奥沢美咲は、超能力者である   作:親指ゴリラ

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大きな輪になって 8

 

 両手を広げて歓迎の意を示すこころを眺めているうちに、屋敷の中から沢山の人々が姿を現し、門の両側に列を作り始めていた。

 

 女性はメイド服を、男性は執事服を着ている。メイド服はフリルのあまりついていない、喫茶店とかのものではない本格的なやつだ。見るからに上等な代物であり、安っぽさは全く感じない。

 

 ああ、うん。この光景、漫画とかで見たことがある気がする。前からそれとなく実家の太さを感じさせられてきたけれど、こうして一目でわかるようなものを見せられてしまうと…………なんというか、改めて。自分とは暮らしている世界が違うということを思い知らされる。

 

 普通の感性を持っていたなら、敬遠していたかもしれないけど。まぁ、今更といった気持ちが強いから。彼女から離れる理由にはならない。

 

 それとなく横目で他のメンバーの様子を確認してみたけど。それぞれ別の反応をしていれど、その中に負の感情は全く感じられなかった。よかった…………私が心配するような事じゃないかもしれないし、こころの人を見る目を疑っているわけじゃないけど。人は自分と他人の間に格差を感じた時、普段からは考えられないような暗い側面を見せるものだから。

 

 取り繕っているわけでもなく。彼女たちは心の底から、あるがままを受け入れている。

 

 もしも、なんて考えていた自分が恥ずかしくなるくらいには。ここにいる人たちは善良な人間だった。それこそ、私なんかよりはよっぽど人が出来ている。

 

 花音さんは慌てているし、はぐみは目を輝かせていて、瀬田さんは何を考えているのかよく分からないけど。少なくとも、こころを悲しませるようなことにはならないだろう。

 

 ちょっとだけ不安だったけど。この人たちとなら、うまく付き合っていける気がする。

 

 

「さ、みんな! 入って入って!」

 

 そう言って先をいこうとするこころの前に、黒い服の人達が姿を見せる。相変わらず、どこから出てきたのかよく分からなかった。素顔を見せない上に、名前すら口にすることがない彼女たちは、本当に謎が多い。

 

 いつも真ん中に立っている黒い服の人が一礼すると、列になっていた使用人の人たちも揃って頭を下げた。

 

 

 ───おかえりなさいませ、こころさま。

 

 個人個人は大きな声だったわけじゃないけれど。それなりの人数が集まっているからか、その言葉には迫力がこもっていた。

 

 私の右手に力が込められている事に気がついて、横を見る。何故かまだ手を繋ぎっぱなしだった花音さんが、やや怯えたように身を縮ませていた。

 

 握られた手を握り返して、様子を伺う。

 

 無意識の行動だったんだろう。彼女は自分が手を繋いだままである事に気がつくと、慌てたように指を解いて、私から距離をとった。

 

 握っていた手をもう片方の手で掴んで、胸元の前に置いている。恥ずかしそうに頬を赤らめている姿からは、先ほどまで感じていたであろう緊張感は見られなくなっていた。リラックスしたというよりは、それどころじゃなくなったって感じだけど。

 

 見つめ合う訳にもいかないので、愛想笑いを返しておく。自慢じゃないけど、長年誰とも深い付き合いをしてこなかった私の愛想笑いは、それはそれは様になっている事だろう。いや、本当に自慢にならないな。私の方が恥ずかしくなってきた。

 

 なんともいえない気持ちを誤魔化すように、彼女から視線をそらす。

 

 

「すっごーーい! 遊園地みたいだよっ! プールもあるし、テニスコート! 噴水!!」

 

 そうして移した視線の先では、はぐみがぴょんぴょんと跳ねて驚きを表現していた。いや、よくそんなに目立つような行動が取れるな…………ほら、使用人の人たちも見ているのに。彼女…………案外、大物なんだろうか。

 

 流石にプロという事だろうか。彼女たちは花音さんやはぐみの様子を見ても表情を崩すことはない。内心どう思っているかは知らないけれど、少なくとも態度に出さないということは、しっかり教育されているという事なのだろう。ただの雇われって訳でもなさそうだ。

 

 なんてことを、それとなく考えていた時だった。

 

 

 

「こころさま、ご所望のミッシェルさまですが…………その……」

 

 突然聞こえてきた単語に反応して、勢いよく黒い服の人の方へと顔を向けた。彼女たちは私の方を見ながら、珍しい事に、口ごもっている。

 

 あ、うっかりしてた。ミッシェルの中身は私なんだよって、まだこころに伝えてなかった。

 

