「……」
切り株に一人の少女が座っていた。少女は黒のフリルが目立つ所謂ゴスロリ風のドレスにぬいぐるみのようなものを抱きかかえては一人でじっと他の参加者を見つめていた。そんな少女に対して声をかけようとする者は少なからずいたが、人見知りする性格が災いしたのか、話が続かずすぐに何処かへ行ってしまう者がほとんどだった。
「ねえねえ、そんなところでキミは何してるの?」
少女が顔を上げると、そこにいたのは青色の髪をしたボーイッシュファッションが特徴的な美少女だった。両手を後ろ手で組んでフリフリドレスの少女の顔を覗き込むその顔はまさに興味津々、といった様相である。
「あ、あの……私は……」
「もしかしてまだ組む相手の人見つかってないとか? じゃあボクが一緒に探してあげるよ。あっ、ボクは藍沢 愛美(あいざわ まなみ)って言うんだ。宜しくね!」
「ボク?」
少女は愛美と名乗った少女のその一人称に違和感を覚える。ボーイッシュなファッションをしているが、顔立ちや髪型を見る限り彼女はれっきとした女性である。それなら何故男性が用いる一人称を使うのだろうか。
「ああ、ボクが自分のことをボクって呼ぶこと? んーとね……なんでだろうね?」
「えっ」
「物心ついた時からボクはボクのことをボクって呼んでたんだ。でもボクはボクだからそんなに気にしてないよ?」
「ボク」という言葉がゲシュタルト崩壊を起こしそうなほど並ぶ。愛美は少し変わっているところがあるかもしれないが、この人当たりの良さから集団で浮くことは無いのだろう。そう考えると今この場において他の人たちが楽しんでいるのを一人眺めているだけの自分とはまるで違う、と少女は思い知らされる。すると、愛美が突然フリフリドレスの少女の手を取った。
「えっ!?」
「ほら、そんなところにいつまでも座っていないでさ。一緒に探そうよ!」
「あっ、そんな引っ張らないで……」
愛美が少女を連れて行こうとした時、少女が抱きしめていたぬいぐるみが地面にポトリと落ちる。愛美が「ごめんごめん」と謝りながらその人形を手に取ると、愛美は目をキラキラと輝かせてぬいぐるみを掲げた。
そのぬいぐるみはリンクリボーをリアルに再現したぬいぐるみであった。このぬいぐるみは少女の母が自作したものなのであるが、裁縫上手ということもあり、既製品に勝るとも劣らない出来だったのである。
「このぬいぐるみ……」
「あ、あの……私、サイバース族のモンスターが大好きなんです」
そうこの少女こと二宮 橙季(にのみや ゆずき)はその外見に見合わず“サイバース族”のモンスターが何よりも大好きなのだ。しかし、同年代の女子に人気なのは【マドルチェ】や【トリックスター】といったイラストが可愛らしいカードであり、どちらかと言えば機械的なモンスターの多いサイバース族のモンスターが好きという人間はそれほど多くなかった。そのため元々引っ込み思案な橙季が唯一の得意分野であるサイバース族のモンスターについて話せる相手がいないため、自然と集団から孤立してしまったのである。
「女の子なのに……変ですよね?」
もじもじしながら訪ねる橙季に愛美が返した言葉は予想外のものだった。
「……凄い。こんなリアルなリンクリボーのぬいぐるみ初めて見たよ!」
「えっ、こういうの大丈夫なんですか?」
「うん。まあホラーは苦手なんだけどこの系統のものは大丈夫だよ? それにこんな大事そうに手入れされているのを見るとどれだけこのぬいぐるみが愛されているのかがわかるんだ」
「う、嬉しいです……今までそんなこと言われたことなかったから……」
橙季が不器用な笑顔を見せる。愛美はそんな彼女に対して「やっと笑ってくれた」と満面の笑みで返した。
*
一方、ここにも中々参加者に声を掛けることができないでいる人物がいた。皐月である。皐月も遊希と同じように自分から一緒にやろう、と気さくに話しかけられるタイプではない。周囲をきょろきょろと見回しながら参加者を探すその姿は事情を知らない者からしてみれば、ただの挙動不審な少女であり、それは敬遠されるに十分な理由であった。
「あのー」
しかし、そんな挙動不審な少女に声をかける者が一人。
「は、はいっ!」
緊張で返事が裏返った皐月が見たのは、ニコニコと笑う愛美と少し不安気な表情を浮かべる橙季だった。二人がこの場で出会ったばかりなことを知らない皐月はぎゅっと手を繋いでいる二人を見て、彼女たちは親友同士なのだろうか、と思った。
「ボクたち一緒に組んでくれる人を探しているんですけど……アカデミアの人ですよね?」
(ボク……?)
