星乃 竜司と藤堂 雄一郎―――この二人は何から何までが真逆の存在であった。この二人の縁は今から25年近く前、学生時代に遡る。
竜司は一般庶民の家の出であり、何処にでもいる普通の少年だった。一方で雄一郎は日本で五本の指に入る財閥・藤堂家の跡取りという生まれ持っての富裕層である。誰にでも優しく大人しい竜司はインドア派。積極的に動き、常に皆を引っ張っていくリーダーシップを発揮する雄一郎はアウトドア派。
親の意向で上流階級の子息が通う学校ではなく普通の私立高校に通わなければ出会うことの無かった二人であるが、そんな二人に唯一共通するところがあった。それが「デュエルが好き」ということである。
「おう、竜司。こっちだこっち」
「待たせてすまないね」
数年後、共に日本を代表するプロデュエリストになった二人は海外のバーでいつものように酒を酌み交わしていた。デュエルの場においてはライバル同士の二人であるが、デュエルディスクを外せば親友の二人に戻る。そしてデュエルの後はこうしてバーや宿泊するホテルなどで酒を酌み交わすのはすっかり慣例となりつつあった。
「今日もお前に負けちまったぜ。本当に強いよな」
「いやデュエルは時の運だよ。今日はたまたまデッキの回りが良かっただけさ」
「おいおいもっと誇ってくれよな。それだと負けた俺の顔が立たないぜ?」
「そうか。じゃあ、勝ったのは俺がお前より強いから、だな」
「言ってくれるぜこの野郎」
この二人が戦ったデュエルの戦績は49戦中竜司の27勝22敗という成績だった。デッキの主要モンスターの差があるとはいえ、現時点では竜司に軍配が上がっていた。
「まあお前相手なら負け越しても文句ないわ。それよりも……」
酒がだいぶ進んだ雄一郎は首から下げたペンダントを開く。そこにはニッコリと笑いかける乳児の写真があった。
「どうよ、俺に似て器量よしだろ? 娘の可愛さなら負けてないぜ」
「桜ちゃん大きくなったね。この間1歳になったばかりだろう?」
「おうよ。職業柄一緒に過ごせねえけどこの写真を見たら元気百倍ってもんだ」
「それは良かった。だけど可愛さならうちの鈴も負けてないよ」
「鈴ちゃんはまだ生まれたてだろ? まあ子供ってのはいくつになっても可愛いけどな!」
*
やがて時は流れ、竜司はプロの世界から身を引き、教育者としてアカデミアの校長となり、雄一郎は財閥の当主兼現役のプロデュエリストとして今も世界を股にかけて戦い続けている。そんな二人の友情は今もなお続いていた。デュエリストとしても、父親としても。
だが、そんな親友は代わり果てた姿で目の前に立っている。目に入れても痛くない、と言っていた最愛の娘を傷つけるという蛮行を行って。
「……俺ノ邪魔ヲスルナラバ、貴様モソノ小娘同様葬ルマデ」
雄一郎はそう言ってデュエルディスクを構える。千春と同じように何者かに操られた彼にはもう竜司たちの言葉も届かない。
「雄一郎……」
「あの、校長先生……」
そのデュエルに応じようとした竜司に遊希が声をかける。藤堂 雄一郎とは同じプロデュエリストだったミハエルはもちろん、蘭も遊希もエヴァも面識があった。故に明らかに雄一郎が正気でないことはその場にいる誰もが理解していた。
「藤堂さん……千春と同じように操られています」
「……そうか。なら良かった」
竜司はそう言ってデュエルディスクを構える。この行動が雄一郎の本心ではない、ということが竜司を少し楽にした。
「正気でないのなら……躊躇なく喝を入れることができるからな!」
「「デュエル!!」
先攻:雄一郎
後攻:竜司
雄一郎 LP8000 手札5枚
デッキ:35 メインモンスターゾーン:0 EXゾーン:0 魔法・罠(Pゾーン:青/赤):0 フィールド:0 墓地:0 除外:0 EXデッキ:15(0)
