「……お膳立ては成った。私はチューナーモンスター、BF-南風のアウステルを召喚!」
「アウステル……ここで引けるとはね」
「召喚に成功したアウステルの効果を発動! 除外されているレベル4以下のBF1体を特殊召喚する。帰還せよ、BF-黒槍のブラスト!」
アウステルの風の導きに乗って、除外されていたブラストがエヴァのフィールドに舞い戻る。このブラストは遊希のダークマターの効果によってゲームから除外されたものであり、奇しくも遊希がS召喚のアシストをする形になっていた。
「このデュエルは私とお前の真剣なものとはいえ、このカードを使わずに終わってしまえば後悔せざるを得なかっただろう。私はレベル4の黒槍のブラストにレベル4のチューナーモンスター、南風のアウステルをチューニング!」
黒槍のブラストが漆黒の翼を広げ、天空へと舞い上がる。その後を追う形でアウステルの身体が4つのリングへと変化し、そのリングをくぐったブラストの身体が4つの星へと変化する。4つの星と4つのリング、二つの命からなる光が一つの命を生み出した。
「“黒き嵐吹き荒ぶ世界は今、紅蓮の炎に包まれる。唯一無二たる覇者の力をその心胆に刻み込め!”シンクロ召喚!!」
遊希とのあのデュエル以来、ずっと使うことができなかった。使うことを恐れてしまっていた。エヴァは今、自分で作り出していた壁を打ち砕いた。
「今一度、我と肩を並べよ! レッド・デーモンズ・ドラゴン・スカーライト!!」
フィールドに灼熱の炎を巻き上げ、天地を揺るがすかのような豪快な咆哮をあげて舞い降りるレッド・デーモンズ・ドラゴン・スカーライト。このモンスターをシンクロ召喚した瞬間、エヴァの顔が一瞬苦痛に歪むのを光子竜は見逃さなかった。
―――やはりエヴァはまだあのドラゴンをコントロール出来ていないな。精神的にも肉体的にも辛そうだ。
(だったら早く倒して楽にしてあげないとね)
―――ただそのためにはこちらがあのモンスターの攻撃に耐えなければならないがな。
レッド・デーモンズ・ドラゴン・スカーライトの効果は自身の攻撃力以下の攻撃力を持つ特殊召喚されたモンスターを全て破壊し、そのモンスターの数×500ポイントのダメージを相手のライフに与えるものだ。しかし、遊希のフィールドに存在する特殊召喚されたモンスター2体はいずれもスカーライトの攻撃力3000を上回っているため、その効果自体は発動すらできない。
(……つまりこういうことを言いたいの? 攻撃力で下回るのにスカーライトをS召喚したのには訳がある、と?)
―――残り1枚の手札。あれがこちらを追い詰めるものだろう。
光子竜の読みは当たっていた。このカードを引いたからこそ、エヴァはスカーライトをS召喚したのである。
「私は手札より速攻魔法《イージーチューニング》を発動!」
《イージーチューニング》
速攻魔法
自分の墓地のチューナー1体をゲームから除外し、自分フィールド上のモンスター1体を選択して発動できる。選択した自分のモンスターの攻撃力は、このカードを発動するために除外したチューナーの攻撃力分アップする。
「私は墓地のシューティング・ライザー・ドラゴンを除外し、スカーライトを対象に発動! スカーライトの攻撃力をシューティング・ライザー・ドラゴンの攻撃力分アップさせる!」
レッド・デーモンズ・ドラゴン・スカーライト ATK3000→ATK5100
「攻撃力5100……!?」
「これで……スカーライトの攻撃力が……ダークマターの攻撃力を上回った! スカーライトの効果を……発動! こ、このカードの攻撃力以下の特殊召喚されたモンスター全て破壊する!“アブソリュート・パワー・フレイム”!!」
スカーライトの力によって地中から噴き出した灼熱の炎がダークマターとフェルグラントの2体の巨大な竜を焼き尽くす。強大な2体のドラゴンですらいともたやすく焼き尽くすスカーライトの力の一端が垣間見えた気がした。
遊希 LP5900→LP4900
「っ!」
灼熱の炎は遊希の身体にも影響を及ぼす。スカーライトを使役するエヴァも苦しそうな顔を浮かべていることから、やはり今の彼女ではスカーライトを完全に御しきれていなかった。
