(……《No.62 銀河眼の光子竜皇》? 何よ、それ……)
遊希のデュエルを控室で見ていた鈴は複雑な気分でそのモンスターを見つめていた。自分の試験が全て終わった鈴は本当であれば既に帰宅してもよかったのだが、遊希と再会したこと、そしてその遊希のデュエルが控室にいる受験生に対して緊急中継されることを知り、その場で彼女のデュエルを見続けてきた。
履いていたローファーを脱ぎ、両方の脚を組んではそれを机の上に乗せるというとても行儀の悪い振る舞いをしながらも、鈴はデュエルの経過を真剣な目で見つめていた。
(あいつは……天宮 遊希はデュエルを捨て、デュエルから逃げた臆病者。あたしとの誓いを破った。それなのに……)
鈴の目には遊希に対する怒り、そしてそれとは相反するまた別の感情が複雑に入り混じっているように見えた。
(いつの間にかに戻ってきては、こんなデュエルをあたしたちに見せつけている。オヤジたちはあいつのことを“精霊に選ばれたデュエリスト”だとか“不世出の天才”だとか称してたけど、そんなものはまやかし……あたしはそう思っていた。でも、ソリッドビジョンのはずなのにまるで意志を持った生き物のように動く銀河眼の光子竜、この世界に存在しないはずの銀河眼リンクモンスターの煌星竜に、銀河眼の光子竜皇? デュエルからずっと離れていたはずなのに、なんでこんなに力を増しているのよ……マジで腹立つんだけど)
*
《No.62 銀河眼の光子竜皇(ギャラクシーアイズ・プライムフォトン・ドラゴン)》
エクシーズ・効果モンスター
ランク8/光属性/ドラゴン族/攻4000/守3000
レベル8モンスター×2
(1):このカードが戦闘を行うダメージ計算時に1度、このカードのX素材を1つ取り除いて発動できる。このカードの攻撃力はそのダメージ計算時のみ、フィールドのXモンスターのランクの合計×200アップする。
(2):「銀河眼の光子竜」をX素材として持っていないこのカードが相手に与える戦闘ダメージは半分になる。
(3):「銀河眼の光子竜」をX素材として持っているこのカードが相手の効果で破壊された場合に発動できる。発動後2回目の自分スタンバイフェイズにこのカードの攻撃力を倍にして特殊召喚する。
銀河眼の光子竜皇をX召喚した時、少しよろめいた遊希は目頭を抑えながらもその場に踏みとどまる。
(……結構来るものね。この疲労感は)
―――よもや突然光子竜皇の力を解放するとは思わなかったぞ。体調は大丈夫か?
(“今は”大丈夫よ。意識ははっきりしているから。それより、さっさと終わらせましょう)
光子竜に煌星竜、そして光子竜皇。普通にデュエリストをしていては見ることのできないモンスターたちと遭遇してしまった男子生徒は呆気に取られた様子だった。しかし、まだデュエルは続いている。遊希は男子生徒にそれを伝えると、改めてデュエルを進行させる。
「私はサイバー・ドラゴン・インフィニティの効果を発動。あなたのフィールドに表側攻撃表示で存在する壊星壊獣ジズキエルをインフィニティのオーバーレイユニットに変換するわ!」
サイバー・ドラゴン・インフィニティ ORU:3→4 ATK2100→2900
「さて、メインモンスターゾーンが空いたからあなたはそのセットカードを使えるけど、どうするのかしらね? あ、そうそう。フォトン・オービタルのサーチ効果は1ターンに1度しか使えないけど、装備カードにする効果は何回でも発動できるわ。光子竜皇に装備する」
No.62 銀河眼の光子竜皇 ORU:2 ATK4000→4500
「待った! 俺はフォトン・オービタルを対象にセットカード《サイクロン》を発動する!」
《サイクロン》
(1):フィールドの魔法・罠カード1枚を対象として発動できる。そのカードを破壊する。
「フォトン・オービタルを破壊する!」
「……」
No.62 銀河眼の光子竜皇 ORU:2 ATK4500→4000
(……なんでこのタイミングなのかしらね。普通だったらフォトントークンに装備した時に使うのがベストなのに)
―――デュエルを行うのは人間と人間だ。人間の思考は完璧なものではない。ミスを犯し、時にそのミスが勝負を分ける。だが、故にデュエルとは面白いのではないか?
