ハンコックがビッグ・マム 作:エロエロの実
俺が九蛇海賊に船を渡す。それが決まってから、いろいろと考えた。
まず、どうやって政府にトムズワーカーズと九蛇の関係を隠すのか。たまたま盗まれたことにする? いや、それでもバレる。何せ船がハンコックの巨体に合わせた設計だし、蛇が船を引くためのスペースもある。他の誰に売ろうというのか。だから、俺達が船を作ったことさえバレてはならない。どうしても必要な部品だけ女ヶ島に持っていって、残りの部品は現地で集め、現地で組み立てるのが無難だろう。そうすれば、俺が女ヶ島に入る口実にもなる。ゆっくり作れば一年か二年は滞在できる。完璧な作戦だ。
だが、問題はまだある。女ヶ島は男子禁制。船を作るという理由だけで入れてもらえるのかどうか。そしてもっと重大な問題が、ボア姉妹が俺を警戒するだろうこと。俺の顔は父に似ている。2年前も一目見て俺が息子だと気付いたようだし、今見ても気付くだろう。そして今の俺が彼女達に近づけば、父の敵討ちに来たと思われる。船大工と言っても信じてもらえる可能性は低い。むしろ船大工の修行をしてまで殺しに来たのかと、警戒を強められてしまうだろう。
どうやって疑いを解けばいいのか。愛を語る? 全裸で無害をアピール? いや、そういうのは効果が薄いだろう。油断させるための罠だと思われる。こういう考え方じゃダメなんだ。発想の転換が必要。諦めるわけではない。別の角度から見れば新しい道が開けるはず。武術のように……。
俺は毎晩真剣に考えた。ハンコックの裸や俺と交わる姿を妄想してしまうこともあったが、それ以外の時間では作戦を真面目に考えた。そして最終的に閃いた。この作戦なら行けるはず。
「一部重要な部品だけここで作って、他は材料のまま運んだり、現地で材料を集めたりして、女ヶ島で船を作って組み立てようと思います」
俺はトムさんに作戦を説明した。敵討ちの疑いを晴らす作戦を除いて。
「たっはっは! 仕事を理由に向こうに住み着く気なのか」
「はい」
「たっはっは! 恋は盲目と言うからな。いいじゃないか。ドンとぶつかってこい!」
「はい」
トムさんに応援された。なんか自信がわいてくる。
「女ヶ島は男子禁制だ。入れないんじゃないか?」
アイスバーグさんが言う。
「仮面を被り、女だと言い張ります」
「おいおい」
「たっはっは!」
アイスバーグさんは困り顔。トムさん大爆笑。俺も、これはちょっと強引過ぎるかなと思う。でも他にやりようがないじゃないか。島の外に船で待機でもいいけど、そうするとハンコックを口説けないし。
しばらくして、トムさんにオーケーをもらった。
俺が作れない部品。作れるにしても精度に地震がない部品は、トムさんとアイスバーグさんに作ってもらった。それらを輸送用の船に乗せていく。そして、疑いを晴らすための秘密道具も密かに俺の部屋に入れた。
九蛇との待ち合い場所までの案内役としてココロさん、戦闘員としてカエルのヨコヅナにも乗ってもらう。本当は俺1人でも大丈夫なんだけど、母が心配するから仕方ない。
「いざ、出航!」
目的地はキューカ島。休暇で訪れたという体裁を取る。そこで九蛇に襲われて、連れ去られてしまうというわけだァ。むふふっ。
さすがは大海賊時代というわけか。すぐそこのキューカ島に着くまでに海賊船に5回も見つかってしまった。しかし、船の性能とココロさんが呼んだ魚の力により、速度で圧倒。戦わずして逃げ切った。戦っても勝てたと思うけど、船に積んである部品が壊れたら意味ないからね。
そしてキューカ島に到着。海賊ではないが裏の港に船を止める。あまり目撃されたくないのでね。俺とヨコヅナは船の留守番。その間、ココロさんが依頼人を探す。この広い海に広い島だけど、人魚であるココロさんは魚と会話できるから人探しがすごく早い。ほんと便利だよね。
しばらくして、ココロさんは帰ってきた。
「島からそう遠くない海に九蛇の船で待機してたよ。女帝もいたね」
よしよしよし、来たぞー。こんなに早く会えるとは。すごくうれしい。ドキドキする。