「まだだ! バトル! スカーライトで銀河の修道師を攻撃!“灼熱のクリムゾン・ヘル・バーニング”!!」
レッド・デーモンズ・ドラゴン・スカーライト ATK5100 VS 銀河の修道師 ATK1500
遊希 LP4900→LP1400
「ぐはっ……!」
全身に重い衝撃が走る。少女の細い身体が受ければ骨はおろか内蔵にすら損傷を及ぼしかねないような力と熱。ダイレクトアタックでないにも関わらず、それこそ精霊の加護がある遊希だからこそ耐えられるであろう一撃だった。
「遊希!!」
「大丈夫よ、このくらい。さあ、デュエルを続けましょう」
「バトルフェイズを終了……私はこれでターンエンドだ」
エヴァ LP3400 手札0枚
デッキ:26 メインモンスターゾーン:0 EXゾーン:1(レッド・デーモンズ・ドラゴン・スカーライト)魔法・罠(Pゾーン:青/赤):0 フィールド:0 墓地:13 除外:6 EX:7(0)
遊希 LP1400 手札2枚
デッキ:27 メインモンスターゾーン:0 EXゾーン:0 魔法・罠(Pゾーン:青/赤):1 フィールド:0 墓地:12 除外:2 EX:12(0)
エヴァ
□□□□□
□□□□□□
ス □
□□□□□□
□□伏□□
遊希
☆TURN06(遊希)
「私のターン、ドロー……やはり精霊の力は強力ね。知っている私だからこそ、その本当の強さがわかるのかもしれないわ。そしてエヴァ、あなたがどれだけ苦しんできたのかを」
「遊希……そうだな。この辛さを共有できるのは世界にお前と私だけなのかもしれないな。その苦しさを、そしてそこから起きうる悲劇をこれ以上広げないため。私はこのデュエルに勝ってみせる、いや、勝たなければならない!」
「この痛みは、あなたの感情の表れなのかもしれないわね。このデュエルに勝ち、スカーライトの力を自分の力にしてみせるという強い気持ちが伝わってくるわ。でも、このデュエルに勝つのは私よ!」
遊希がデッキからカードをドローし、ドローフェイズからスタンバイフェイズに移行した瞬間である。遊希のフィールドには次元の壁と突き破ってライキリの効果で破壊されたはずの光子竜皇が舞い戻ったのは。
「なっ、光子竜皇だと!? 何故破壊したはずのモンスターが……」
「効果で破壊された光子竜皇は破壊されてから2ターン後のスタンバイフェイズにフィールドに特殊召喚されるのよ。一度正規の方法で召喚された光子竜皇はメインモンスターゾーンに特殊召喚される。そしてこの方法で特殊召喚された光子竜皇の攻撃力は元々の数値の倍になるわ!」
No.62 銀河眼の光子竜皇 ORU:0 ATK4000→ATK8000
「攻撃力8000……イージーチューニングで強化されたスカーライトをも上回るだと!?」
「それでもこのカードは光子竜をX素材にしていないと相手に与えるダメージは半分になってしまう。仮に光子竜皇でスカーライトを攻撃しても与えられるダメージはその差2900を更に半分にした1450。これではいくら火力が高くても意味はない」
最も、今の遊希の手札には確実に勝利へと繋がる道筋が描かれていた。
「でも、光子竜皇と同格のモンスターを複数体並べればどうかしら? 私は墓地の光属性モンスター、銀河の修道師、アークブレイブドラゴン、巨神竜フェルグラントの3体をゲームから除外し、手札から混源龍レヴィオニアを特殊召喚するわ! そして光属性3体を除外して特殊召喚に成功したレヴィオニアの効果! 墓地の光属性モンスター1体を守備表示で特殊召喚する! 蘇りなさい、銀河眼の光子竜!」
「これでフィールドにはレベル8のモンスターが2体……」
エヴァは今一度噛み締めた。自分に勝利の芽が残されていないという事実を。しかし、悔いはなかった。彼女はこのデュエルで今の自分が持てる力を奮えるだけ奮うことができたのだから。
「私は光子竜とレヴィオニアでオーバーレイ! 2体のモンスターでオーバーレイネットワークを構築。エクシーズ召喚! 現れなさい、No.90 銀河眼の光子卿! そしてこの光子卿をさらにオーバーレイ! 1体のギャラクシーアイズモンスターでオーバーレイネットワークを再構築! ランクアップ・エクシーズチェンジ! 現れなさい、銀河眼の光波刃竜! 光波刃竜の効果を発動。X素材を1つ取り除き、フィールドに存在するカード1枚を破壊する。対象はもちろんレッド・デーモンズ・ドラゴン・スカーライトよ!」
