☆TURN08(遊希)
「私のターン、ドロー」
邪神アバターは戦闘においてまず倒されることのないモンスターだ。しかし、このカードを生み出したペガサス・J・クロフォードは神の名を持つカードは作っても、決してこの世界に欠点の無い完璧なカードを作り出すことはなかった。この世界に完璧な人間が存在しないように、カードである以上何かしらの弱点を持っているのだ。
(邪神アバターは魔法・罠カード、そして効果破壊に対する耐性を持っていない。言ってしまえば魔法・罠カードの効果であっさり倒すことができる)
―――だが、お前はこのターンまで魔法・罠カードを発動できない。
だが、三邪神の頂点に位置するアバターには弱点を補う術を持っている。その一つが自身の召喚成功から相手は2ターンの間、魔法・罠カードを発動することができないのだ。そのため魔法・罠カードが発動できるようになるまで待たなければならないのである。
(私に出せるモンスターはなく、そして魔法・罠カードは発動できない。ここまで……なの?)
口から出るのは乾いた笑い。全てを諦めてしまったことによって出るものだった。
―――遊希……
(ねえ、光子竜。エヴァは、私の仇を討ってくれるよね?)
「私は……何もせずターンエンド」
皐月 LP700 手札0枚
デッキ:10 メインモンスターゾーン:2(邪神アバター、百万喰らいのグラットン)EXゾーン:0 魔法・罠(Pゾーン:青/赤):1 フィールド:0 墓地:11 除外:32 EXデッキ:0(0)
遊希 LP1500 手札5枚
デッキ:22 メインモンスターゾーン:0 EXゾーン:0 魔法・罠(Pゾーン:青/赤):2 フィールド:0 墓地:17 除外:0 EXデッキ:9(0)
皐月
□□□伏□
□□ア百□□
□ □
□□□□□□
□□伏伏□
遊希
「おい。何故お前は何もせずターンエンドをする? 答えろ、天宮 遊希!!」
「ごめん、エヴァ。私はここまで。あなたには申し訳ないけど……敵討ちは任せたよ?」
「ふざけるな、お前の……あなたの敵討ちなどしたくない! 私の中でのあなたは……どんなに不利でもライフが0になるまで決して諦めない強いデュエリストなんだ!!」
エヴァの悲痛な叫びが木霊する。だが、そんな彼女の声に応える手段を遊希は持っていなかった。
☆TURN09(皐月)
「私のターン、ドロー」
(……アバターの攻撃力はグラットンに100を足した3300。私のライフを余裕で0にできる)
「……私は、何もせずにターンエンド」
「えっ?」
皐月 LP700 手札1枚
デッキ:9 メインモンスターゾーン:2(邪神アバター、百万喰らいのグラットン)EXゾーン:0 魔法・罠(Pゾーン:青/赤):1 フィールド:0 墓地:11 除外:32 EXデッキ:0(0)
遊希 LP1500 手札5枚
デッキ:22 メインモンスターゾーン:0 EXゾーン:0 魔法・罠(Pゾーン:青/赤):2 フィールド:0 墓地:17 除外:0 EXデッキ:9(0)
皐月
□□□伏□
□□ア百□□
□ □
□□□□□□
□□伏伏□
遊希
☆TURN10(遊希)
「わ、私のターン、ドロー」
邪神アバターがフィールドに現れたから2ターンが経過した。これにより、遊希は魔法・罠カードを発動できるようになった。しかし、遊希はそもそも何故自分にターンが回ってきたのかがわからなかった。手札6枚いセットカード2枚を有しながら何もできずにいた遊希はもはや座して死を待つことしかできなかったはずなのに、何故皐月は遊希に攻撃を仕掛けなかったのか。
「皐月……どういうつもり……?」
「……遊希さん」
「!?」
対峙する皐月は何処か悲しそうに微笑んだ。今自分と対峙しているのは邪神に支配されたデュエリストではない。遊希のよく知る織原 皐月その人であった。
「皐月、自我を取り戻したのね! よかった……」
「遊希さんたちのおかげです。と言いたいところですが……まだ完全ではないと思います」
「えっ?」
「今でこそ邪神の支配から一時的に逃れていますが、今のままでは完全に解放されることはないでしょう……邪神に侵食されているからこそ、わかってしまうんです」
ではデュエルが終われば助かるか、その答えは当然ノーだ。サレンダーしたところでデュエルには勝っても、ライフを削り切って勝つ=邪神を倒したことにはならず、再度邪神に侵食された皐月とのデュエルが繰り返されるだけだろう。仮に再戦となったら今の傷ついた遊希に戦えるだけの力は残っていない。
「お願いします……私を、このターンでたおし……アッアアアア……』
「皐月!! わかった。このターンで! このデュエルを終わらせるわ!!」
―――遊希!