皐月もまた愛美の一人称である「ボク」に首を傾げる。いや、今大事なのはそこじゃないと自分に瞬時に言い聞かせた。
「は、はい。セントラル校1年生の織原 皐月と申します」
「そっか、よかったぁ。ボクは藍沢 愛美と言います。それでこの子は二宮 橙季ちゃん。実は橙季ちゃんがまだ組んでくれる人を見つけられていなかったんです。もし誰とも組む予定がないなら組んであげて欲しいんですけど……」
「わ、私なんかで良ければ……」
まさか向こう側からきてくれるとは。地獄に仏、とばかりに皐月が了承すると、何故か橙季よりも斡旋した愛美の方が「やった!」と嬉しそうに声を上げる。友達思いのいい子なのだろう、と思った皐月であるが、ここで彼女はあることにひっかかった。
「それじゃあ、橙季ちゃんのこと。宜しくお願いします!」
「あ……ちょっと待ってください。あなたはもうお相手がいらっしゃるんですか?」
「えっと、ボクはまだですけど」
「それだとあなたと組んでくれる人が見つからないのでは? 他の方に紹介するのは構いませんが、結果的に自分が……まあ原則アカデミアの学生につける参加者の方は一人までとなっていますが……」
それもそうだな、と考え込む愛美。何かを思いついた彼女は背中にしょっていたリュックからデュエルディスクとデッキを取り出した。
「じゃあデュエルで決めるっていうのはどうかな? 勝った方が織原さんと組むって感じで」
「えっ……わ、私は別に構いませんけど……」
成り行きに任せるまま、愛美と橙季のデュエルが始まろうとしていた。
先攻:愛美
後攻:橙季
愛美 LP4000 手札5枚
デッキ:35 メインモンスターゾーン:0 EXゾーン:0 魔法・罠(Pゾーン:青/赤):0 墓地:0 除外:0 EXデッキ:15(0)
橙季 LP4000 手札5枚
デッキ:35 メインモンスターゾーン:0 EXゾーン:0 魔法・罠(Pゾーン:青/赤):0 墓地:0 除外:0 EXデッキ:15(0)
☆TURN01(愛美)
「先攻はボクだね! ボクは手札から《トリックスター・キャンディナ》を召喚!」
《トリックスター・キャンディナ》
効果モンスター(準制限カード)
星4/光属性/天使族/攻1800/守400
(1):このカードが召喚に成功した時に発動できる。デッキから「トリックスター」カード1枚を手札に加える。
(2):このカードがモンスターゾーンに存在する限り、相手が魔法・罠カードを発動する度に相手に200ダメージを与える。
(なるほど、藍沢さんは【トリックスター】デッキなんですね。トリックスター……あれ……?)
このデュエルにおいて橙季が皐月とパートナーになるためには橙季が愛美に勝つ必要がある。しかし、先攻を取った愛美のデッキは【トリックスター】。天使族のモンスターで統一されたテーマであり、デッキコンセプトで言えばバーンダメージを多用する。
(これ、もう結果が見えてしまっているのでは……?)
