銀河の竜を駆る少女   作:Garbage

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皐月「レダメ禁止で私はどうすればいいのでしょうか。【ヴァレット】+【守護竜】でお相手を底知れぬ絶望の淵に沈めたかったのに……」
千春「リボルバーのストラクが出るまで待ちなさいな。【転生炎獣】みたいに化けるかもしれないわよ?」


熱くも悲しき決戦

 

 

 

 

 

「……なるほど、犯人は確かにそう言ったんだね」

 

 エヴァとジェームズのデュエルが終わった後、遊希は竜司とミハエルに病院で千春と皐月から聞いたこと、そして鈴のスマートフォンを使って黒幕が連絡をしてきたことを事細かに伝えた。

 3日後の夜21時にアカデミアの屋上でデュエルを挑む、ということから最後の戦力をここで使う、ということ。そして黒幕がやたらと遊希に拘りを見せていることまで。

 

「犯人の言うことが真実なら、これが最後の戦いになると思います。そしてその相手は……」

「鈴、なんだね」

「はい。最もこんなことをする奴をそのまま信用していいかはわかりませんが」

 

 竜司はそうか、とだけ言って黙り込む。セントラル校を任される校長として、そして一人の父親として生徒であり娘である鈴を一刻も早く助けたい。自分の中で逸る気持ちをなんとか抑えこんでいる様子であった。竜司が口を閉ざしたタイミングを見計らって今までは時折頷くだけで沈黙を貫き通してきたミハエルが口を開く。

 

「……ところで電話の相手―――黒幕と思わしき人物について」

「はい」

「本当に知らない者なのか? よく思い出してみてほしいのだが」

「……正直見当もつきません。私はあの日家族を全て失いました。もう身寄りはないですから」

 

 遊希の脳裏には両親、そして3歳下だった妹の顔が朧げに浮かぶ。再会することはもはや叶わない。既に皆この世を去っているからだ。もちろん「実は生きていました」といった形で目の前に現れればこれほど嬉しいことはないのだが。

 

「ただ声の高さ、ボイスチェンジャーとかを使っていない地声と考えれば……私たちと同年代の少女。丁寧口調で会話の折々に微笑を挟む癖がある。それくらいしか」

「日向 千春と織原 皐月の証言にあった銀髪の女子生徒……やはり銀色の髪を持った女子生徒はエヴァ・ジムリア以外我が校にはいなかった」

「でもエヴァは黒幕により襲撃を受けた。完全に白です」

「……やはり直接叩くしかないですな。校長」

「ああ……」

 

 竜司は渋い顔をして立ち上がると、そのまま遊希に向かって深々と頭を下げた。突然の竜司の行動に遊希は言葉を失う。

 

「本当なら私が動きたい。だが……ここは君の力を貸して欲しい。娘を……鈴を、どうか助けてくれ」

 

 遊希は何も言わなかった。しかし、その眼には強い決意が秘められていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――遊希。

「何?」

 

 遊希はシャワーを浴び、夕食を済ませるとすぐにパジャマに着替えてベッドに飛び込む。途中からとはいえセイヴァー・デモン・ドラゴンや地縛神といった強い力を持つモンスターが次々と召喚されるデュエルに関わったため、遊希の身体はすっかり疲れ切っていた。そんな彼女に光子竜が話しかける。光子竜はどこか申し訳なさそうにしていた。

 

―――怒らないのか?

「……エヴァを疑ってたってこと?」

―――ああ。結果的に白だったが疑ってしまった事実に変わりはないだろう?

「気にしてないわよ、そんなこと」

 

 あのデュエルの後、エヴァとジェームズは共に病院に運ばれた。二人とも意識を失っていたが、それほど重症というわけでもなく、千春や皐月と同じように数日間の入院で済むレベルの怪我であった。

 ジェームズに関してはいつものように企業の後継者となるべく研鑽を重ねるために回復次第イギリスへと戻ることになるだろう。そしてエヴァも数日後にはいつものあの愛らしくも尊大な素振りを見せてくれるだろう。

 

 

―――あの子には手出しなんかさせないよ。だってこのあたしがいるんだから!

