ハンコックがビッグ・マム   作:エロエロの実

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職人生活

 憧れだった父。その顔が砕け散る瞬間。それは目に鮮明に焼きついて無くならない。思い出すたび深い喪失感と悲しみに襲われる。家族が、頼りにする人が、自慢が、憧れが、夢が、破れ去った。同時に俺は父を殺した相手の顔も思い出す。憎むべき女。本来ならそうなのだろうが、あの美しい顔、意地悪そうな笑み、鋭い目、とろっとした唇、弾力のあるすべすべの肌、大きく形のよい乳房、それらを思い浮かべると、全身が、何かに満たされる。怒りや悲しみが消えていく。

 これは酷く残酷なことなのかもしれない。父が俺に残してくれたこと。ためになる言葉や楽しい思い出。武術の修行や森でのサバイバル訓練がほとんどだったが、それらは俺にとっての宝探しだった。新しい発見と感動の日々だった。しかし、もう二度と父に修行をつけてもらうことはできない。俺にとっての宝探しができない。にも関わらず、ただ美しいというだけで許してしまう。

 いや、美しさに限らない。彼女は活発な女だから汗をかいていたし、わざと涎をかけてくることもあった。夜に彼女が肌を晒し、俺を締め付けた時は、息苦しさと共に、汗臭さや、汗や涎のぬるっとした触感があった。しかし、不快なはずのそれらでさえ、心地よさ増すだけだった。強力な力で俺をもみくちゃにし、抵抗は無駄だと思い知らされた時も、恐怖の中に快感があった。肉体的な快感、美しさに対する感動、抵抗できない恐怖心、弄ばれる羞恥心、それらがない交ぜ状態。言葉にできない感情が深い感動となってこの身に刻まれた。

 この感動を求める本能に抗うことができない。また味わいたい。あの女をどうしようもなく欲している。殺すなどとてもできない。失えば欲求の捌け口を失う。それが絶望であることは容易に想像できる。だから欲求のままに、心行くまで愛したい。愛されたい。この思考が俺を支配しており、父を失った虚無感や憎しみを包み隠している。だから悲しみに停滞することなく、ある種の希望を持って日常を送ることができるとも言える。

 劣情が希望というのは醜いかもしれない。しかし俺はそれを幸福と感じてしまう。だから抗えないのだろう。俺は自ら不幸を選べない。憎しみを切り捨てて生きることしかできない。それを父も母も望んでいるだろうから、いいことなのかもしれないが。

 

 俺と母はウォーターセブンという都市に移住した。例の美女、ボア・ハンコックとの決闘により住所が広まってしまったからだ。父は多くの海賊に恨まれており、家族である俺達も復讐の対象になりうるので、移住すべきと考えた。ウォーターセブンを選んだのはそこが職人の都市だからだ。父は政府の命令に従う仕事を選んだことを酷く後悔していた。俺が父のようにならないためには、自分で生きられる力、物を生み出す力を身につけるべきだと考えた。もっとも俺にはサバイバル技術があるから、人里離れた山にこもって一生を過ごすこともできるが、それには母が反対した。色んな人と交流して色んな体験をすべきと言われた。俺も、サバイバルや修行だけでは飽きそうだったから、別に文句はなかった。ハンコックにも会いたいし。正直、ウォーターセブンを選んだのは女ヶ島に近いからというのもある(人質にされている間にハンコックが出身地を喋っていた)。

 もっとも、若干不安はあった。勉強ばかりしていると弱くならないかと。俺は単純に修行が好きだし、父のように強くなりたいし、ハンコックに好かれるためには強さが必要と思っていた。だから修行ができずに体がなまっていくのは嫌だった。しかし杞憂だった。この町の職人は豪快で繊細。真似をしていると十分トレーニングになる。実際、この町の職人は海賊を簡単にやっつけられるほど強い。父ほどではないが。

 

 俺は余所者で子どもなので、雇ってくれる会社はなかなか見つからなかった。中には面接で嘲笑ってくる会社もあった。俺のやる気と父の遺産は減っていくばかり。もう諦めようか、そう思った矢先、トムズワーカーズという会社が雇ってくれた。ここは社長が余所者の魚人。だからか、職人が社長と弟子2人の計3人しかいなかった。正直俺も最初は魚人の見た目で敬遠していた。社長のトムさんはそんな自分が恥ずかしくなるほどいい人だった。兄弟子のアイスバーグさんもいい人。もう1人の兄弟子であるカティ・フラムさんは暴れん坊だけど、彼の発明する武装船は俺の武術の修行にちょうどいい。人相手だと殺さないよう手加減しなくちゃならないけど、船だから壊してもフラムさんが悔し泣きするだけ。思いっきり戦えて気持ちもいい。彼の船との戦いは俺の楽しみの1つになった。