 それを、勝手に口にしていいものかと。黒い服の人たちは悩んで、それで私の方を見ているのだろう。見方を変えれば丸投げしているようなもんだけど、たしかに私から説明した方が一番話が通じやすい。

 

 黒い服の人たちと、その前で首を傾げているこころの方へと足を進める。

 

 

「こころ、ちょっといい?」

 

「あら、美咲。どうしたの?」

 

 澄んだ金色の瞳を見ながら、ありのままの事実を伝える。

 

「いや、実はミッシェルって────」

 

「奥沢さま、少々お待ちください」

 

 

 私なんだよね、と。そう言いかけた瞬間だった。黒服の人の一人が私の言葉を遮って、私とこころの間に無理やり体を滑り込ませる。

 

 突然のことに、驚きを隠せなかった。

 

 目を白黒させているうちに、彼女は私の手を取って。優しく、それでいて有無を言わせない迫力を伴って、こころから離れるように歩き出す。

 

 

「えっ、ちょ、ちょっと」

 

「申し訳ございません。少し確認したいことがございますので、お時間いただけないでしょうか」

 

 その横暴ともいえる態度に抗議の声を上げれば、彼女は心底申し訳なさそうな声で私へそう告げた。声音とは裏腹に、拒否できそうにない雰囲気だった。私を引っ張る力の強さが、彼女の意思の強さを物語っている。

 

 いったい、何をそんなに焦っているのだろうか。

 

 後ろから見た彼女の首筋には、ほんのりと汗が滲んでいる。いつも冷静さを崩さない…………失礼な言い方になるけど、ロボットのようにキビキビと働く彼女たちにとって、それは珍しい姿だった。

 

 こころの方へと振り返ると、他の黒服の人がなにやら彼女の話を聞いているところだった。こころもこころで私のことが気になっているのか、時々こちらへと視線を向けている。その中に心配の色が見られないのは、黒服の人たちに対する信頼感の表れだろうか。

 

 

 ある程度離れたところで、彼女は私の手を離した。少しの間掴まれていただけなのに。今も感覚が残っているくらいには、彼女が私の手を握る力は強いものだった。

 

 ストレッチがわりに手首を動かして、その感覚を誤魔化しながら。私は視線を彼女へと向けて、話を促した。

 

 こうして急に引っ張り出されても、無理に抵抗しないくらいには。私も彼女たちのことを信頼している。主に、こころに対する忠誠心に向けた信頼だけど。その一点に関しては、疑いようもないほど…………彼女たちはこころの事を第一に考えているのだから。

 

 いつも過保護な気がするけど。今となっては、私も人のことを言えないし。

 

 

「奥沢さま、あなたがミッシェルの…………俗にいう、『中の人』であるという事は既に調べがついています。昨日はお仕事の最中であるにも関わらず、こころさまに付き合っていただき、なんとお礼を言っていいか」

 

「あー、いえ。そこは…………まぁ、流石にちょっと強引だとは思いましたけど。でも、嫌ではなかったですし…………それに、商店街の人とは話がついているんでしょう?」

 

 あの時は精神的にショックを受けていたからうろ覚えになっているけど。アルバイトの時間が終わったあと、途中から仕事内容が変わっていたにも関わらず、担当の人は殆ど何も言ってこなかった。むしろ、私が謝られたくらいだった。今後のことは後で連絡するからと、帰るように促された気がする。

 

 その事について、話があるのだろうか。

 

 そんな疑問を言葉に含めれば。彼女は一つ頷いて、再び口を開く。

 

 

「はい。条件付きとはなりますが、私どもでミッシェルに関する権利を買い取らせていただきました。奥沢さまに限りましては、これからは直接の雇い主が商店街から私どもへと移る形になります」

 

「えっと、それ…………商店街の方はどうなるんですか? ミッシェルって、あそこのマスコットキャラクターの筈なんですけど」

 

 というより、それって大丈夫なんだろうか。ほら、法律とか色々。私は詳しいわけじゃないから、よく分からないけど。なんとなく…………アウトな気がする。特に、雇用主の契約部分の辺りが。

 

 予め予想していた質問なんだろう。黒服の人は用意していた答えを口にするように、淀みなく説明を続ける。

 

「そこが条件の一つです。奥沢さまには、平時は今までと同じように『ミッシェル』として商店街の広報活動を行っていただきます。もちろん、給金は私どもの方から出させていただきます。そして…………こころさまが求めた際には、バンドのメンバーとしてミッシェルを使用させていただく事になっています」

 