光の刃で両断されるスカーライト。紅き悪魔の竜は断末魔の叫びを上げて消えていった。
「そしてバトル! 銀河眼の光波刃竜でダイレクトアタック!“斬滅のサイファー・ブレード・ストリーム”!」
銀河眼の光波刃竜 ATK3200
エヴァ LP3400→LP200
「ぐっ!!」
「これで本当に終わり。銀河眼の光子竜皇でダイレクトアタック! エタニティ・フォトン・ストリーム!」
No.62 銀河眼の光子竜皇 ATK8000
エヴァ LP200→LP0
*
精霊を操るデュ エリスト同士である遊希とエヴァのデュエルが終わった。デュエルが終わった瞬間、エヴァはまるで糸の切れた操り人形のようにその場にパタリと崩れ落ちた。
一方の遊希も完全制御されていないスカーライトの攻撃を受けたため、かなり疲弊していた。しかし、遊希は自分の身体の疲れなどいざ知らず、真っ先にエヴァの元に駆け寄った。まるで初めて自分とデュエルをして傷つきながらも倒れた遊希を気にかけたあの時の鈴のように。
「エヴァ!」
遊希に抱きかかえられたエヴァは辛そうに微笑む。
「ふっ……だいぶ疲れてしまったぞ。どうしてだろうな」
「心配いらないわ。私にも経験がある。精霊と少しでも心が伝われば、身体が凄い疲労感に襲われるのよ」
「……つまり、私はこの子と、スカーライトと少し近づけたということなのだろうか……それなら、凄く嬉しいのだが」
今まで感じた事のないような疲労感に襲われたエヴァはその場から動くことが出来ずにいた。そんなエヴァを遊希はお姫様抱っこの形で講堂の端、陽の光がよく当たるところへと運んでいく。
「お、おい。遊希!?」
「大丈夫よ、誰も見てないし」
「そ、そういう問題では……なくてだな……」
「それより。疲れているんでしょう? 膝を貸すわ。少し眠りなさい」
「いいのか?……それでは、その好意……甘えさせてもらう……」
遊希に膝枕を貸してもらったエヴァは数分も経たないうちに眠りへと落ちていった。幼子のような小さな寝息を立てて眠るエヴァの頭をしばらく撫で続けていた遊希であるが、そんな彼女にもすぐに猛烈な睡魔が襲い掛かってきた。
(私も少し眠ろうかしら……光子竜)
―――ああ。わかっている。
(ここからは……あなたの仕事よ。任せたわ)
―――任された、お前は眠っていろ。
やがて遊希も眠りに落ちていく。光子竜は遊希が眠りについたのを確認すると、空間と空間を繋ぐワームホールを開いた。普段は厳しくとも、あのような激しいデュエルの後ならば精霊の力で異なる世界と世界を繋ぐのは可能である。
―――あのデュエルが功を奏したな。さあ、精霊同士のご対面だ。
光子竜は決意を秘めてワームホールへと飛び込んでいった。光子竜の働きが遊希、そしてエヴァの二人の今後を決めるといっても過言ではなかった。もちろん自分の世界から異なる精霊の世界に向かう、ということは決して容易なことではない。それでも光子竜のように宿主と日常的なコミュニケーションが取れる力の強い精霊ならばその限りではなかった。
―――エヴァが言っていたな。ただのカードが突如変化したと。それはつまりこの世界で精霊が生まれたということになる。精霊は普通精霊の世界で生を受けるものと思っていたが……
自分が物を知らぬだけなのか。それともそのような例外が起こるような状況にあるのか。光子竜だけではその真実を見極めることは出来なかった。
―――さて、着いたか。
光子竜がワームホールを抜けると、そこは溶岩が噴出する灼熱の世界だった。光子竜が遊希とコミュニケーションを交わす宇宙空間とは180度違う環境である。このような空間はあまり好きではない、と思いつつも彼は自分の使命を果たすためにこの世界の主の名を呼んだ。
―――我が名は銀河眼の光子竜! どういう訳か人間・天宮 遊希の身体に宿ったデュエルモンスターズの精霊だ! この世界に形成する者、レッド・デーモンズ・ドラゴン・スカーライト! お前と話がしたい!
