インフィニット・ストラトス 神を喰らう者 作:ヒイラギ1028
教室の窓を眺めながら、僕はため息をついた。
唯一の話し相手の一夏も、昔の友達? に誘われて教室を出て行ってしまった。
相変わらず女の子達の視線が多い。ヒソヒソと何かを話しているけれど
いい話ではないのは容易に想像ができてしまった。
「……はぁ」
二度目のため息をつきながら、僕は数週間前のフェンリル極東支部での出来事を
思い出していた。
――――――――――
「――はぁ!? おまっ、えっ!?」
極東支部のロビーで、僕の友達――コウタ――が声を上げた。
そのままの勢いで僕の両肩を掴んでぐわんぐわんと前後に揺さぶり始めた。
「IS学園に、いいい行くってのは本当か!?」
「う、うんってちょっ、と……それ以上、は、やばっ……!」
かくかくと頭も揺さぶられ、シェイクされて僕の気持ち悪さがヤバい。
このままだと……うぇっ……!
僕が嘔吐する五秒前、コウタの頭が思いっきり叩かれた。
「ぐおっ……!」
「うぷっ……!」
コウタは頭を押さえてしゃがみこみ、僕は吐き気をギリギリ堪えることができた。
吐瀉物を吐き散らすのを未然に防いでくれた救世主に僕は顔を上げた。
「まったく……騒がしいと思ったら……」
赤い帽子と、少し? 露出が多い特徴的な服を着た少女――アリサ――が、腕を振り下ろした格好で
ただずんでいた。
「だ、だってさ! 優がIS学園に行くって、知ってた!?」
「知ってましたけど……ツバキ教官も言ってましたよ?」
「……マジで?」
コウタの問いかけに、僕は頷いた。
てっきり知ってるとばかり思っていたから、言わなかったんだけど……?
うわあああ、とコウタは頭を抱えた。
「女の子だけの学園に入学……!? 羨ましいぞこのやろぉ!!」
「……そうでもないよ」
「なんでだよ? ハーレムみたいなもんだぜ?」
IS学園には、男を見下している子が多いっていうのをどうやって説明すればいいか……。
ふと考えていると、アリサと目があった。
「……? なんですか?」
コウタにわかりやすく説明すると……
「学園全生徒が、初めて極東支部にきたアリサみたいな……?」
「ど、どういう例えですか!?」
「あー……」
納得、と言った感じでコウタが曖昧に頷いた。
いや、ねぇ? 支部に来たときのアリサは結構酷かったと思うよ?
兄さんのことだって貶したりしてたし?
「旧型は旧型なり――」
「わ、わあああ! やめてください!」
僕の台詞をアリサが赤面しながら叫んだ。
まぁ、あの頃は黒歴史みたいなもんだからね……。
アリサに昔の事を聞くとこうなるのは正直見てて楽しい。
そんなにやにやしている僕は、アリサに思いっきりぶっ叩かれた。
――――――――――
「――宮、雨宮!」
「は、はい!?」
大声に、僕は勢いよく立ちあがった。
長い間ぼーっとしていたみたいだ。
授業が始まって既に十分ぐらいは経過している。
「まったく……参考書も出さず、何をやっている?」
「え、えーっと……」
頬をかいて、苦笑いしながら僕は織斑先生から目を逸らした。
「お前も捨てたとは言わないな?」
「い、いえ……って、捨てるバカがいる訳ないじゃないですか。
あんな辞書みたいな大きさの本を捨てるほうがおかしいです」
捨てるにしても、初めに中身を確認してからだろう。普通はその時に捨てるはず――
と考えた所で、後ろからゴフッという音が聞こえた。
ちらりと見ると、一夏が胸を押さえていた。どうしたんだろうか?
「……捨てたバカなら、そこにいるぞ」
「……いや、その……ごめんなさい」
ぼーっとしてたせいか、一夏が怒られてるのも聞こえてなかった。
……後で一夏に謝らないとなぁ……。
なんて考えながら、僕は分厚い参考書に目を落とした。
授業は進んでいき、今は休憩――俗にいう休み時間だ。
机に突っ伏している一夏に僕は肩をたたいた。
「お疲れ……ってのはおかしいかな。どう? ついてけてんの?」
無言で一夏は首を横に振った。
だろうね。参考書を捨ててわかってたら僕は驚きだよ。
というかどうして参考書を捨てたんだよ、君は。
経緯を聞こうとした時、僕の声は遮られてしまった。
「――ちょっとよろしくて?」
……うわぁ。なんだか、嫌な予感を僕はヒシヒシと感じているよ。
「ん? 何だ?」
一夏は、呼ばれた方向へと顔を向けた。
僕もつられて向けると――外国人の女の子がいた。
金髪碧眼に縦ロール……ドレス着て城にいれば王女様にでも間違われそうだね。
雰囲気からして面倒だ。
「まぁ、何てお返事? 私に話しかけられることですら本来無い筈の光栄なのですから、それ
相応の態度というものがあるのではないかしら?」
――しかも高飛車ときたもんだ。初めのころのアリサぐらい面倒だな。
こういうのは下手にでればいいんだっけ?
それはそれでバカにされるのは癪、だよなぁ。
「悪い。俺、君が誰だか知らないんだ。ごめんな」
ば、バカ!! プライドが高そうな子にそんなこと言うと怒られるよ!?
