☆TURN03(ジェームズ)
「僕のターン、ドロー。墓地から上級以上の鳥獣族モンスターを特殊召喚できる漆黒のホーク・ジョーに、フィールドのBFモンスターの数だけ相手フィールドのカードを破壊する驟雨のライキリか……」
地縛神は《神縛りの塚》のようなレベル10以上のモンスターに耐性を与えるカードと併用しない限り、単体では効果破壊に対する耐性を持たない。除去効果を持つライキリのみを破壊しても、ホーク・ジョーが残っている限りその効果で蘇生させられる。そのため、ジェームズはこのターンでホーク・ジョーとライキリを同時に処理しなければならないのだ。
「では僕は強欲で金満な壺を発動。EXデッキのカードを裏側表示のまま6枚まで除外することで除外したカードの3枚につき1枚デッキからドローする。僕はEXデッキのカードを6枚除外して2枚ドローする」
「そのデッキではEXデッキのカードはほとんどお飾りということか……だが、2枚のドローでそう易々と望みのカードは引けはしない」
この国には『言霊』という考えがある。それは言葉に宿る霊的な力であり、良いことを言葉にすれば良いことが、悪いことを言葉にすれば悪いことが起こるというものだ。これはあくまで思想であり、実際にそういうものが存在するかを実証する術はない。だが、デュエルモンスターズというゲームにおいてはそういうオカルトが度々起こり得る。
「そうだね、僕は君のフィールドのホーク・ジョーとライキリの2体をリリース」
「なっ……!?」
「《溶岩魔神ラヴァ・ゴーレム》を君のフィールドに特殊召喚する」
ライキリとホーク・ジョーの2体を飲み込むようにして現れたのは全身が燃え盛る溶岩でできた巨大なモンスターであった。高いステータスを持ちながら、その力で使役する者に呪いをもたらす。それは文字通り、悪魔と呼ぶべき存在であった。
《溶岩魔神ラヴァ・ゴーレム》
特殊召喚・効果モンスター
星8/炎属性/悪魔族/攻3000/守2500
このカードは通常召喚できない。相手フィールドのモンスター2体をリリースした場合に相手フィールドに特殊召喚できる。このカードを特殊召喚するターン、自分は通常召喚できない。
(1):自分スタンバイフェイズに発動する。自分は1000ダメージを受ける。
「ラヴァ・ゴーレムはスタンバイフェイズごとに1000のダメージをコントロールするプレイヤーに与える。カードの持ち主は僕だけど、コントロールするプレイヤーは君だ」
「……本当に狡い真似をするようになったな。それもビジネスマンとしてのお前の姿勢なのか?」
「時には汚いことをしなければ、生き残れないのさ。それはビジネスマンもデュエリストも一緒だろう?」
エヴァは反論しなかった。自分もプロデュエリストとして相手を騙すことはよくやってきた。プロの舞台ともなれば、表情はもちろん声色は指や瞼の動きで相手の意図を見抜けるだけのデュエリストがざらではないからだ。エヴァはプロデュエリストとして実戦を重ねるにつれてそういう心理的な駆け引きも身につけていた。いや、身につけざるを得なかった。
「さて、僕はChacu Challhuaを攻撃表示に変更」
地縛神 Chacu Challhua ATK3400
「地縛神は相手プレイヤーに直接攻撃ができる。君にもその力を味合わせてあげるよ、エヴァ。バトルフェイズ」
「っ!?」
「地縛神 Chacu Challhuaでダイレクトアタック。“カース・オブ・イーター”」
地縛神 Chacu Challhua ATK3400
人間の数十倍、数百倍はあろうかという巨大なモンスターが大口を開けながらエヴァに迫る。ソリッドビジョンであれば、単にゲーム内のライフポイントが削られるだけであろう。しかし、これは普通のデュエルではないということをエヴァは理解していた。
「これが……僕が君のスカーライトによって味合わされた苦痛だ」
エヴァ LP5400→LP2000
「がっ……ああああっ!!」
全身が、自分の身体が圧倒的な力によって無理矢理削り取られる。激痛、などという単語で言い表せないような痛みがエヴァの全身に走った。あまりの苦しみに呼吸もできず、立つこともできない。痙攣も止まないままエヴァは虚ろな目で天空を見上げていた。
「僕はバトルフェイズを終了。メインフェイズ2に移るけど、できることはない。ターンエンドだ。そしてこのターン終了時に僕のフィールド魔法、闇黒世界-シャドウ・ディストピア-の効果が発動。僕のフィールドにシャドウ・トークンをこのターンにリリースされたモンスターの数だけシャドウ・トークン2体を守備表示で特殊召喚する」
シャドウ・トークン 星3/闇属性/悪魔族/攻1000/守1000
