを申し込むわ」

「ありがとう遊希。ならばその申し出、受けて立つ!!」

 

 エヴァは二つ返事でその申し出を受けた。エヴァにとってもそうだが、このデュエルは遊希にとっても重要なデュエルだった。このデュエルは過去の自分を、負けて鈴に泣きついたかつての自分を超えるためのデュエルでもあるのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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