せめて下手にでて聞くとかしようよ!?
「知らないですって……!? このセシリア・オルコットを――イギリスの代表候補制にして
入学主席のこの私を?」
バンと勢いよく一夏の机を叩きながら、こちらを睨みつけた。
いや、僕は何も喋ってませんよ? トバッチリかよこんちくしょう。
「――じゃ、その首席入学のオルコットさんに質問したいんだけど……」
よく質問できるね!? 彼女完全に怒ってるからね!?
変なことは聞くなよ? 絶対に聞くなよ!
「はい、なんでしょうか? 下々の要求に答えるのも貴族の務めですわ。
よろしくてよ?」
あ、少しだけ表情が柔らかくなった。
……うーん。よくわからないなぁ。
「だ、だいひょうこうほせい? って……なんだ?」
「ブフッ……!」
クラスメイトの大半が転ぶ中、僕は口元を押さえて吹き出してしまった。
それくらいしっておこうよ……。
「だ、代表候補生を知らない!? いや、もしかして私の日本語の言い方が間違っているの
かしら……?」
間違ってないです。一夏の頭がアレなだけです。
「一夏……代表候補生って言うのは、国のISの操縦者代表の候補生の事だよ。
国の代表として出る人の候補生って事だよ」
「へぇ……凄いんだな」
そんなことを知らない一夏が凄いよ。まったく……。
「つまりエリートなのですわよ!」
めんどくさいなぁ。こういうのと関わらなくちゃいけないのかぁ……。
僕は正直付き合っていける気がしない。
「へぇ。そんな人と同じクラスになれるなんて、俺と優はラッキーなんだな?」
「なんですの? その態度は? もしかして私のことを馬鹿にしていますの?
……まぁ、いいですわ。何せ私は入試で唯一、教官を倒したエリート中のエリートなのですから。
泣いて頼むのでしたら、何かしら教えて差し上げてもよくてよ?」
こんな傲慢な人を僕は今まで見たことが……いや、初めのころのアリサと並ぶかなぁ?
……そろそろアリサと比べるのはやめてあげよう。かわいそうだ。
「――あれ? 試験の教官なら俺も倒したぞ?」
……マジで? あ、一夏は勉強がダメで運動とか得意なのかな?
いやでもISって空間把握能力とか必要とするんじゃないのかなぁ。
「……はい!? わ、私だけだと聞いていましたが……?」
「お、女の子の中ではー、だったりして……じゃないかな」
それにしても、オルコットさんだけなのか……そんなに教官って強いのかな?
……姉さんぐらい強いのかなぁ。
「優はどうだったんだ?」
ゴンッ、と僕は頭を机に打ち付けた。
とことん話を聞いてないなコイツは……。
「僕は、まずISの操縦すらできないんだよ?
どうやって戦えっていうんだよ」
まぁ、神器なら戦えるかもしれないけどさ。
何て考えた所で、チャイムが鳴った。と同時に山田先生が入ってきた。
「――このままで終わると思わないことですわ!」
捨て台詞みたいな事を言い残して、オルコットさんは行ってしまった。
……嵐みたいな子だったなぁ。
「――今月末に行われる、対抗戦に出るクラス代表者を決めたいと思う」
授業の一番最後、織斑先生がそう言った。
「クラス代表者とはそのままの意味だ。対抗戦だけではなく、会議や委員会への出席……つまり、委員長のようなものだな。
それと、クラス対抗戦というのは入学時点での各クラスの実力推移を測るものであり、今の時点でたいした差はないだろうが1年間は変更が認められず、クラス
を体現したものとしてこれから何度もある対抗戦に出ることとなる。軽はずみに決めていいものではないぞ」
ふむ。代表か……。
「立候補はもちろん、自薦他薦も構わん。誰か意見はあるか?」
すっ、と僕は手を挙げた。
先生が視線で話せと促したので、僕は口を開いた。
「二人ですが、織斑一夏君とセシリア・オルコットさんを推薦します」
「――えぇっ!?」
ガタンと勢いよく一夏が立ち上がった。オルコットさんも目を軽く見開いていた。
「……理由を言ってみろ」
「織斑君とオルコットさんは、教官を倒したと言っていました。
この中で戦闘技術がほかの人より高いのはこの二人だと思ったからです。
そして、提案があるのですが……」
「うおおい!? 勝手に話進めないでくれよ!?」
スパンと一夏の額にチョークが突き刺さった。
ぐおぉ……なんて言いながら一夏は額を押さえてうずくまった。
「投票されたからには責任を持て……雨宮、提案とはなんだ?」
「二人に、試合をさせてほしいんです。オルコットさんはハンデとして量産機。
お互いに量産機を使っての試合です」
代表候補生の大半は国から専用機がある。流石に一夏も専用機では分が悪いだろう。
「……いいだろう。試合は次の月曜に第二……いや、第三アリーナで行う。
織斑とオルコットは準備しておけ」
先生がそう締めくくって、授業は終わりを告げた。
「優うぅぅぅぅぅ!? 勝手に、なんで決めたんだよ!?」
「いや、さっ、き先生に、言った通、りって、これ以上、はやば、い……!」
がくんがくんを肩を揺さぶられ、シェイクされる。
……あれ? デジャブ?