「ええっと、つまり私に…………ミッシェルとして振る舞えって事ですか? その、こころの前で」

 

「はい、そういうことになります…………念のために確認させていただきたいのですが、先ほど言いかけていた言葉の内容を考えるに、まだこころさまに自分がミッシェルであるとは伝えていない。という事でよろしいですね?」

 

 嫌な予感がした。なにかとんでもないことを告げられそうな、そんな気配を。念のため、そう言いながら。確信を持っているような雰囲気が、彼女の言葉から滲み出ている。

 

 それに気がつかないふりをして、言葉を返した。

 

「まぁ、なんとなくタイミングが掴めなくて…………単純に、忘れていたのもありますけど」

 

 

 

 

 

「それでは、こころさまにはその事実を黙ったままでいただきたい」

 

 

 なにを言われたのか、分からなかった。いや、分かりたくないだけなのかもしれない。彼女のサングラスに反射している私の顔が、強張っていく。

 

 なにか、聞き間違えたのかもしれない。そんな淡い期待を込めて、口を開く。

 

 

「それは私に、彼女を騙せって言ってるんですか?」

 

「そういう見方もあります」

 

 

 瞬間的に頭に血が上りそうになって、それを理性で押しとどめる。皺が寄った目頭を指で揉み解しながら、自分が取るべき行動を考えた。

 

 彼女の真意は理解できないが、彼女からは私の感情がよく理解できている事だろう。嘘をつくのが下手くそな私は、きっと不機嫌さが態度に出てしまう。隠そうとしても、伝わってしまう。もっとも、今は隠すつもりがないけれど。

 

 むしろ、全力で「私、不機嫌です」という気持ちを態度で表現しながら。一応話だけは聞いておこうと、質問を投げかける。

 

 

「あの、流石にこころも気がつくと思いますよ。ミッシェル…………キグルミが登場するたびに、私が居なくなっているんだったら。関係性は一目瞭然じゃないですか」

 

「もちろん、此方側でも最大限のサポートはさせていただきます。奥沢さまが辞退されるのであれば、私どものうちの誰かがミッシェルとして活動させていただきます。ですが、その事も含めて…………こころさまには、何も伝えないで頂きたい」

 

 その、何がなんでもミッシェルの事は伝えたくないという彼女の態度に。私は怒りよりも、むしろ…………疑問を、強く抱いていた。

 

 たしかに、こころは子供のように純粋だ。未だにサンタクロースを信じていそうだし、子供はコウノトリに連れられてくるとか思ってるかもしれない。

 

 子供の夢を壊すという事には、私も抵抗がある。キグルミの中に人がいる、なんていうのは誰もが知っている事だけど。大人たちはそれを積極的に伝えようとしないし、演者だって人前で中身を見せようとはしない。某ネズミのテーマパークなんて、キャラクターが実在しているかのように振舞っている。

 

 だけど、それはあくまで。子供が夢を信じていられるようにという…………いつか自ずと気づくまで、無粋なことをしない。そういう意味があってのことだ。

 

 こころは誰よりも純粋だけど、私と同い年の女の子だ。高校生にもなれば、キグルミに中の人がいて、キャラクターを演じているだけなんてのは理解しているだろう。

 

 

 その上で正体を黙っていろ、というのは。いったいなんの意味があるのだろうか。それも、今回に限って言ってしまえば。中の人であるところの私は彼女の友達だ。奥沢美咲とミッシェルを切り替えて接していたら、破綻するのは目に見えている。だって、どう頑張っても二人が同時に存在できないのだから。もう不自然極まりないというか、普通にバレる。

 

 そんなことを一から説明して。もう一度、黒服の人の言葉を待つ。額に微かな汗を浮かべながら、彼女は口を開いた。

 

 

「奥沢さま、私たちの存在理由が何か…………分かりますか?」

 

「…………こころが危険な目に遭わないよう、見守ること…………ですか?」

 

「違います。いや、そういう側面があることも確かです。しかし、それはあくまで理由の一部にすぎません…………私たちがするべき事、それは『こころさまが個人(・・)ではどうにもできない事に遭遇した時、不便や不満を感じる前に解決すること』なのです」

 

「あの…………言いたいことがよく分からないんですけど、それがミッシェルにどう関係しているんですか?」

 

「…………こころさまは既に、ミッシェルという存在を『独立した一つの生命』として見ているのです。その上で、気を許しかけている。その幻想が砕かれるということは…………あの方の友人が一人、死んでしまうことと同義なのです。そうなってしまえば、何が起きるか予想できません」

 

