「私は手札から永続魔法、黒い旋風を発動。BFモンスターの召喚に成功することで私はデッキからそのBFモンスターの攻撃力以下のBFモンスター1体を手札に加えることができる」
「黒い旋風……相変わらずそのカードを初手に引き当てるね。君がそのカードを初手に引いた時に僕は勝てたことがあっただろうか?」
「何を言うか……お前は結構勝っていたじゃないか。私がプロになる前はだいぶ負け越していたぞ?」
そう言って何処か懐かしい目をするエヴァ。エヴァとジェームズの出会いは10年以上前に遡る。エヴァはロシアの旧貴族の家に生まれ育ち、かつての栄華こそ失われていたものの、家族にも恵まれ何不自由なく育ってきた。そんな彼女の家に縁談が持ち掛けられたのはエヴァが4歳、ジェームズが7歳の時である。
「わたしがエヴァ・ジムリアだ! おまえがわたしのフィアンセか!」
「うん、僕はジェームズ・アースランド。宜しくね、エヴァちゃん」
エヴァの家は歴史が古く、それこそロシア史の教科書に名前が載っていてもおかしくないほどの名家であるが、時の流れに飲み込まれその名声もそれほどの権威を持たなくなっていた。そういった意味でもジェームズのような有数の家の息子と婚姻関係を結べるとなれば、乗らないわけがない。エヴァの両親はエヴァに許可を取ることなく、その縁談に二つ返事で応じてしまった。
「おい、ジェームズ! 暗黒騎士ガイアごっこをするぞ! わたしがガイアだ、おまえはしたのうまをやれ!」
「いいよ。君を乗せて螺旋相殺を決めてみせよう」
家同士が決めた婚約、というものはこの時代においても確かに存在している。小説やドラマでは親が決めた縁談に反発した娘が家を飛び出したり、意中の相手と恋に落ちたり、といったストーリーがよく見られるが、エヴァとジェームズの間にはそのような波乱は見られなかった。尊大な口調ながらも素直なエヴァと穏やかで落ち着いたジェームズは両家の親が思っていた以上に馬が合ったようで、彼ら二人もいつしか相思相愛の仲になっていたのだ。
「いつぶりだろうね、もう朧げだよ。僕たちは自分で言うのもなんだけど、とても仲が良かったね」
「ああ、互いに10歳にも満たないのに既に夫婦のようだとよく言われていたな」
「それでも……僕たちは一緒になることはできなかった」
二人が仲良くなった理由の一つに共通の趣味があった。それがデュエルモンスターズである。エヴァは家族がそんな娘のために用意した【BF】デッキを、ジェームズは父の友人であったプロデュエリストから譲り受けたデッキである【インフェルニティ】デッキをそれぞれ使ってデュエルをしていた。
後にエヴァは遊希に憧れ、彼女と入れ替わる形でプロの世界へと足を踏み入れ、その美しい容姿も相まって瞬く間にスターダムを駆けあがっていった。一方のジェームズは父の跡を継ぐため必死に経営やITテクノロジーについて勉強を重ねた。そして遠くからエヴァのことをずっと応援していた。
そんな二人を引き裂いたのが1枚のカード。トーナメントの優勝賞品として入手した《レッド・デーモンズ・ドラゴン》が突如変化し、精霊のカードとなった《レッド・デーモンズ・ドラゴン・スカーライト》であった。忙しい合間に設けられたたまの休みに再会した二人は普通にデュエルをしていたのだが、そのデュエルの最中にレッド・デーモンズ・ドラゴンは突如スカーライトへと変化。そしてそのスカーライトの力が暴走。ジェームズは負傷し、1年間の入院を余儀なくされてしまったのだ。
跡取り息子に怪我を負わされたことに激怒したジェームズの家はエヴァの家に破談を申し入れた。もちろん愛し合っていたエヴァとジェームズは互いにそれを望まなかったが、事態は子供二人の言葉で解決できる状況を超えてしまっていた。そうして二人の願いも虚しく、取り交わされた婚約は水の泡と消えてしまったのである。
「改めて言うことではないかもしれないがな……私は今でもジェームズ、お前のことを愛している」
「うん。僕もだよ、エヴァ」
「それならば、何故私はお前とデュエルをしている? 何故……」
周囲に認められているのにも関わらず、何故ジェームズはエヴァとこのようなデュエルをしているのか。まさかジェームズが敵として自分の前に立ちはだかることなど全く予想だにしていないことだった。
「僕はね、ずっと強くなりたかったんだ。夫として君を守るために。あの人はそんな僕に力をくれたんだよ」
ジェームズの言う“あの人”が誰なのかをエヴァはまだ知らない。ただこの状況において彼に力を与えたのが何者なのかということはわかる。
「あの人……そのあの人が何をしているかお前は知っているのか!? そいつは私の大事な仲間を操って非道なデュエルをさせているのだぞ!!」
「その人が誰であろうと僕は構わないさ。君との愛を取り戻せるのならば!」
