銀河の竜を駆る少女   作:Garbage

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新時代のデュエル

 

 

 

 

 遊びに遊びまくった五人であるが、いくらプールとはいえ真夏の真っただ中。さすがに暑さが堪えるようで、体力のない皐月は少し疲れ気味のようだった。そんな彼女を見かねた鈴、皐月、エヴァの三人は彼女のために飲み物を買いに行く。皐月を任された遊希は、座るのにちょうどいい日陰のベンチを見つけてそこに座った。疲労困憊、といった様子の皐月はベンチに座るやいなや遊希にもたれかかってきた。

 

「はぁ……少し運動不足でしょうか」

「運動不足というよりスタミナ不足ね。デュエリストにとっては大事な要素よ、今後なんとかしないとね」

「善処します……」

 

 遊希はそう言って皐月の背中をさすりながら、鈴たちが飲み物を買って戻ってくるのを待っていた。しかし、そんな二人の元にやってきたのは鈴でも千春でもエヴァでもなかった。

 

「ねえねえ、カーノジョッ!」

「……」

 

 声をかけてきたのは日に焼けた金髪の男性三人。俗に言う「チャラ男」だったり「ギャル男」と呼ばれる分類の男たちだった。遊希は男たちを一瞥するが、それにリアクションをすることなく無視を貫き通す。

 

「ちょっと無視しないでよぉ~」

「ひっ……」

 

 馴れ馴れしく肌に触れようとする男たちを見て皐月が小さな悲鳴を上げる。怯える皐月に触ろうとした男の手を遊希は思い切り叩き落とすと、痛がっている男を遊希は刺すような眼で睨みつける。その迫力に三人の男たちは一瞬たじろいだ様子を見せるものの、動揺を悟られまいとそれを隠して改まった。

 

「……何ですか? 私たち今疲れてるんであっち行ってください」

「遊希さん……」

「大丈夫、私がいる限りあんたには触れさせない」

 

 なんとか皐月を自分の後ろに隠す遊希であったが、遊希の肌に触れた皐月は気づいていた。遊希の身体も微かに震えているのを。

 この男たちなどデュエルなら遊希の敵になるような相手ではない、しかし腕力や筋力ではいくら遊希が鍛えているといっても男と女の差は歴然。無理やり連れていかれようものなら、遊希たちに抵抗する術はない。

 

(遊希さん……自分も怖いのを隠してまで……)

「カッコイイね、カノジョ~! でもそんな強気な女の子って実を言うと気弱な子が取り繕ってるだけだったりするんだよねぇ……」

「っ! 何を言って……!」

「あれ、もしかして図星~?」

「大丈夫、俺たち女の子には優しいから。だからいっしょに遊ぼうぜ……」

 

 男の一人が遊希の髪に手を触れようとした瞬間である。その手を何者かが思い切り捻りあげたのは。ぎゃあ、と悲鳴を上げて後ずさりする男たちの前に立ちはだかったのは180センチを超える長身に首ほどまで伸びた茶髪が特徴的な黒のラッシュガードを纏った男性だった。

 

「大丈夫ですか?」

「……は、はい」

 

 男性は振り向かずに遊希と皐月に怪我がないことを確認すると、両手を組んでは骨をポキポキと鳴らして男たちへと詰め寄っていく。

 

「出来れば引き下がってくれないか? 俺も手荒な真似はしたくない」

「なっ……なんだってんだよこの野郎!」

 

 激昂した男の一人が殴りかかろうとしたが、別の二人がそれを必死で止めた。男たちはその男性の顔を見て驚いた様子で男性を二度見する。

 

「お、お前まさか……蜂矢 真九郎(はちや しんくろう)じゃ」

「おっ、よく知っているね。その通り、俺は蜂矢 真九郎だけど?」

 

 蜂矢 真九郎、という名を聞いて遊希も驚いた様子を見せた。遊希にとってその名前は決して知らない名前ではなかったのである。

 

「マジかよ……なんでそんな有名人がここにいるんだよ」

「色々と仕事があってね。たまたまここで涼んでいたら嫌がるこの子たちにお前たちが絡むのが見えた、それだけだ」

「っ……くそっ、覚えてろ!!」

 