ジェームズ LP9100 手札2枚
デッキ:31 メインモンスターゾーン:3(地縛神 Chacu Challhua、シャドウ・トークン×2)EXゾーン:0 魔法・罠(Pゾーン:青/赤):1(冥界の宝札)フィールド:1(闇黒世界-シャドウ・ディストピア-)墓地:10 除外:6 EXデッキ:9(0)
エヴァ LP2000 手札4枚
デッキ:31 メインモンスターゾーン:1(溶岩魔神ラヴァ・ゴーレム)EXゾーン:1(見習い魔嬢)魔法・罠(Pゾーン:青/赤):0 フィールド:0 墓地:8 除外:0 EXデッキ:11(0)
ジェームズ
□□冥□□
闇シCシ□□
□ 魔
□□溶□□□
□□□□□
エヴァ
○凡例
溶・・・溶岩魔神ラヴァ・ゴーレム
シ・・・シャドウ・トークン
☆TURN04(エヴァ)
「うっ……ううう……」
デュエルはまだ続いている。うめき声を上げながら起き上がろうとするエヴァであるが、脳から必死に起き上がれと指示が出ていても、身体がそれに応えなかった。最愛のフィアンセが敵として自分の前に現れたという事実、そして今まで感じたことのないデュエルによる痛みとそこから生じる本能的な恐怖が彼女の身体を麻痺させていた。
(そんな……どうして……何故……立てないんだ……)
「どうしたんだい、エヴァ? 次は君のターンだよ?」
ジェームズはエヴァが立ち上がれないのを知った上で敢えて問いかけてくる。
「もしデュエル続行不可能ならばこのデュエルは僕の不戦勝となる。これで僕の願い、君を取り戻すことが叶うからね、できれば君のライフを0にして勝ちたかったけど……」
「く、来るな……」
そう言いながらエヴァの元へと近づいてくるジェームズ。エヴァは残った力で彼の手を必死に振り払おうとするも、力及ばずやがて半身を起こす形でジェームズに抱きしめられた。自分とは道を違えてしまったジェームズであるが、エヴァを抱える彼の手は暖かい。朧げな視界に映る彼の顔は昔と変わらぬ優しさを秘めていた。
「デュエルとはいえ、君を傷つけてしまったこと……悪く思っている。だけど、これで僕たちは真の意味で結ばれる」
「ジェームズ……」
遠くなりつつある意識の中、エヴァの中に燃え上がっていた闘志の炎がゆっくりと小さくなっていく。もはや抵抗しなくなったエヴァの右手を取り、デュエルディスクにセットされた彼女のデッキの上に置かせようとした。その瞬間である。
―――エヴァ!!―――
二人の前に病院から戻った遊希が現れたのは。遊希は鈴のスマートフォンから電話をかけてきた黒幕により、エヴァの身に危険が迫っているのを知ると、ほんの数十分で病院からアカデミアまで走って戻ってきたのだった。遊希は肩で息をしながらエヴァの元に駆け寄ると、彼女の手をデッキの上に置かせようとしたジェームズの腕を強く握りしめて捻りあげる。
「痛いな、何のつもりだい? 暴力は反対だよ」
「あなたが誰だか知らないけれど、相手を無理やりサレンダーさせるのはルール違反よ」
「エヴァはもう立ち上がれない。ドローすることすらままならない以上、デュエルを続けさせるわけにはいかないのさ」
「それはあなたの勝手な判断でしょう? 私はこのデュエルにおいては所詮第三者。必要以上に深入りすることはできないわ」
「だったら……」
「それならなおさら当事者であるエヴァの意志が大事になる。彼女がデュエルをしたいと望む以上私は彼女にデュエルを続けさせる!」
そう言ってジェームズからエヴァを奪い取った遊希。遊希はエヴァを抱き抱えると、そのまま彼女に問いかけた。
「エヴァ、遅れてごめんなさい」
「遊希……恥ずかしい姿を見せて……しまったな……私は、あなたを守りたかったのに……」
「気持ちはありがたいけど。いつまでも守られるだけってのは流石に嫌。それに親友同士なら危機に陥った時互いに守り合う。それこそが本当の意味の親友なんじゃないかしら?」
「親……友……」
「それでエヴァはどうするの、このデュエル……続ける?」
エヴァは何も言わずこくりと頷く。消えかけてた闘志の炎が遊希の手によって再び燃え上がった。
「そっか……ねえ、じゃあ私もこのデュエルに混ぜてもらってもいいかしら」
彼女の決断を見届けた遊希はジェームズに対してある提案をする。それはデュエルのプレイングをエヴァに任せ、ドローやカードをデュエルディスクに置く役割を遊希が代わりに務める、ということだった。
遊希はこの数日間ずっとエヴァに支えてもらってきた。遊希にとって恩人であるエヴァの危機に際して、遊希は自ら彼女の手となり、足となり、口となり、目となることを望んだのだ。
