銀河の竜を駆る少女   作:Garbage

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死闘の果てに

 

 

 

 

 

 

 

「バカな……あいつは遊希や鈴の親友の……」

 

 エヴァと千春の直接の面識はほとんどなく、遊希や鈴から話に聞いていた程度である。それでも自分と同じ高校一年生にあたる年齢ながら、その見た目は小学生のように小さいというわかりやすい見た目の生徒はそういるものではなく、遠目で見掛けただけでも誰が千春かは一瞬でわかるといってよかった。

 

(何故彼女が? 何故……?)

 

 あまり面識のないエヴァですら動揺を隠せないのだから、親友と言ってもいい遊希はデュエルの途中であるにも関わらず酷く取り乱していた。

 

「千春……なんでなの!? ねえ、答えなさいよ! 千春!!」

―――遊希、落ち着け!! まだデュエルの最中だぞ!!

 

 普段は冷静な遊希であるが、仲間たちを襲って傷つけた犯人が千春だった―――ということに酷く動揺していた。そんな彼女を光子竜は必死にたしなめる。遊希をよく知っている光子竜は彼女を通して千春という人間を知っているが、千春がこのようなことをするわけがない、と光子竜は確信していた。

 

―――遊希、さっきの奴の言葉を思い出せ!

(奴の……言葉??)

 

 光子竜は遊希に先ほど千春が言った言葉を思い出すように促す。それは「この身体の元の持ち主」という言葉だ。仮にこの言葉が事実なら千春は何者かに操られているということがわかる。

 確かに入学から数か月間千春と過ごしてきた遊希ならわかることなのだが、千春が正気なら今自分がやっている行為には誰よりも怒りを露わにするであろう。直情的で無鉄砲なところはあるが、三度の飯よりもデュエルを愛する。それくらいデュエルが好き。それが日向 千春という少女なのだ。

 

「……一つ、いいかしら」

 

 光子竜の言葉を聞き、遊希は高ぶる感情を抑えながら千春に問いかけた。千春はニタリと笑いながら『イイヨォ』と返す。

 

「千春……その身体の元の持ち主に何をした」

『……別ニ何モシテナイヨォ? タダ目的ヲ果タスタメニ申シ分ナイ強サヲ持ッタデュエリストダッタカラ一ツ手駒ニサセテモラッタダケサァ』

「……手駒? 人の親友を捕まえて手駒呼ばわり?……ふざけるな」

 

 遊希は千春を指差す。そして怒りを露わにして告げた。

 

「何処の誰だか知らないけれど宣言するわ。私は……お前を叩き潰す! そして私の親友を侮辱したことを後悔させてやる」

 

 

 

 

 

―――懺悔の用意をしておきなさい!!―――

 

 

 

 

 

『オオコワイコワイ……オット、今ハアタシノターンダッタネ。ドロースルヨォ!!』

 

 千春がデッキからカードをドローする。その瞬間、遊希と光子竜の脳裏に何か小さく電撃のようなものが走った。

 

(光子竜、今のは……)

―――お前も感じたか。何やら強い力が……

『……ココマデアタシヲ追イコンダノハ褒メテアゲル。ダッタラ、面白イモノヲ見セテアゲル!! アタシハインフェルノイド・アドラメレクヲリリースシ、《モンスターゲート》ヲ発動!』

 

《モンスターゲート》

通常魔法

(1):自分フィールドのモンスター1体をリリースして発動できる。通常召喚可能なモンスターが出るまで自分のデッキの上からカードをめくり、そのモンスターを特殊召喚する。残りのめくったカードは全て墓地へ送る。

 

『通常召喚可能ナモンスターガ出ルマデ、アタシハデッキノ上カラカードヲメクル―――アハハッ! 1枚目カラ出タヨォ!《ファントム・オブ・カオス》ヲ特殊召喚ッッ!!』

 

《ファントム・オブ・カオス》

効果モンスター

星4/闇属性/悪魔族/攻0/守0

(1):1ターンに1度、自分の墓地の効果モンスター1体を対象として発動できる。そのモンスターを除外し、このカードはエンドフェイズまで、そのモンスターと同名カードとして扱い、同じ元々の攻撃力と効果を得る。

(2):このカードの戦闘で発生する相手への戦闘ダメージは0になる。

 

「ファントム・オブ・カオス……?」

『ソシテファントム・オブ・カオスノ特殊召喚ニ成功シタコトデコノカードノ発動条件ヲ満タシタ! リバースカードオープン! 速攻魔法《地獄の暴走召喚》!!』

 

