銀河の竜を駆る少女   作:Garbage

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最強の地縛神

 

 

 

 

 レッド・デーモンズ・ドラゴン・スカーライトは闇属性のモンスターである。そのため、闇属性モンスターを総じて強化する見習い魔嬢の効果の恩恵を受ける。

 

レッド・デーモンズ・ドラゴン・スカーライト ATK3000/DEF2000→ATK3500/DEF2500

 

「レッド・デーモンズ・ドラゴン・スカーライト……その忌々しき姿! 今日この時まで一度たりとも忘れたことはない!」

 

 スカーライトの姿を見て初めてジェームズが声を荒げた。彼にとってはスカーライトは自分とエヴァの仲を引き裂いた張本人であり、この忌々しいデュエルモンスターズの精霊を倒すため、彼はデュエリストとして必死に修練を重ねてきたのだ。

 

「ジェームズ……」

「エヴァとあなたの間に何があったかは聞かないでおくけど、エヴァはスカーライトと必死に向き合おうとしてるわ。あなたが黒幕の手先になっているのとは大違いね」

「くっ、君に何がわかる! 僕はずっと苦悩を重ねてきたのだぞ!」

 

 激昂するジェームズに対し遊希は至って冷静だった。エヴァをここまで傷つけられたことに対して彼女は激しい怒りを覚えていたが、その怒りが振り切れたことで逆に冷静になっていた。

 

「苦悩、か……」

―――遊希、お前は私と共にいて苦悩したのか?

(当たり前じゃない。自分じゃない誰かが自分の中にいるんだから冷静でいられるわけないでしょう? でも、私の苦悩はこの子のそれとは比べるに値しない)

「エヴァの苦悩はわかるわ、私も同じ精霊使いだもの。この学校で一緒にその痛みを分かち合ったから」

 

 遊希も当然精霊の存在自体には困惑していた。しかし、エヴァに比べて先天的な才があったためか、他者を傷つけるような副作用に苛まされることはまずなかったと言っていい。そのため、遊希からしてみればエヴァと出会うまで精霊と共にあることで心に深い傷を負った者がどのような苦しみを味わってきたかを知る由はなかった。

 

「でも非道な手段に逃げたあなたのことなど知る価値もないわね」

 

 ただ、エヴァとジェームズの違いはその苦しみに対する向き合い方にあった。精霊と向き合い、精霊と意思疎通を図ろうとしたエヴァと精霊を憎み、甘言に乗ってエヴァを襲ったジェームズ。遊希からしてみれば、どちらに与するかなど聞くまでもない。

 

「レッド・デーモンズ・ドラゴン・スカーライトの効果発動! 1ターンに1度、自身の攻撃力以下の特殊召喚されたモンスターを全て破壊し、破壊したカードの数×500ポイントのダメージを相手に与える。この効果で破壊されるモンスターの攻撃力は今のレッド・デーモンズ・ドラゴン・スカーライトの攻撃力以下。つまり3500までよ!」

 

 互いのフィールドに存在するモンスターにおいて最も攻撃力が高いのはスカーライトの3500。地縛神Chacu Challhuaも闇属性であるが、元々の攻撃力がスカーライト以下であるため、見習い魔嬢の効果で強化されたところでスカーライトの効果から逃れることはできない。

 

「それでは僕のフィールドのモンスターは……」

「ふふっ、全滅ね。王たる竜の前に燃え尽きなさい!“アブソリュート・パワー・フレイム”!!」

 

 レッド・デーモンズ・ドラゴン・スカーライトが肥大化したプロテクターに覆われた右腕を振り上げ、それを地面に思い切り叩きつけると、フィールドは瞬く間に炎の海に包まれた。全てを破壊しつくす灼熱の炎によって、ジェームズのフィールドに存在するChacu Challhuaと2体のシャドウ・トークン、そしてエヴァのフィールドに存在するラヴァ・ゴーレムと見習い魔嬢の計5体のモンスターが灼熱の炎によって消えていった。

 

「破壊されたモンスターは計5体。よって2500のダメージを受けてもらうわ!」

 

ジェームズ LP9100→LP6600

 

