銀河の竜を駆る少女   作:Garbage

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愛する人

 

 

 

 

 

 

「……鈴!? 鈴なの!? ねえっ!!」

『さあ、私は誰でしょう? わかりますか? うふふっ』

 

 その声を聴いた瞬間、遊希は電話の相手が鈴でないことを悟った。鈴の声は今時のギャルらしくキンキンとしているが、もう少し低いところがある。少なくとも電話口から聞こえる猫撫で声のようなものではなかった。

 

「……あなた、誰?」

『私の声……すっかり忘れてしまったのですね。あなたなら私が誰だかわかるはずなのに……』

 

 いまいち会話は噛み合わない。遊希はその声に心当たりは無かった。だが、それと同時に電話の相手が何者かを察する。

 

「……お前か」

『はい?』

「お前か。鈴を攫い、千春や皐月、雄一郎さんを操って非道なデュエルをさせたのは……!!」

『非道? 酷い言い方ですね、あんなに楽しそうなデュエルだったのに』

「っ……貴様!! 貴様は一体誰だ!! 私の何が目的だ!! 鈴を何処に連れ去った!!」

『……取り乱すのは辞めてください。あなたの美しい顔が台無しですよ、うふふっ』

 

 一言一言にありったけの怒気を込めて会話する遊希に対し、電話の相手はそんな遊希を軽くあしらう。電話の相手の癖なのか、言葉の最後に微笑を絡める様が逆に遊希の神経を逆撫でさせた。

 

「今すぐ出てこい。貴様を倒して鈴を助ける、そして償わせてやる! 皆のデュエリストの誇りを傷つけたその罪を!!」

『……はい、と言いたいところですがそうも行きませんよ。私はこれからやることがあるので。うふふっ』

「やること……」

『ええ。お節介になるかもしれませんが、あなたには私などより他に気にかけるべき人がいるんですよ? 例えば……あのロシア人の方、とか―――うふふっ』

 

 電話口の相手がそう言い残し、電話は切れてしまった。遊希の脳裏には瞬時にエヴァの顔が浮かぶ。

 

(―――エヴァ? エヴァが……狙われる!!)

―――遊希、すぐにアカデミアに戻るぞ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……何故お前がここにいる? お前は英国にいるのではなかったのか?」

 

 遊希が病院で謎の人物と電話をしていた時。学校で遊希の帰りを一人待っていたエヴァの前に一人の少年が現れた。その少年は高そうな白いスーツを身に纏ったエヴァと同じ西洋人だった。

 

「久しぶりだね、エヴァ。またこうして会えたことが嬉しいよ」

「ああ、私もだ。いつかまたお前に会いたいと思っていたよ。でも、その左腕についたデュエルディスクはどういうことだ?」

「おや、プロデュエリストの君ならこれが何を意味するかわかるだろう?」

 

 エヴァは無言でデュエルディスクを構える。それを見た瞬間、少年もまた同じようにデュエルディスクを構えた。少年は千春や皐月のように正体を隠しておらず、その声には特殊な加工は一切為されていなかった。しかし、エヴァはその少年が醸し出す雰囲気で少年が正気でないことを察した。

 

「さあ、デュエルだ。僕は君に勝つ。そして君を僕の下へと迎え入れる」

「……こんな形でデュエルなんてしたくはなかった。でも私は逃げないぞ、ジェームズ。私の―――愛する人よ」

 

 エヴァの前に現れた少年―――彼の名は“ジェームズ・アースランド”。《レッド・デーモンズ・ドラゴン・スカーライト》を手に入れたエヴァがかつて傷つけてしまった人間の一人であり、彼女の“婚約者(フィアンセ)”だった少年である。

 

 

先攻:ジェームズ

後攻:エヴァ

 

 

ジェームズ LP8000 手札5枚

デッキ:40 メインモンスターゾーン:0 EXゾーン:0 魔法・罠(Pゾーン:青/赤):0 フィールド:0 墓地:0 除外:0 EXデッキ:15(0)

エヴァ LP8000 手札5枚

デッキ:35 メインモンスターゾーン:0 EXゾーン:0 魔法・罠(Pゾーン:青/赤):0 フィールド:0 墓地:0 除外:0 EXデッキ:15(0)

 

 

☆TURN01(ジェームズ)

 

「僕の先攻だよ。僕は手札からフィールド魔法《チキンレース》を発動」

 

《チキンレース》

フィールド魔法

(1):このカードがフィールドゾーンに存在する限り、相手よりLPが少ないプレイヤーが受ける全てのダメージは0になる。

(2):お互いのプレイヤーは1ターンに1度、自分メインフェイズに1000LPを払って以下の効果から1つを選択して発動できる。この効果の発動に対して、お互いは魔法・罠・モンスターの効果を発動できない。