《地獄の暴走召喚》

速攻魔法

(1):相手フィールドに表側表示モンスターが存在し、自分フィールドに攻撃力1500以下のモンスター1体のみが特殊召喚された時に発動できる。その特殊召喚したモンスターの同名モンスターを自分の手札・デッキ・墓地から可能な限り攻撃表示で特殊召喚し、相手は自身のフィールドの表側表示モンスター1体を選び、そのモンスターの同名モンスターを自身の手札・デッキ・墓地から可能な限り特殊召喚する。

 

『ファントム・オブ・カオスノ攻撃力ハ0! ヨッテデッキカラファントム・オブ・カオス2体ヲ特殊召喚!!』

「私は銀河眼の光子竜を選ぶ。デッキから銀河眼の光子竜1体を特殊召喚するわ」

 

 遊希のフィールドには地獄の暴走召喚で特殊召喚された光子竜を含めて銀河眼が4体並ぶことになった。煌星竜の攻撃力は2000と心許ないが、攻撃力3000の光子竜2体と守備力3000で相手のモンスターの効果が発動を無効にする効果を持っている光子卿が存在しており、この布陣を突破するのは相当のプレイングが求められる。

 一方で千春のフィールドには黒い渦のような蠢く攻撃力0のモンスターが3体。地獄の暴走召喚で一気にフィールドに揃えられるとはいえ、ファントム・オブ・カオスの効果でコピーしたモンスターでは戦闘ダメージを与えられないため、遊希のモンスターを戦闘破壊できたとしてもデュエルを決めるにまでは至らないのだ。

 

(……ここでファントム・オブ・カオスを3体出してきた。となるとコピーするモンスターは)

『墓地ノラビエルヲ対象ニファントム・オブ・カオスノ効果ヲ発動! ラビエルヲ除外シテエンドフェイズマデコノカードヲラビエルトシテ扱イ、ソノ効果ト攻撃力ヲ得ル!』

(やっぱり幻魔!)

「ファントム・オブ・カオスの効果にチェーンして銀河眼の光子卿の効果を発動! X素材を1つ取り除いてその発動を無効にするわ!」

『ダッタラソノ効果ニ更ニチェーン! 光子卿ヲ対象ニ墓地ノ罠カード《ブレイクスルー・スキル》ノ効果ヲ発動!』

 

《ブレイクスルー・スキル》

通常罠

(1):相手フィールドの効果モンスター1体を対象として発動できる。その相手モンスターの効果をターン終了時まで無効にする。

(2):自分ターンに墓地のこのカードを除外し、相手フィールドの効果モンスター1体を対象として発動できる。

その相手の効果モンスターの効果をターン終了時まで無効にする。この効果はこのカードが墓地へ送られたターンには発動できない。

 

「っ、隣の芝刈りの効果で墓地に……だったらそのブレイクスルー・スキルの効果にチェーンして光子卿のもう一つの効果を発動するわ!」

 

チェーン4(遊希):No.90 銀河眼の光子卿

チェーン3(千春):ブレイクスルー・スキル

チェーン2(遊希):No.90 銀河眼の光子卿

チェーン1(千春):ファントム・オブ・カオス

 

「チェーン4の光子卿の効果。相手ターンに1度、デッキからフォトンまたはギャラクシーカード1枚をこのカードのX素材にするか手札に加える!」

 

 光子卿の効果は相手ターンにしか発動できない、というものであるがフォトンおよびギャラクシーのカードであれば、種類問わずサーチすることができる。ここでどのカードを手札に加えるかもデュエルの今後を左右することであった。

 

(……ファントム・オブ・カオスの効果は確実に通されてしまう。ダメージを与えられないとはいえ、幻魔の攻撃力はいずれも4000には達するけど……何かしら、この胸騒ぎは)

 

「私は……デッキから《クリフォトン》を手札に加える」

『チェーン3ノブレイクスルー・スキルノ効果デ光子卿ノ効果ハ無効ニナル!』

「チェーン2の光子卿の効果はブレイクスルー・スキルの効果で無効になるわ」

『ソシテチェーン1ノファントム・オブ・カオスノ効果! ラビエルヲ除外シテターン終了時マデファントム・オブ・カオスハラビエルノ効果ト攻撃力、ソシテソノ名前ヲ得ル!!』

 

ファントム・オブ・カオスA→幻魔皇ラビエル ATK4000

 