「ぐっ……」

「そして破壊された見習い魔嬢の効果を発動。墓地のゲイルを手札に戻す。これであなたのフィールドはがら空き。バトル! レッド・デーモンズ・ドラゴン・スカーライトでダイレクトアタック!“灼熱のクリムゾン・ヘル・バーニング”!!」

 

レッド・デーモンズ・ドラゴン・スカーライト ATK3000

 

ジェームズ LP6500→3500

 

「ぐああああっ!!」

 

 スカーライトの炎を直に受けたジェームズの身体も先ほどのエヴァと同じように大きく後ろに吹き飛ぶ。自分のターンを迎えた時点で勝利、といった局面から一気に追い込まれる形となってしまったのだ。

 

「立ちなさい。エヴァの受けた痛みはこんなものじゃないわ」

「ゆ、遊希……」

「ごめん、このターンで決めれなかった」

「大丈夫……だ。だが、今の私たちの手札では……」

「わかってる。私たちはこれでターンエンドよ」

 

 

ジェームズ LP3500 手札2枚

デッキ:31 メインモンスターゾーン:0 EXゾーン:0 魔法・罠(Pゾーン:青/赤):1(冥界の宝札)フィールド:1(闇黒世界-シャドウ・ディストピア-)墓地:12 除外:6 EXデッキ:9(0)

エヴァ&遊希 LP1000 手札4枚

デッキ:29 メインモンスターゾーン:1(レッド・デーモンズ・ドラゴン・スカーライト)EXゾーン:0 魔法・罠(Pゾーン:青/赤):1(黒い旋風)フィールド:0 墓地:10 除外:0 EXデッキ:10(0)

 

 

ジェームズ

 □□冥□□

闇□□□□□

  □ □

 □□□□レ□

 □□黒□□

エヴァ

 

 

☆TURN05(ジェームズ)

 

「僕のターン、ドロー……ふふふ」

 

 ドローしたカードを見たジェームズが不気味に笑う。このカードをドローした瞬間、前のターンまでと比べて明らかにジェームズの様子はおかしくなっていた。眼の白目の部分が漆黒に染まり、その眼の下からは血の涙のような青い線が首まで走る。その様子はまさに常人のそれとは大違いだった。

 

「……君たちは本当に強かったよ」

「強かった……なんで過去形なのかしら」

「君たちはこのターンで敗北するからさ。僕のフィールドにモンスターが存在しない時、このカードは手札から特殊召喚できる。現れよ《カイザー・ブラッド・ヴォルス》」

 

《カイザー・ブラッド・ヴォルス》

効果モンスター

星5/闇属性/獣戦士族/攻1900/守1200

(1):自分フィールドにモンスターが存在しない場合、このカードは手札から特殊召喚できる。

(2):このカードが戦闘で相手モンスターを破壊した場合に発動する。このカードの攻撃力は500アップする。

(3):このカードが戦闘で破壊された場合に発動する。このカードを破壊したモンスターの攻撃力は500ダウンする。

 

「そして墓地のアマリリースの効果を発動」

 

《アマリリース》

効果モンスター

星1/地属性/植物族/攻100/守200

自分のメインフェイズ時、墓地のこのカードをゲームから除外して発動できる。このターンに1度だけ、自分がモンスターを召喚する場合に必要なリリースを1体少なくする事ができる。

「アマリリース」の効果は1ターンに1度しか発動できない。

 

「墓地のこのカードを除外することで、僕はこのターン、モンスターを召喚する場合に必要なリリースを1体少なくすることができる」

「つまり2体の生贄が必要なモンスターをアドバンス召喚する場合、1体にすることができるということね……」

―――あいつの手の内にはまたしても地縛神があるようだな……だが……

(光子竜?)