 典型的な捨て台詞を吐いて男たちはその場を立ち去っていった。真九郎は去っていく男たちを見ながら「1時間後には忘れてるけどね」と苦笑いする。思わず救いの手を差し伸べられた遊希と皐月は真九郎に対して感謝の言葉しか出なかった。

 何度も頭を下げて礼を言う二人に真九郎はこのくらい大したことじゃないよ、と言ってそのまま館内に戻ろうとする。だが、そんな彼を遊希がふと呼び止めた。

 

「あの、蜂矢さん」

「ん? まだなにか?」

「私……天宮 遊希と言います」

「天宮……そうか、君が。そうか、今日は宜しくお願いするよ」

「はい、こちらこそ」

 

 そう言って遊希は真九郎と握手を交わした。それを見た皐月は思わず首を傾げた。何故なら遊希は決して人当たりのいい方ではなく、まして初対面の男性相手ならば先ほどの男たちに対するように警戒心を丸出しにするはず。

 それなのにあの真九郎に対しては自分から名を名乗り、握手までしたのである。遊希がそこまでするほどあの蜂矢 真九郎という人物は著名もしくは偉大な人間だというのだろうか。

 

「遊希さん」

「ん、何?」

「今の方はいったい……?」

「あれ、あんた知らないの? 蜂矢 真九郎のこと」

「……すいません、存じ上げないです」

「そっか。あのね、後で言おう言おうと思っててずっと引き延ばしてたんだけど……今日ここに来たのは、こうしてプールで遊ぶためじゃないの」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「何がいいかしらね」

 

 その頃、鈴たちは自動販売機の前で何を買うか決めあぐねていた。こんなに迷うなら二人に何が欲しいか予め聞いておくべきだった、と自分の不明を悔やむ。

 

「皐月は炭酸飲めないわよ。だからお茶とかでいいんじゃない?」

「そうなの?」

「確かに皐月が炭酸飲料を飲んでいるイメージはないな。水分補給する、という点では炭酸は不向きだ。スポーツドリンクが無難だろう」

「じゃあ、二人ともスポドリでいっか」

 

 適当に選んだ飲み物を持って遊希たちの待つ場所へ戻ろうとする三人。その途上、屋外ステージに人だかりができているのを見つけた。そこではトークショーが行われており、先ほど遊希たちを男たちから助けた真九郎の姿があった。

 

「ねえ、あれって蜂矢 真九郎じゃない!?」

「蜂矢 真九郎……ああ、あの元アイドルの!」

「……有名人なのか?」

 

 蜂矢 真九郎は元々とあるアイドルグループのメンバーの一人として今から10年前にメジャーデビューした。グループ内で一二を争う人気メンバーだった彼が属するグループの出すシングルCDは常にCD売り上げランキングの上位に位置し、年末の歌合戦にも数多く出演するなど超が付くほどの有名人だった。

 しかし4年前、20歳を迎えた時に突然そのグループを脱退し、子供の時からの夢であったレーサーへと転身。ライブ会場でそれを聞いたファンの多くが卒倒して病院に運ばれるなど社会的ニュースとなった。

 レーサー転向後の彼は元々秘めていたその才能を開花させ、日本のレースはもちろん海外のレースでも多数の賞を獲得するなど、遊希とはまた違った分野で世界的な有名人だった。

 

「日本ではアイドルという文化があるとは聞いていたが、そこまで激しいものなのか」

「好きな人はほんと好きだからね……」

「でもまさか本物の蜂矢 真九郎がこんなところで見られるなんて……でもなんでこんなところに」

 

 鈴たちがそんなことを思っていると、ちょうど今からイベントが始まるようだった。インタビュアーが報道陣や観客に静粛にするように求めると、ステージの後ろにあるオーロラビジョンに映像が流れ始めた。

 その映像のオープニングにはデュエルモンスターズの制作会社であるI2社ことインダストリアル・イリュージョン社、そしてデュエルディスクの制作会社である海馬コーポレーションのロゴが現れると、次の瞬間画面に流れる映像に映ったのは2台のバイクのような乗り物が爆音を轟かせながらサーキットを駆けていく映像だった。そして徐々にそのバイクに乗っているライダーの手元がズームアップされていく。