「ボクは召喚に成功したキャンディナの効果でデッキからフィールド魔法の《トリックスター・ライトステージ》を手札に加える! そして今手札に加えたライトステージを発動!」
《トリックスター・ライトステージ》
フィールド魔法
(1):このカードの発動時の効果処理として、デッキから「トリックスター」モンスター1体を手札に加える事ができる。
(2):1ターンに1度、相手の魔法&罠ゾーンにセットされたカード1枚を対象として発動できる。このカードがフィールドゾーンに存在する限り、セットされたそのカードはエンドフェイズまで発動できず、相手はエンドフェイズにそのカードを発動するか、墓地へ送らなければならない。
(3):自分フィールドの「トリックスター」モンスターが戦闘・効果で相手にダメージを与える度に、相手に200ダメージを与える。
「ライトステージの発動時の効果処理として、ボクはデッキから《トリックスター・リリーベル》を手札に加えるよ! ドロー以外の方法で手札に加わったリリーベルの効果を発動! この効果でリリーベルは特殊召喚できる!」
《トリックスター・リリーベル》
効果モンスター
星2/光属性/天使族/攻800/守2000
このカード名の(1)の効果は1ターンに1度しか使用できない。
(1):このカードがドロー以外の方法で手札に加わった場合に発動できる。このカードを手札から特殊召喚する。
(2):このカードは直接攻撃できる。
(3):このカードが相手に戦闘ダメージを与えた時、自分の墓地の「トリックスター」モンスター1体を対象として発動できる。そのモンスターを手札に加える。
「そしてボクは手札の《トリックスター・マンジュシカ》の効果を発動するよ!」
《トリックスター・マンジュシカ》
効果モンスター
星3/光属性/天使族/攻1600/守1200
(1):手札のこのカードを相手に見せ、「トリックスター・マンジュシカ」以外の自分フィールドの「トリックスター」モンスター1体を対象として発動できる。このカードを特殊召喚し、対象のモンスターを持ち主の手札に戻す。この効果は相手ターンでも発動できる。
(2):このカードがモンスターゾーンに存在する限り、相手の手札にカードが加わる度に、加えたカードの数×200ダメージを相手に与える。
「手札のこのカードを相手に見せて、マンジュシカ以外のトリックスターモンスター1体を対象として発動! マンジュシカを特殊召喚して、対象にしたリリーベルを手札に戻すよ! ボクはカードを3枚セットしてターンエンド!」
愛美 LP4000 手札1枚
デッキ:33 メインモンスターゾーン:2(トリックスター・キャンディナ、トリックスター・マンジュシカ)EXゾーン:0 魔法・罠(Pゾーン:青/赤):3(トリックスター・ライトステージ)墓地:0 除外:0 EXデッキ:15(0)
橙季 LP4000 手札5枚
デッキ:35 メインモンスターゾーン:0 EXゾーン:0 魔法・罠(Pゾーン:青/赤):0 墓地:0 除外:0 EXデッキ:15(0)
愛美
□伏伏伏□
□□キマ□ラ
□ □
□□□□□□
□□□□□
橙季
○凡例
ラ・・・トリックスター・ライトステージ
キ・・・トリックスター・キャンディナ
マ・・・トリックスター・マンジュシカ
(トリックスターのキーカードといえば《トリックスター・リンカーネーション》ですが……あのカードは制限カードです。ライトステージの効果で手札に加えなかったということは、あのセットカードの中にあるのかそれとも……)
☆TURN02(橙季)
「私のターン、です! ドロー!」
「今ドローしたね? ということでマンジュシカの効果を発動! マンジュシカの効果でドロー1枚につき200のダメージを受けてもらうよ!」
橙季 LP4000→3800
「そしてトリックスターモンスターが戦闘・効果でダメージを与えたことでライトステージの効果を発動! さらに200のダメージを与える!」
橙季 LP3800→3600
「っ……私は手札から《レディ・デバッガー》を召喚します!」
《レディ・デバッガー》
効果モンスター(制限カード)
星4/光属性/サイバース族/攻1700/守1400
このカード名の効果は1ターンに1度しか使用できない。