―――どうにも違和感を覚えるんだ。なんというか、まるで今までの邪神や幻魔とは違う……ものを。

 

 光子竜がそう感じるのも無理はない話であった。これまで登場した邪神や幻魔はそれらが持つ元々の能力を余すことなくカードとして再現されているからだ。黒幕の手が入っているとはいえ、そう言った意味ではそれらのカードはあるがままの姿であった。だが、今ジェームズの手の中にあるものからはそれが感じられないのだ。

 

「行くよ……コレガ最強ニシテ、最悪ノ地縛神ダァ!! 僕ハカイザー・ブラッド・ヴォルスヲリリース!』

 

 フィールドのカイザー・ブラッド・ヴォルスと墓地から除外されたアマリリースの2体が黒い汚泥に飲み込まれていく。天空には巨大な鳥の姿を描いた地上絵が浮かび上がった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――“今コソコノ世界ノ全テニ究極ノ破壊ヲ、終焉ヲ齎セ!!”―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――降臨せよ!《地縛神 Wiraqocha Rasca》!!―――

 

 

 

 

 

 

 

 

《地縛神 Wiraqocha Rasca(ウィラコチャ ラスカ)》

効果モンスター

星10/闇属性/鳥獣族/攻100/守100

「地縛神」と名のついたモンスターはフィールド上に1体しか表側表示で存在できない。フィールド魔法カードが表側表示で存在しない場合このカードを破壊する。

(1):相手はこのカードを攻撃対象に選択できず、このカードは相手プレイヤーに直接攻撃できる。

(2):???

(3):???

 

 

 

 

 

「攻撃力……100?」

―――最強と銘打つ割には随分と非力だな。

「でも、高レベルで低い攻撃力を持つモンスター……侮ってかかってはいけないわ」

『ヨクワカッテイルジャナイカ! 元々Wiraqocha Rascaハ最強ノ地縛神トハ思エナイ効果ヲ持ッテイタ』

 

 ジェームズが言うには、Wiraqocha Rascaの効果は召喚成功時に自分フィールドのカードを3枚まで持ち主のデッキに戻し、戻したカードの数だけ相手の手札をハンデス。そしてハンデスしたカードの数×1000ポイントの攻撃力を加算するというものだったという。3枚のハンデスを決めれば攻撃力は3100となり、地縛神の中では最大の攻撃力を持つことができるのだが、如何せん不安定な効果と言わざるを得ない。

 

『ダカラ……コノカードノ効果ヲ書キ変エサセテモラッタノサ!! Wiraqocha Rascaノ2ツ目ノ効果ヲ発動!』

 

 

 

 

 

《地縛神 Wiraqocha Rasca(ウィラコチャ ラスカ)》

効果モンスター(オリジナルカード)

星10/闇属性/鳥獣族/攻100/守100

「地縛神」と名のついたモンスターはフィールド上に1体しか表側表示で存在できない。フィールド魔法カードが表側表示で存在しない場合このカードを破壊する。

(1):相手はこのカードを攻撃対象に選択できず、このカードは相手プレイヤーに直接攻撃できる。

(2):1ターンに1度、相手フィールドに表側表示で存在するモンスター1体を対象として発動できる。そのモンスターの攻撃力を0にし、その攻撃力分このカードの攻撃力をアップする。

(3):このターン、相手のライフポイントが0にならなかった場合、ターン終了時に発動する。相手のライフポイントを1にする。

 

 

 

 

 

―――カードの効果を書き変える……不快感の正体はそこか。

 

 光子竜は珍しく憤怒の表情を露わにする。モンスターにとって効果やカードのテキストはそのモンスターの個性や特色を現したようなもので、人間でいう性格や価値観、個性に値する。それを弱いからと言って勝手に作り変えられるということはそのモンスターに対する最大の侮辱なのだ。相手は闇の力を持ったカードであったとしても、光子竜からしてみれば同じデュエルモンスターズのカード。同胞を弄ばれたことに彼は憤慨した。

 

(光子竜……今は辛いけど我慢して)

―――わかっている。お前たちこそ気を付けろ!

『相手フィールドニ存在スルモンスターノ攻撃力ヲ0ニシ、ソノ攻撃力分コノカードノ攻撃力をアップサセル!!』

「なんだと……」

『対象ハレッド・デーモンズ・ドラゴン・スカーライトダァ!!』

 

レッド・デーモンズ・ドラゴン・スカーライト ATK3000→ATK0

 

地縛神 Wiraqocha Rasca ATK100→ATK3100

 

「攻撃力3100……」

『バトル! Wiraqocha Rascaデダイレクトアタック!“デス・シンギュラリティ”!!』

 

地縛神 Wiraqocha Rasca ATK3100

 

