銀河の竜を駆る少女   作:Garbage

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心中燃える決闘者

 

 

 

 

 

 

「戻ったよー、あたしも手伝うね」

 

 遊希を連れて別室に消えた鈴が戻ってきたのは意外と早く、30分経つか経たないかというタイミングだった。本当はもっと長く責めてやりたかったのだが、さすがに飽きてしまったため、早めに切り上げることにした。それでも正座させて言葉責めにした甲斐もあってか、足が痺れて一歩たりとも動けなくなった遊希の足を踏んづけ、悶絶する様子を見て鈴は満足したようだった。

 

「あっ、鈴! ちょうどよかった。野菜を切るのを手伝って! 人数分切るの大変なのよ」

「鈴さぁん……ぐすっ」

 

 ピーラーで器用にジャガイモの皮を剥く千春の横では玉ねぎ相手に苦戦する皐月の姿があった。玉ねぎを切ろうとすると涙が出る、というのは玉ねぎに含まれたガスが発生し、人間の目や鼻の粘膜を刺激するためである。

 玉ねぎを調理する際に水に浸しながら切る、などといった対処法はあるものの、まさかここまで辛いと思っていなかった皐月は何も対策をせずに調理を始めてしまったのだ。

 

「ったく、代わって皐月。玉ねぎは私がやるから」

「はい……ありぎゃとうごじゃいます……」

 

 備え付けのティッシュで涙を拭いた皐月はニンジンの皮むきに移る。野菜の皮むきや調理に夢中になってキッチンはしばらく無言になる。三人はすっかり気心の知れた仲なので、この沈黙は苦痛にはなり得ない。ただ、そうなるとそうなるで沈黙が何処か寂しくなった千春がここにいない遊希のことに気付く。

 

「そういや遊希は? ずっと一緒だったんでしょ?」

「あっちで倒れてる。痺れた足を思いっきり踏んづけてやったからね」

「だからさっきから悲鳴が……」

 

 そう言ってニヤリと笑う鈴の顔はやはりかなりの邪気を纏っている感じだった。実際問題彼女自身もかなり根に持つタイプらしいが。

 

「しかし、遊希にあんな性癖があったとはね。今のうちに何とかしておかないと後々地下送りに……」

「もう、大概にしなさいよあんたたち」

 

 遊希に対してあることないことを言いふらす鈴に対し、千春はまるで姉妹喧嘩を適当にあしらう母親のように返す。ちなみにこの場にいないエヴァと参加者の面々は食事用テーブルの掃除や食器並べなどの作業を担当していた。それでも未来が手足をぷるぷると震わせながら皿を運ぼうとするなどしたため、最年長のヴェートが未来の面倒を見ているという。

 

「ねえねえ、カレーの味付けどうする?」

「小さな子もいますし、甘口でいいのではないでしょうか……?」

「一応甘口・中辛・辛口、と三種類のルーは揃っているわね。まあ甘口が無難よね」

「じゃあ切った野菜と肉を鍋に入れて茹でるわよ! 茹で上がるまでにルーを出しておきましょう。えーと、十一人分だから……1箱で四人前のルーだとだいたい2.5箱分ね」

「千春さんは本当に手際が良いですね……羨ましいです」

「まあお母さんの手伝いをよくやってたからね。何事も慣れよ」

「そうよね、誰だって最初は下手くそだけど経験を積んで上手くなる。デュエルも一緒だね」

 

 何故料理をデュエルに例えるのか、と思われるがこのイベントに参加している小中学生はほとんどが初心者である。初心者といってもルールがわからない完全なる初心者からデュエルの経験が少ない初心者までその幅はとても広い。

 しかし、それだけ幅広い初心者といっても全員に共通していることがある。それこそ「デュエルの経験が少ない」ということだ。今ここにいる誰もが最初はデュエルが弱かった。遊希やエヴァのように元々才能があった少女であっても、鈴や千春、皐月のように才能よりも努力でのし上がってきた少女であっても、デュエルと試行錯誤を重ねることで成長してきた。

 そしてそれらの成長は経験を積むことで初めてもたらされるものなのだ。遊希たちはデュエルの技術もそうだが、実践を通してパートナーの育成に繋げなければならなかった。

 

