銀河の竜を駆る少女   作:Garbage

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涙を流した決闘者

 

 

 

「元気出しなさいよ鈴! 悔やんだところで過去は変わらないわよ!」

「鈴さん、誰にでも失敗はありますから……」

 

 ロッジのリビングに置いてある大きなソファの上で膝を立ててはそこに顔を押し付けている鈴。顔は見えないが、部屋の空気や千春と皐月の慰めの言葉から察するに鈴は何かしらのミスを犯してしまったようだった。

 

「おい、いったい鈴に何があったんだ?」

「あ、おかえりエヴァ。あのね……鈴が色々とやらかしちゃって」

「やらかした?」

「これ、やらかしで済むレベルかしら。鈴ったらデュエルした中学生の女の子たちを泣かしちゃったんだって」

 

 遊希曰く、鈴は開会式から正午までの間に四人の女子中学生デュエリストとデュエルをしたのだが、その四人を完膚なきまでに叩きのめし、全員を泣かしてしまったという。アカデミアの学生と小中学生たちの交流を図るイベントに参加しているのにも関わらず、その理念を真っ向から否定するその行動は鈴自身が誰よりも尊敬する父であり、デュエリストである竜司の顔に泥を塗るような行為であったのだ。

 

「だ、だが鈴は何の理由もなくそういうことをするとは思えないんだが……」

「……それについては聞いたんだけど、この子いっこうに話そうとはしないのよ」

「理由も何もないし。あたしがデュエルで気に入らない奴らを叩きのめしちゃった。それだけだよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(あれ、あたしみんなに避けられてる?)

 

 時はイベント開始直後に遡る。自分は遊希やエヴァほど有名人でもなければ、皐月のような引っ込み思案でも千春のようなゴリゴリに攻めていくタイプでもない。少なくともこの五人の中では一番とっつきやすいタイプである、と自己分析していた。しかし、その見通しはやはり甘かった。

 星乃 鈴という少女もまたあの星乃 竜司から【青眼】のカードおよびデッキを受け継いだ日本デュエリスト界でも期待の星の一つであり、遊希やエヴァほどの露出はなくとも十分にその名は知れ渡っていた。そして何より、自身のその派手な金髪が災いし、経歴と見た目のダブルパンチで他の参加者たちを敬遠させてしまっていたのだ。

 

「あれ、あそこでデュエルしてる」

 

 相手が寄ってこないのであれば、自分から探しに行くべきではないか。そう思った鈴は参加者同士のデュエルを見て、そこで自分とパートナーになってくれるデュエリストを探すことにした。参加者同士でデュエルしているのを見ることで、そのデュエリストの力量を測ることができる。ずぶの初心者を教えるのもそうだが、ある程度の実力や未来を感じさせるデュエリストに教えるのもまた教え甲斐があるというものだ。

 

「ん、あの子とか……どうかな?」

 

 野次馬の後ろからデュエルを覗き見る鈴。デュエルをしていたのは二人の少女デュエリストであったが、戦況は一方的だった。

 

「これで終わりです。《ブラック・マジシャン》でダイレクトアタック!」

 

 黒髪のストレートヘアーに青い瞳が特徴的な少女が操るブラック・マジシャンの直接攻撃が決まり、相手の少女のライフが0になる。あの少女は何者か、と思った鈴は近くにいた少年たちに話を聞くことにした。鈴の姿を見た少年たちは最初はかなり驚いた様子であったが、少女のデュエルを1戦目から見ていたこともあって、彼女のデュエルを事細かに教えてくれた。

 通常モンスターでありながらサポートカードの多い【ブラック・マジシャン】デッキを使っている少女は3戦して3勝と圧倒的な強さを見せており、取り分け《黒の魔導陣》や《永遠の魂》といったカードとのコンボで相手の戦略を崩しつつ、反撃の隙を与えなかったという。

 

(【ブラック・マジシャン】はあのデュエルキング・武藤 遊戯の忠実なるしもべ。古いカードだけど、サポートカードが豊富だから効果を持たない通常モンスターといってもかなりの強さを持っているのよね……なんでそんな実力のある子がこのイベントに参加しているのかしら)

 

 鈴が疑問に思っていると、徐々に彼女の周りが慌ただしくなっているのに気付いた。何だろうと思って周囲を見渡すと、それまで少女のデュエルを見ていた野次馬が一斉に鈴に気付いたのである。間近で見る鈴の姿に戸惑う者や目をキラキラと輝かせる者からひそひそ話をしている者までその反応は三者三様といった形だった。そんな時、それまでデュエルをしていたブラック・マジシャン使いの少女が鈴の元へと近づいてきた。

