銀河の竜を駆る少女   作:Garbage

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深愛白龍

 

 

 

 

 

 

 

「ブルーアイズ……カオス・MAX……ドラゴン……」

 

 鈴にとってはまさに想定外のことだっただろう。かつての相棒であり、エースモンスター。このデッキを手にした時に捨てたカードが、今こうして遊希の手によって自分の前に立ちはだかっているのだから。

 

「ねえ、何のつもり?」

「……何のつもり?」

「オウム返ししないでよ! なんであんたの【光子銀河】デッキにカオス・MAXが入ってるのよ! まるで噛み合いがないじゃない!!」

 

 一応ドラゴン族・レベル8という点で【青眼】と【銀河眼】にはシナジーが存在する。それでも遊希が普段使っているような純粋な【光子銀河】デッキにはまず青眼関連のカードは入らない。それこそドラゴン族のサポートカードを入れて共有できるようにしなければならないため、そのカードを入れる分他のカードを抜く必要があるのだ。

 

「ええ、確かに噛み合いはないし私のデッキからいくつかカードを抜いた。バランス……という意味では悪くなっているわ」

 

 それでも遊希は青眼関連のカードの投入は最小限に留めていた。故に最初のターンで鈴が発動した手札抹殺の効果でピン挿しのカオス・MAX、青眼の白龍、太古の白石がまとめて墓地へ送られてしまったことで太古の白石の効果を発動できなかったのだ。

 

「でも、あんたを正気に戻すという点ではこのカードが絶対に必要だった。このカードであんたを倒すと最初から決めていた!」

「っ……訳わかんないし」

「そう思われても仕方ないかもね。でも、今この状況ならカオス・MAXが一番適しているわ」

 

 ブルーアイズ・カオス・MAX・ドラゴンは相手の効果の対象にならず、相手の効果では破壊されない。そのためサベージ・コロシアムのデメリット効果でも破壊されず、カオス・オブ・アームズの相手フィールドのカードを全て破壊する効果も受け付けない。そして攻撃力はカオス・オブ・アームズと同じ4000。戦闘においても一方的に破壊されることがない。

 

「まさか……相討ち狙いで!?」

「そのまさかよ! バトル! ブルーアイズ・カオス・MAX・ドラゴンでCNo.69 紋章死神カオス・オブ・アームズを攻撃!! “混沌のマキシマム・バースト”!!」

 

ブルーアイズ・カオス・MAX・ドラゴン ATK4000 VS CNo.69 紋章死神カオス・オブ・アームズ ATK4000

 

「迎撃しなさい、カオス・オブ・アームズ!“カオス・デス・ドゥーム”!」

 

 混沌の龍と死神の攻撃は互いに相殺し合い、それぞれを打ち砕く。カオス・オブ・アームズは断末魔の悲鳴を上げながら消滅し、カオス・MAX・ドラゴンもまた鈴のことを何処か哀れんだ様子でその場に崩れ落ちていった。

 

「……せっかくのカオス・MAXを相討ちにするために使うなんて。本当に無駄なカードだったわね」

「無駄か……これを見てもそう言えるのかしら?」

「えっ……?」

 

 その時、鈴は明らかな違和感に気が付いた。戦闘で破壊されたカオス・オブ・アームズは跡形もなく消滅したのに対し、カオス・MAX・ドラゴンはまるでその場に実在するかのように残り続けていたのだ。

 

「な、なんでカオス・MAXは消滅しないの!? 戦闘で破壊されたはずなのに!! まさか、復活の福音が墓地にあったとか……」

「はずれ。カオス・MAXは確かに破壊されて息絶えた。でもカオス・MAXの犠牲は無駄なんかじゃない。カオス・MAXは新しい命に転生するのだから!!」

 

 倒れたカオス・MAXの身体にピシリ、と音を立ててひびが入った。立て続けに生じるひびはカオス・MAXの全身に広がり、やがてその身体が音を立てて崩れ落ちる。次の瞬間、まるで蛹から蝶が羽化するが如く、1体の青く美しい竜が羽根を広げて舞い上がった。その様は例えるならば―――深き愛を感じさせるもの。

