銀河の竜を駆る少女   作:Garbage

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立ち上がる時

 

 

 

 

 

 

「ぐっ……ううう……」

 

 光の導きによる青眼の究極竜の連続攻撃。その衝撃は戦闘ダメージが実際に発生するデュエルにおいては凄まじいものであった。竜司とのデュエルに敗れて意識を失っていた雄一郎であったが、逆にそれがショック療法になったのだろうか、10分もしないうちに目を覚ました。

 

「気が付いたかい、雄一郎」

「竜……司……? はっ、桜! 桜は!!」

 

 自分自身も怪我をしているにも関わらず、思い切り起き上がって周囲を見回す雄一郎。そして自分と同じように横たわっている最愛の娘の姿を見つけた。

 

「桜! 誰だ、桜をやったのは誰だ!!」

「お前だ、馬鹿者」

 

 ミハエルのその言葉に雄一郎は信じられない、と言った顔をする。竜司は操られていた時の雄一郎の行動の顛末を事細かに話した。操られた自分が桜を手にかけてしまったこと、そして竜司とデュエルをして敗れたということも。

 

「なんてことだ……俺は娘を、桜を助けに来たのに……その俺がその桜を傷つけてどうすんだよ畜生!」

「まずは落ち着くんだ。桜ちゃんは幸い軽傷だ」

「傷の具合は問題じゃねえよ。親である俺が娘を傷つけたこと自体が許されねえことなのに……」

 

 雄一郎は握りこぶしを作ると、そのまま何度も地面を殴りつける。自他ともに認めるほど娘を、家族を大事にしている雄一郎にとって操られていようがいまいがそのようなことを娘にしてしまった、という事実が何よりも彼を傷つけていた。

 竜司も蘭も人の親であるし、雄一郎のことを古くから知るミハエルもそんな彼の気持ちは痛いほど理解しているため安易に雄一郎を慰めることもできなかった。そんな彼を止めたのは外でもない娘の桜であった。

 

「お父様……やめてください……」

「桜! お前……」

「私はこの程度……なんともありませ……きゃっ!」

 

 痛みをこらえて立ち上がった桜であるが、よろけて転びそうになったところを雄一郎に支えられる。

 

「すまねえな、ダメな親父でよ……」

「そんな、お父様は強くて優しくて私やお母さまのために一生懸命働いて……私はお父様の娘に生まれることができて幸せ者です」

「桜……ありがとな」

 

 このような事態に陥っても二人の絆は揺るがない。そんな時、ニコニコと微笑んでいた桜は不思議そうに首を傾げる。

 

「ところで……お父様はどうしてこちらに? この学校で起きていることは海外でも騒動になっているのですか?」

 

 桜のふとした疑問に当の雄一郎も首を傾げる。竜司とミハエルが尽力したおかげで現在アカデミアで起きている事件は公にはなっていないはずであり、海外はおろか国内でもこの一連の出来事を知っているのは少なくともセントラル校の関係者か警察の上層部だけのはずだった。

 

「どうして、って……お前昨日の夜電話くれたじゃねえか。“鈴ちゃんが行方不明になって大変なことが起きている”って。それで俺は商談を部下に任せて香港から飛んできて……」

「私は……お父様に連絡などしておりませんわ?」

「なっ……でも俺は確かにお前から……」

 

 ここで雄一郎と桜の話に食い違いが生じる。疑問に思った竜司は雄一郎がスマートフォンで連絡を受けたことを知ると、その着信履歴を確認した。電話の発信元は桜のスマートフォンではなく、学内の公衆電話からだった。

 今や日本人の9割はスマートフォンを持つ時代であり、桜も当然自分のスマートフォンを持っている。そして公衆電話を使う機会がめっきり減ったこのご時世、小銭はまだしもテレフォンカードなど所持していない。そして何よりスマートフォンを持っているのならばわざわざ公衆電話など利用しないだろう。

 