(1):このカードが召喚・特殊召喚に成功した場合に発動できる。デッキからレベル3以下のサイバース族モンスター1体を手札に加える。
「召喚に成功したレディ・デバッガーの効果を発動します! デッキからレベル3以下のサイバース族モンスター1体を手札に加えます!」
「ボクはその効果にチェーンしてリバースカードを発動するよ! 罠カード《トリックスター・リンカーネーション》!」
「!?」
《トリックスター・リンカーネーション》
通常罠(制限カード)
(1):相手の手札を全て除外し、その枚数分だけ相手はデッキからドローする。
(2):墓地のこのカードを除外し、自分の墓地の「トリックスター」モンスター1体を対象として発動できる。そのモンスターを特殊召喚する。
「まだまだ! リンカーネーションにチェーンして罠カード《仕込みマシンガン》を発動! そして仕込みマシンガンにチェーンして速攻魔法《連鎖爆撃(チェーン・ストライク)》を発動!」
《仕込みマシンガン》
通常罠
(1):相手の手札・フィールドのカードの数×200ダメージを相手に与える。
《連鎖爆撃(チェーン・ストライク)》
速攻魔法(準制限カード)
チェーン2以降に発動できる。このカードの発動時に積まれているチェーンの数×400ポイントダメージを相手ライフに与える。同一チェーン上に複数回同名カードの効果が発動している場合、このカードは発動できない。
チェーン4(愛美):連鎖爆撃
チェーン3(愛美):仕込みマシンガン
チェーン2(愛美):トリックスター・リンカーネーション
チェーン1(橙季):レディ・デバッガー
「えっ? えっ? えっ?」
(こ、これは……えげつないです)
「チェーン4の連鎖爆撃の効果で、ボクはこのカードの発動時に積まれているチェーンの数×400のダメージを与える! チェーンは4だから1600のダメージ!」
橙季 LP3600→2000
「チェーン3の仕込みマシンガンの効果で橙季ちゃんの手札・フィールドのカードの数×200のダメージを与えるよ!」
橙季 LP2000→1000
「チェーン2のトリックスター・リンカーネーションの効果で橙季ちゃんの手札を全て除外して、その枚数分ドローしてもらうよ! 橙季ちゃんの手札は4枚だから、4枚ドローして!」
「チ、チェーン1のレディ・デバッガーの効果で私はレベル1の《マイクロ・コーダー》を手札に加えます……」
「マンジュシカの効果! リンカーネーションの効果でドローした4枚とレディ・デバッガーの効果で手札に加わったマイクロ・コーダーの合計分、5枚×200のダメージを受けてもらうよ!」
橙季 LP1000→0
*
「やったぁ! ボクの勝ちだよ!」
ライフ4000ルールで猛威を振るう【チェーンバーン】の要素を取り入れた【トリックスター】デッキの本領を発揮したデュエル。橙季はただモンスター1体を召喚するだけでデュエルに敗れてしまったことになる。愛美のデュエルの戦術自体は見事なものだったが、このデュエルを見守っていた皐月には頭の痛くなる悩みがまた一つ増えてしまった。
「藍沢さん、お見事な勝利でした」
「はい、ありがとうございます!」
「……ただ……」
「ただ?」
「藍沢さんが勝ってしまうと二宮さんではなくあなたが私と組むことになってしまうのでは……?」
皐月のその言葉を聞いた瞬間、愛美の顔が瞬く間に真っ青になる。ここでの初デュエルにテンションが上がった愛美はそのことをすっかり忘れてしまっていたのだ。
「ど、どうしよう……ボクすっかり舞い上がって……」
「あ、あの、織原さんと組むのは藍沢さんでいいから……」
「でもそれだと……ボク、ボク……」
皐月は思わず天を仰いだ。このまま自分がどちらか一人を選び、選ばれなかった方にはさようならをすれば一応の解決にはなる。それでもそんな解決方法ではどちらも傷ついてしまうし、何より自分なんかに声をかけてくれた二人の少女を悲しませることで皐月自身も後悔するだろう。
「……二人とも、落ち着いてください」
「織原さん……」
「少し時間を頂けますか? 私が、なんとかしますから」
泣きそうな愛美とそんな愛美を心配そうに見つめる橙季。そんな二人に皐月は心配はいらない、と優しく語り掛ける。そこには先ほどまで相手を見つけられずおどおどしていた少女の姿はない。二人を優しく見守れるだけの強さを秘めた表情の皐月がいた。