「きゃあっ!?」
攻撃力2800の鎖龍蛇-スカルデッドの攻撃が攻撃力2000の輝光子パラディオスを破壊する。よってその攻撃力の差分800のダメージを遊希は受けたのだが、そのダメージを受けた遊希は思わず悲鳴を上げた。そんな遊希を見て普段の彼女を知っているエヴァはわずか800のダメージを受けたとは思えない遊希の悲鳴に驚きの様子を隠せないようだった。
「遊希?」
「な、なんでもないわ。ちょっと驚いただけよ」
遊希から翔一たちの介抱を任されたエヴァは心配そうにデュエルをする遊希を見つめていた。そんな彼女に悟られまいと遊希は何事も無かったかのように気丈に振る舞おうとする。しかし、遊希の様子がおかしいことを外からは見抜けずとも、内からは筒抜けであった。
―――遊希。何があった?
(光子竜……あんたは何も感じなかったの?)
―――ああ。
(今スカルデッドの攻撃でダメージを受けた時、身体に物凄い痛みが走ったの……こんなの初めてだわ)
―――何だと?
光子竜は自分たちと対峙するスカルデッド、そしてインフェルノイド2体に精霊の力で探りを入れてみる。しかし、あのモンスターたちは精霊でもなんでもないただのモンスターだった。恐らく精霊の力でなくとも相手にリアルダメージを与えられる仕掛けでも存在する―――というのは最も楽観的な見通しなのだろう。
(―――原因など調べるまでもない。幻魔皇ラビエル。破壊されて墓地に送られたところであれは手にするだけで使用者のみならず周囲の生命に影響を及ぼす代物だ)
―――ライフを削られるだけで痛みが生じるのであれば、下手にライフを奪われないようにすることだな。
(……ご忠告どうも。でも相手にはまだ2体の大型モンスターがいるんだけど)
―――耐える。それだけだ。
(うん、頼った私がバカだった)
遊希は光子竜相手にはそう強がってみるものの、わずか800のダメージであれだけの痛みを感じるのであれば、モンスターのダイレクトアタックなどを受けてしまったらどれほどの衝撃が身体に走るのか。
翔一をはじめ、ここに倒れている他の学生たちもこのデュエルで傷を負って皆倒れていってしまったのだろう。精霊をその身に宿す者として相手をデュエルで傷つけてしまわないかどうか遊希もエヴァも常に細心の注意を払ってきていた。しかし、今の目の前にいる不審者からは相手を傷つけてしまうことを恐れる、という様子が全く伝わってこない。むしろ遊希がダメージを受けて苦しむ姿を見てもなお歯を見せて笑っている有様だった。
(あいつは、私の手で止めなければならない)
「破壊され、墓地に送られたパラディオスの効果を発動! デッキからカードを1枚ドローするわ!」
『1枚ドローシタクライジャ何モ変ワラナイヨォ! インフェルノイド・アドラメレクデダイレクトアタック!“インフェルノ・ツイン・ブレス”!』
インフェルノイド・アドラメレク ATK3100
不審者のフィールドには永続魔法、煉獄の虚無が存在しているため、インフェルノイドの攻撃で遊希が受けるダメージは半分になる。それでもスカルデッドの効果で強化されたアドラメレクから受けるダメージは3100÷2=1550。決して甘く見れる数字ではない。
「私は手札の《Emダメージ・ジャグラー》の効果を発動!」
《Emダメージ・ジャグラー》
効果モンスター(制限カード)
星4/光属性/魔法使い族/攻1500/守1000
「Emダメージ・ジャグラー」の(3)の効果は1ターンに1度しか使用できない。
(1):自分にダメージを与える魔法・罠・モンスターの効果が発動した時、このカードを手札から捨てて発動できる。その発動を無効にし破壊する。
(2):自分または相手のバトルフェイズにこのカードを手札から捨てて発動できる。このターン自分が受ける戦闘ダメージを1度だけ0にする。
(3):自分メインフェイズに墓地のこのカードを除外して発動できる。デッキから「Emダメージ・ジャグラー」以外の「Em」モンスター1体を手札に加える。