「まさか……」

「恐らく桜君のふりをして雄一郎に電話をした誰かがいる。そしてお前を呼び出し操って桜君を襲わせた……」

「朝になって私のスマートフォンにお父様からメールが入っていました。9時に学校に着くから迎えに来い、と。でもそのメールも……」

「……偽装されたものだろうな」

「雄一郎はどこまで覚えている? 怪しい人間の顔などは覚えてないかい?」

「いや、日本まで急ピッチで戻ってきて車で来て……ここの校門をくぐったところまでは覚えてんだが……」

 

 校内の公衆電話から桜を偽って雄一郎を呼び出し、かつセントラル校に到着した雄一郎を校門と校舎の間で雄一郎自身が気づかぬ間に襲った。この事から黒幕はこのセントラル校もしくはセントラル校近辺に潜伏していることは明らかであった。そしてその黒幕のもとに鈴とも皐月もいる可能性が高い。

 しかし、今わかっているのはこれだけであり、この一連の事件の黒幕が何を考え、何の目的でこのような事件を起こしたのか、この場にいる誰にもわからなかった。ただ、三幻魔のような力のある邪なカードを使役し、他の人間を操って襲わせることができる異能の力を持った存在である、ということ。

 そしてその黒幕は千春や雄一郎をはじめ多くの人間を操り、鈴や皐月の行方不明にも関わるなど竜司やミハエルはもちろん、遊希やエヴァに匹敵する実力者であるということだ。

 

「ねえあなた……遊希ちゃんを……」

 

 そんな中、蘭が口を開く。雄一郎とのデュエルもそうだが今日外出する本当の目的は遊希を病院に連れて行くことであった。竜司が病院に行こうと促すと、それまで黙っていた遊希はふと立ち上がる。竜司は驚きを隠せなかった。デュエルの前までは怯える子犬のような顔をしていた遊希にはいつもの力強さが戻っていたからだ。

 

「……皆さん、面倒をかけて申し訳ありません。でも……今の校長と藤堂さんのデュエルを見ていてわかったことがあります」

「わかったこと?」

「はい。さっきまでは私は私一人だけのことしか考えられませんでした。どうして自分ばかりこんな目に、と思っていた。だから塞ぎ込んでしまっていました」

 

 竜司と雄一郎のデュエルはそんな遊希に喝を入れるに十分なだけの力があった。竜司も雄一郎も父である前に一人のデュエリストとして戦い、ミハエルは教師として学校と生徒をどう守るか苦心し、蘭とエヴァは自分たちも危険であることも変わらないのに赤の他人である遊希のことを真剣に考えてくれていた。

 皆が皆戦っている。恐怖と、未知と、絶望と。それなのに自分一人だけが怯え震えている。いつまでもそうであっていいのか。そんな思いが遊希の中を駆け巡っていた。

 

「正直言ってしまえば私は気弱で臆病で泣き虫です。恥ずかしいけどそれは否定しません。だから……私はもう逃げません」

「遊希くん……」

「私は戦います。そして……鈴と皐月を助け出します」

 

 そこにいたのは恐怖をして怯える少女ではなかった。そこにいたのはかつて世界を席巻し、数多くの少年少女の憧れの的となった伝説のデュエリスト・天宮 遊希であった。

 

(―――遊希、よく立ち上がってくれた)

 

 そしてそんな彼女の姿を内に宿る光子竜は目を細めて眺めていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 遊希が決意を新たにしたのと同時刻。朝なのにも関わらずこの空間には一筋の光も差さない暗闇であった。

 

「天宮 遊希が立ち直った……日向 千春や藤堂 雄一郎を差し向けて心を圧し折ってやったと思ったのに」

 

 玉座のような椅子に腰掛ける何者かが少し悔しそうに言い放つ。

 

「まあいい。それならばより嬲り甲斐があるというもの……さて、次はお前に行ってもらおうかな」

 

 振り返った声の主が暗闇を指差す。千春が付けていたのと同じ黒のローブに髑髏の仮面で顔を隠した者がその場に跪いた。

 