「あたしたちも頑張ろう? 自分たちが学んできたことを出来る限りあの子たちに教えてあげるんだから」

「そうね!」

「このイベントに参加したことをいい思い出にしてもらいたいですね」

 

 鈴たちが決意を新たにした時、足の痺れが取れた遊希がふらふらとキッチンに姿を現した。鈴は遊希の顔を見るや否やふん、と不機嫌そうに一瞥する。

 

「あら、戻ってくるのがだいぶ早いわねロリ宮さん」

「誰がロリよ。この国に存在しない苗字を勝手に作らないで」

「ほらほら喧嘩なら外でやりなさいよー」

 

 目には見えないが、バチバチと火花が散るのがわかる。こんなところでまで喧嘩されてはたまらない、と感じた千春はすぐに二人に釘を刺す。

 

「喧嘩じゃないし。本音をぶつけ合ってるだけだし」

「そうよ。私を未来ちゃんに取られた鈴が嫉妬してるだけなんじゃないかしら?」

「あはは……」

 

 喧嘩するほど仲がいい、という事例を実際に目の当たりにした皐月は苦笑い。するとあとはカレーのルーを入れるだけとなったため、千春が最後の仕上げを担当することとなり、遊希たちは居間でカレーが完成するまで待機することになった。

 居間では掃除を終えたエヴァがテーブルの上にカードを広げていた。やはり彼女もデュエリスト。頭の中は四六時中カードのことばかりである。

 

「あれ、他のみんなは?」

「紫音、華、愛美、橙季の四人は2階で自分たちの荷物を整理している。未来とヴェートはあっちで絵本を読んでいるぞ」

「絵本? ここってそんなものまで備え付けられてるの?」

 

 このロッジ村の管理人は老夫婦であるのだが、元々一部のロッジを家族向けに貸し出していた時期もあったという。親子連れ、取り分け幼い子供を連れて利用する家族が多く、そんな子供を対象とした絵本を設置した名残でまだ数冊残っているという。絵本の種類は新旧広く取り揃えられており、遊希たちの世代が子供の時に読んだことのあるものが多く見つかりそれを懐かしむ。

 

 

『はらぺこプチモス』……《プチモス》が葉っぱを食べ続けて《究極完全態グレート・モス》になるまでの過程を描いた仕掛け絵本

『ないたバーバリアン1号』……人と仲良くなりたい《バーバリアン1号》。そんな彼のために友達の《バーバリアン2号》があることをするという考えさせられる絵本

『ドリとラゴ』……2体の《ドリラゴ》のドリとラゴの日常を描いた絵本

『100万回召喚された金華猫』……デュエルで召喚され続ける《金華猫》を描いた哲学的な絵本

『ごんきつね火』……悪戯好きの《きつね火》「ごん」はある日村に住む若者の取った魚を盗んでしまう。小学校の教材にも用いられている物語。

『ゴブリンと白き霊龍』……金持ちのゴブリンの営む工場に現れた《白き霊龍》。ゴブリンはそんな白き霊龍を騙して働かせることに。

『スーホのサンダー・ユニコーン』……とある騎馬民族デュエリストが出会ったのは雷を宿した馬だった。こちらもごんきつね火同様に小学校の国語の教科書に載っていることが多い絵本。

『おおあらしのよるに』……全てを吹き飛ばす大嵐の夜に出会った2体のモンスターの友情を描く人気シリーズの絵本。

 

 

「さすが十一人宿泊できるロッジだけあるわね」

「それだけアカデミアも力を入れているということですね。もっと私たちも頑張らないと……」

「そう言えばこのロッジの間取りを確認していなかったな。いざという時の避難経路も確認しておく必要があるな」

「そういうことが起こらないように気を付けますが、念には念を入れておきたいですね。私も一緒に行きます」

 

 そう言って皐月とエヴァは2階へと上がっていった。2階には紫音たちの寝泊まりする部屋があるため、指導をする者として間取りを見ておきたいのだとか。やはり根が真面目な皐月のその姿勢には学ばされるものが多いと遊希と鈴は感じた。そんな中、広いリビングに二人きりになった遊希と鈴は互いに何も言わずソファに座る。