 

 

 救急車に運ばれていく時、すっかりエヴァの精霊となったスカーライトはこう言っていた。エヴァの身は自分が守る、だから遊希は目の前の敵を撃て。それは彼女なりの遊希に対するエールだった。

 

「……それよりもさ」

―――ん?

「……黒幕はどうして私に拘るのかな? 精霊を使っているから?」

―――まあ、そうだろうな。あまり大きな声で言えることではないが。

「精霊を使うことで変な目で見られたり危険に巻き込まれそうになったことはたくさんあったけど……」

 

 

 

―――この時、遊希は嘘をついていた。彼女は黒幕に少なからず心当たりがあった。それでもその心当たりが見当違いである、という気持ちも強かった。犯人像として浮かんでいる人物が犯人であるはずがない。まずあり得ない人物のだから。

 

 

 

(……まさかね)

―――遊希?

「なんでもない。はぁ、今日は疲れちゃった。寝るわよ」

 

 遊希は頭まで布団を被ると小さく寝息をたて始める。今日は隣で眠る人はいない。それでも寂しくなんて無かった。この数日の出来事は遊希の意志を知らず知らずのうちに強く固いものへと鍛え上げていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 3日、と聞くと長いように感じるが実際はあっという間に過ぎていく。黒幕との決着をつけるその日を迎えたのだが、その時までアカデミアは至って平和だった。3日後に決着をつけよう、と約束したことを黒幕は守った形になる。

 平和なことは良いことなのだが、その間捕らわれているであろう鈴は無事なのかという気持ちがひたすら募るばかりだった。最も遊希はその焦りを周りに悟られまいと何食わぬ顔で過ごしていたのだが。

 

「さあ、行きましょう」

 

 時計の針は夜の20時30分を指していた。遊希はアカデミアの制服に袖を通すと、しばらく使われていない机に手を置く。持ち主のいなくなった机は少しだけ埃が被っていた。もし無事に戻ってこれたら掃除をしてあげよう。そんなことを思いながら遊希の眼には綺麗にまとめられたカードの束が映る。

 

(……)

 

 しばしの沈黙の後、遊希はその机の上に置かれていたカードの束を持って寮の自室を出る。部屋の前では竜司、蘭、ミハエルの三人が遊希が出てくるのを待っていた。

 

「皆さん……」

「僕たちもついて行っていいだろうか? もちろんデュエルには手を出さないよ」

「……ありがとうございます」

 

 遊希はぺこりと頭を下げた。正直一人では心細いところが少しはあったのだ。しかし、竜司たちの同行を許さない者がいた。他ならぬ黒幕である。屋上への道を歩いていた四人の前に立ちはだかったのはなんとアカデミアの生徒たちだったのである。そしてその生徒たちは千春や皐月に敗れ、負傷させられていた生徒たちばかりであった。デュエルに敗れた際に黒幕の瘴気を浴びていたのか、彼らもまた黒幕によって操られる対象となっていたのである。

 

「っ……これは……」

「どうやら素直に屋上へは行かせてはくれないようですな」

 

 竜司とミハエルはデュエルディスクを構える。生徒に手をあげる、ということをするのは教育者の彼らとしては心苦しいかもしれない。しかし、今はそんな彼らも自分たちの気持ちを必死に押し殺す。

 

「待って、二人だけじゃこの人数は……」

「確かに物量では圧倒的不利だ。だが、今はやるしかないだろう?」

 

 蘭が止めに入ろうとするも、竜司もミハエルも聞く耳を持たなかった。蘭はため息をつきながら二人と同じようにデュエルディスクを展開する。

 

「奥様」

「私もやるわよ。これならあなたもミハエルさんも少しは楽になるでしょう?」

 

 結局この場は竜司・蘭・ミハエルが引き受けることになった。三人ともデュエルの実力は高い。そのためすぐにやられる、などということは無いと思うが立ちはだかる生徒は五十人以上はいる。三人で全員の相手をするとなるとやはり物量の差で押し切られてしまうだろう。

 それを覚悟した上で遊希は立ちはだかる他の生徒たちのことを三人に託すと、振り返らず前を向いて走った。四人を取り囲んでいた生徒たちであるが、遊希が一人で屋上に向かうと知るやその囲いを一時的に解いて屋上への道を開ける。黒幕が望むのは遊希と鈴の一対一のデュエル、ということなのだろうか。

 

(……鈴! 今、助けてあげる!!)