「あっちの方角さ。あたしが案内するよ」
グランドラインでは磁石が壊れるためふつう方角が分からないが、人魚は魚と会話できるので魚を通じて方角も分かる。本当に便利。俺1人でいいとか思ってたけどココロさん来てくれて助かったね。
さて、見えてきたぞ、九蛇の船。遠くからでも分かるデッカイ蛇とデッカイ人間。うひょー、あれがハンコックだなあ。相変わらず美しいぃー。それに前見たときよりおっきくなってるなあ。おっぱいとかも。
船を近づけると、九蛇の船は砲弾を撃ってきた。襲うという体裁を取るためだろうか。当たる感じはしないから演技だとは思う。
「じゃ、達者でやりなよー」
「ゲコゲコ」
「はい。ココロさんとヨコヅナもお元気で」
ココロさんとヨコヅナは海に飛び込んでいく。俺は船に乗ってそのまま接近。さて、こっからが勝負だ。
俺は仮面を被り、右の掌に秘密兵器を握り閉める。そして、九蛇海賊団の前に出る。
「あれが船大工? あれが私達の船?」
「違うでしょ。たぶん彼は船までの案内人か何か」
「めんどくさいことするわよねー。そんなに海軍が怖いのかしら」
九蛇海賊団の女性達がゾロゾロと出て俺を見下ろす。口々に感想を述べている。
と、ハンコックのかわいい方の妹、少し太っちゃったマリーゴールドが口を開いた。
「無礼だぞ。蛇姫様の前で仮面など」
あっ、うん。トムさんから正体隠したいって話言ってなかったの?
「そうだそうだー」
「怪しいわよー」
マリーゴールド以外の女達も俺を非難する。ちょっと、もしかしてやばい展開? 冷や汗かきそう。今顔を見られたら全部破綻する。
「よせ、お前達。こやつにも仮面を外せぬ事情があるのだろう」
「蛇姫様……」
だが、ここでハンコックから救いの手が。こんなことをされては惚れてしまうな。前から惚れてたけど。トムさんから話を聞いていたのだろうか。
俺を見下ろすハンコック。俺を人質に取った時に比べればずっと優しい目つき。だけど他人を見下している感じはする。視線のゾクゾク感はある。ひゃー、懐かしい。気持ちいい。
「それで、わらわ達の新しい船はどこじゃ? まさかそなたの乗っておる安物がそうとは言うまいな」
「もちろん違います」
「では、船まで案内せい」
「それについてですが、少し船を差し上げる方法が変わりまして」
「差し上げる方法?」
「はい。この船には重要な部品を積んであります。ですから私がそちらの国に行き、そちらの国で船を作らせていただく、という形で差し上げたいのです」
「なんじゃと? では、完成品はできてないのか?」
「はい」
目に見えてイラつくハンコック。目が刺々しくなってきた。ピンチなはずだけど、いいぞー。
「レイリーが信頼できると言うから任せたのに。全く。やっとこの狭苦しい船から開放されると思ったのに」
ハンコックは恨み言を述べながら、俺に威圧感をぶつける。他の女達もだ。ハンコックが怒っているのを見て俺にブーイングする。
「新しい船はいつまでにできるのじゃ?」
「全力でやれば、1ヶ月ほど……」
「1ヶ月!? くぅー……。まあ、今から他所に頼むよりは早いか」
ハンコックは大きくため息をはいた。そして俺を睨む。
「1ヶ月。全力で作れよ」
「は、はい!」
一応頷いておく。本当はできるだけ遅く作りたいけどなあ。
「わらわを待たせたあげく不良品なぞ作ろうものなら、その体で罰を受けることになる」
ハンコックは念を押すように言う。でも、体の罰だってー? きゃーっ、なんていい響き。ますます遅らせたくなっちゃうー。
俺は囚われたという体裁を取るので、九蛇の数名が俺の船に乗り、舵を取る。船の使い方は俺が説明する。
説明を終えると、俺は九蛇の船に乗る。ハンコックが俺を見下ろす。香水の匂いが届く距離。汗の匂いも。懐かしい。
「客としてもてなすか、捕虜としてもてなすか、どちらがよい?」
「捕虜でお願いします!」
「そ、そうか」
言葉に力を入れすぎてしまったか? 客というのも捨てがたいが、やはりゾクゾク感は捕虜の方が上だから仕方あるまい。