 二人は初めは互いに別の方向を向いていたが、しばらくして鈴の右手に遊希の左手が触れるのを感じた。鈴は少し驚いたが、特に声に出すことは無かった。その直後に遊希が口を開く。

 

「……あの」

「うん?」

「さっきは……ごめんなさい。必要以上に詰ってしまって」

「ああ……別にいいわよ。あたしが悪いんだから」

「でもあの時……ちゃんと話してくれてたら、あんなに怒らなかったわ。私だって……その場にいたらあなたと同じようなことしてたかもしれないし。でも、紫音を守るためとはいえ、私たちを信じて正直に話してほしかった」

 

 遊希の中には鈴が正直に事の経緯を話してくれなかったことに対するもどかしさもあった。もし全てを洗いざらい話してくれていれば、何かしら力になることができたかもしれない。親友でありルームメイトである自分を頼って欲しかったのだ。

 

「……こんなところにまで来て問題を起こして……パパの足引っ張ってばかりだよね、あたし」

「竜司さんはそんな風に思っていないわ。だからもっと自分を大事にしてね」

 

 遊希と鈴は互いに顔を合わせることなく、別の方を向いたまま喋っていた。しかし、顔を合わせずとも遊希の声色から彼女が悲しんでいることはわかった。

 

「……遊希」

「何?」

「その……これからは、気を付けるよ。だから笑って。さっきも言ったでしょ? あんたには怒った顔も悲しい顔も似合わない。笑った顔が一番魅力的なんだから。だから笑顔でいて」

「……なによそれ? 口説き文句?」

「へへっ、どうかな?」

 

 すると、キッチンから千春の遊希たちを呼ぶ声が聞こえた。カレーができ上がったため、盛り付けを頼みたいとのことである。遊希と鈴はキッチンへと向かい、降りてきた皐月とエヴァは2階の参加者たちに昼食ができた旨を伝えるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「何これ、超美味しいやん!」

 

 千春の作ったカレーを口に入れた華が率直な感想を述べる。所詮市販のものなので、本格的なカレー屋で出すものには到底及ばないのだが、料理の腕には自信のある千春である。用意された食材で自分のできる限り拘ったカレーを作り上げた。

 

「そう言ってもらえると作った私も嬉しいわ! もしなんだったら料理のコツを教えてあげてもいいのよ!」

「じゃあ夜にでも教わろうかなぁ……ボク、そんなに料理上手くないんだ」

「わ、私も教えて貰っていいですか?」

 

 カレーの味が気に入ったのは華だけではなく、紫音や愛美は千春に弟子入りを志願するほどであった。

 

「これで背が高かったら」

「これで胸が大きかったら」

「これでもう少しお淑やかでしたら……」

「そういえば冷蔵庫の中さっき覗いたら何に使うか分からなかったハバネロのソースがあったのよねー。せっかくだし遊希たちのカレーにそれ入れてあげよっかなぁー?」

「「「冗談です。あなたは女子力の塊です千春様」」」

「わかればいいのよ。わかれば」

 

 甘口で子供にも食べやすいカレーを口に運びながら、和気藹々と食事は進む。すると、そんな中話は自然とデュエルの話に移る。やはり同年代のデュエリストたちが集まっているため、誰が一番強いかということは気になるようだった。

 

「そんなんウチに決まっとるやん!」

「いや、ボクだと思うよ? だってボククラスで一番強いもん! 橙季ちゃんもそう思うよね?」

「えっ? えっと……まあライフ4000であんなデッキを使ったら強いと思うよ?」

 

 バーンダメージだけでライフを全て削り取られた橙季から愛美とのデュエルの内容を聞いた紫音と華は思わず真顔になる。ドローカードの運があったとはいえ、トリックスター・リンカーネーションとチェーンバーンのコンボを決められてしまえばしばらく立ち直れないくらいのショックを受けるというものだ。

 

「うわぁ……」

「えげつなっ!」

「へへっ、ボクにとっては褒め言葉だよ! けっきょくボクのデッキがつよくてすごいってことでいいかな?」

「……あの、愛美さん?」

 