「引き続きターゲットは天宮 遊希。この際手段は問わない。彼女を―――我が物とする」

「ハッ」

 

 指示を受けた髑髏の仮面はそのまま闇の中へと消えて行った。

 

「さて……次はどう足掻くのかな? 楽しみね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 遊希は立ち直ることができた。それでもこのデュエルにおいて負傷した雄一郎と桜を診てもらうため、彼女は竜司と共に病院へと向かった。当然雄一郎と桜の怪我の具合は心配であるが、それよりも気になることがあった。

 遊希は同じ病院のとある病室の前に立つと、ドアを数回ノックする。返事こそ無かったが構わず部屋の中に入った。その部屋には千春が入院していた。千春は命にこそ別状はないものの相変わらず意識を取り戻す様子がなく、医師曰く「千春自身が目覚めようとしていない」という言葉を口にするほどだった。

 雄一郎が操られていた時の記憶がなかった以上、千春も遊希とデュエルをしたことは覚えていないのだろう。それでも操られた彼女がしたことはデュエリストとして許されない行為であり、その罪悪感が無意識に彼女が意識を取り戻すのを妨げていたのかもしれなかった。

 

「千春、ここ座るね」

 

 遊希は千春のベッドのそばにあった椅子に座る。椅子はほんのり暖かかった。恐らく千春の家族がついさっきまでいたのだろうか、行き違いになったのかもしれなかった。遊希は千春の家族とは面識がまだない。それでも千春が帰省した時に家族に遊希の話をたくさんした、と言っていたため向こうは遊希の存在を少なからず認識しているはずである。

 それ故に顔を合わせ辛かった。蘭は鈴が行方不明になったことに関して遊希を責めることはしなかったが、千春や皐月の家族が遊希に対してどのような感情を抱いているかは遊希はあまり考えたくなかった。

 

「……いつまで寝てるのよ。いい加減起きなさいよ……いつも誰よりも早起きで隣の部屋の私たちまで叩き起こしに来るくせに。お寝坊さんなんてあんたらしくないんだから」

 

 遊希は千春の小さな手を握る。昨日は子供のような小さなこの手でデュエルを行った。この手が多くの人々を傷つけるに至ったのが未だに受け入れ難かった。

 

「千春……」

 

 遊希は思いを込めて手を強く握りしめる。すると、遊希の手に少しばかりの圧を感じた。千春が遊希の手を握り返していたのである。遊希は千春の耳元でその名を繰り返し呼んだ。そして。

 

 

―――ゆ……う……き?

 

 

 閉じられていた千春の両の眼が小さく開いていくのを遊希は見逃さなかった。彼女の想いが通じたのである。

 

「千春……千春!」

「よかった……無事、だったんだ……」

「ええ。でもあなたが……」

「私は……いいの……ねえ遊希……」

「何?」

「お願い……あのね―――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「じゃあ、今日もお願いしていいかしら?」

「勿論だ。何故なら私たちは親友だからな」

 

 あっという間にその日は夜になり、その日も遊希はエヴァと行動を共にすることにした。いつ敵が襲ってくるかもわからないため、各個撃破される危険性を考慮して、というのもあるが二人とも年頃の少女である。一人ぼっちはやはり寂しかったのだ。

 

「ところで……千春が目覚めたそうだな」

 

 夕食の席、自分が作ったロシア料理を口に運びながらエヴァが切り出した。

 

「ええ、ひとまずは良かったわ。退院にはまだ時間がかかるようだけど」

「何か話を聞くことはできたか? きっと犯人について知っているはずだ」

「それは私も期待したんだけど……生憎千春は何も覚えていなかったわ」

「そうか……でもどんな者が敵でも私たちは負けない。そうだよな?」

 

 遊希は小さく頷いた。倒れた者たちのためにも、操られて傷ついた千春や雄一郎のためにも、遊希とエヴァは不退転の覚悟で事に望む。それだけだった。そしてそれから数時間後。夜中、草木も眠る丑三つ時。遊希の部屋には遊希でもエヴァでもない誰かの姿があった。