「……つまり君が彼女の手になると?」
「ええ。これならエヴァもデュエルは続けられる」
「ふむ……」
(そう言えば、あの方が仰ってたな。彼女が天宮 遊希か……)
この提案に関してジェームズからしてみればこれといったメリットはなかった。ただし、このデュエルに勝てばエヴァのみならず遊希も黒幕への手土産にすることが可能になる。そうすれば自分の目的も果たせ、自分に力を与えてくれた黒幕に対しても恩返しができる。
いくら天宮 遊希ほどのデュエリストが加勢したところでこの状況をひっくり返すことはできないだろう。そうなるとジェームズにそれを断る理由はない。
「いいよ。それでもエヴァの残りライフは2000。次のターン、僕のChacu Challhuaで攻撃を仕掛ければ一巻の終わりだ」
「絶望的な状況。そこからひっくり返すのもまたデュエルの醍醐味。それを教えてあげるわ」
遊希は一度エヴァを下ろすと、彼女のデュエルディスクを自分の腕に装着する。そして動けなくなってしまったエヴァを片腕で支える形でデュエルをすることになった。
いくら遊希といえども、所詮は10代の非力な少女。自分より少し小柄とはいえ、白人のエヴァを支えながらデュエルするのは相当な負担である。そのため、この劣勢を覆しつつ、早期に決着をつけなければならなかった。
「準備は整ったようだね」
「ええ。それじゃあ行かせてもらう……私―――たちのターン! ドロー!!」
エヴァの思いを受け継いで遊希がドローをする。
「スタンバイフェイズ、君たちはラヴァ・ゴーレムの効果で1000のダメージを受けてもらうよ!」
遊希・エヴァ LP2000→LP1000
「っ!?」
「ぐあっ!?」
ラヴァ・ゴーレムの身体からはまるで雫が垂れるように、灼熱のマグマが流れ落ちる。もしこれがデュエルではなく本当のマグマであれば、二人の身体は一瞬で灰燼に帰していただろう。しかし、灼熱の責め苦が降り注いだとしても、二人の思いは灰にはならなかった。
「このカードは……エヴァ!」
「遊希、まずは手札のこのカードを……」
「わかったわ。私は永続魔法、黒い旋風を発動。そして手札から魔法カード、闇の誘惑を発動。デッキからカードを2枚ドローし、その後手札の闇属性モンスター1体をゲームから除外する。私はBF-蒼炎のシュラを除外するわ!」
エヴァは前のターン、S素材として墓地に送られた上弦のピナーカの効果でデッキからチューナーモンスターである南風のアウステルを手札に加えていた。そしてそのアウステルの効果と闇の誘惑の効果は見事に噛み合っていた。
「チューナーモンスター、BF-南風のアウステルを召喚! 召喚に成功したアウステルの効果、そして黒い旋風の効果を発動!」
チェーン2(エヴァ&遊希):黒い旋風
チェーン1(エヴァ&遊希):BF-南風のアウステル
「チェーン2の黒い旋風の効果で私は……何を加えた方がいいと思う?」
「うーん、ここはお前に任せる。お前の直感に従うよ」
「ええ……」
カードの種類は知っているが、遊希はこれまで【BF】デッキを実際に使ったことはない。だからこそ判断をエヴァに任せると言ってデュエルに参加したのだが。
―――彼女はお前を信じているんだ。ならばそれに応えてやれ。
(軽く言ってくれちゃって……わかったわよ)
「私は攻撃力400の突風のオロシを手札に加えるわ。そしてチェーン1のアウステルの効果で除外されているシュラを特殊召喚するわ!」
エヴァのフィールドにはレベル4のモンスターとレベル4のチューナーモンスターがそれぞれ1体。ここまで来れば、二人がどのモンスターをS召喚するかなど言わずとも決まっていた。
「行くわよ、エヴァ!」
「ああ!」
―――私たちはレベル4のBF-蒼炎のシュラに、レベル4のチューナーモンスター、BF-南風のアウステルをチューニング!!―――
天空に舞い上がったシュラの身体は灼熱の赤い4つの星へと変化し、それを追う形でアウステルの身体は真紅の4つのリングへと変化する。そしてシュラが変化した星がリングを潜り抜けようとした瞬間。遊希の身体に光子竜とは違う精霊の力が入ってくるのを感じた。光子竜とは違う荒々しい力。これまで感じたことない精霊の力に遊希の足が少しおぼついてしまうが、ここで遊希までもが倒れるわけにはいかなかった。
―――“黒き嵐吹き荒ぶ世界は、紅蓮の炎に包まれる。唯一無二たる覇者の力をその心胆に刻み込め!!”―――
―――シンクロ召喚!!―――
―――レッド・デーモンズ・ドラゴン・スカーライト!!―――
遊希とエヴァ。二人の思いが一つとなった瞬間。精霊―――レッド・デーモンズ・ドラゴン・スカーライトが二人の下へと舞い降りた。