互いに互いを想い合っていることは誰が見ても明らかであった。しかし、愛し合っていても二人は違う方向を向いていた。エヴァを愛するために必要なことである―――必死に自分の正当性を訴えるジェームズであるが、そんなジェームズに対してエヴァは怒りの中に悲痛な面持ちを浮かべた。
「……ジェームズ、前言撤回だ。今のお前を私は愛することができない! 私は《BF-上弦のピナーカ》を召喚!」
《BF-上弦のピナーカ》
チューナー・効果モンスター
星3/闇属性/鳥獣族/攻1200/守1000
「BF-上弦のピナーカ」の効果は1ターンに1度しか使用できない。
このカードをS素材とする場合、「BF」モンスターのS召喚にしか使用できない。
(1):このカードがフィールドから墓地へ送られたターンのエンドフェイズに発動できる。デッキから「BF-上弦のピナーカ」以外の「BF」モンスター1体を手札に加える。
「BFの召喚に成功したことで私は黒い旋風の効果を発動。デッキからピナーカの攻撃力1200以下のBFモンスター1体を手札に加える。私が手札に加えるのは攻撃力800の《BF-白夜のグラディウス》。そしてグラディウスは自分フィールドに表側表示で存在するモンスターがBF1体の時、手札から特殊召喚できる!」
《BF-白夜のグラディウス》
効果モンスター
星3/闇属性/鳥獣族/攻800/守1500
(1):自分フィールドの表側表示モンスターが「BF-白夜のグラディウス」以外の「BF」モンスター1体のみの場合、このカードは手札から特殊召喚できる。
(2):このカードは1ターンに1度だけ戦闘では破壊されない。
「私はレベル3のBF-白夜のグラディウスに、レベル3のチューナーモンスター、BF-上弦のピナーカをチューニング!“夜空に瞬く無数の星に隠れし影の戦士よ。黒き翼を奮い暗躍せよ!”シンクロ召喚! 来い、BF-星影のノートゥング!」
レベル6のSモンスターであるBF-星影のノートゥングがその黒い翼をはためかせてフィールドに舞い降りる。ノートゥングは特殊召喚に成功することで相手ライフに800のダメージを与えることができる。ノートゥングの手に握られた剣は黒い斬撃となってジェームズの身体を切り裂いた。
ジェームズ LP9900→LP9100
「っ……まあ、デストラクト・ポーションのおかげで大したダメージにはならないかな」
「ライフ9900というのはさすがに侮れないな。だが、私のデッキは多数の大型SモンスターをS召喚することに長けている。例えライフが数万に至ろうとも、削り切ってみせる! ノートゥングがモンスターゾーンに存在する時、私は通常召喚に加えて一度だけBFモンスターを召喚することができる。手札よりBF-精鋭のゼピュロスを召喚! 黒い旋風の効果を発動! 攻撃力1600以下のBFモンスター、BF-疾風のゲイルを手札に加える! そして開け! 黒き疾風の先に広がるサーキット!」
エヴァが手を天に掲げると、リンクモンスターのカードイラストの枠に描かれた正方形の枠が現れる。エヴァがジェームズと一緒に遊んでいた頃はまだ存在すらしていなかったリンク召喚である。もちろん彼からしてみればエヴァがS召喚のみならずリンク召喚を使いこなせるだけのデュエリストであることはわかっていた。
「アローヘッド確認。召喚条件は闇属性モンスター2体。私はノートゥングとゼピュロスをリンクマーカーにセット! サーキットコンバイン! リンク召喚! 来い、リンク2。見習い魔嬢!」
見習い魔嬢は闇属性モンスターの攻守を500ポイントアップさせ、光属性モンスターの攻守を400ダウンさせる効果を持ったリンク2のリンクモンスターだ。リンクマーカーが左下と右下に向いていることから更に2体のモンスターをEXデッキから特殊召喚することができる。
見習い魔嬢 ATK1400→ATK1900
「私は墓地のゼピュロスの効果を発動! 自分フィールドの表側表示のカード1枚を手札に戻すことでこのカードを墓地から特殊召喚する! 最も私は400のダメージを受けるがな」
エヴァ LP5800→LP5400
BF-精鋭のゼピュロス ATK1600/DEF1000→ATK2100/DEF1500
「ゼピュロスの効果は1回のデュエルで1度しか使用できない。こんな序盤で使ってしまってよかったのかい?」
「序盤だからと言ってもったいぶれるような相手ではないからな。そして私のフィールドにBFが存在する時、疾風のゲイルとBF-突風のオロシは手札から特殊召喚することができる。私はレベル4のBF-精鋭のゼピュロスにレベル3のチューナーモンスター、BF-疾風のゲイルをチューニング!“風と心を通わせし漆黒の鷹匠よ。天空を舞い黒き戦士たちを誘う先駆けとなれ!”シンクロ召喚、誘え! BF T-漆黒のホーク・ジョー!!」
BF T-漆黒のホーク・ジョー ATK2600/DEF2000→ATK3100/DEF2500