 バイクのスピードメーターが設置されている部分に当たる箇所にはなんとデュエルディスクが取り付けられていたのである。そして二人のライダーがそれぞれデュエルディスクにカードを置くと、そこからは青眼の白龍とブラック・マジシャンの2体のモンスターが現れたのだ。間違いない、これはデュエルである。

 

 

『今、デュエルは新たな領域へ到達する―――これが新時代のデュエル! “ライディングデュエル”だ!!』

 

 

 映像内のナレーションでライディング・デュエルの名が明かされると、一斉に記者席からはカメラのフラッシュが焚かれ、観客からは歓声とどよめきが生まれる。

 

「ライディングデュエル……まさか、バイクに乗ったままデュエルをするってこと?」

「噂には聞いたことがあるが、そのような形でデュエルをするとはな」

「そんな無茶苦茶な……そんなのレーサーでもなきゃ無理……ねえ、蜂矢 真九郎って」

 

 鈴と千春は顔を見合わせる。蜂矢 真九郎がこの場に呼ばれた理由、それは彼が日本、いや世界初のライディングデュエル専門のプロデュエリストとしてデビューをするということだったのだ。

 彼は元レーサーという経歴を買われ、初のライディングデュエルのプロデュエリストとしてこのテーマパークの外に併設されているサーキット場でライディング・デュエルのエキシビジョンマッチを行うのである。

 

「そうだったんだ、だからあの人が……」

「でも待って。彼が初のプロライディングデュエリストなんでしょ? だったら誰が彼とデュエルをするの?」

「あっ、確かに……」

 

 三人が話しているうちにオーロラビジョンの映像はどんどんと進んでいき、そのデュエルが今日の夜7時から行われるということが明かされる。

 一応遊希がカイバーランド・シーのフリーパス券だけではなく、ホテルの無料宿泊券も貰っていたため、帰りの電車などを気にせず五人でそのデュエルを見ることができるのではないか、と三人の胸中にはデュエリスト特有のワクワクに似た感情が湧き上がってくる。しかし、すぐにその願いは叶わないことを知った。

 

 

『日本、いや世界初のプロライディングデュエリストとデュエルを行うのは―――』

 

 

 真九郎の対戦相手として映像に映し出されたのは鈴と千春、そしてエヴァにとって最も身近な人間の一人だった。

 

 

『―――あの伝説のプロデュエリスト―――天宮 遊希―――!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さて、どういうことか説明してもらおうかしら!!」

 

 真九郎とライディングデュエルをするのが他ならぬ遊希である、ということを知った三人は日陰のベンチで皐月に膝枕をしていた遊希を見つめるや否やすぐにそのことについて問いただした。

 遊希はばつの悪い顔をしながらベンチに座っている。その三方を腰に手を当てた鈴、腕を組んで仁王立ちする千春、何処か戸惑った様子のエヴァが取り囲む形となっていたため逃げるに逃げれない状況だった。

 

「……どうもこうも、私が蜂矢 真九郎とライディングデュエルをする。それだけよ」

「あんた免許は? 免許ないとああいうの乗っちゃダメでしょ」

「それなら問題ないわ。ライセンスなら取得済みよ」

 

 鈴は時折遊希が授業に出ていないことを思い出した。鈴たちはどうせ図書館かどこかで昼寝でもしてるんじゃないか、と思ってさほど気にも留めなかったが、セントラル校にいなかった時、遊希はライディングデュエルで使用するバイク『Dホイール』のライセンスを取得するための教習を受けに行っていたのだ。

 Dホイールの運転は見掛けほど難しくなく、試作品とだけあって最高速にはリミッターが掛けられている。またオートパイロットシステムを採用しているとあって、運転よりもバイクに乗ったままデュエルができるか、というデュエリストたちのバランス感覚が求められる代物なのだ。遊希は持ち前の知能と運動神経で学科・実技ともに1発で合格し、今日のこの日までにDホイールのライセンスを取得していたのである。

 

「だからその辺りは気にしてくれなくて大丈夫よ」

「ではどうしてそれを今まで教えてくれなかったんだ?」

「……みんなをびっくりさせたかったから、かな?」

 