『残リ2体ノファントム・オブ・カオスノ効果モ発動! ウリアトハモンヲ除外シ、ソノ名前ト攻撃力、効果ヲ得ル!』

 

ファントム・オブ・カオスB→降雷皇ハモン ATK4000

ファントム・オブ・カオスC→神炎王ウリア ATK0→ATK4000

 

 3体のファントム・オブ・カオスの姿がラビエル、ハモン、ウリアの三幻魔を模したものへと変わる。姿形こそ幻魔そのものだが、あくまでこれは普通のモンスターが幻魔の姿を写し取っただけに過ぎない。そのため、本物の幻魔と対峙した時ほどの緊張感は感じられなかった。

 

「幻魔をコピーしたところでそれは本物の幻魔ではない。攻撃力と名前を得ただけのハリボテで私を倒せると本気で思っているのかしら?」

『……ヤッパリ知ラナインダァ』

「……知らない?」

『オマエガ知ッテイルノハ幻魔ノ一側面ニ過ギナイッテコトサ!! アタシハ―――』

 

 

 

 

 

―――ラビエル、ハモン、ウリア。ソノ3体トシテ扱ウファントム・オブ・カオス3体ヲゲームカラ除外シ、融合スル!!―――

 

 

 

 

 

「3体の幻魔を除外して融合!?」

―――まさか……幻魔には更に上の存在があると言うのか?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――“深キ地ニ眠リシ幻魔ノ魂ヨ。今ソノ真ナル力ヲ解キ放チ、世界ヲ闇ト無ノ世界ヘ誘エ”!!―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――目覚メヨ!!―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――《混沌幻魔アーミタイル》!!―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 現れたのは、ハモンとラビエルの身体をベースに右腕から右手、下半身がウリア。そしてハモンの頭部の上に王冠の如くラビエルの頭部が乗せられた異形極まりないモンスター。むしろそれをモンスターと呼称していいものか。対峙する遊希と光子竜はそう思わざるを得なかった。

 

 

《混沌幻魔アーミタイル》

融合・効果モンスター

星12/闇属性/悪魔族/攻0/守0

「神炎皇ウリア」+「降雷皇ハモン」+「幻魔皇ラビエル」

自分フィールドの上記カードを除外した場合のみ、EXデッキから特殊召喚できる(「融合」は必要としない)。

(1):このカードの攻撃力は自分ターンの間10000アップする。

(2):このカードは戦闘では破壊されない。

 

 

「レベル12で攻撃力0……?」

 

 攻撃力0というものは数値だけで見ればモンスターの中では最底辺だ。しかし、攻撃力0のモンスターは得てしてその最低の攻撃力を補うだけの力を秘めているものだ。

 

『混沌幻魔アーミタイルノ攻撃力ハアタシノターンノ間……10000アップスル!!』

 

混沌幻魔アーミタイル ATK0→ATK10000

 

「……攻撃力……10000……!?」

『ソシテアーミタイルハ戦闘デハ破壊サレナイ。効果ニハ無力ダケド。デモソレハコノカードデ解決デキル! フィールド魔法《失楽園》ヲ発動!!』

 

《失楽園》

フィールド魔法

「失楽園」の(2)の効果は1ターンに1度しか使用できない。

(1):このカードがフィールドゾーンに存在する限り、自分のモンスターゾーンの「神炎皇ウリア」「降雷皇ハモン」「幻魔皇ラビエル」「混沌幻魔アーミタイル」は相手の効果の対象にならず、相手の効果では破壊されない。

(2):自分のモンスターゾーンに「神炎皇ウリア」「降雷皇ハモン」「幻魔皇ラビエル」「混沌幻魔アーミタイル」のいずれかが存在する場合に発動できる。自分はデッキから2枚ドローする。

 

『失楽園ガ存在スル限リ、ウリア、ハモン、ラビエル、アーミタイルハ相手ノ効果ノ対象ニナラズ、相手ノ効果デ破壊サレナクナル! ソシテ幻魔ガ存在スル時、失楽園ノモウ一ツノ効果ヲ発動! デッキカラカードヲ2枚ドロースル!! バトル!!』

「攻撃力10000で効果の対象にならず、効果で破壊されないモンスター……そんなモンスターの攻撃など受けさせない!! 私は手札のクリフォトンの効果を発動!」

 

