理由としては彼の存在が大きかったです。
僕はある日夢を見た。
荒廃した都市。よくテレビとかで見かける綺麗な街並みではない。鉄骨がむき出し、そして寂れかかっている。ガラスは無残に割れ、もう倒れるんじゃないかぐらいに傾いているビルもある。あんなところに人々は生きているというのだろうか。
瞬きすると場面が変わった。前方には黒い猪。それにしても大きすぎる。見た感じ2階建ての家一軒ぐらいもあるんじゃないか。それが何匹もいる。見たらわかる、勝てるはずがない。もしかして、ああいうのがここを屯しているというのか。
また場面が変わる。そんな猪達を立ち塞がるようにして、1人の青年が佇んでいた。フードを被っていたので、顔ははっきりと見えなかった。でも、青いマントに銀色の鎧を纏っていたので、騎士だったに違いない。
まさか、あんな数を目の当たりにしても戦うというのか。
僕の不安を他所に、騎士は黄金に輝く剣の柄を握りしめ――
***
あの夢は何だったんだろうか。しかし、考える時間を僕には与えてくれない。
僕がカルデアに衣食住を営むことになってからは、多忙の生活。サーヴァントの方々と種火周回、素材集め、QP稼ぎ…。
加えてダ・ヴィンチさんなどからの魔術に関するレクチャー。これは僕の希望によるものだ。マスターとなった以上、『魔術なんてよく知らない』なんて言い訳なんか言ってられない。ダ・ヴィンチさんは「別に気にすることじゃないよ」とフォローしてくれたが、結局は強い希望で押し負けてもらった。
……なるほど。情報量がかなり多い!
ファンタジー映画で見かける魔法よりも深く、そして複雑だ…。多くの魔術師はこれを勉強していたというのか…。
強い意欲に惹かれたのか、教えるペースにスイッチがかかるダ・ヴィンチさん。待ってください、教えてくださいと確かに言いましたけど! 1つのカリキュラムでこの情報量の多さだというのに、一気に1年分注がれると修復前に頭がパンクしてしまうんですけど!
結局の所、ロマンさんに止められ、不満げな顔を浮かべるダ・ヴィンチさん。あとで強化してもらう際、謝らないとね…。
***
そして場所は召喚室。人理修復のために、もっと多くのサーヴァントに手を貸してもらおうと、僕とマシュは来ていた。
「でも、僕なんかのために来てくださるんだろうか…」
「大丈夫ですよ先輩。クー・フーリンさんやデオンさん、ランスロットさんも召喚に応じてくれましたし」
クー・フーリンさん。青いローブを被った青髪の方は、ケルトの大英雄として讃えられている。冬木に来た際に助けてくださったキャスターだ。クーさん曰く、『本来ならランサーで召喚されてほしかったが』らしい。
シュヴァリエ・デオンさん。セイバーのサーヴァントで、白百合の騎士と言われている。フランス出身の方だそうで、当時の王家に仕えていた。ちなみにその王家にはマリー・アントワネットさんもいたという。初めて会ったときは綺麗な方だと思い失礼ながら女性かと思ったが、ステータス上では性別不明だそうだ。
そしてランスロットさん。同じくセイバーのサーヴァント。イギリスでは有名な『アーサー王伝説』に登場する円卓の騎士の1人で、湖の騎士とも評されていた。あの事件が起こるまでは…。
ただこのときに共通することは、『謝ってしまった』ことにある。
クーさんはランサーの適正が強いらしいので希望通りには行かず、デオンさんにも性別を間違える、そしてランスロットさんにもスキャンダルを無意識に突くという大失態を犯してしまった。
「いえ先輩、大失態ではないかと…」
「あれっ、マシュ。もしかして僕、独り言言ってた?」
「はい」
マシュの返事を聞いて、僕は深くため息をついた。情けないなぁ…。
「でも彼らも困っていました。突然頭を下げられたからどうしたことかと。ランスロットさんはあれでしたけど…」
「まぁね、いくら使い魔だって言われても、過去に生きた偉人。言い換えると、人生の先輩みたいな大きな存在だし」
「なるほど。ですが先輩、2人とも先輩のサーヴァントとして契約してくれました。ですから私は、先輩が心配することはないと思います!」
「マシュ…」
やばい、涙出てきそう。通っていた学校に、健気に接してくれる後輩なんていたんだっけ…。
閑話休題。思い出せば、こんな僕のためにサーヴァントとして契約することを受け入れてくださった。この間のトレーニングや特異点修復の際も同行してくれたし。ネガティブにはなっていられないよね。
聖晶石を供え、口上を唱えて召喚を行う。すると見たことのない反応を見せた。
――1輪の虹色に輝く輪が浮かび上がったのだ。
「せ、先輩…! これって…!」
「え、何!? 何が起こるの!? 何かすごいことが起きるの!?」
なにせ初めて見る光景だから慌ててふためいていた。
小さな取り出し口からカードが飛び出す。その裏面には剣士――セイバーが描かれていた。
そして、召喚サークルに1人の影が現れる。その方を見て、僕は既視感を覚えた。
――青いフードに、銀色の鎧を纏う騎士だった。
「僕はセイバー。君を守り、世界を守る――サーヴァントだ」
金髪碧眼の騎士は、僕を見て微笑んだ。ゆっくりとカードを裏返し、表を見た途端、僕は目を大きくしてしまった。
「先輩、あの人は…」
――アーサー・ペンドラゴン。まさかの『アーサー王伝説』の主人公だった。
僕は咄嗟に、アーサーさんの前に駆けつけた。
「初めまして…! マスターの藤丸立香です! ま、まさかのアーサーさんが来てくれるなんて…!」
「そう肩苦しくならないでおくれ。今の僕は君の従者にしか過ぎないし、もっと砕けた態度でも構わないよ」
「いえ、それは、それだけは絶対ダメです! 僕にとってサーヴァントは尊敬すべき人生の先輩なんですから!」
「せ、先輩だなんて…。そう呼ばれるとちょっと恥ずかしいなぁ」
アーサーさんはそう言い、照れ隠す素振りを見せる。騎士王と呼ばれた青年は、威厳さを打ち消すかのような表情を浮かべている。
何より彼を見て、僕の心には1つの余裕感が生まれていた。
「よっしゃああああ!! アーサー王、ばんざい! ウォアアアアアア――――ッッ!!!」
「マスター!?」
「先輩! どこ行くんですか!? 先輩!!」
この後、気を取り直した僕はアーサーさんに謝罪し、恥ずかしさのあまり部屋から出られなかった。
ちなみに騒ぐシーンは『王様の剣』のラストより。