「自分または相手のバトルフェイズにこのカードを手札から捨てて発動。このターン、私が受ける戦闘ダメージを一度だけ0にするわ」
『ダメージ・ジャグラー……面倒ナモンスターヲ入レテルナァ。デモ残念! アタシノフィールドニハマダヴァエルガ2体モイルノォ! スカルデッドノリンク先ニイルヴァエルデダイレクトアタック!“インフェルノ・ストーム”!』
インフェルノイド・ヴァエル ATK2900
「その攻撃も通させない! リバースカードオープン! 墓地のパラディオスを対象に罠カード、戦線復帰を発動。対象のモンスターを守備表示で特殊召喚するわ!」
『ダッタラソノ効果ニチェーン! 攻撃シテナイ方ノヴァエルヲリリースシテ効果ヲ発動! パラディオスヲ除外ダァ!』
上級以上のインフェルノイドは自身をリリースすることで、相手の墓地に存在するカード1枚をゲームから除外することができる。ヴァエルの効果で自身をリリースしてパラディオスを除外すれば、蘇生対象を失った戦線復帰の効果は無意味に終わる。
「させない! そのヴァエルの効果にチェーン! もう1枚の戦線復帰を発動! 対象はもちろんパラディオス!」
チェーン3(遊希):戦線復帰
チェーン2(不審者):インフェルノイド・ヴァエル
チェーン1(遊希):戦線復帰
『2枚目ノ戦線復帰!? アハハ! 手札事故ガ上手ク働クナンテネ! モウチェーンス効果ハナイヨ!』
不審者はそれ以上チェーンを重ねることはしなかった。ここでアドラメレクをリリースしていれば、更に戦線復帰にチェーンすることができていたため、逆順処理でパラディオスはアドラメレクの効果でゲームから除外することができていた。不審者が何故それ以上チェーンを重ねなかったのか。疑問に思うこともあったが、ここは相手のプレイングミス(?)に感謝するほかなかった。
「チェーン3の戦線復帰の効果でパラディオスを守備表示で特殊召喚するわ! チェーン2のヴァエルの効果、そしてチェーン1の戦線復帰は共に対象不在のため空振りに終わる」
『ダッタラヴァエルデソノパラディオスヲ攻撃シテヤルヨ!』
インフェルノイド・ヴァエル ATK2900 VS 輝光子パラディオス DEF2100
「破壊されて墓地へ送られたパラディオスの効果! デッキからカードを1枚ドローするわ!」
『バトルフェイズ終了。メインフェイズ2ニ移ルケド……モウ何モデキナイネ、残念。ターンエンド』
不審者 LP6000 手札0枚
デッキ:29 メインモンスターゾーン:2(インフェルノイド・アドラメレク、インフェルノイド・ヴァエル)EXゾーン:1(鎖龍蛇-スカルデッド)魔法・罠(Pゾーン:青/赤):3(煉獄の虚夢、煉獄の消華)フィールド:0 墓地:16 除外:8 EXデッキ:10(0)
遊希 LP7200 手札4枚
デッキ:30 メインモンスターゾーン:0 EXゾーン:0 魔法・罠(Pゾーン:青/赤):0 フィールド:0 墓地:7 除外:0 EXデッキ:14(0)
不審者
□虚伏消□
□□□ヴア□
□ 鎖
□□□□□□
□□□□□
遊希
○凡例
消・・・煉獄の消華
虚・・・煉獄の虚夢
☆TURN04(遊希)
「私のターン、ドロー! 私は手札の銀河眼の光子竜をコストに魔法カード、トレード・インを発動! デッキからカードを2枚ドローするわ。そして魔法カード、アクセル・ライトを発動! 通常召喚権を放棄する代わりに、デッキからレベル4のギャラクシー1体を特殊召喚する!」
『銀河眼ヲ墓地ニ送ッタネェ? 送ッチャッタネェ! アタシハアクセル・ライトニチェーンシテインフェルノイド・ヴァエルノ効果ヲ発動! ヴァエルヲリリースシ、相手ノ墓地ノカード1枚ヲ除外スル! 墓地ノ光子竜ヲ除外スル!』
「っ……チェーンはないわ」
チェーン2(不審者):インフェルノイド・ヴァエル
チェーン1(遊希):アクセル・ライト
『チェーン2ノヴァエルノ効果デ光子竜ヲ除外! キャハハハハッ!! オマエノエース、消エチャッタ!!』