《クリフォトン》

効果モンスター

星1/光属性/悪魔族/攻300/守200

このカード名の(2)の効果は1ターンに1度しか使用できない。

(1):このカードを手札から墓地へ送り、2000LPを払って発動できる。このターン、自分が受ける全てのダメージは0になる。この効果は相手ターンでも発動できる。

(2):このカードが墓地に存在する場合、手札から「クリフォトン」以外の「フォトン」モンスター1体を墓地へ送って発動できる。墓地のこのカードを手札に加える。

 

 

「このカードを墓地に送り、ライフ2000を払って発動! このターン私が受ける全てのダメージは0になるわ!」

 

遊希 LP6200→LP4200

 

『構ウモノカ!! 混沌幻魔アーミタイルデ銀河眼の煌星竜ヲ攻撃!!』

「クリフォトンの効果は既に発動しているのよ!? いくら攻撃力10000のモンスターで攻撃してもダメージは与えられないわ!」

『……確カニデュエルノ上デノダメージハ0ダヨ? デモ……3体ノ幻魔ガ融合シタモンスターノ攻撃ハ……ソノ常識ヲ凌駕スル!! “全土滅殺 転生波”!!」

 

混沌幻魔アーミタイル ATK10000 VS 銀河眼の煌星竜 ATK2000

 

 アーミタイルの放った邪悪な波動が、煌星竜の光を飲み込み、消滅させる。クリフォトンの効果が適用されているため、遊希のライフは減ることは無い。だが―――

 

 

 

 

 

 

「がああああああっ!!」

 

 

 

 

 

 煌星竜を破壊された遊希の身体にはまるで言葉に表せないような衝撃が走った。彼女の身体には人間が生命活動を行うにあたって耐えられるであろう限界に近い衝撃を受けており、アーミタイルの攻撃を受けた遊希は声にならない悲鳴を上げてその場に崩れ落ちてしまった。

 デュエルにおいてライフが残っていたとしても、デュエリストがデュエルの最中に意識を失うなど身体の異常を訴えた場合は、ドクターストップといった形でそのデュエリストの敗北となってしまう。そのため遊希は千春を救うためにも決してここで倒れてはいけなかったのである。

 

―――遊希! おい、遊希!!

『……モシカシテイッチャッタァ? ツマンナイノ。アタシハコレデターンエンドダヨ』

 

 

不審者 LP1000 手札3枚

デッキ:19 メインモンスターゾーン:1(混沌幻魔アーミタイル)EXゾーン:0 魔法・罠(Pゾーン:青/赤):0 フィールド:1(失楽園)墓地:18 除外:13 EXデッキ:12(0)

遊希 LP4200 手札2枚

デッキ:21 メインモンスターゾーン:2(銀河眼の光子竜×2、No.90 銀河眼の光子卿 ORU:1)EXゾーン:0 魔法・罠(Pゾーン:青/赤):0 フィールド:0 墓地:16 除外:0 EXデッキ:11(0)

 

不審者

 □□□□□

 □□□□□失

  □ 混

□卿銀□銀□

 □□□□□

遊希

 

○凡例

混・・・混沌幻魔アーミタイル

失・・・失楽園

 

 

☆TURN08(遊希)

 

「遊希……遊希!!」

―――遊希! しっかりしろ! 遊希!!

『無駄無駄ァ!! アーミタイルノ攻撃ヲ受ケタ人間ハモウ二度ト立チ上ガレナインダカラネ!! アハハハッ!! 所詮精霊ノデュエリストナンテソノ程度ノ存在ナンダヨ!!』

 

 倒れてしまった遊希に光子竜とエヴァが必死に呼びかける。モンスター越しとはいえ、アーミタイルの攻撃を受けた遊希は気を失ったまま立ち上がろうとしなかった。倒れ込んだ遊希を見て高笑いをする千春をエヴァは憤怒の感情を込めて睨みつけた。

 

「貴様……よくも遊希を!!」

『オット、ソウ焦ラナイデヨ。次ハアンタデ遊ンデアゲルヨ、エヴァ・ジムリア』

「いいだろう……遊希の仇は私が討つ!!」

「……待って、エヴァ。勝手に殺さないでもらえるかしら」

 

 エヴァと千春の間に一触即発の空気が広がる中、吹けば消えそうなほど小さな声であるが、遊希の確かな言葉が響き渡った。

 

「遊希! 大丈夫なのか……」

『ナ……ナンダト……アーミタイルノ攻撃ヲ受ケタノニ……マダ生キテ?』

―――遊希、大丈夫か?