 

「あの……あなたは星乃 鈴さんですよね? あの星乃 竜司さんの娘の」

「ええ。そうだけど」

「そうですか……あなたが……」

 

 少女は顎に手を当てて考え込み、そして鈴の目をまっすぐに見つめて言った。

 

「星乃 鈴さん。私とデュエルをしてください」

「……あたしと?」

「はい。私はもっと自分を高めたいんです。ですが、ここにいるのはみんなそれほど力のないデュエリストばかり……あなたのような実力のあるデュエリストとデュエルをしてこそ本当に実力を確かめることができるんです」

 

 思わぬデュエルの申し出だが、デュエルを断る理由は鈴にはない。ただ、鈴はこの少女がどこか他者を見下したような目をしているのが気になった。

 

「うん。いいよ、あたしで良ければ。えっと……」

「私は青山 紫音(あおやま しおん)と言います。では、よろしくお願いします。星乃 鈴さん」

 

 

先攻:鈴

後攻:紫音

 

鈴 LP4000 手札5枚

デッキ:35 メインモンスターゾーン:0 EXゾーン:0 魔法・罠(Pゾーン:青/赤):0 墓地:0 除外:0 EXデッキ:15(0)

紫音 LP4000 手札5枚

デッキ:35 メインモンスターゾーン:0 EXゾーン:0 魔法・罠(Pゾーン:青/赤):0 墓地:0 除外:0 EXデッキ:15(0)

 

 

☆TURN01(鈴)

 

「先攻はあたしだけど……本当にそれでいい?」

 

 デュエルディスク内蔵コンピューターによって、先攻後攻の決定権を得たのは鈴だった。最初は紫音に先攻を譲ろうとした鈴であったが、紫音がそれを断ったためこうしていつも自分たちがやっているような方法で先攻後攻を決める運びになった。

 

「構いませんよ。先攻であっても後攻であってもやるデュエルは変わりませんから」

「そっか。あたしは魔法カード、ドラゴン・目覚めの旋律を発動!。手札1枚をコストにデッキから攻撃力3000以上守備力2500以下のドラゴン族モンスター2体を手札に加える。チェーンはある?」

「ありません。処理してください」

「わかった。じゃあ効果を処理するわ。手札の伝説の白石をコストにデッキからブルーアイズ・カオス・MAX・ドラゴンと闇黒の魔王ディアボロスを手札に加える。墓地に送られた伝説の白石の効果を発動。デッキから青眼の白龍1体を手札に加える。そしてディアボロスをコストにトレード・イン発動。デッキから2枚ドローする。そしてマンジュ・ゴッドを召喚! 召喚に成功したマンジュ・ゴッドの効果を発動するわ!」

 

 ドラゴン・目覚めの旋律に発動してチェーンするカードがなかったということは、サーチカード全般に作用する灰流うららは手札にないと思われる。それならばマンジュ・ゴッドの効果も問題なく発動していいだろう。そうとわかれば行けるところまで行くだけだ。

 

「マンジュ・ゴッドの効果であたしはデッキから儀式魔法、高等儀式術を手札に加えるわ。そして手札から高等儀式術を発動。デッキのレベル8・通常モンスターの青眼の白龍をリリースして手札からブルーアイズ・カオス・MAX・ドラゴンを儀式召喚!」

 

 鈴のエースにして切り札でもあるブルーアイズ・カオス・MAX・ドラゴンが早くも降臨する。守備力こそ0であるが、その攻撃力は4000。そして貫通効果および貫通ダメージ倍増の効果からライフ4000のこのルールでは守備力2000以下の壁モンスターを戦闘破壊するだけでデュエルが終わる。故に通常のデュエル以上に強力なモンスターである。

 

「まだまだ行くわよ! 手札からもう1枚儀式魔法、カオス・フォームを発動。墓地の青眼の白龍を除外して青眼の混沌龍を儀式召喚! あたしはカードを1枚セットしてターンエンド」

 

 

鈴 LP4000 手札1枚

デッキ:28 メインモンスターゾーン:3(ブルーアイズ・カオス・MAX・ドラゴン、青眼の混沌龍、マンジュ・ゴッド)EXゾーン:0 魔法・罠(Pゾーン:青/赤):1 墓地:6 除外:1 EXデッキ:15(0)