 匙を投げた紫音と華のリアクションを受けて鼻高々といった様子の愛美。だが、デュエリストにとって避けるべきことの一つに慢心があり、その慢心が時にデュエリストの能力を下げてしまうことがある。それを気に留めたのが他でもない皐月であった。

 

「皐月さん?」

「この世界に最強のデッキは存在しないと思います。百戦百勝のデュエリストは存在しないのと同じように……」

「うー……じゃあ皐月さん、お昼食べ終わったらボクとデュエルしませんか? ボクのデッキは皆さん相手でも負けていませんから!」

「わかりました。そのデュエルお受けします」

 

 やがて昼食を食べ終わり、皆で自分が食べた分の食器を洗うと20分ほど食休みを挟んで全員がロッジの裏庭に出た。ロッジの中で実際にデュエルディスクを使ってデュエルをするのはさすがスペース的には厳しい。そのため湖を眺めながらデュエルのできるこの裏庭でデュエルをすることになった。ただ、このデュエルは勝ち負けではない。あくまで愛美が皐月を相手にしてどのくらいデュエルができるのか、というものを判断するためにするものであった。

 

「それじゃあデュエルを始めるけど、先攻後攻はどうする?」

「できれば先攻がいいですけど、普段皆さんがやっている決め方でやっていいですよ!」

「わかりました。ではディスクに内蔵しているコンピューターで決めますね」

 

 コンピューターによって決められた先攻後攻の決定権は皐月に与えられた。皐月は最初はどうしようか、と迷った様子であったが結果的に先攻を選択した。

 

(先攻取られちゃったか……まあ、皐月さんの【ヴァレット】は初動がそんなに早くないし、ボクのデッキなら後攻でも十分削り切れるから大丈夫!)

「それでは参ります!」

「お願いします!」

「「デュエル!!」」

 

 

先攻:皐月【ヴァレット】

後攻:愛美【トリックスター】

 

 

皐月 LP4000 手札5枚

デッキ:39 メインモンスターゾーン:0 EXゾーン:0 魔法・罠(Pゾーン:青/赤):0 墓地:0 除外:0 EXデッキ:15(0)

愛美 LP4000 手札5枚

デッキ:35 メインモンスターゾーン:0 EXゾーン:0 魔法・罠(Pゾーン:青/赤):0 墓地:0 除外:0 EXデッキ:15(0)

 

 

☆TURN01(皐月)

 

「では私の先攻で行きますね。私は手札から魔法カード《サイバネット・マイニング》を発動します」

 

《サイバネット・マイニング》

通常魔法

このカード名のカードは1ターンに1枚しか発動できない。

(1):手札を1枚墓地へ送って発動できる。デッキからレベル4以下のサイバース族モンスター1体を手札に加える。

 

「えっ、サイバネット・マイニング? ヴァレットって闇属性・ドラゴン族のテーマだよね?」

「手札1枚をコストに発動します。デッキからレベル4以下のサイバース族モンスター1体を手札に加えます。チェーンはありますか?」

「うーん……ありません」

 

 チェーンの有無はともかく、灰流うららのようなサーチ妨害のカードは愛美の手札にはなかったためこれを止めることはできない。チェーンが無いのを確認すると、サイバネット・マイニングの効果が適用される。

 

「サイバネット・マイニングを通しちゃったかー……」

「通しちゃったわねー」

「このデュエル、結果が見えてしまったな」

 

 そしてそれを見た鈴、千春、エヴァの三人は総じて皐月の勝利を確信した。

 

「なんでや! まだデュエルは始まったばかりやろ!」

「たった1枚のカードでデュエルが決まるとは思えませんが……」

「ねえあなたたち。今まで過ごしてみて皐月にどんな印象を抱いているのかしら?」

 

 遊希のその質問を受けて参加者たちからは「優しそう」「大人しそう」「理知的」といった如何にも皐月らしい用語が飛び交う。確かに皐月はそのいずれにも当てはまる、今時珍しいタイプの少女だ。だが、皐月と深い付き合いである遊希たち四人はそれ以外の印象を彼女に抱いている。

 

「確かに皐月は誰にでも優しくて、誰にでも丁寧に接する。とってもいい子よ。でもね……デッキが上手く回った時、私たちの中で一番えげつないデュエルをするのは彼女なのよ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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