(お願い、光子竜!)
「私は手札の銀河戦士の効果を発動! 手札の光属性モンスター《光波異邦臣(サイファー・エトランゼ)》を墓地へ送り、このカードを表側守備表示で特殊召喚するわ! そして特殊召喚に成功した銀河戦士と光波異邦臣の効果を発動!」
《光波異邦臣(サイファー・エトランゼ)》
効果モンスター
星1/光属性/魔法使い族/攻0/守0
「光波異邦臣」の(1)(2)の効果は1ターンに1度、いずれか1つしか使用できない。
(1):このカードが手札・墓地に存在する場合、自分フィールドの「サイファー」Xモンスター1体を対象として発動できる。このカードをそのモンスターの下に重ねてX素材とする。
(2):このカードが墓地へ送られた場合に発動できる。デッキから「サイファー」魔法・罠カード1枚を手札に加える。
チェーン2(遊希):光波異邦臣
チェーン1(遊希):銀河戦士
「チェーン2の光波異邦臣の効果で私はデッキから《RUM-光波昇華》を手札に加え、チェーン1の銀河戦士の効果で銀河騎士を手札に加える! そしてフィールドにギャラクシーモンスターが存在することで銀河騎士をリリースなしで通常召喚! 自身の効果で召喚に成功した銀河騎士の効果を発動! ターン終了時まで自身の攻撃力を1000下げることで、墓地の銀河眼の光子竜を守備表示で特殊召喚する!」
銀河騎士 ATK2800→ATK1800
「そして私はレベル8の銀河眼の光子竜と銀河騎士でオーバーレイ! 2体のモンスターでオーバーレイネットワークを構築。エクシーズ召喚!“闇に輝く銀河よ。我が道を照らし、未来を切り拓く力となれ!”現れなさい、銀河眼の光波竜!!」
光を粒子ではなく波動に変えて銀河眼の光波竜が舞い降りる。アバターは効果に耐性を持たないため、光波竜の効果でコントロールを奪うことができる。しかし、光波竜の効果でコントロールを奪取したモンスターは光波竜として扱われてしまい、攻撃力は3000になるため、アバターの効果が適用されず、光波竜を上回る攻撃力を得ているグラットンを倒すことはできない。また、グラットンのコントロールを奪ったとしても、アバターはフィールドの最も攻撃力高いモンスターの攻撃力に100を足した攻撃力となるため、光波竜およびグラットンで攻めかかったところで返り討ちに遭ってしまう。
ただ、遊希はそれを理解していた。理解していたが故に、光波異邦臣を銀河戦士の特殊召喚のコストに利用したのである。
「私は手札から速攻魔法、RUM-光波昇華を発動!!」
《RUM-光波昇華(サイファー・アセンション)》
速攻魔法
(1):自分・相手のメインフェイズに、自分フィールドの「サイファー」Xモンスター1体を対象として発動できる。その自分のモンスターよりランクが1つ高い「サイファー」Xモンスター1体を、対象のモンスターの上に重ねてX召喚扱いとしてエクストラデッキから特殊召喚する。この効果で特殊召喚したモンスターは以下の効果を得る。●このカードの攻撃力は、自分フィールドのレベル4以上のモンスターの数×500アップする。
「私は銀河眼の光波竜でオーバーレイ!!」
「光波竜をランクアップさせる……!?」
「1体のモンスターでオーバーレイネットワークを再構築! ランクアップ・エクシーズチェンジ!!」
光の波動は迸る激流となる。そして銀河の眼を持つ竜は更なる境地へと至った。
―――“闇に輝く銀河よ。永久に変わらぬ光を放ち、絶望を切り裂く道となれ!!”―――
―――現れなさい!!《超銀河眼の光波龍(ネオギャラクシーアイズ・サイファー・ドラゴン)》!!」―――
《超銀河眼の光波龍(ネオギャラクシーアイズ・サイファー・ドラゴン)》
エクシーズ・効果モンスター
ランク9/光属性/ドラゴン族/攻4500/守3000
レベル9モンスター×3
(1):このカードが「サイファー」カードをX素材としている場合、以下の効果を得る。