「チェーン1のアクセル・ライトの効果で私は銀河の魔導師を特殊召喚。そして手札のフォトン・オービタルを銀河の魔導師に装備する。そしてフォトン・オービタルを墓地に送り、もう一つの効果。デッキからフォトン・バニッシャーを手札に加えるわ」
『フォトン・バニッシャー……ナンダヨ、除外シタ意味ナイジャン』
先程からハイになったりローになったりと色々と忙しい相手である。しかし、この無茶苦茶なテンションの相手から一つの事実を掴むことができた。それは相手が遊希のデッキのエースを銀河眼の光子竜であると知っているということだ。光子竜がエースである、ということを知っているということは、相手が遊希の存在を認識していることに繋がるのだ。
「フォトン・バニッシャーを特殊召喚。特殊召喚に成功したバニッシャーの効果でデッキから2体目の銀河眼の光子竜1体を手札に加える。そして私は銀河の魔導師とフォトン・バニッシャーでオーバーレイ! 2体のモンスターでオーバーレイネットワークを構築。エクシーズ召喚!“銀河の源より生まれるは光子の力を迸る竜。その力を以て閉ざされし道を切り拓きなさい!”《輝光竜フォトン・ブラスト・ドラゴン》!!」
《輝光竜フォトン・ブラスト・ドラゴン》
エクシーズ・効果モンスター
ランク4/光属性/ドラゴン族/攻1800/守2500
レベル4モンスター×2
(1):このカードがX召喚に成功した場合に発動できる。手札から「フォトン」モンスター1体を特殊召喚する。
(2):X召喚したこのカードがモンスターゾーンに存在する限り、自分フィールドの攻撃力2000以上のモンスターは相手の効果の対象にならず、相手の効果では破壊されない。
(3):相手ターンに1度、このカードのX素材を1つ取り除き、自分の墓地のモンスター及び除外されている自分のモンスターの中から、「銀河眼の光子竜」1体を対象として発動できる。そのモンスターを特殊召喚する。
「X召喚に成功したフォトン・ブラスト・ドラゴンの効果を発動! 手札のフォトンモンスター、銀河眼の光子竜1体を特殊召喚するわ! そしてバトル! 銀河眼の光子竜で鎖龍蛇-スカルデッドを攻撃! “破滅のフォトン・ストリーム”!」
銀河眼の光子竜 ATK3000 VS 鎖龍蛇-スカルデッド ATK2800
不審者 LP6000→LP5800
『イイジャン!イイジャン! オマエ強イナ!』
「……バトルフェイズを終了してメインフェイズ2。私はカードを1枚セット。これでターンエンドよ」
『デモ強イオマエトモソロソロバイバイノ時間ダ! リバースカードオープン! 永続罠、リビングデッドの呼び声ヲ発動! 墓地ノ《暗黒の召喚神》を特殊召喚スル!』
不審者 LP5800 手札0枚
デッキ:29 メインモンスターゾーン:2(インフェルノイド・アドラメレク、暗黒の召喚神)EXゾーン:0 魔法・罠(Pゾーン:青/赤):3(煉獄の虚夢、煉獄の消華、リビングデッドの呼び声)フィールド:0 墓地:18 除外:8 EXデッキ:10(0)
遊希 LP7200 手札2枚
デッキ:24 メインモンスターゾーン:1(銀河眼の光子竜)EXゾーン:1(輝光竜フォトン・ブラスト・ドラゴン ORU:2)魔法・罠(Pゾーン:青/赤):1 フィールド:0 墓地:10 除外:1 EXデッキ:13(0)
不審者
□虚リ消□
□暗□ア□
竜 □
□□□□銀□
□□伏□□
遊希
○凡例
竜・・・輝光竜フォトン・ブラスト・ドラゴン
暗・・・暗黒の召喚神
リ・・・リビングデッドの呼び声
☆TURN05(不審者)
『アタシノターン、ドロー! メインフェイズ1、フィールドノ暗黒の召喚神ノ効果ヲ発動! 自身ヲリリース!』
特殊召喚モンスターであるインフェルノイドとリビングデッドの呼び声の相性はそういいわけではない。だが、隣の芝刈りで墓地に送られてしまった有用なモンスターを蘇生するにはうってつけのカードである。そんなカードで蘇生した暗黒の召喚神なるモンスターもさぞかし強力な効果を持っているのであろう。
(暗黒の召喚神……見たことも聞いたこともないモンスターだけど、どんな効果を持っているのかしら)