(面白い……か。負けちゃ意味ないのに)
遊希と光子竜が相手のミスについて考える中、そのミスに未だ気づいていない様子の相手は更にセットされていた2枚目の速攻魔法《閃刀機-ウィドウアンカー》を発動した。今のサイクロンによって、彼の墓地にある魔法カードはエンゲージ、ホーネットビットに加えて3枚目となったため、ウィドウアンカーの2つ目の効果を使用できるようになったのである。
《閃刀機-ウィドウアンカー》
速攻魔法
(1):自分のメインモンスターゾーンにモンスターが存在しない場合、フィールドの効果モンスター1体を対象として発動できる。そのモンスターの効果をターン終了時まで無効にする。その後、自分の墓地に魔法カードが3枚以上存在する場合、そのモンスターのコントロールをエンドフェイズまで得る事ができる。
「ウィドウアンカーの効果で銀河眼の光子竜皇の効果を無効にし、エンドフェイズにまでコントロールを得る!」
「……そんなことさせるわけないじゃない。ウィドウアンカーの発動にチェーンしてサイバー・ドラゴン・インフィニティの効果を発動」
チェーン2(遊希):サイバー・ドラゴン・インフィニティ→閃刀機-ウィドウアンカー
チェーン1(男子生徒):閃刀機-ウィドウアンカー→No.62 銀河眼の光子竜皇
「チェーン2のインフィニティの効果。X素材を1つ取り除いてウィドウアンカーの発動を無効にして破壊。インフィニティの攻撃力は200ポイント下がるけど、チェーン1のウィドウアンカーの発動が無効にされたことで光子竜皇に対する効果は消える」
サイバー・ドラゴン・インフィニティ ORU:4→3 ATK2900→2700
「バトル、まずは銀河眼の煌星竜でダイレクトアタック。“煌星のソルフレア・ストリーム”」
銀河眼の煌星竜 ATK2000
男子生徒 LP8000→6000
「続いてサイバー・ドラゴン・インフィニティで攻撃。“エヴォリューション・インフィニティ・バースト”」
サイバー・ドラゴン・インフィニティ ORU:3 ATK2700
男子生徒 LP6000→3300
「これで最後。No.62 銀河眼の光子竜皇で攻撃」
―――“エタニティ・フォトン・ストリーム”―――
No.62 銀河眼の光子竜皇 ORU:2 ATK4000
男子生徒 LP3300→0
*
「私の勝ちね。お疲れさま」
「まさか後攻ワンキルをくらうなんて……」
デュエルを終えた後、遊希は男子生徒のもとに歩み寄って握手を交わす。遊希は足早にその場を立ち去ろうとしたが、そんな彼女を男子生徒が呼び止めた。
「あの、ちょっと聞いていいか?」
「……何かしら?」
「俺には何が足りなかった? 正直あんたほどのデュエリストに勝てるとは思ってなかったけど」
遊希は「厳しいことを言うけど」と前置きした上で男子生徒の方を向き直る。遊希はあまり人当たりのいい方ではないが、デュエルに関して意見を求められた時は率直にアドバイスを送るようにしている。それがデュエリストの能力向上に繋がり、ひいては日本デュエル界の発展に繋がると知っているから。
「まずデュエルの前に私はあなたがそのデッキで何回デュエルをしたか聞いたわよね? あなたは15回くらいと答えたけど、はっきり言って大事なデュエルに臨むのならそれしか使ってないのでは不十分よ。もしあなたが普段から使い慣れているデッキを使ってデュエルに臨んでいたらこうはならなかったかもね」
男子生徒がこの【閃刀姫】デッキを15回くらいしか使っていないのに対し、遊希はこの【フォトン】【ギャラクシー】デッキをその10倍、いや100倍以上は使っている。言わばデッキの中身をどれだけ把握していたか、が勝負を分けたのだ。自分のデッキの強みも弱点も知り尽くしているからこそ、遊希はカードパワーの劣るこのデッキで勝つデュエルができるのである。
「もし次あなたとデュエルできる機会があれば……あなたの一番使い慣れたデュエルでしたいものね、それじゃ」
遊希はそう言い残して男子生徒相手に小さく手を振る。遊希ほどの美女にそうされてしまえば、同年代・思春期の男子ならば嬉しくないわけはないだろう。
「ミハエル教頭、審判を務めて頂きありがとうございます。試験は以上ですか?」
「ああ、あとは合格発表を待つのみになる。最も君ほどのデュエリストだ、結果はわかりきったものだろうな」
「そうですか。では……」
一礼して試験会場を後にする遊希。ミハエルをはじめとした教師たちはもちろん、同時間帯にデュエルをしていた他の受験生までもが去っていく彼女の後ろ姿に釘付けとなっていた。
(プロの世界を去って数年……ブランクが気になったが、杞憂だったようだな。もし彼女が入学してくれれば……竜司、我々の願いが叶うだろうな)
*
(……我ながら臭いセリフよね、全く)
同い年のデュエリスト相手に随分と上から目線で物を語ってしまったな、と密かに自戒する遊希。これでは自分があまり好いていないミハエルと一緒ではないか、と。なんだかんだ言って彼のことが苦手なのも一種の同族嫌悪というものなのだろうか。そう思いながら廊下を歩いていた彼女は、やがて近くの壁にもたれかかった。
―――遊希!
「……久々のデュエルは応えるわね」
―――まだ負担は大きいか?
「当たり前じゃない。特に光子竜皇……あんなん毎回のデュエルで使っていたらそれこそ病院沙汰よ」
精霊を従えた上でデュエルができる遊希は確かに希有な存在だ。しかし、その代償は決して小さいものではない。精霊でない普通のモンスターを召喚する時は何も起こらないのだが、銀河眼の光子竜のような精霊およびそれに準ずる一部の所持モンスターを一度でもデュエルで召喚すると彼女の身体には得体の知れない疲労感が残る。
勿論成長と共に遊希の身体にはある程度の抵抗力はついてきている。しかし、遊希が成長するのに比例して精霊の力も増していくため、結果彼女のかかる負担はどんどん増していくのだ。遊希がプロデュエリストをわずか3年で引退したのもこの負担が原因の一つであった。
―――遊希……
「……何心配そうな声出してるのよ。大丈夫よ、私は倒れない。こんなところで……倒れてなどなるもん……ですか」
息苦しそうにその場に蹲る遊希。彼女の身体に宿り、そして彼女にしか認識のできない存在である銀河眼の光子竜はひたすら遊希の名を呼ぶことしかできなかった。
「ちょっとあなた!? どうしたの、大丈夫!?」
そんな遊希のことを呼ぶ声がした。声の主である小柄な少女は、倒れている遊希の姿を見つけると、その小さな身体のどこにそんな力があるのだろうか、と思えるような力を発揮しては、遊希を医務室へと運んでいくのであった。