 

「天宮 遊希……」

 

 その誰か、とは黒いローブに髑髏を模した仮面を纏った正体不明の人物。左手にはやはり千春が付けていたのと同じデュエルディスクがあり、右手にはデュエリストが普通持ち得ないはずの果物ナイフが握られていた。

 

「我ガ主ノ命ダ。死ネ」

 

 髑髏の仮面は右手に握ったナイフを振りかざすと、膨らんだ布団の上から思い切り突き刺した。だが、ここで髑髏は気づく。こんもりと膨らんだ布団の中にあったのは付け狙っていた遊希ではなく、ただの抱き枕だったからだ。

 何故こんなところに抱き枕があるのか、まさか自分の襲撃を予想していたというのだろうか。それならば天宮 遊希はどこにいる? 髑髏が考えを巡らせている中、突然誰もいないはずの部屋の電気が点いた。

 

「ムッ……」

 

 驚いた髑髏が振り返ると、そこにはデュエルディスクを付けていつでもデュエルできるようにしていた遊希とエヴァの姿があった。遊希がエヴァと共に過ごしていたのは遊希たちの部屋ではなく“エヴァの部屋”だったのである。

 操られた状態で遊希たちに襲い掛かってきたのは千春と雄一郎。一見関係なさそうな二人であるが、二人には共通点がある。それはどちらも“遊希と顔見知りである”ということだ。この二人が操られた状態で遊希の前に現れる―――この事から遊希たちは一連の事件の黒幕が遊希を狙ってきている、と推測したのである。

 恐らく相手は遊希の行動や普段遊希がいる場所などをある程度予測している、と考えた遊希とエヴァは一計を打ち、普段は過ごさないエヴァの部屋で過ごすことで遊希を襲いに来た敵に逆に奇襲を仕掛けることにしたのだ。そしてそれは以外にもあっさり成功した。

 

「寝込みを襲う、ってことは予測していたけどまさかそんな手段で来るとはね……」

「その手にある物はなんだ? それはデュエリストが持つ物ではない。 デュエリストが戦いにおいて持つのは銃でも刃でもない。カードだ。それすらわからないとは、お前はそれでもデュエリストか?」

「リアリストダ。我ガ主カラ命ガ下ッタノダ……天宮 遊希、貴様ヲ倒シ我ガ主ニ差シ出ス。ソレガ私ニ与エラレタ使命」

「……あんたの主が誰だか知らないけど、そのナイフで私を刺したら刺したでダメなんじゃないの? 差し出すはずの私を殺してしまっては元も子もないはずよ」

「フッ、ソレモソウダナ」

 

 そう言って不審者は手にしたナイフの刃先を指で思い切り曲げる。ゴム製のナイフなので当然このようなものでは人の命は奪えない。

 

「……私モデュエルデ貴様ヲ倒シタイト思ッテイタ」

「そのなりで案外正直なのね。いいわ、だったらそのデュエル受けてあげるわ。ここだと手狭だから校内のデュエルフィールドでやりましょう」

「イイダロウ。アソコナラバ広イカラナ」

 

 遊希は疑問に思うことがあった。確かにセントラル校の近くに一連の事件の犯人たちが潜伏しているのかもしれないが、この髑髏はあっさり遊希たちの部屋を特定した。遊希と鈴の部屋は寮の端にあり、寮の入口から残念ながら一番遠い部屋である。もちろん災害時の非常口はすぐ傍にあるが、その非常口は平時には施錠されているため、鍵を壊さない限り侵入することはできなかった。そしてもう一つ。

 

(この髑髏……私が校内のデュエルフィールドでのデュエルを提案した時、そのデュエルフィールドのことを“広い”って知っていた……)

―――遊希。どうする?

(大丈夫よ。気持ちは揺らがない……でも、覚悟を決める必要があるかもしれないわね)

 

 一抹の不安を覚えながら、遊希たちはデュエルフィールドへと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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