●1ターンに1度、このカードのX素材を3つまで取り除いて発動できる。取り除いた数だけ相手フィールドの表側表示モンスターを選び、そのコントロールをエンドフェイズまで得る。この効果でコントロールを得たモンスターの効果は無効化され、攻撃力は4500になり、カード名を「超銀河眼の光波龍」として扱う。
この効果の発動後、ターン終了時までこのカード以外の自分のモンスターは直接攻撃できない。
「超銀河眼の光波龍の効果を発動! このカードのオーバーレイユニットを2つ取り除き、相手フィールドの表側表示モンスターを取り除いたオーバーレイユニットの数だけ選んでコントロールを得る! アバターとグラットンのコントロールを得るわ!」
超光波龍の両翼から放たれた光の波動に導かれたアバターとグラットンの姿が遊希のフィールドへと移る。そしてその2体の姿は超光波龍のものへと変化した。超光波龍はランクアップ前の光波竜と同じように奪ったモンスターを自分と同じモンスターとして扱うことが可能であり、その攻撃力を4500にすることができる。もちろん進化前同様に直接攻撃はできなくなるが、今の遊希にとって大事なのはアバターとグラットンを同時にフィールドから退けてしまうことであった。
「そして光波昇華の効果で特殊召喚されたモンスターはフィールドのレベル4以上のモンスターの数×500ポイント攻撃力をアップさせる。銀河戦士のレベルは5。よって超光波龍の攻撃力は500アップ!」
超銀河眼の光波龍 ATK4500→ATK5000
「バトルよ! 超銀河眼の光波龍でダイレクトアタック! 消え去りなさい、邪神! 皐月から出ていけ!! “アルティメット・サイファー・ストリーム”!!」
超銀河眼の光波龍 ATK5000
皐月 LP700→LP0
*
超銀河眼の光波龍の一撃によって髑髏の仮面―――皐月のライフがゼロになった。大きく後ろに吹き飛ばされる形となった皐月であったが、その顔に苦痛の色はほとんど見られなかった。
もちろん彼女の身体にはそれ相応のダメージがあったことだろう。しかし、今の彼女には黒幕の洗脳から解き放たれたこと、そして何より遊希が自分を倒してくれたことでもうこのようなデュエルをしなくていい、ということから生まれる安心感が何より大きかったのかもしれない。
「皐月! 皐月!」
「皐月、しっかりしろ!」
デュエルの後、倒れた皐月を必死に呼びかける遊希とエヴァ。皐月は少し苦しそうにしながらもなんとか両の瞼をこじ開ける。
「遊希さん……エヴァさん……助けてくれて……ありがとう……」
言葉こそ途切れ途切れではあるものの、千春の時とは違い詩織の意識ははっきりしているようだった。千春の場合は遊希と戦う前に数十人の生徒を直接痛みが生じる形のデュエルで葬っていたため、身体にダメージが蓄積していたことが大きい。
しかし、皐月に関しては遊希とのデュエルが初戦ということもあって遊希たちと意思疎通が取れるくらいの体力は残っていたのであった。もしここで万が一遊希やエヴァが皐月に敗れていたとしたら、彼女は間違いなく千春同様に多くの生徒を手にかけていただろう。例え邪神の力の副作用で自分の身体が壊れていったとしても。
「そんな、礼を言われる筋合いなんて……だって私はあなたを……あなたを……!」
「遊希、やはりあのモンスターのカードは見当たらない」
「っ……」
エヴァは皐月の左腕につけられたデュエルディスクからデッキを外し、カードを調べてみるがやはりアバター、ドレッド・ルート、イレイザーの3枚の邪神カードはデュエルディスクから姿を消してしまっていた。皐月が敗北した瞬間、彼女を操っていた黒幕が何らかの力を行使して回収でもしたのだろう。三幻魔の時もそうだが、黒幕が対象を洗脳するにあたって最も重きを置いていたであろうカードを回収することが二次被害を防ぐ数少ない手立てでもあり、その黒幕を突き止めるためのヒントとなり得るカードだったのだ。
「ねえ、皐月。一つ聞いてもいいかしら?」
皐月を抱きかかえながら遊希は問いかける。皐月は「あまり答えられることはないと思いますが」と前置きしながらも小さく頷いた。