(あれ……私は……私は負けちゃったの?)

―――いや、クリフォトンの効果でダメージは受けていない。お前に意志がある限りまだ負けてはいない。

(そう……なんだ。ねえ、光子竜?)

―――なんだ?

(……このデュエル……私勝てるのかな?)

 

 確かに遊希はまだ負けていない。ライフが1でも残っている限りデュエルに終わりはないし、ここからの逆転も可能である。しかし、デュエリストも一人の人間であり、闘志の炎が消えてしまえば脆いものである。遊希は意識を取り戻したものの、その心は折れかけていた。幼いころは優しく泣き虫だった彼女である、デュエリストとして成長し信頼できる仲間ができて孤独ではなくなったとしても、まだ精神的には弱いところがあったのだ。

 

―――遊希、諦めたら全てが終わる。それにお前は約束したんじゃないのか?

(約束……)

―――鈴と、千春と、皐月。親友たちと決勝トーナメントで相見えるという約束だ! それを守るためにお前はここで立ち止まってはいけない、そうだろう?

 

 光子竜のその言葉を聞いて遊希の脳裏には鈴、皐月……そして千春。三人の親友でありライバルの顔が浮かぶ。

 

「みんな……そうだよね、私がここで諦めたらもうどうしようもない。私はまだ諦めない!」

 

 立ち上がった遊希の眼には前にも増して強い闘志が宿っていた。翔一をはじめ非道なデュエルによって倒れた仲間たちに報いるため、そして鈴・千春・皐月との約束を守るため。

 

『オノレェ……!!』

「ねえ。アーミタイルの攻撃力は“自分のターン”に10000ポイントアップする。そうよね?」

 

混沌幻魔アーミタイル ATK0

 

「そして戦闘では破壊されず、失楽園の効果で対象を取る効果と効果破壊の耐性を得る」

『……』

「光子卿を攻撃表示に変更」

 

No.90 銀河眼の光子卿 ORU:1 ATK2500

 

「どれだけ強固な耐性を持っていても、アーミタイルの攻撃力は0……ねえ、千春。私はあんたの前向きさとどんなに転んで決してへこたれない強さは凄いと思うし、尊敬してる。でもね、そんなあんたにも言っておきたいことがあるわ。あんたね……いつまで経っても、どんな時でも詰めが甘いのよ!!―――バトル!!」

 

 遊希の雷鳴の如く鋭い攻撃宣言がデュエルフィールドに響く。そしてそれに呼応するかのように2体の光子竜と光子卿が一斉に臨戦態勢を取った。まるでその様はモンスターたちが遊希の思いを汲み取り、遊希と同じように千春を残忍な手口で操った幻魔へと怒りを露わにしているかのようだった。

 

「私のモンスターたちよ!!―――罪深き幻魔を討ち滅せ!!」

 

No.90 銀河眼の光子卿 ATK2500 VS 混沌幻魔アーミタイル ATK0

 

銀河眼の光子竜 ATK3000 VS 混沌幻魔アーミタイル ATK0

 

銀河眼の光子竜 ATK3000 VS 混沌幻魔アーミタイル ATK0

 

 アーミタイルは戦闘では破壊されない。しかし、それは言ってしまえばどれだけ強い力を持ったモンスターの戦闘でも破壊されず、フィールドに残り続けることになる。そしてフィールドに存在する限り、攻撃の的になり続けるのだ。戦闘破壊―――という救いを一切得られずに。

 

千春 LP1000→0

 

 デュエルに敗北した千春の身体が大きく後ろに吹き飛ぶ。敗れた千春は幻魔を使用したこのデュエルのダメージがよほど大きかったのか、全身の至る所に切り傷擦り傷を負っており、所々に出血も見て取れた。

 

「……千春……ごめんね、千―――」

 

 そして勝利を見届けた遊希もまたその場に力なく崩れ落ちた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「遊希……遊希!」

 

 次に遊希が目覚めたのは保健室のベッドの上だった。前にここを利用した時は鈴が傍で見守ってくれていたが、今回はエヴァと竜司とミハエルの三人が遊希が目を覚ますのを待っていた。竜司とミハエルをはじめとした教師たちは校長室と職員室でそれぞれ大会の進行に異常がないか見守っていたのだが、カメラで監視しているうちは何の異常も見受けられなかった。