竜司 LP8000 手札5枚
デッキ:35 メインモンスターゾーン:0 EXゾーン:0 魔法・罠(Pゾーン:青/赤):0 フィールド:0 墓地:0 除外:0 EXデッキ:15(0)
☆TURN01(雄一郎)
「俺ノターン、俺ハ手札カラ魔法カード、紅玉の宝札ヲ発動」
雄一郎のデッキは【真紅眼(レッドアイズ)】。娘である桜と同じデッキであるが、桜が【バスター・ブレイダー】の要素を取り入れているのに対し、彼のデッキはどちらかというと純要素の強いレッドアイズデッキであった。
(紅玉の宝札……デッキは昔と変わっていないのか)
「俺ハ手札カラレベル7ノ真紅眼の黒竜1体ヲ墓地ニ送リ、デッキカラ2枚ドロー。ソシテデッキカラレベル7ノ「レッドアイズ」モンスター《真紅眼の黒炎竜》ヲ墓地ニ送ル。ソシテ手札カラ《伝説の黒石》ヲ召喚スル』
《伝説の黒石》
効果モンスター
星1/闇属性/ドラゴン族/攻0/守0
「伝説の黒石」の(1)(2)の効果は1ターンに1度、いずれか1つしか使用できない。
(1):このカードをリリースして発動できる。デッキからレベル7以下の「レッドアイズ」モンスター1体を特殊召喚する。
(2):このカードが墓地に存在する場合、自分の墓地のレベル7以下の「レッドアイズ」モンスター1体を対象として発動できる。そのモンスターをデッキに戻し、墓地のこのカードを手札に加える。
「ソシテ伝説の黒石ノ効果ヲ発動。コノカードヲリリースシ、デッキカラレベル7以下ノ「レッドアイズ」モンスター1体ヲ特殊召喚スル」
「待った。その効果にチェーンして私は手札の増殖するGの効果を発動させてもらう」
チェーン2(竜司):増殖するG
チェーン1(雄一郎):伝説の黒石
「これで君が特殊召喚を成功させるたびに私はデッキからカードを1枚ドローしなければならない」
「チェーン1……俺ハ伝説の黒石ノ効果デデッキカラ真紅眼の黒竜ヲ特殊召喚スル」
「レッドアイズ……増殖するGの効果で1枚ドローする」
「ソシテ更ニ俺ハ手札カラ通常魔法、復活の福音ヲ発動。墓地ノレベル7ドラゴン族モンスター、真紅眼の黒炎竜ヲ特殊召喚スル」
《真紅眼の黒炎竜(レッドアイズ・ブラックフレアドラゴン)》
デュアル・効果モンスター
星7/闇属性/ドラゴン族/攻2400/守2000
(1):このカードはフィールド・墓地に存在する限り、通常モンスターとして扱う。
(2):フィールドの通常モンスター扱いのこのカードを通常召喚としてもう1度召喚できる。その場合このカードは効果モンスター扱いとなり以下の効果を得る。
●このカードが戦闘を行ったバトルフェイズ終了時に発動できる。このカードの元々の攻撃力分のダメージを相手に与える。「真紅眼の黒炎竜」のこの効果は1ターンに1度しか使用できない。
「モンスターが特殊召喚されたことにより、1枚ドロー! だがこれでレベル7のモンスターが2体……」
「マダエクシーズハシナイ。マズハコノカードノ洗礼ヲ受ケテ貰ウ。通常魔法《黒炎弾》ダ」
《黒炎弾》
通常魔法
このカードを発動するターン、「真紅眼の黒竜」は攻撃できない。
(1):自分のモンスターゾーンの「真紅眼の黒竜」1体を対象として発動できる。その「真紅眼の黒竜」の元々の攻撃力分のダメージを相手に与える。
「フィールドノ真紅眼の黒竜ヲ対象トシテ発動。真紅眼ノ元々ノ攻撃力分ノダメージヲ与エル」
「バーンダメージ……いけない、校長先生、気を付けて!!」
「えっ?」
竜司 LP8000→5600
「ぐああっ……!!」
黒炎弾によるダメージを受けた瞬間、竜司の身体には激痛が走った。今まで体感したことのないような痛みに思わず竜司が膝をつく。
(こ、この痛みは……! まさかこのような痛みを受けながら遊希くんたちは戦っていたというのか……!?)