「皐月、さっきのデュエルの記憶は?」
「正気だったころを除いては全く……ありません」
「そう……でも正気を取り戻していた時はあったのね? あなた、手抜いたでしょ」
「……ごめんなさい」
皐月が目を背ける。遊希と光子竜が度々感じていた不可解なプレイング。それらの大半は皐月によって意図的に行われていたものだった。
黒幕は三邪神のカードを通して不可思議な力で皐月を洗脳していたのだが、その洗脳は完全なものではなかったのである。デュエルの最中に少しの間だけ意識を取り戻すことができた彼女は、遊希にトドメを刺さずにターンを渡したりするなど意図的に遊希を勝たせようとしていたのである。
遊希が自分を倒してくれることを、そして自分や千春を操っている黒幕に辿り着いてくれる、ということを信じて自らが負けるような、自らに危害が及ぶような危険な行動に出たのだった。
「本当のデュエルだったら……許されな……いこと……です……」
「そうね。これが真剣勝負だったら私は怒りを露わにしていた―――でもね?」
皐月の顔にぽたりと熱いものがこぼれ落ちる。皐月が目を開くと、そこには宝石のように美しい瞳からぽろぽろと大粒の涙を流す遊希の姿があった。
「……そのおかげで、私はあなたを、皐月を……止めることができたのよ?」
「遊希……さん……」
「ごめんね、ごめんね……こんな、こんな辛いデュエルをさせちゃって……ごめんね」
「そんな……遊希さん……泣かないで……遊希さんが泣くと私も……私も涙がっ……!」
遊希と皐月は互いに声を上げて泣いた。親友同士望まぬ形でのデュエル。身体を傷つけ、命を奪い合うようなデュエル。そのようなデュエルから解放された二人の感情が一気に爆発した。
皐月は遊希は自分にない強さを持っており、それと同時に冷静沈着。自分とは違う世界の人間であると思っていた。一方で遊希は皐月は自分にない優しさと他者に対する思いやり、芯の強さを持ったやはり自分にないものをたくさん持っている人間だと思っていた。
入学以降、両の隣部屋ということで勉強やデュエルにおいて親身に接してきた。鈴や千春同様に遊希にとって親友と言っても差しつかない関係になっていた。それでも遊希も皐月も互いに何処かで壁を感じていた。しかし、今日のこの瞬間。二人が双方に抱いていたイメージが音を立てて崩れ落ちたのである。
遊希も皐月も、デュエリストである以前にどこにでもいる少女だったのだ。壁が取り払われたことで、彼女たちは本当の自分をそれぞれ目の前でさらけ出すことができるようになっていた。
(……遊希、皐月……わ、私がもらい泣きをしている場合じゃない。私は私のすべきことをしなくては……)
嗚咽を上げながら涙を流し続ける二人を脇目にエヴァはすっと、と立ち上がる。
「遊希、私は校長先生たちを呼んで来る。救急車の手配も必要だ」
「えぐっ……ひぐっ……任せていいかしら?」
「ああ。二人はそこで休んでいろ」
エヴァは流れ落ちそうになった涙を堪えるとその場を後にした。数分後、エヴァから報告を受けた竜司たちが到着し、皐月は救急車によって千春が入院している街で一番大きな病院へと搬送された。遊希は皐月に連れ添おうとしたが、エヴァと竜司に諭され結局学校に残ることになった。
精神的に立ち直ったとはいえ、過酷なデュエルを2日連続で行ったことで遊希の体力も限界を迎えていたことを考慮するとエヴァは遊希を無理させたくは無かったのである。そしてこの夜も遊希はエヴァと同じベッドで眠りについた。
「すぅ……すぅ……」
(ふっ、よく寝ている。まるで赤ん坊のようだ)
エヴァは自分が眠るまで隣で眠る遊希の頭を優しく撫で続けていた。遊希にはスカーライトの件もそうだが、たくさんの恩義がある。その恩義に報いるために、今は自分が騎士となって姫たる遊希を守らなければならない。
(……スカーライト。私はまだ遊希と光子竜のように意思疎通を取ることはできていない。だが、私の言葉が、意思がこうして伝わっているのならば……私に力を貸してくれ)