●デッキから1枚ドローする。

●このカードを破壊する。

●相手は1000LP回復する。

 

「チキンレース……だと?」

「僕はライフを1000支払い、チキンレースの効果を発動するよ」

 

ジェームズ LP8000→LP7000

 

「僕が発動するのはドロー効果。デッキから1枚ドロー。そして魔法カード、おろかな埋葬を発動。デッキからモンスター1体を墓地へ送る。墓地へ送るのはレベル1・植物族の《アマリリース》にしようかな」

(チキンレースにアマリリース……以前のジェームズのデッキには入っていなかったカードだ)

 

 かつてジェームズ・アースランドというデュエリストが使っていたのは闇属性のモンスターで統一されている【インフェルニティ】というデッキだった。手札が0枚の場合に効果を発動できるモンスターで構築されたそのデッキは所謂“ハンドレスコンボ”によって高い性能を秘めたデッキであり、そんな彼と出会っていたからこそエヴァがプロデュエリストになるまで鍛えられたと言っても過言ではない。

 しかし、インフェルニティデッキにはチキンレースのような汎用性の高いカードであっても入る余地はほとんどなく、アマリリースのように使いどころが限られるカードなどファンデッキでもインフェルニティでは採用されないはず。想定外のカードにエヴァがジェームズのデッキの内容が掴めずにいた。

 

「そして僕のフィールドにモンスターが存在しない場合、このカードは手札から特殊召喚できる。SRベイゴマックスを特殊召喚」

「ベイゴマックスだと!?」

「特殊召喚に成功したベイゴマックスの効果を発動。僕はデッキからSRタケトンボーグを手札に加える。そして自分フィールドに風属性モンスターが存在することでタケトンボーグを手札から特殊召喚。永続魔法、冥界の宝札を発動。これで僕は2体以上のモンスターをリリースしてアドバンス召喚に成功した場合にデッキからカードを2枚ドローできる」

「っ……一体何をアドバンス召喚するつもりだ」

「見せてあげるよ。僕の―――“神”をね。僕はベイゴマックスとタケトンボーグをリリースし、このモンスターを降臨させる!」

 

 ベイゴマックスとタケトンボーグの2体は黒い泥のようなものに飲み込まれていき、その泥からは巨石のようなものが不気味に現れた。巨石のように見えるそれはまるで何者かの心臓の如くドクン、ドクンと脈打っていた。

 

(っ、この嫌な感覚は……まさか、三幻魔や三邪神に匹敵するだけの力を!?)

 

 

 

 

 

―――“積年の恨み積もりし大地に眠る魂達よ!今こそ穢された大地より出でて、我に力を貸さん!”―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――降臨せよ!《地縛神 Chacu Challhua》!!―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ジェームズのフィールドには巨大な鯱のようなモンスターが地面を突き破って現れる。虚空を大海の如く泳ぎ回るその姿はまさに全ての海を支配する王が如く雄大であった。

 

「地縛神(じばくしん)……!? なんだ、そのカードはっ!!」

「地縛神。それはナスカの地上絵に封印された邪神。I2社が地上絵をモチーフに作りだしたカードに僕の主が魂を与えたんだよ。設定どおり、邪神としての魂を……ね」

 

 

《地縛神 Chacu Challhua(チャクチャルア)》

効果モンスター

星10/闇属性/魚族/攻2900/守2400

「地縛神」と名のついたモンスターはフィールド上に1体しか表側表示で存在できない。

フィールド魔法カードが表側表示で存在しない場合このカードを破壊する。

相手はこのカードを攻撃対象に選択できない。このカードは相手プレイヤーに直接攻撃できる。

また、1ターンに1度、このカードの守備力の半分のダメージを相手ライフに与える事ができる。この効果を発動するターン、このカードは攻撃できない。

このカードがフィールド上に表側守備表示で存在する限り、相手はバトルフェイズを行えない。

 

 

「2体以上のモンスターをリリースしたことで僕は冥界の宝札の効果で2枚ドロー。地縛神 Chacu Challhuaの効果を発動。このカードの攻撃権を放棄することでこのカードの守備力の半分のダメージを相手ライフに与える。“ダーク・ダイブ・アタック”!」

 

エヴァ LP8000→LP6800

 

「ぐっ!?」

 

 Chacu Challhuaの口からは海中で鯱や鯨のような海獣類がコミュニケーションをとる時に発せられるような超音波のような波動が放たれる。その波動を浴びたエヴァの身体にはまるで電撃が流されたかのような痛みが走った。

 

(この痛みは……遊希はこんな痛みを浴びながら戦っていたというのか……!?)