 

 竜司から手渡された屋上へと繋がるドアの鍵を開ける。扉を開けてドアを開け放つと遊希の眼に映ったのは天空に広がる満天の星空、そしてそんな星々の輝きすら曇らせる美しい月だった。

 初夏の夜風が吹きつけるデュエルスペースに向かうと、そこには一人の少女が立っていた。千春の時のようにローブを纏っておらず、皐月の時のように仮面はつけていない。アカデミアの制服に背中まで伸びた金色の髪が月明りに照らされる。遊希がこの学園において最も信頼を置く女子生徒の姿がそこにはあった。

 

「待ってたわ、遊希」

「……久しぶり、鈴」

 

 遊希はそう言いながらデュエルディスクを起動させる。所定の時間より20分ほど早いが、決戦の時は来た。

 

「そう言えば前に約束したわよね。いつか二人で最高のデュエルをしよう、って。でも、こんな形でデュエルをしなきゃいけないなんて……」

「あら、最高の舞台だと思わない? お月様もお星様もあたしたちのデュエルを観たいがためにこんなにキラキラしてるのよ」

「最高じゃない。最低よ……今のあんたとは最高のデュエルなんか出来やしない」

 

 鈴は普通に喋ってこそいるが、やはり醸し出す雰囲気がいつもと違う。一番強い洗脳が施されているのだろうが、それが強すぎるがため、かえって自然体になってしまっていた。

 

「だったら……嫌でも最高のデュエルにしてあげる。そしてあの方にあんたをプレゼントしてあげるんだから」

「奇遇ね。私もあの方に用があるのよ。あんたをそんなんにしたあの方ってやつを……ぶっ倒すためにね」

 

 夏を思わせる湿った夜風が吹き付ける。一瞬の静寂の後、決戦の火蓋が切って落とされた。

 

 

 

 

 

「「デュエル!!」」

 

 

 

 

 

 満天の星々だけが見届ける熱くも悲しいデュエルの火蓋が。

 

 

 

先攻:鈴

後攻:遊希

 

 

 

鈴 LP8000 手札5枚

デッキ:55 メインモンスターゾーン:0 EXゾーン:0 魔法・罠(Pゾーン:青/赤):0 フィールド:0 墓地:0 除外:0 EXデッキ:15(0)

遊希 LP8000 手札5枚

デッキ:45 メインモンスターゾーン:0 EXゾーン:0 魔法・罠(Pゾーン:青/赤):0 フィールド:0 墓地:0 除外:0 EXデッキ:15(0)

 

 

 

☆TURN01(鈴)

 

(デッキ枚数60枚……)

「あたしの先攻。あたしは魔法カード、手札抹殺を発動。互いに手札を全て捨て、捨てた枚数分ドローする。あたしは4枚捨てるから4枚ドローする」

「……5枚捨てて5枚ドローよ」

 

 カードをセットすることもせず、初手でいきなりの手札抹殺。当然デッキは普段使っている【儀式青眼】ではなかった。手札が悪かったのか、それとも何か明確な目的があってのプレイングなのだろうか。ただ、ちらりと見えたカードから見るに、鈴の真意は間違いなく後者であると言えた。

 

「あたしは《ゾンビ・マスター》を召喚」

 

《ゾンビ・マスター》

効果モンスター

星4/闇属性/アンデット族/攻1800/守0

(1):1ターンに1度、手札からモンスター1体を墓地へ送り、自分または相手の墓地のレベル4以下のアンデット族モンスター1体を対象として発動できる。そのアンデット族モンスターを自分フィールドに特殊召喚する。この効果はこのカードがモンスターゾーンに表側表示で存在する場合に発動と処理ができる。