 しかし、遊希が千春とデュエルをしていた時、同時間帯千春と同じように操られた学生たちが他の学生を襲っていたことが職員室に逃げ込んできた生徒によって発覚し、教師たちは遊希同様操られた生徒とデュエルをすることで、被害の拡大を最小限に抑えていたのだ。

 

「エ……ヴァ?」

「遊希くん! 無事だったか!!」

「目を覚ましてくれて良かった。君には色々と尋ねたい事がある」

 

 遊希と共に事の顛末を知るエヴァはともかく、その場にいなかった竜司とミハエルは色々と遊希に聞きたいことがあるようだった。しかし、そんな彼らよりも先に遊希は三人に問いかける。

 

「千春……千春は!!」

「日向くんは……命にこそ別状はないが意識はまだ戻っていない」

「エヴァ・ジムリアに聞いたのだが、他の生徒たちを襲って危害を加えたのが日向 千春、というのは事実なのか?」

「……」

 

 遊希は何も言わず頷いた。しかし、これは事実であって事実ではなかった。

 

「確証は無いんですが、あれは千春であって千春じゃなかった」

「……どういうことだ?」

「デュエルの最中に会話をしたのですが、千春は操られていました。そして本来では見るはずないのカードを使ってきました」

「見るはずのないカード?」

「ラビエル、ハモン、ウリア……いわゆる【三幻魔】です」

 

 千春が使ったカードのことを説明すると、竜司とミハエルは互いに顔を見合わせる。大会の数日前、I2社と海馬コーポレーションで開発中のカードとデュエルディスクが奪われるという事件があり、そのことはI2社の社員である海咲 真莉愛によって竜司と遊希に伝えられていた。

 ただ、実際に報道された時にはあくまで「カードとデュエルディスクが盗まれた」ということのみが報道されたため、果たしてどのようなカードが盗まれたのかということを知る者は少ない。だが、竜司とミハエルはその立場上、I2社から盗まれたカードのことについて詳しく聞いており、その盗まれたカードをまとめたリストの中に千春が使用した幻魔のカードの“コピー”が含まれていたのだ。

 

「日向くんを搬送した時、彼女のデュエルディスクから大半のカードを回収した。しかし、4枚だけ見当たらないカードがあった」

「……幻魔と、その融合体であるアーミタイル」

「ああ。そのカードはいくら周囲を捜索しても見つからなかったんだ」

「光子竜が……精霊が言っていたのですが、千春を操るにあたって最も大きな力を担っていたのがその幻魔であったそうです」

「精霊とはそこまでわかるものなのか?」

「はい。ですが幻魔は光子竜のような精霊じゃありませんでした。ただ幻魔、それもコピーのカードに一人の人間を操るだけの力を与える何かが別にいます。私でもエヴァでもない。“三人目の精霊使い”が……」

 

 遊希は今わかっていることをできる限り竜司とミハエルに伝える。その最中、遊希はとある違和感に気付いた。

 

「……校長先生」

「なんだい?」

「二人は……鈴と皐月は……?」

 

 目覚めたばかりで混乱していた、というのもあるが遊希は本来ならばエヴァと共にこの場にいるであろう鈴と皐月の姿が見えないことに気付いた。二人に言及された竜司の顔が硬直する。そんな彼にミハエルが助け舟を出す形で割って入った。

 

「……!!」

「校長、そろそろお時間です。ここは私が……」

「す、すみません。ではお任せします」

 

 遊希の問いに答える前に竜司はそそくさとこの場を後にする。保健室を出ていく竜司の顔はいつにもなく深刻なように思えた。

 

「……教頭先生?」

 

 竜司を追い出す形でその場に残ったミハエルもすぐには遊希の問いに答えようとはしなかった。だがそれには理由があり、彼は心の中でもう一人の自分とせめぎあっていた。

 

(……昔からこういう役回りは慣れていたが……このようなことを私の口から言わねばならぬとはな……神よ、この運命を恨むぞ)

「教頭先生……どうしたんですか??」

 

 横になりながら黙り込むミハエルを真剣な目で見つめる遊希。ミハエルは後ろを向き、独り言を言うかのようにつぶやき始めた。

 

「心を落ち着かせて聞いてほしい。今回の事件で多数の生徒が負傷し、大会は継続困難となった。数日中にも中止が言い渡されるだろう。そして我々と警察の調査により、負傷者はもちろん行方不明者の存在も確認された」

「行方不明者……」

「そして行方不明者は二人。その二人の名を言うぞ……行方不明者は……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――星乃 鈴と織原 皐月だ―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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