「遊希!!」

「わかっているわ! 手札の《バトルフェーダー》の効果を発動!!」

 

《バトルフェーダー》

効果モンスター

星1/闇属性/悪魔族/攻0/守0

(1):相手モンスターの直接攻撃宣言時に発動できる。このカードを手札から特殊召喚し、その後バトルフェイズを終了する。この効果で特殊召喚したこのカードは、フィールドから離れた場合に除外される。

 

「このカードを特殊召喚し、バトルフェイズを強制終了させるわ!」

『フン、運ノイイコトダ……ダガ、ドチラニセヨ。オ前タチハ終ワリダ。僕ハターンエンド。ソシテコノターンノ終了時、Wiraqocha Rascaノ第3ノ効果ガ発動!』

「第3の効果……だと……」

『コノターン、相手ノライフポイントガ0ニナラナカッタ場合、相手ノライフヲ1ニスル!!』

―――なっ……!?

「何よその効果!!」

『コレガ最強ノ地縛神ノ力ダ!! 受ケルガイイ。ソシテ後悔セヨ!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――“ポーラスター・オベイ”!!―――

 

 

 

 

 

 

 

 

エヴァ・遊希 LP1000→LP1

 

 

「きゃあああっ!!」

「がっ……!!」

 

 Wiraqocha Rascaの羽ばたきは一気に二人のライフを削り取った。遊希とエヴァはまるで大波に揺られる小舟のように力無く吹き飛ばされた。

 

『シャドウ・ディストピアノ効果ニヨリ、僕ノフィールドニシャドウ・トークン1体ヲ特殊召喚スル』

 

 

ジェームズ LP3500 手札1枚

デッキ:30 メインモンスターゾーン:2(地縛神 Wiraqocha Rasca、シャドウ・トークン)EXゾーン:0 魔法・罠(Pゾーン:青/赤):1(冥界の宝札)フィールド:1(闇黒世界-シャドウ・ディストピア-)墓地:12 除外:7 EXデッキ:9(0)

エヴァ&遊希 LP1 手札3枚

デッキ:29 メインモンスターゾーン:2(レッド・デーモンズ・ドラゴン・スカーライト、バトルフェーダー)EXゾーン:0 魔法・罠(Pゾーン:青/赤):1(黒い旋風)フィールド:0 墓地:10 除外:0 EXデッキ:10(0)

 

 

ジェームズ

 □□冥□□

闇□シ□W□

  □ □

 □バ□□レ□

 □□黒□□

エヴァ

 

○凡例

W・・・地縛神 Wiraqocha Rasca

バ・・・バトルフェーダー

 

 

☆TURN06(エヴァ&遊希)

 

 遊希とエヴァのターンが回ってくる。このターンでWiraqocha Rascaを撃破しなければ負けは確実。しかし、攻撃力を0にされたスカーライト、およびこの手札でどのようにして倒すのか。地縛神の弱点はフィールド魔法の破壊であるが、残り29枚のカードのうちからフィールド魔法を破壊できるカードを都合よく引き当てられる保証もない。

 

(……どうしよう。何も打つ手がない……)

 

 この時ばかりは流石の遊希も諦めつつあった。そんな遊希の心中を察したのか、エヴァが遊希の耳元で小声で囁く。

 

「遊希」

「……何?」

「遊希、ありがとう。後は私がやる。だから今すぐこの場を離れてくれ」

「っ!! 何を言って……」

「あなたまで巻き込みたくない。あなたが私と一緒に倒れたら誰が鈴を助けるんだ」

「そんな……だからと言ってあなたを見捨てたらどっちにしても後悔するわ!」

 

 遊希とエヴァは普段心に決めていたことを忘れてしまっていた。それは絶望的な状況においても、デッキからカードをドローするまで決して諦めない、という姿勢である。プロの時から心に刻み込んできたその精神すらも忘れさせてしまう。それだけこの状況の地縛神 Wiraqocha Rascaの存在は大きかったのだ。

 

「早く下がって……そして……私の仇を―――!!」

 

 エヴァがそう言いかけた瞬間である。遊希とエヴァの脳裏に何者かの声が響いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――バッカじゃないの!! 何諦めてんのよアンタたちは!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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