 

「ゾンビ・マスター……やっぱりあんたのデッキは……」

「ゾンビ・マスターの効果を発動。手札の《馬頭鬼》をコストに墓地のレベル4以下のアンデット族モンスター1体を自分フィールドに特殊召喚するよ。あたしは手札抹殺で墓地へ捨てた《ゴブリンゾンビ》を特殊召喚」

 

《ゴブリンゾンビ》

効果モンスター

星4/闇属性/アンデット族/攻1100/守1050

(1):このカードが相手に戦闘ダメージを与えた場合に発動する。相手のデッキの一番上のカードを墓地へ送る。

(2):このカードがフィールドから墓地へ送られた場合に発動する。デッキから守備力1200以下のアンデット族モンスター1体を手札に加える。

 

「そして私はゾンビ・マスターとゴブリンゾンビをリンクマーカーにセット。召喚条件はアンデット族モンスター2体。サーキットコンバイン! 鮮血の宴を始めましょう? リンク2《ヴァンパイア・サッカー》」

 

《ヴァンパイア・サッカー》

リンク・効果モンスター

リンク2/闇属性/アンデット族/攻1600

【リンクマーカー:左下/右下】

アンデット族モンスター2体

このカード名の(1)(2)の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。

(1):相手の墓地のモンスター1体を対象として発動できる。そのモンスターを相手フィールドに守備表示で特殊召喚する。特殊召喚したそのモンスターはアンデット族になる。

(2):自分・相手の墓地からアンデット族モンスターが特殊召喚された場合に発動する。自分はデッキから1枚ドローする。

(3):自分がモンスターをアドバンス召喚する場合、自分フィールドのモンスターの代わりに相手フィールドのアンデット族モンスターをリリースできる。

 

「墓地に送られたゴブリンゾンビの効果を発動。デッキから守備力1200以下のアンデット族モンスター1体を手札に加える。あたしが手札に加えるのは守備力800の《牛頭鬼》よ。そして墓地の馬頭鬼の効果を発動」

 

《馬頭鬼》

効果モンスター

星4/地属性/アンデット族/攻1700/守800

(1):自分メインフェイズに墓地のこのカードを除外し、自分の墓地のアンデット族モンスター1体を対象として発動できる。そのアンデット族モンスターを特殊召喚する。

 

「このカードをゲームから除外し、墓地のアンデット族モンスター1体を特殊召喚する。ゾンビ・マスターを特殊召喚。そして墓地からアンデット族モンスターが特殊召喚されたことでヴァンパイア・サッカーの効果が発動。あたしはデッキからカードを1枚ドローする」

―――まずいな、墓地を肥やしつつ手札を順調に補っている。

(【アンデット族】の本領発揮ね……でも、本当にただのアンデット族デッキなのかしら)

「ゾンビ・マスターの効果を発動。手札の牛頭鬼をコストに、墓地のレベル4以下のアンデット族モンスター1体を特殊召喚する。この効果はコストにしたモンスターも蘇生できる。手札コストとして墓地に送った牛頭鬼を特殊召喚よ」

 

《牛頭鬼》

効果モンスター

星4/地属性/アンデット族/攻1700/守800

このカード名の(1)(2)の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。

(1):自分メインフェイズに発動できる。デッキからアンデット族モンスター1体を墓地へ送る。

(2):このカードが墓地へ送られた場合、自分の墓地から「牛頭鬼」以外のアンデット族モンスター1体を除外して発動できる。手札からアンデット族モンスター1体を特殊召喚する。

 

「牛頭鬼の効果を発動。デッキから2体目の馬頭鬼を墓地へ送る。そして私はゾンビ・マスターと牛頭鬼でオーバーレイ!」

「エクシーズ召喚……いったいどんなモンスターを……」

「2体のモンスターでオーバーレイネットワークを構築。エクシーズ召喚!!“響き渡るは原初の鼓動。全ての祖たる者よ、今こそ目覚めよ”。」

 

 

 

 

 

 

―――《No.18 紋章祖プレイン・コート》―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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