「…………少し、大げさすぎませんか? 言いたい事は、なんとなく理解できますけど。その理屈でいったら、尚更早めに伝えた方がいいんじゃないですか? ある程度仲良くなって、その後に『実はミッシェルなんていませんでした』なんて知られる事になったら…………それこそ、余計に辛いと思うんですけど」

 

「ですから、絶対に知られてはいけないのです」

 

「…………いや、そういう事じゃなくてですね。私が言いたいのは、彼女を傷つけるような嘘をつくべきじゃないって事で────」

 

 

 

 

 

「奥沢さま」

 

 

 彼女の鬼気迫る様子に、無意識のうちに一歩引いていた。唾液が口の中に溜まっていて、喉が鳴る音が聞こえる。

 

 私の目の前で、彼女が頭を下げた。

 

 

「お願いします」

 

 

 私よりも歳上の、彼女が…………私に対して、頭を下げている。言葉で納得させることが出来ないから、行動で通そうとしている。

 

 なにをそこまで、必死になっているのだろうか。

 

 彼女が意図的に何かを伝えようとしていないことは、分かっているけれど。だからといって、ここまでする必要がどこにあるんだ。

 

 異常だった。

 

 なにをどうして、こころを騙さないといけないんだ。そんな、いつかはバレるに決まっているのに。ただの高校生にすぎない私に頭を下げてまで、何を隠そうとしている。

 

 

 何を、恐れている(・・・・・)

 

 

 

 

 

 

「美咲! まだ話は終わりそうにないの?」

 

 

 こころが大きな声で呼ば掛けながら、私たちの方へと駆け寄ってくる。その言葉を聞いて…………黒服の人は下げていた頭を戻し、私の瞳を正面から見つめた。

 

 彼女の瞳は、隠れて見えないというのに。決して主張を曲げないという強い意思が、黒いレンズ一枚を隔ててこちらへと伝わってきた。

 

 

「どうか考慮いただけますよう、お願いいたします」

 

 たった一言、そう言い残して。

 

 こころが私たちの元へとたどり着く前に、彼女はその場から立ち去っていった。お願いなんて、軽いものじゃない。あれは、有無を言わせない「要求」だった。

 

 それこそ、何があっても「否」と言わせない。そんな迫力が、言葉に篭っていた。

 

 

 …………少しだけ。本当に、少しだけ。彼女の必死な姿が、あまりにも異様だったから。目の前にそびえ立つ大きな屋敷が、彼女にそうさせる原因なのだとしたら。それはひどく…………得体の知れない存在のように、感じられた。

 

 

「美咲、なんの話をしていたの?」

 

「…………なんでもないよ(・・・・・・・)。ちょっと、今後のことで相談があっただけ」

 

「今後のこと、って?」

 

「あー、なんていうか…………子供の夢を守るためには、どうすればいいかって話」

 

「あら、素敵ね。あたしも入れてくれればよかったのに」

 

「…………ほら、行くよ。作戦会議、するんでしょ?」

 

 

 納得したわけじゃない。むしろ、反発する気持ちは最初よりも大きい。だって、そんな、彼女を傷つけることが分かっているのに。それなのに、意見を変えようとしないなんて…………絶対に、間違っている。

 

 だけど────。

 

 それだけじゃない、と。他にも何か理由があるんだと、第六感(超能力)が囁いているから。

 

 だから今は、とりあえず保留にしておく。この先どうなるか分からないけど…………致命的な破綻が訪れるまでに、彼女たちが私を納得させられると、信じて。

 

 後ろめたい気持ちと、少しの罪悪感を飲み込んで。

 

 手を引いて歩き出した彼女に、自分の身を任せた。

 

 




 難産でした。頭の中のことをちゃんと伝えられているのか不安なんですけど、これ以上先延ばしにしてもエタるだけなんで。今の自分にできる限界を投稿したいと思います。あとで少し修正するかも。

 ところでさぁ…………バンドリくんさぁ…………あの、あれやばすぎるでしょ。皆さんはもう見ましたか? 某動画サイトに投稿されましたね。「エイリアンエイリアン」のPV!!!

 あまりにも良すぎて歯を食いしばってたら親知らずが欠けました。いや、前からグラついてたんですけどね。あまりにも…………あまりにもやばすぎて…………。

 あれ聞いてからブーストがかかってこの話を書き上げられたみたいな所があるので、マジで感謝です。まだ見てない人は10回は再生しましょう。期間限定公開なので、なるべく早く見ておいた方がいいです。できればずっと公開しててくれ…………頼む…………。
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