S召喚されたホーク・ジョーの導きによって、墓地に眠っていたノートゥングが再度飛翔した。テイマー(調教師)の名を持つ通り、BFの名を持ちながら、大型の鳥獣族を自在に操ることができるのがこのモンスターの最大の特徴であった。
「漆黒のホーク・ジョーの効果を発動! 墓地のレベル5以上の鳥獣族モンスター1体を特殊召喚する。特殊召喚するのはレベル6のノートゥングだ。墓地から蘇生されたことで、リンク先でないメインモンスターゾーンに特殊召喚できる」
BF-星影のノートゥング ATK2400/DEF1600→ATK2900/DEF2100
「そしてレベル6のノートゥングにレベル1のチューナーモンスター、突風のオロシをチューニング!“漆黒の翼、雷鳴渦巻く空に翻す。その刀を以て全てを断ちきれ!”シンクロ召喚、現れよ! A BF-驟雨のライキリ!」
A BF-驟雨のライキリ ATK2600/DEF2000→ATK3100/DEF2500
「攻撃力3100のモンスターが2体……」
「このまま攻めることもできるが、まずはライキリの効果を発動する。1ターンに1度、ライキリ以外の自分フィールドのBFモンスターの数だけ相手フィールドのカードを破壊する。私のフィールドには漆黒のホーク・ジョーが存在するため、1枚を破壊することができる。対象は私から見て左側に存在するセットカードだ!」
「ただで破壊させるわけにはいかないよ。僕はライキリの効果にチェーンしてライキリの対象になったセットカードを発動。罠カード《メタバース》だ」
《メタバース》
通常罠
(1):デッキからフィールド魔法カード1枚を選び、手札に加えるか自分フィールドに発動する。
チェーン2(ジェームズ):メタバース
チェーン1(エヴァ):A BF-驟雨のライキリ
「チェーン2のメタバースの効果。僕はデッキからフィールド魔法、闇黒世界-シャドウ・ディストピアを発動するよ」
「フィールド魔法を補充してきたか……チェーン1のライキリの効果でそのメタバースを破壊する。フィールド魔法が存在していることは大事だが、お前のフィールドにはそのフィールド魔法で縛る地縛神は存在しない。言わば無用の長物というやつだ」
エヴァのフィールドに存在する3体のモンスター、ライキリ、ホーク・ジョー、見習い魔嬢の攻撃力の合計は8100。もしジェームズがデストラクト・ポーションを発動していなければこの3体の攻撃でデュエルは終わっていただろう。
「このターンでは終わらせられない。だが、勝負を決めに行くことはできる! 私はメインフェイズ1を終えて―――」
「ではこのメインフェイズ1終了前に僕はもう1枚のセットカードを発動させてもらうよ!」
「このタイミングでリバースカードを!?」
「罠カード、戦線復帰を発動。墓地のモンスター1体を守備表示で特殊召喚する。地縛神はこの手のモンスターには珍しく、特殊召喚も可能なんだよ。僕は墓地に眠るChacu Challhuaを守備表示で特殊召喚する! 地縛神は全て闇属性。よって見習い魔嬢の効果を受ける」
地縛神 Chacu Challhua ATK2900/DEF2400→ATK3400/DEF2900
「そしてChacu Challhuaが守備表示で存在する限り、君はバトルフェイズを行うことができない」
「……どちらにせよ、地縛神のみしか存在しない限り、私は攻撃できないからな。私は……これでターンエンドだ」
Chacu Challhuaが守備表示で存在することでエヴァはバトルフェイズに移行することができない。デュエルモンスターズのルールではバトルフェイズに入らなければメインフェイズ2に入ることができないため、Chacu Challhuaが守備表示で存在する限り、エヴァはバトルフェイズはおろかメインフェイズ2すら行うことができないのだ。
「エンドフェイズに墓地に送られた上弦のピナーカの効果を発動。デッキからピナーカ以外のBFモンスター1体を手札に加える。私はデッキからBF-南風のアウステルを手札に加える」
ジェームズ LP9100 手札0枚
デッキ:34 メインモンスターゾーン:1(地縛神 Chacu Challhua)EXゾーン:0 魔法・罠(Pゾーン:青/赤):1(冥界の宝札)フィールド:1(闇黒世界-シャドウ・ディストピア)墓地:9 除外:0 EXデッキ:15(0)
エヴァ LP5400 手札4枚
デッキ:31 メインモンスターゾーン:2(A BF-驟雨のライキリ、BF T-漆黒のホーク・ジョー)EXゾーン:1(見習い魔嬢)魔法・罠(Pゾーン:青/赤):0 フィールド:0 墓地:6 除外:0 EXデッキ:11(0)
ジェームズ
□□冥□□
闇□C□□□
□ 魔
□□驟□ホ□
□□□□□
エヴァ
○凡例
魔・・・見習い魔嬢
驟・・・A BF-驟雨のライキリ
ホ・・・BF T-漆黒のホーク・ジョー
闇・・・闇黒世界-シャドウ・ディストピア