 

「なっ……!?」

「自分フィールドに表側表示で存在する「ブルーアイズ」モンスターが戦闘または相手の効果で破壊された時にこのカードの効果は発動できる。現れなさい!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「竜司さん、お願いがあるのですが……」

 

 時は今から半月ほど前に遡る。まだ鈴はもちろん千春や皐月が行方不明になる前の話だ。その日の講義が全て終わった後、遊希は校長室の竜司の下を訪ねていた。竜司とは古い付き合いになるため、普段の彼女は竜司に対してもフランクに接しているのだが、この日ばかりは妙に改まっていた。

 

「何かな? 成績を工面してほしいとか以外だったら相談に乗るよ?」

「おかげ様で成績には問題ありません。デュエルの調子はまだちょっと、ですが……」

「そうか。じゃあどうしたんだい?」

「実は、鈴に誕生日のプレゼントを用意してあげたいんです」

 

 鈴の誕生日は7月23日とまだ2か月ほど先である。それなのにこんな時期からプレゼントの相談に来る、というのはあまり自然なことではない。

 

「鈴にプレゼント、か。どんなものをあげればいいのかということかな?」

「いえ。あげたいものは決まっているんですが……私の力では手に入らないもので」

 

 もしや高級なアクセサリーではなかろうか、と背中が冷たくなる竜司。もちろん目の中に入れても痛くない一人娘だ。高級なアクセサリーも絶対に似合うと信じている。しかし、だからといってそれを遊希に買わせるというのはどうなのだろうか。

 

「ええと……何をあげるつもりかな」

「実は……」

 

 アクセサリーやブランド品を想定していた竜司は、遊希から欲しいものを伝えられるとなんとも間の抜けた声を出してしまった。彼女がリクエストしてきたものはたった1枚のカードだったのだから。

 

「そのカードで、いいのかい?」

「はい。竜司さんだからこそ頼めることなので……」

「確かにこの国では僕がリクエストするのが一番近道かもしれないね。わかった、I2社と海馬コーポレーションへの根回しは僕の方でやっておこう。そうだね、2週間ほど待ってもらえないかな?」

 

 そして竜司にリクエストしたカードが遊希の下に届いたのが数日前のこと。鈴との決戦に臨む直前であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(鈴、このカードが私からあなたへの想い! このカードの力であなたを助ける!!)

 

 

 

 

 

―――“無窮の時、その始原に秘められし白い力よ。鳴り交わす魂の響きに震う羽を広げ、蒼の深淵より出でよ!”―――

 

 

 

 

 

―――《ディープアイズ・ホワイト・ドラゴン》!!―――

 

 

 

 

 

《ディープアイズ・ホワイト・ドラゴン》

効果モンスター

星10/光属性/ドラゴン族/攻0/守0

(1):自分フィールドの表側表示の「ブルーアイズ」モンスターが戦闘または相手の効果で破壊された時に発動できる。このカードを手札から特殊召喚し、自分の墓地のドラゴン族モンスターの種類×600ダメージを相手に与える。

(2):このカードが召喚・特殊召喚に成功した場合、自分の墓地のドラゴン族モンスター1体を対象として発動する。このカードの攻撃力はそのモンスターの攻撃力と同じになる。

(3):フィールドのこのカードが効果で破壊された場合に発動する。相手フィールドのモンスターを全て破壊する。

 

 

 

 

 

 

「ディープアイズ・ホワイト・ドラゴン……!?」

「ディープアイズ・ホワイト・ドラゴンは自分フィールドの表側表示のブルーアイズモンスターが戦闘または相手の効果で破壊された時に特殊召喚できるモンスターよ」

「で、でも攻撃力は0! そんなモンスターで何が……」

「ディープアイズ・ホワイト・ドラゴンは特殊召喚成功時に2つの効果を発動できる。1つは墓地のドラゴン族モンスターの攻撃力をコピーする効果。そしてもう1つは……私の墓地のドラゴン族の数×600のダメージを相手に与える効果!!」

「墓地のドラゴン族の数……」

 