「その効果にチェーンして私はフォトン・ブラスト・ドラゴンの効果を発動する!」
チェーン2(遊希):輝光竜フォトン・ブラスト・ドラゴン
チェーン1(不審者):暗黒の召喚神
「チェーン2のフォトン・ブラスト・ドラゴンの効果。相手ターンに1度、X素材を1つ取り除き、除外されている銀河眼の光子竜1体を特殊召喚する!」
『除外シタ意味ガ無カッタネ……デモアタシノ優位ハカワラナイ! チェーン1ノ暗黒の召喚神ノ効果!!』
《暗黒の召喚神》
効果モンスター
星5/闇属性/悪魔族/攻0/守0
「暗黒の召喚神」の(1)の効果は1ターンに1度しか使用できない。
(1):このカードをリリースして発動できる。「神炎皇ウリア」「降雷皇ハモン」「幻魔皇ラビエル」のいずれか1体を手札・デッキから召喚条件を無視して特殊召喚する。このターン、自分のモンスターは攻撃できない。
(2):墓地のこのカードを除外して発動できる。デッキから「神炎皇ウリア」「降雷皇ハモン」「幻魔皇ラビエル」のいずれか1体を手札に加える。
『暗黒の召喚神ヲリリース……ソシテアタシノデッキカララビエル、《神炎皇ウリア》《降雷皇ハモン》ノウチ1体ヲ召喚条件ヲ無視シテ特殊召喚スル!!』
「神炎皇ウリアに降雷皇ハモン!? まさかそのデッキには……」
『当然! 残リ2体ノ幻魔ガイル!! アタシハコノモンスターヲ特殊召喚!!』
不審者の手には赤い竜のような見た目をしたモンスターのカードがデッキより引き出される。その姿は神のカードとして伝わる【三幻神】の一柱《オシリスの天空竜》にも酷似しているが、オシリスが邪をその雷霆で打ち払う神であれば、そのモンスターは邪なる炎で全てを焼き払う似て非なる存在であると言えた。
―――“天地ヲ業火デ覆イシ魔ノ化身ヨ! ソノ力ヲ以テ万物ヲ灰燼ト帰セ!”―――
―――覚醒セヨ!《神炎皇ウリア》!!―――
《神炎皇ウリア》
特殊召喚・効果モンスター
星10/炎属性/炎族/攻0/守0
このカードは通常召喚できない。
自分フィールドの表側表示の罠カード3枚を墓地へ送った場合のみ特殊召喚できる。
(1):このカードの攻撃力は、自分の墓地の永続罠カードの数×1000アップする。
(2):1ターンに1度、相手フィールドにセットされた魔法・罠カード1枚を対象として発動できる。セットされたそのカードを破壊する。この効果の発動に対して魔法・罠カードは発動できない。
「神炎皇ウリア……」
―――やはり幻魔の1体だけあるな。恐ろしい力を感じる……
『神炎皇ウリアノ攻撃力ハアタシノ墓地ノ永続罠ノ数×1000アップスル! アタシノ墓地ニハ永続罠ガ……《バックファイア》《光の護封壁》リビングデッドの呼び声ノ3枚存在スル! ヨッテウリアノ攻撃力ハ3000ダ!!』
神炎皇ウリア ATK0→ATK3000
―――攻撃力が3000止まりだったのは不幸中の幸い、と言うべきか。
『ウリアノ効果! 相手フィールドニセットサレタ魔法・罠カード1枚ヲ対象トシテ発動! ソノカードヲ破壊スル!!』
「だったら破壊される前に……!!」
『無駄ダ! ウリアノ効果ニ対シテ魔法・罠カードハ発動デキナイ!!』
ウリアの放った紅蓮の炎が遊希のフィールドにセットされていた罠カード、永遠なる銀河が破壊される。遊希としてはステータスの低いフォトン・ブラスト・ドラゴンをこのカードでランク8のモンスターに変化させることが狙いだったのだ。
「でも暗黒の召喚神の効果を発動したターン、あなたは攻撃できない」
『ソレハ知ッテルヨ。ダカラ場ヲ固メルカナァ……アタシハ手札ノ魔法カード、貪欲な壺ヲ発動。墓地ノ降雷皇ハモン、鎖龍蛇-スカルデッド、水晶機巧-ハリファイバー、リンク・スパイダー、ダンディライオンノ5体ヲデッキニ戻シテシャッフル。5枚ドロースルヨ! ソシテ墓地ノ暗黒の召喚神ノ効果ヲ発動。コノカードヲゲームカラ除外シ、デッキカラモンスター1体ヲサーチスルヨ。サーチスルノハモチロン……降雷皇ハモン!!』