 エヴァの疑問にそう言って小首を傾げながら笑う遊希。しかし、そんな遊希に食いついたのが鈴である。

 

「嘘」

「……えっ?」

「あんた嘘ついてるでしょ? あたしにはわかるよ」

「その根拠は?」

「あんた嘘ついたり動揺すると瞬きする回数が極端に多くなるの。気づいていなかった?」

 

 それを聞いた遊希の顔が硬直する。右手で右の眼を抑えてみるが、特に変わった様子はないようだった。

 

「まあ、それも嘘なんだけど。でもこれであんたが嘘ついてることが明らかになったわ」

「ハメたのね……騙すなんて酷い、鈴のばか、いじわる」

「なんて言ってくれても構わないわ。あんただって嘘つきじゃない。ねえ、なんで黙ってたの? あたしたち親友でしょ? 教えてよ……」

 

 そういって遊希の顔をじーっと見つめてくる鈴。しばしにらめっこのような体勢になったが、やがて彼女の視線に耐えられなくなった遊希が目を反らしながら真意を話し始めた。

 

「あのね……私セントラル校に入った後からずっと誘いを受けていたんだ。「もう一度、プロの世界に戻らないか」って」

 

 遊希がデュエリストとして再出発を迎えたという情報をI2社や海馬コーポレーションといった企業はすぐにキャッチしていた。アカデミアの学生として十分すぎるほどの成績を収めていた遊希はプロを引退した直後よりもさらに洗練されたデュエリストになっている。

 そんな彼女には未だ世界中に数多くのファンが存在する。そんなファンたちを喜ばせるためにも是非遊希には表舞台に立ってほしい、というのが彼らの希望だったのだ。

 

「まあ、そんなの綺麗事で裏では色々とお金が動いているみたいだけど。でもプロってそういうものだから。エヴァもわかるでしょ?」

 

 エヴァは何も言わずコクリと頷いた。確かにプロというものはそういうものかもしれない。それでも鈴が知りたかったのは周囲の人間の事情ではなく、あくまで天宮 遊希という一人の少女の気持ちだった。

 

「……遊希はどうなの?」

「私は……最初は突っぱねるつもりだった」

 

 遊希がプロを辞めた理由の最たるものが亡くした家族への贖罪の気持ちであった。自分がプロとして活躍して注目を浴びなければ家族四人で平穏な暮らしができていたかもしれない。自分が精霊使いのデュエリストとして脚光を浴びてしまったから両親、そして幼い妹は命を落とすことになってしまった―――そんなことはない、とわかっていても未だに遊希の中にはそんな気持ちが残っていたのだ。

 

「でもね、みんなと出会って思ったわ……辛いことも多かったけど、デュエルはやっぱり楽しいって」

 

 しかし、セントラル校に入学してから4か月経って遊希は様々なことを体験した。入学式で鈴とデュエルして倒れたこと、千春や皐月と親友になったこと、エヴァが編入してきたこと、謎の仮面の策略によって多くの友を傷つけられたこと。それらの思い出は全てが楽しいことだったわけではない。だが、今それらの思い出は遊希の心の中で宝石のようにキラキラと輝きを放っていた。

 

「だから一歩を踏み出そうと思ったの。みんなのために、そして自分のために」

「遊希……ごめん、あんたの気持ちも知らないでずかずかと」

「そんな、鈴たちがいてくれたから決心がついたのよ? だから、謝らないで……」

「遊希……!!」

 

 その言葉を聞いて、鈴たち四人が遊希に飛びつくように抱き着いた。突然抱き着かれた遊希は混乱した様子で周囲をきょろきょろと見回す。

 

「ちょっ、あんたたち! こんなところで……」

「……私、頑張って応援します!」

「そうよ、あんたは私の大事な親友なんだから! エキシビジョンマッチだろうがなんだろうが関係ない! ぶっぱなしちゃえ!」

「私もプロだが、プロの舞台で戦うあなたの姿をもう一度、見たかった」

「遊希、あたしたちはいつでもあんたの傍にいるよ。だから、一緒に歩こう?」

 

 四人の言葉を聞いた遊希は改めてその決意を固めるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

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