「クックック……俺ノ真紅眼ノ炎ノ味ハドウダ? 俺ハレベル7ノ真紅眼の黒竜と真紅眼の黒炎竜デオーバーレイ! 2体ノモンスターデオーバーレイネットワークヲ構築! エクシーズ召喚!!」
2体の真紅眼の命が一つになって生まれたのは鋼鉄の鱗を持った真紅眼であった。
「“真紅ノ瞳ヲ持チシ黒竜ヨ、鋼鉄ノ鎧ヲ纏イ、ソノ眼ニ映ルモノヲ灼熱ノ炎で焼キ払エ!”飛翔セヨ!《真紅眼の鋼炎竜》!!」
《真紅眼の鋼炎竜(レッドアイズ・フレアメタルドラゴン)》
エクシーズ・効果モンスター
ランク7/闇属性/ドラゴン族/攻2800/守2400
レベル7モンスター×2
(1):X素材を持ったこのカードは効果では破壊されない。
(2):X素材を持ったこのカードがモンスターゾーンに存在する限り、相手が魔法・罠・モンスターの効果を発動する度に相手に500ダメージを与える。
(3):1ターンに1度、このカードのX素材を1つ取り除き、自分の墓地の「レッドアイズ」通常モンスター1体を対象として発動できる。そのモンスターを特殊召喚する。この効果は相手ターンでも発動できる。
「特殊召喚に成功したことにより、私はさらに1枚ドローする!」
「俺ハカードヲ1枚セットシテターンエンド」
雄一郎 LP8000 手札1枚
デッキ:31 メインモンスターゾーン:0 EXゾーン:1(真紅眼の鋼炎竜 ORU:2)魔法・罠(Pゾーン:青/赤):1 フィールド:0 墓地:5 除外:0 EXデッキ:14(0)
竜司 LP5600 手札7枚
デッキ:32 メインモンスターゾーン:0 EXゾーン:0 魔法・罠(Pゾーン:青/赤):0 フィールド:0 墓地:1 除外:0 EXデッキ:15(0)
雄一郎
□□伏□□
□□□□□□
鋼 □
□□□□□□
□□□□□
竜司
☆TURN02(竜司)
(ライフを削られることで身体に直接痛みが走る……これで多くの生徒が倒れていったのか)
自分が校長を務めているから……というわけではないが、竜司は自分の生徒たちは皆優秀であると信じて疑わない。才能の有無はあるにしても、場末のデュエリストよりは遥かに強いからこそアカデミアへの入学が許される。そんな彼らが為す術もなく倒されていったのは、こういった身体そのものに直接ダメージが行く、という異質なデュエルが原因なのだろう。
(雄一郎のデッキは戦闘のみならずバーンダメージも使いこなす。ならば早めに対処しなければ……)
「私のターン、ドロー!」
増殖するGの効果を発動していたため、竜司の手札は今のドローを合わせて計8枚になっていた。真紅眼の鋼炎竜は強力なモンスターだが、その鋼炎竜であっても無敵のモンスターではない。
(真紅眼の鋼炎竜は私がカードの効果を発動するたびに500のバーンダメージを与えてくる。まずはあいつを倒さなければならない)
「私は手札からレベル8モンスター、白き霊龍を墓地に送り、トレード・インを発動する!」
「コノ瞬間、X素材ヲ持ッタ鋼炎竜ノ効果ガ発動! 500ノダメージヲ受ケテ貰ウ!」
竜司 LP5600→5100
「この程度……痛いなどとは言ってられない。デッキから2枚ドロー! そして私は手札の青眼の白龍を見せることにより、このカードを特殊召喚する! 来い、青眼の亜白龍!!」