紫音 LP4000 手札5枚

デッキ:35 メインモンスターゾーン:0 EXゾーン:0 魔法・罠(Pゾーン:青/赤):0 墓地:0 除外:0 EXデッキ:15(0)

 

 □□□□伏

 □マM混□□

  □ □

□□□□□□

 □□□□□

紫音

 

 

☆TURN02(紫音)

 

「私のターン、ドローです」

(よし、この手札なら……)

 

 紫音が鈴に挑みかかったのには理由がある。それは勝てるだけの自信があったからだ。何度もこのデッキでデュエルをし、様々な戦術パターンを脳内で組み立てた。自分のデュエルができれば負けることは無い。

 

「あ、スタンバイフェイズにリバースカードを発動するわ」

 

 しかし、自分のデュエルができれば負けることがないのは紫音に限った話ではない。そしてデュエルに勝つためには如何にして相手に自分のデュエルをさせないか、ということにあった。

 

「……えっ?」

「攻撃力3000の青眼の混沌龍をリリースし、罠カード《闇のデッキ破壊ウイルス》を発動!」

 

《闇のデッキ破壊ウイルス》

通常罠

(1):自分フィールドの攻撃力2500以上の闇属性モンスター1体をリリースし、カードの種類(魔法・罠)を宣言して発動できる。相手フィールドの魔法・罠カード、相手の手札、相手ターンで数えて3ターンの間に相手がドローしたカードを全て確認し、その内の宣言した種類のカードを全て破壊する。

 

「えっ、闇の……デッキ破壊ウイルス? えっ……?」

「あたしは魔法カードを指定するわ。確認するから手札見せて」

「……」

 

 呆然とした紫音が見せたドローカードを含めた6枚の手札の内訳は《黒の魔導陣》《イリュージョン・マジック》《ルドラの魔導書》《テラ・フォーミング》の魔法カード4枚と《マジシャンズ・ナビゲート》の罠カード1枚、そして《幻想の見習い魔導師》のモンスター1体だった。

 本来【青眼】は光属性のデッキであるが、鈴がメインで使う儀式モンスターの青眼は2体とも高攻撃力の闇属性である。そのためウイルスカードとの相性は決して悪くはない。また、遊希・千春・皐月・エヴァの四人はそれぞれのデッキにキーカードとなる魔法カードが存在しているため、四人とのデュエルをした場合にそのカードを先攻で封じられるように、という思惑の下このカードを入れていたのだ。

 

「じゃあ手札の黒の魔導陣、イリュージョン・マジック、ルドラの魔導書、テラ・フォーミングを破壊するわ。そして闇属性モンスターがリリースされたことで墓地のディアボロスの効果を発動! このカードを墓地から特殊召喚する!」

「闇のデッキ破壊ウイルス……な、なんでそんなカードが……あっ、えっと……」

 

 想定外の動きだったのか、数秒前までの冷静さは失われた紫音は軽いパニック状態に陥ってしまっていた。今の彼女は猛獣の檻に入れられた子犬のように目を泳がせている。その様はとても弱々しく、対峙している鈴でさえも不安に思ってしまうほどだった。

 

「ねえ、あなた大丈夫?」

「だ、大丈夫です……えっと、手札1枚を墓地へ送って幻想の見習い魔導師を特殊召喚します」

 

《幻想の見習い魔導師》

効果モンスター

星6/闇属性/魔法使い族/攻2000/守1700

(1):このカードは手札を1枚捨てて、手札から特殊召喚できる。

(2):このカードが召喚・特殊召喚に成功した場合に発動できる。デッキから「ブラック・マジシャン」1体を手札に加える。

(3):このカード以外の自分の魔法使い族・闇属性モンスターが相手モンスターと戦闘を行うダメージ計算時、手札・フィールドのこのカードを墓地へ送って発動できる。その自分のモンスターの攻撃力・守備力はそのダメージ計算時のみ2000アップする。

 

「……特殊召喚に成功した幻想の見習い魔導師の効果を発動します。デッキから、ブラック・マジシャンを手札に加えます。私は……ターンエンドです……」

 

 紫音のデッキは通常モンスターであるブラック・マジシャンを様々な魔法・罠カードでサポートして戦うデッキだ。しかし、そのサポートを行うためのカードを失った以上もはや手足を捥がれたも同然だった。

