ハンコックがビッグ・マム 作:エロエロの実
「お疲れっした」
「おう、お疲れ。またフランキーの所か?」
「はい」
「お前も物好きだなあ」
「修行が趣味ですので」
仕事を終えるとフラニキー(フランのアニキーの略)の下へ向かう。それが俺の日課だ。近頃のフラニキーは会社の仕事をあまり手伝わず自分のバトルシップを作ることに夢中になっている。アイスバーグさんはフラニキーを叱ったりするがトムさんは何故か笑いを堪えるだけで怒らない。というかトムさんはいつも笑いを堪えている。俺はフラニキーが作った船を壊すことを楽しんでいるから、変人具合はトムさんより上かもしれないが。
「よっ、フラニキー」
「おいコラ。アニキと呼べ」
「俺に勝てたらね」
「てんめえ。今までは怪我しねえように手加減してやってただけだ! 今日は本気で行く!」
「それは楽しみだなあ」
今までの俺はいろいろと考えすぎていた。武術についても、人生についても。
しかし船相手に戦う中で見つけたことがあった。あれこれ考えず、全力でぶつかる。だからこそ見えてくるものがある。常識が破壊されて視野が広がるみたいな。目の前の現象が別の角度から読み取れるようになるって感じ。
「うおおおおおお」
フランキーが甲板から連射銃を放つ。俺は目で発射口を見て、風を感じ弾道を計算しながら、その銃弾にわざと当たりに行く。
「効かん効かん効かーーーん!」
俺の肌に当たった銃弾は金属音がして弾かれていく。これは海軍に伝わる奥義である六式の1つ、鉄塊という技。
「やっぱり銃じゃ効かねえよな。なら! この船そのもので!」
フラニキーが作った小船のスクリューが音を立てて回転する。船首を俺の小船に向けて加速する。俺の小船とは比べ物にならない速度が出て、そのまま突っ込んでくる。フラニキーの船の先端は分厚い鋼鉄。当たれば俺の船は木っ端微塵になるだろう。かと言って避けることもできない。直進速度も旋廻速度も違いすぎるから。
「終わりだ! スコット!」
「どうかな? そんな鉄くずくらいで!」
俺は自分の小船から跳躍する。目指すはフラニキーの船の先端の鋼鉄。自分からぶつかって船を壊すという狙いだ。
鉄に当たったら骨が折れるとか破片が目に刺さったらどうするとか考えない。破壊できる。俺は勝てる。そう信じ込み、全力で拳を叩き込む。
拳が小船の先端に当たる。金属音がして船の先端が若干凹む。このタイミング。凹みを一気に広げるように拳にかける力を上乗せする。ベギベギべギ、鉄が塑性変形し、鉄を支える木の板が壊れていく。よし、今回も勝てた。
「ぐああああああ」
船に乗っていたフラニキーは衝撃で吹っ飛ばされ、海に落ちた。
「ガハッ、ゴホッ。おっかしいだろうおい! なんでお前は無傷なんだよ!」
「鍛えてますから」
「いや、鍛えてもそうはならねえ!」
「鋼鉄は硬いけど、壊れる時のリズムがある。そのリズムに自分の体重を合わせれば、壊せる」
「意味分かんねー! なんだよそれ! とんでも科学か!?」
「いや、俺には分かるんだ」
「はあ?」
フラニキーの気持ちも分かる。昔の自分の常識では見つけることができなかった。鉄のリズムなんて。でも全力でぶつかった時に、ふと気付いたんだ。呼吸のような浮き上がり沈むリズムがあることに。
まあ、鉄の加工やったり、木の検査で叩いて硬さを確認とかやってたから、それがヒントになったのかもしれないけど。
「たぶん今の俺なら、指で木を切り裂ける。ちょっと練習すれば鉄も切り裂ける」
「いや、お前それは止めとけって。絶対突き指するって」
「でも、できるって分かるんだ」
鉄を斬るのは指銃や嵐脚とも少し違う理屈だと思う。武装色の覇気だろうか? うーん、似てるけど違う気がするなあ。あれはもっと全体的に壊せる。
「試しに指でやってみようか」
「えっ、おい!」