 

 これまでのデュエルにおいてエヴァはいずれも傍観者という立ち位置にあった。もし遊希が敗れた場合は自分がその後を引き継いで戦うと決めていたのだが、これまで戦いに臨んだ遊希や竜司といったデュエリストたちはいずれも勝利を収めていたためエヴァの出番はないに等しかった。

 ただ、遊希と竜司に共通していたのはいずれも“親しい者”とデュエルをしていたということである。このような痛みに耐えながら、親友たちと不本意な形でのデュエルを強いられていた痛みや悲しみをエヴァは改めて思い知らされる形となった。

 

(遊希……あなたがそこまで傷ついた理由がよくわかった。だからこそ、あなたにもうあのような苦しみは味合わせない!)

「僕はカードを3枚セット。これでターンエンドだ。さあ、エヴァ……かかっておいで。あの時のように僕を苦しめてみせるんだ」

 

 

ジェームズ LP7000 手札0枚

デッキ:35 メインモンスターゾーン:1(地縛神 Chacu Challhua)EXゾーン:0 魔法・罠(Pゾーン:青/赤):4(冥界の宝札)フィールド:1(チキンレース)墓地:4 除外:0 EXデッキ:15(0)

エヴァ LP6800 手札5枚

デッキ:35 メインモンスターゾーン:0 EXゾーン:0 魔法・罠(Pゾーン:青/赤):0 フィールド:0 墓地:0 除外:0 EXデッキ:15(0)

 

 

ジェームズ

 □伏冥伏伏

チ□C□□□

  □ □

 □□□□□□

 □□□□□

エヴァ

 

 

○凡例

C・・・地縛神 Chacu Challhua

チ・・・チキンレース

冥・・・冥界の宝札

 

 

☆TURN02(エヴァ)

 

「私のターン、ドロー!!」

「ああ、言い忘れていたけれど……地縛神は相手の攻撃対象にならない。つまり地縛神のみがフィールドに存在する場合、君は攻撃することができないんだ。覚えておくといいよ」

「……助言に感謝する。どちらにせよその攻撃力のモンスターを突破するには戦闘では難しいからな。だが、お前は致命的な失策を犯した。私はライフを1000払い、チキンレースの効果を発動!」

 

エヴァ LP6800→LP5800

 

「私が適用するのは3つ目の効果、チキンレースを破壊する効果だ!」

 

 地縛神は直接攻撃が可能であり、そして相手モンスターの攻撃対象にならないという効果を持つ。存在するだけでモンスターによる一切の攻撃が封じられてしまうのはとても厄介な効果であった。しかし、強すぎる効果の裏側には確実にリスクが存在する。それがフィールド魔法が存在しなくなった時、自壊してしまうというものだ。もちろん地に縛られた神―――という設定で存在する地縛神である。依代となる地が存在しなくなってしまえば消えてしまう、というのは設定に忠実であると言えよう。

 

「いいよ。チキンレースは破壊しても。でも僕はそれにチェーンしてリバースカードの効果を発動する。Chacu Challhuaを対象に罠カード《デストラクト・ポーション》を発動」

 

《デストラクト・ポーション》

通常罠

自分フィールド上に存在するモンスター1体を選択して発動する。選択したモンスターを破壊し、破壊したモンスターの攻撃力分だけ自分のライフポイントを回復する。

 

チェーン2(ジェームズ):デストラクト・ポーション

チェーン1(エヴァ):チキンレース

 

「チェーン2のデストラクト・ポーションの効果でChacu Challhuaを破壊し、僕はその攻撃力分のライフを回復する。Chacu Challhuaの攻撃力は2900。よって2900のライフを回復だ」

 

ジェームズ LP7000→LP9900

 

「……チェーン1のチキンレースの効果。チキンレースを破壊する」

「致命的、どころか逆にライフを回復させてもらったよ。チキンレースをフィールド魔法として活用するデメリットを僕が考えていないと思ったのかい? 言っておくけど僕だって君に負けないようにデュエリストとしての研鑽は積んでいるんだよ。もちろん第一は会社の後を継ぐための経営者として成長することだけど」

 

 ジェームズ・アースランドは母国イギリスを代表するIT企業『アースランド・テクノロジー』の跡取り息子である。彼の祖父の代に創設されたこの会社はアメリカのI2社や日本の海馬コーポレーションと業務提携を結ぶことで、デュエルディスクの内蔵コンピューターなどデュエル関係の技術を立案・開発することで発展を遂げてきたのだ。

 

「なるほど、一筋縄ではいかないようだな。だが、お前が成長しているように私も日々プロデュエリストとして成長している。それを見せてやろう!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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