 ディープアイズ・ホワイト・ドラゴンが鈴の音のように響き渡る咆哮を上げると同時に、その後ろには遊希の墓地に眠るドラゴン族の姿が浮かび上がる。遊希の墓地には2体の銀河眼の光子竜、銀河眼の煌星竜、タイタニック・ギャラクシー、星杯の守護竜アルマドゥーク、青眼の白龍、そしてブルーアイズ・カオス・MAX・ドラゴンの計7体。

 

「嘘、そんな……あたしは……こうまでしても……」

「全部、終わらせてあげる! ディープアイズ・ホワイト・ドラゴンの効果! 墓地のドラゴンたちの……青眼たちの悲しみを受けて!! そして……帰ってきて、鈴」

 

 ディープアイズ・ホワイト・ドラゴンの身体から激しい光が放たれる。そしてその光は鈴の身体を厳しくも、暖かく包み込んでいった。そんな時、同じように光に包まれていった遊希の脳裏にも見覚えのない光景が浮かび上がった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――どこへ行く。精霊界を去るということの意味を知らないはずの貴様ではないはずだ。

 

―――聞こえたのだ、人々の悲しみの声が。慟哭が。

 

―――だからと言って我々精霊が介入していいことにはならない。精霊の存在は、人間にとっては決していいことばかりではない!

 

―――それでも、私は行かなくてはならない。

 

―――ならば、私は貴様を止める。友として、同じ“眼”を持つ者として!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(今のは、一体……)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

鈴 LP100→LP0

 

 

 

 

 

 

 

 

「……勝った! 遊希ちゃんが勝ったわ!!」

「ええ。これで星乃 鈴は、お二人のお子さんは解放される……」

「鈴! 遊希くん!」

 

 デュエルの終了を見届けた竜司たちは、駆け足で二人のところに駆け寄ろうとする。しかし、遊希は竜司たちに構うことなく走り出すと、倒れていた鈴の下に駆け寄り、彼女の身体をぎゅっと強く抱きしめた。

 

「鈴っ、鈴っ、りんっ、りん……!!」

 

 何度も何度も鈴の名を呼ぶ遊希。強く抱きしめすぎたのか、気を失っていた鈴は逆に意識を取り戻した。

 

「もうっ、痛いってば……」

「鈴!!」

「……勝てなかったかぁ……遊希、強いね。でも、ありがと……おかげで助かったよ……」

 

 遊希に抱きしめられる形だった鈴は手を伸ばし、顔を覗き込んでいる遊希の頬に手を当て優しく撫でる。緊張の糸が解れたのか、遊希の両目からは大粒の熱い涙がこぼれ落ちた。

 

「鈴……無事だったのね……」

「ママ、パパ、教頭先生……ごめん、私とんでもないことしちゃった……」

「いいんだ。鈴は悪くない。だから、気に病んではいけないよ?」

「うっ、うう……パパぁ、ママぁ……」

 

 遊希は動けない鈴を竜司と蘭に引き渡した。行方不明になってから早数日。蘭と鈴は人目も憚らず涙しながら無事の再会を喜んだ。竜司は敢えてその輪に加わらず、ただ上を見上げていた。

 月や星を見上げているわけではない。こうしていれば、こぼれることはないからだ。竜司は父親でもありこの学校を任された校長でもある。そのため生徒の前では涙を流すことは彼自身のプライドが許さなかったのだろう。ミハエルはそんな竜司の肩に手を置き、何かを告げるとそのままハンカチを差し出した。ハンカチで涙を拭うと、竜司は黙ってミハエルに深々と頭を下げる。

 

(さて……私もこうしているわけにはいかない)

 

 遊希もまたいつまでも泣いているわけにはいかなかった。ハンカチで涙をふき切ると、周囲を見回す。最後の刺客が敗れ去った。となると黒幕の下にもう動かせる者はいない。それならば黒幕が取る行動は一つ。

 

 

 

「どこにいるの……出てきなさい」

 

 

 

 遊希がそう言うと、電話口で聞いた「うふふ」という笑い声が風に乗って聞こえてきた。その声のした方向―――屋上入口の方を振り返ると、たった今竜司たちが入ってきた屋上入口の上に一人の少女が座っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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