「攻撃力3000ノモンスターヲ手札カラ特殊召喚ダト!? 小癪ナ……」
「更に私は手札から《青き眼の乙女》を召喚!」
《青き眼の乙女》
チューナー(効果モンスター)
星1/光属性/魔法使い族/攻0/守0
このカードが攻撃対象に選択された時に発動できる。その攻撃を無効にし、このカードの表示形式を変更する。その後、自分の手札・デッキ・墓地から「青眼の白龍」1体を選んで特殊召喚できる。
また、フィールド上に表側表示で存在するこのカードがカードの効果の対象になった時に発動できる。自分の手札・デッキ・墓地から「青眼の白龍」1体を選んで特殊召喚する。「青き眼の乙女」の効果は1ターンに1度しか使用できない。
「手札の青き眼の賢士を捨て、フィールドの青き眼の乙女を対象にその効果を発動!」
竜司 LP5100→4600
「そして賢士の効果にチェーンして乙女の効果も発動する!」
竜司 LP4600→4100
チェーン2(竜司):青き眼の乙女
チェーン1(竜司):青き眼の賢士
「青き眼の乙女がカードの効果の対象になった時、デッキ・手札・墓地から青眼の白龍1体を特殊召喚する! 来い、青眼の白龍!!」
竜司のフィールドには乙女の祈りによって、青い瞳に白い美しい身体を持った龍、青眼の白龍が雄叫びを上げながら舞い降りる。さらに手札から捨てられた青き眼の賢士の効果もそれにチェーンを組まれて発動する。
「青き眼の賢士の効果により、乙女を墓地に送り、デッキからブルーアイズ1体を特殊召喚する! 来い、2体目の青眼の白龍!!」
デュエルモンスターズにおいて力の象徴ともいえる青眼の白龍。そんな青眼が2体も並べば並大抵のモンスターでは防ぎきれないと言っていいだろう。操られている雄一郎も、竜司との過去のデュエルの記憶が呼び覚まされたのか、青眼を見て顔を顰めた。
「グッ……俺ハ鋼炎竜ノ効果ヲ発動! X素材ヲ1ツ取リ除キ、墓地ノレッドアイズ通常モンスター1体ヲ特殊召喚スル! 蘇レ、真紅眼の黒竜!!」
「防御を固めるか、いい判断だ。メインフェイズ1を終えてバトルフェイズに移行する。まずは青眼の亜白龍で真紅眼の黒炎竜を攻撃!“オルタナティブ・バースト・ストリーム”!!」
青眼の亜白龍 ATK3000 VS 真紅眼の鋼炎竜 ATK2800
「俺ハ墓地ノ復活の福音ノ効果ヲ発動! コノカードヲゲームカラ除外シ、ドラゴンノ戦闘破壊ヲ無効ニスル!」
「だが、その分の超過ダメージは受けてもらう!」
雄一郎 LP8000→7800
「最も、鋼炎竜は残さない。1体目の青眼の白龍で鋼炎竜に追撃!“滅びのバースト・ストリーム”!!」
青眼の白龍 ATK3000 VS 真紅眼の鋼炎竜 ATK2800
雄一郎 LP7800→7600
その青い眼を怒りに染めた白龍の一撃が、鋼の黒竜を光と共に消し去る。
「グオオッ!?」
「……ダイレクトアタックは敵わずか。2体目の青眼の白龍で守備表示の真紅眼の黒竜を攻撃!」
青眼の白龍 ATK3000 VS 真紅眼の黒竜 DEF2000
黒炎弾と真紅眼の鋼炎竜の効果でライフを早くも3900減らされてしまった竜司であるが、そのお返しとばかりに3体の青眼で雄一郎のフィールドを焼け野原へと変える。青眼と真紅眼。2体のドラゴンを擁する二人のデュエルはまだ始まったばかりであった。