いや、でも待った。捕虜で縛られたりしたら、悪戯で仮面を取られて、顔を見られちゃう可能性も。
「へ、蛇姫様。捕虜になる前に、蛇姫様にお伝えしたいことがあります」
「なんじゃ?」
「その、あまり聞かれたくない話なので、人払いをお願いしても?」
「仕事に関わる話か?」
「はい」
「いいじゃろう。ついて参れ」
ハンコックがくるっと反転して歩いていく。うおっ。お尻の食い込みがばっちり見えるぜー。そんな薄着だからいけないんだぜー。
入ったのはおそらく船長室。だが、机とかベッドとかはない。ハンコックができるだけ窮屈しないように物を減らしている感じだ。それでも狭いが。
「はぁー、せっまいのー。肩が凝る。新しい船の船長室は、わらわでもゆったり休めるように頼むぞ」
「はい」
ハンコックは頭や足がぶつからないように身を小さくしている。俺のすぐ横にハンコックの生脚がある。
「それで、話とはなんじゃ?」
「我々の会社が、世界政府に狙われていることはご存知ですか?」
「それはレイリーから聞いた。じゃから回りくどい方法で船を受け取ることになるとも聞いていた」
「そうでしたか」
レイリーの名がまた出たな。トムさんは海賊王の船を作ったからレイリーと知り合いなのは分かるけど、女帝はどうやって知り合ったんだろう。奴隷期間が長かったはずなのに。
「話とは政府についてか?」
「まあ、そうなんですけどね」
俺はそう言いながら、ハンコックの生足にそっと右手を伸ばす。こんな話は時間稼ぎでどうでもいいんだ。油断させることさえできれば。
「なんじゃ? いきなり」
不快そうに眉を上げるハンコック。手から脚を逃がしたりはしない。部屋が窮屈だから動くのも面倒という感じだ。
俺の右手、海楼石を持つ手が、ハンコックの生脚に触れる。途端、ハンコックの頭がガクンと落ちる。
「き、貴様、何を」
慌て、怒るハンコック。海楼石により脱力しているため、声を張り上げることはできない。が、巨体のために音は大きい。やばいな、仲間が来たりしたら。
俺は剃によってその場を跳躍。ハンコックの肩に跨り、右手をハンコックの首に当てる。
「無礼者め。くっ、これは、海楼石か」
「本当に申し訳ない。ただ、あなたの疑いを解くには、こうするしかなかった」
「疑いじゃと?」
「はい。俺はあなたを殺すつもりがない。それを証明したかった」
「殺す? 何の話じゃ。あまりふざけておるとレイリーの紹介とは言え許さぬぞ」
ハンコックは動きづらい体でなんとか俺を睨もうとする。
俺は左手で自分の仮面に手をかけ、外す。
「貴様は! アンドリューの!」
やはり一目で分かったか。驚くハンコック。少しして、ハンコックはフッと笑った。
「親の敵討ちか? いや、殺すつもりがないと言ったか。どういうことじゃ?」
俺はハンコックの喉元付近に指を突き刺す真似する。当てはしない。そして腕を降ろす。
「今の俺は、いつでもあなたを殺せる状況にある。だけど殺さない。この方法ならば、殺す気がないということを伝えられるでしょう?」
「……話が分からぬ」
俺はハンコックから右手を離す。ハンコックの全身に力が戻り、同時に威圧感が爆発する。これは覇王色の覇気。加えて本気の殺意。ゾクゾクゾクっとする。これだ。これが俺を虜にした。
「何故右手を離した? 殺されたいのか?」
この距離、この体勢では、まだ俺の方が有利だろう。だが、言葉を間違えれば戦闘になってしまうかもしれない。そうなれば俺は死ぬだろう。俺はハンコックを殺せない。向こうは殺す気で来る上に、仲間が大勢いる。
どんな言葉が安全かは、判断しづらい。現在のハンコックの心情はあまりに複雑なものになっているはずだ。ならば、どうせなら、正面からドンとぶつかるのみ。トムさんみたいに。
父さん、母さん、俺は今日、男になります。
「俺は、あなたにプロポーズするために来たんだ!」
「な、何!?」
「好きです! 大好きです! 付き合ってください!」
言ったあー! 言ってしまったあー! やばいよやばいよ! きゃー!