俺は地面を何度も蹴り、高速でフラニキーの船の残骸に突っ込む。これは剃という技。六式の中でも比較的簡単で、1年前にはもうできていた。
俺は鉄の部分に突っ込み、指をスッと添える。衝撃、鉄のリズムを感じながら、拳と同じような要領で全身の力を指に送る。
「ふんっ」
スパンッ、と綺麗な音がして鉄は斬れた。やっぱり指でできた。
「全身凶器かよ、てめえ」
海面に浮かぶフラニキーが唖然としていた。
陸に上がったフラニキーは、早速リベンジのための新作を作ると言って裏町へ向かう。俺もついていく。
「おい、なんでついて来んだよ」
フラニキーは不満そうだ。敵に情報を与えたくないというやつか。
「俺も自分の船が作りたくなって」
俺がそう言うとフラニキーはパッと明るくなった。
「そうなのか!? よし! 言ってみろ! どんなバトルシップを作る!?」
根っからの兄分肌というのか世話好きというのか。俺の船に喜んで協力してくれるようだ。バトルシップとはまだ言ってないが、まあ間違ってないからいいか。
「カームベルトを進みたいから、風がなくても進める船。なお且つ海王類と戦闘になっても勝てる船」
「カームベルトだと? なんだってそんな」
「ふっふっふ。俺が女帝の写真や記事を集めてるの知ってるでしょ?」
「知ってるが、お前まさか……」
「女帝ボア・ハンコックを手に入れるために、カームベルトの中にある女ヶ島に行く! そのための船が欲しい!」
「えええっ!? お前ムッツリだったのか!?」
真面目ぶってる男は皆ムッツリだと思うよ。ホモ以外。
「しかし、難しいぞ。海王類のあの質量に耐えるなんてのは」
いくら船を強化してもカームベルトを進むのは用意ではない。それは分かっている。しかしここは造船技術世界一の島。海軍にも軍艦の製造や修理を依頼されており、それはカームベルトを渡るための軍艦も含まれる。つまり、海軍や世界政府が独占している海楼石も、この島なら比較的簡単に手に入る。
「海楼石も持ってるよ。今はまだ少しだけど」
解体作業や加工のどさくさに紛れて集めた海楼石。会社の使われていない物置に隠している。
「お前、やべーやつだったんだな……」
フラニキーがまた唖然としていた。
スクラップ場から使えそうな部品を見つけ、台車に乗せて造船所に持ち帰る。裏町はスクラップ場となっているが、実はここにいる人間も、夢破れた落ちこぼれが多かったりする。彼等はグレており、俺達のような成功者を妬んでケンカを売ってくる。俺は戦いが好きだから別に構わないが、フラニキーは怒ったり悲しそうな顔をしたりする。負け組とかそういうのが嫌いなのだろう。
「へへっ、またいるぜ。英雄様の金魚の糞がよ」
「生意気なガキめ。今日こそリベンジだ。ボコって有り金全部いただくぜ。それに裸でごめんなさいって100回言わせてやる」
今日もまた、夜中にわらわらとやってきた。酔っ払いもいる。あんまり強くやると殺しちゃうから手加減しないとね。
「よーし。どこからでも来い!」
「お前、喜ぶなよ」
俺の笑みにフラニキーが呆れたような顔をする。
「ちっ、舐めやがって。行くぞ、野朗共」
「うぉおおおおお!」
不良達が突っ込んできた。遅い。俺どころかフラニキーよりもずっと遅い。アイスバーグさんにも負けるんじゃないか? あの人造船で鍛えられてるからな。ふて腐れているだけのこいつらと違って。
「ハイ! ホイ! ホイ!」
「ぐああああああ」
「うわあああああ」
「マイン! ホイン! ひいいっ」
男は腹パンで静めるが、女の子は髪の毛をギュッと掴むくらいの脅しで黙らせる。これが紳士の嗜みだとかなんとか。フラニキーが言ってた。
「ねえ! その女私のお金取ったの! 取り返して!」
「その男は食い逃げだ! 料金払わせてくれ!」