 

 俺は現場を見ながら、簡単な加工や組み立てを手伝いながら学んでいった。設計、強度や推進機構の計算、製図、木の加工、鉄の加工、組み立て、検査、解体、などなど。俺はとてもセンスがあると褒められた。素人には三次元の加工や図面の理解が難しいらしい。俺はサバイバル訓練で石のナイフや木の弓を作ったことがあったから、それが加工や組み立てに生かされた。思考の面でも体力の面でも。また、武術の修行で三次元の動きを考えることは、製図の図面を理解するのに生かされるだろうし、武術における集中は、目で傷を探したり質のいい木の音を聞き分けたりする集中力にも生かされただろう。今までの人生で得たものが意外な時に生かされるもんだな、と感慨深いものがあった。

 

 トムズワーカーズは少数精鋭。腕が確かだから依頼が止まらない。お金が溜まっていく。筋力もついていく。休日には修行もできる。近年海列車という偉大な発明をしてこの都市を救ったこともあり、町人からの信頼も厚い。俺の顔も覚えられ、時おり町人に笑顔で話しかけられる。女の子にお茶に誘われることもある。エッチもできる。順風満帆。そんな折、俺は一枚の手配書とニュース記事を手に取った。

 女帝"ボア・ハンコック"。懸賞金3億ベリー。あの美しいハンコックの手配書だった。以前見たときよりも少し大人っぽくなっている。初頭手配で3億というのは異常だが、父を殺した件を加味しているのだろうか。

 そしてニュース記事。ボア・ハンコックは女ヶ島の国アマゾン・リリーの新皇帝にして悪名高き九蛇海賊団の新しい船長。女帝は初戦で商船を襲い物資を奪った後、海軍と戦闘になり壊滅させる。政府は七武海に勧誘するが、女帝は拒否する。これにより海軍はバスター・コールによるアマゾン・リリーの殲滅を決定。しかし冥王レイリーの参戦や海王類の妨害により海軍は撤退に追い込まれた。なお、女帝は商船を襲った際に若い男を物色しており、男好きの疑いがある。噂では強くて気さくで夢見がちな年下の男がタイプだとか。

 

 バスター・コール。詳しくは知らないが海軍はすごい勢力で向かったのだろう。しかし返り討ちにあった。ロジャー海賊団で副船長だった冥王レイリーの力も大きいだろうが、ハンコック自身も大暴れだったようだ。そのことに喜んでしまっている自分がいる。生き生きと戦う彼女の姿が目に浮かぶ。本当はよくないのだろうけどね。人が死んでいるのだから。しかも正義の側が悪に負けて。

 ハンコックが男好きというのは、知っていたが、実際記事で見ると悲しい。他の男と交わるなんて。悲しいというか腹が立つ。何かを失ったような気分になる。理性的に考えれば、彼女は1人の男に拘っていないので、チャンスが無くなることはないのに。

 

 ハンコックは美しさと起こした事件の大きさから、民衆の注目を集め、主に男に人気になった。マスコミも売り上げが伸びるからか、多く特集を組むようになった。

 曰く、女ヶ島はカームベルトに浮かぶ島。カームベルトは海王類の巣であり、ふつうの方法で航海しては海王類に食べられてしまう。九蛇の船は巨大な毒蛇が引いているため、海王類が恐れて近づかない。海軍の船は海桜石という新技術によって海王類から発見されにくくなっているが、時折見つかり襲われてしまう。

 曰く、女ヶ島には女しか産まれない。島の女は九蛇海賊団として外に出て、そこで気に入った男を見つけて子作りする。たいていの女は強い男が好きで、顔や財産はそこまで重視されない。ハンコックはどちらかと言えば年下が好きらしいが、冥王の子を産んだという噂もある。やはり強さが一番か。

 曰く、ハンコックの身長は8m弱。しかしまだ伸びている。昔は一般的な少女より少し大きい程度の身長だったが、4年ほど音信不通となり、帰ってきた時には大きくなっていたそうだ。なお、ハンコックの妹2人は帰ってきた後に大きくなった。

 曰く、女帝の体を求めて海に出るバカ海賊が急増している。その勢い、熱気は大海賊時代が到来した当初を思わせる程。第二次大海賊時代が始まるかもしれない。「わらわの体か? 欲しければくれてやろう」がキャッチコピーか。

 曰く、新聞社は政府からお叱りを受けた。「これ以上女帝人気を煽るな! 海賊が増える!」と。今後ハンコック特集は組めなくなった。

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