 そして攻撃力2000の幻想の見習い魔導師を特殊召喚しておきながら、攻撃力1400のマンジュ・ゴッドに攻撃すら仕掛けない。それは紫音が戦意を失ってしまっていることの表れだった。

 

 

鈴 LP4000 手札1枚

デッキ:28 メインモンスターゾーン:3(ブルーアイズ・カオス・MAX・ドラゴン、闇黒の魔王ディアボロス、マンジュ・ゴッド)EXゾーン:0 魔法・罠(Pゾーン:青/赤):0 墓地:7 除外:1 EXデッキ:15(0)

紫音 LP4000 手札1枚

デッキ:33 メインモンスターゾーン:1(幻想の見習い魔導師)EXゾーン:0 魔法・罠(Pゾーン:青/赤):0 墓地:5 除外:0 EXデッキ:15(0)

 

 □□□□□

 □マM闇□□

  □ □

□□□幻□□

 □□□□□

紫音

 

○凡例

幻・・・幻想の見習い魔導師

 

 

☆TURN03(鈴)

 

「あたしのターン、ドロー。悪いけど、これで終わりよ! バトル! 闇黒の魔王ディアボロスで幻想の見習い魔導師を攻撃!」

 

闇黒の魔王ディアボロス ATK3000 VS 幻想の見習い魔導師 ATK2000

 

紫音 LP4000→3000

 

「ブルーアイズ・カオス・MAX・ドラゴンでダイレクトアタック!“混沌のマキシマム・バースト”!」

 

ブルーアイズ・カオス・MAX・ドラゴン ATK4000

 

紫音 LP3000→0

 

 

 

「えっと、あたしの勝ちね。デュエルをして色々とわかったんだけど……」

 

 デュエル終了後、鈴は紫音に手を差し伸べようとするが、紫音はその手を叩く。鈴が驚いた様子を見せると、紫音は目に涙を溜めながら、何も言わずに走り去ってしまった。

 

(……あたし、なんか酷いことしちゃったかしら)

 

 小さく首を傾げる鈴がデュエルディスクを収納して別の場所に行こうとした時、近くにいた少女たちがクスクスと意地の悪い笑みを浮かべているのに気が付いた。少女たちはいずれも紫音にデュエルで敗れた者たちである。はっきりとは聞こえなかったが、彼女たちは鈴に惨敗した紫音の悪口を言っていたように聞こえた。

 

(まさか……)

「ねえ、ちょっといい?」

 

 鈴は事情を知ると思われる少女たちに声をかけた。一度デュエルをしただけではあるが、何故か紫音のことが気になって仕方無かったのである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 鈴が頑なに理由を話さない理由。それは紫音の存在があった。鈴は紫音とデュエルをした後、デュエルに敗れた結衣のことを陰で笑っていた3人の女子中学生を問い詰めた。彼女たちによると、彼女たちは紫音と同じ中学校なのだが、成績優秀・品行公正と教師からは好かれるいわゆる「優等生」であるという。しかし、彼女は自分が目下と判断した者を見下す傾向にあるようで、それはデュエルにおいても変わらず、容姿端麗ということもあって特に女子からはかなりの反発を受けていたようである。

 

「だってあの子いっつも私たちのことバカにするんだもん! いい気味よ!!」

 

 そして少女たちはまたしても紫音にデュエルに敗れ、怒りの矛先を向ける先を探していたところ、調子に乗っていた紫音が鈴に負けて泣きながらその場を立ち去るのを見て笑いを堪えることができなかったようだった。

 

「そうだったんだ……」

 

 鈴はその話が事実なら紫音の行動はとても褒められたものではないし、女子中学生たちの怒りももっともだ、と思った。しかし、自分が星乃 鈴と知りながらデュエルを真正面から挑んできた彼女のデュエリストとしての覚悟を冒涜する少女たちの言動を許すこともできなかった。

 

「ねえ、もし良かったらあなたたちもあたしとデュエルをしてくれない?」

「えっ……」

「あの子を笑うんだったらさ……実際にあたしとデュエルをして勝ってからにしてよね?」

 

 そして鈴は1のダメージも受けることなく、少女たちを叩きのめしてしまった。それが広まって遊希たちの耳に入ったのである。ここで遊希たちに事の顛末を話してしまえば遊希たちはきっと鈴を庇ってくれるだろう。それでも、決して他人には知られたくない姿を見られた紫音の名誉のためにも鈴はここで紫音のことを喋ってはいけない、と思っていた。悪者になるのは自分一人でいい、という覚悟を胸に秘めながら。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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