不良を倒すと、物陰から不良の被害者がやってきた。これはたまにある。直接戦ったり通報したりしたら恨まれて仕返しされるから俺やフランキーにやられるの待つってやつ。
「相変わらず暇なやつらだ。自分で取っとけ」
「嫌よ! 仕返しされるじゃない!」
「そうだそうだ!」
フラニキーに声を荒げる女と男。フラニキーの額に青筋が浮かぶ。
「根性無しにも程があるだろ! あいつらもう負けを認めてんだぞ!」
「バカね! 明日になったらまた元気になるわ!」
「チッ。そんなんだから舐められるんだ。弱いなら体鍛えろ!」
「お前達と一緒にするな! こっちは普通の人間なんだよ!」
「そうだそうだ! バカ!」
「いやいや、フラニキーはめっちゃ賢い」
「そんなんじゃないわよ! アホガキ! 死ね!」
口悪いなあ。でも女の人に罵られると少しゾクッとしちゃう。ハンコックにやられた時を思い出して。なんかもう半分病気だよね。
「おい、行くぞ」
フラニキーは男と女を無視して歩き出す。俺もついていく。
人間の生き方も精神も腐ってしまった裏町。救う方法なんてあるのだろうか。
「あらー、フラムちゃんにスコットちゃん。久しぶりね」
「寄ってきなよ。お姉さんといいことしよ」
「悪いけど、お姉さんに使うお金ないんだ。最近自分の船を作り始めてね」
「チッ。あっそ。サヨナラ」
そしてこの裏町。如何わしい店もたくさんある。フラニキーに連れられて利用したこともある。俺は女王様コース選んだけどあんまり気持ちよくなかった。やっぱり演技はよくないよ。胸がゾクゾクっとするような本気の怖さがない。
拾った部品をトムズワーカーズに持って行き、そこで俺が昨日書いた設計図をフラニキーに見せる。トムさんとアイスバーグさんはまだ仕事をしていて、なんだなんだと見に来た。
「いやー、自分が考えた船の設計図でして。カームベルトを渡るために下面に海楼石を敷き詰めつつ、音が出ないように鳥の羽ばたきを参考にした風力で進むようにしてます。羽ばたかせるのは人なので力がある人じゃないと進みませんが」
「なるほど。音を消すのか。確かに海王類に気付かれにくくなるかもな。この構造の羽ばたきで本当に進むかどうかは試してみないと分からないが。これ、海軍に売るのか?」
アイスバーグさんが尋ねてくる。
「いえ、自分で乗るつもりです」
「ふーん。グランドラインの外に出たいのか?」
「いえ、女ヶ島に行きたいなあって」
「えっ、お前まさかムッツリだったのか!?」
フラニキーと同じような反応だ。アイスバーグさんもムッツリの癖に。
「驚いただろバカバーグ。こいつ隠してたんだぜ。こんな真面目で純朴そうな顔してよ」
「あ、ああ。驚いた」
「この前ソープでハードプレイした時は真顔で大したことないとか言ってたのに」
「たっはっはっ!」
トムさんがまた笑いを堪えている。
「しかしなあ、女ヶ島か。うーん。やっぱり女帝が目当てか?」
「はい」
「まさかそれが目的で鍛えてたのか?」
「修行は趣味です。趣味と目的の偶然の一致です」
「そうか……」
ふと、トムさんが机を漁り、紙を取り出した。契約書のようだ。
「女帝と言えばよ。先月船の発注があったぞ」
「えっ!?」
まさか、ハンコック来てたの!? いや、そうとは限らないか。部下を行かせればいい。
「相手は今最も注目を集めている海賊。ロジャーの件で政府に目をつけられてるし、目立たねえように受け渡しをどうしようかと考えていた所だ。海列車の拡張工事の期限もあるから遠出はしにくいしよ。たっはっは! スコット、お前、九蛇に襲われる商人のフリでもするか?」
ええーっ。なんという幸運。襲われるとかシチュエーションも完璧じゃん。
「や、やりますやります! やらせてください!」
「たっはっは! 女帝が来るとは限らねえがよ」
「意地でも会いに行きます! 船の説明がー、とかなんとか言って!」
「たっはっは!」
よーし、盛り上がってきたぞ。