光子竜が世界全体に伝わるように大声で叫ぶと、それに返すように何処からか声が聞こえた。それは遊希や鈴といった人間でいうと10代の若い少女が出すような若い声だった。
―――そんな大声で叫ばなくても聞こえているわよ! ったく、傷に響くんだからやめなさいよ!
―――……まさかそんな軽いノリで来るとはな。
マグマの中から飛び立ったのは紛れもなく、先ほどまで遊希と対峙していたレッド・デーモンズ・ドラゴン・スカーライトそのものである。先ほどのデュエルで破壊されたのが響いているのか、飛ぶことすら辛そうだった。
―――そっちが固すぎんのよ。まあ他の奴がどんな口調や性格かなんてあたしには関係ないけど!
外見こそ片方の角が欠け、全身が傷だらけの竜といった様相なスカーライトであるが、その声は甲高い少女の声そのものだった。人は見た目によらない、という言葉があるが、それは精霊にもあてはまるものなのだろうか。
―――どんな形にしても同じ精霊とこの世界で巡り合えたことは喜ばしいことだ。
―――まあね、それにこっちも聞きたい事色々あるし。
―――聞きたい事?
―――ねえ、どうしたらあたしはあの子と……エヴァと心を通わせられるの?
スカーライトは同じ精霊の光子竜に自分の正直な気持ちを吐露した。この世に生を受けた時、自分はエヴァの元にいた。言うなればスカーライトにとってエヴァは育ての親のような存在であると言ってもいい。
彼女は口調こそ尊大ながらも、優しいエヴァと心を通わせたかった。しかし、どうやっても自分の気持ちは伝わらないどころか自分を使うせいでエヴァもエヴァとデュエルをする人々も傷つけてしまう。それによって苦しむ彼女の姿を見るのは、スカーライトも苦しかったのだ。
―――あんたは、あんたの宿主の子とまるで親子や兄妹のように仲良くやってるじゃない? なんで? なんであんたにできてあたしとエヴァにはできないのよ!!
―――こればかりは私自身も何故かはわからない。そもそも私が何故この世界にいるのかもわからないし、何故遊希とコミュニケーションが取れるのかもはっきりとはわからない。ただ推測ではあるが、遊希は元々その才があったとは思うがな。
遊希とエヴァ。生まれた月や国は違えど二人は天才デュエリストである。しかし、遊希は幼い時から目の前に現れた光子竜と難なくコミュニケーションを取ることができ、プロデビューからわずか数年間の活動で歴史に名を残した。
対するエヴァは既にプロとして活躍していた同い年の遊希に憧れ、一生懸命努力しては遊希と入れ替わる形でプロの世界に飛び込み現在進行形で成功を収めている。生まれ持った才を持つ遊希と努力によって才を開花させたエヴァ。同じ天才でも二人のタイプはまるで違うのだ。
―――じゃあどうすればいいのよ! あたしもう傷つくあの子は見たくない!!
―――落ち着け。お前がそう感情的になるな。お前とエヴァの間には厚い壁があるかもしれないが、兆しはある。少なくともこのデュエルで私はそう感じた。これからも彼女と向き合い続けろ。エヴァはお前から逃げない。お前もそれに応えるんだ。
―――応える、かぁ。簡単そうに言ってくれちゃって……ねえ、あたしにそれができると思う?
―――曖昧な答えになるからあまり言いたくないが……できる。お前ができると思えばより確実に、な
そう言われたスカーライトは少し黙って考え込む。そしてありがと、と何とも不器用に光子竜に礼を告げた。いつになるかはわからないが、きっとエヴァとスカーライトの間には強い絆が生まれることだろう。
(今の私にできるのはこれぐらいだろうか? ……遊希、お前もエヴァを支えてくれ)