「さて皆、総合科目テストご苦労だった」
教壇に立った雄二が机に手を置いて俺たちの方を向いている。
今日も午前中テストで、ついさっき全科目のテストが終わり、昼食を取っていた。
昼休終了まで残り十分。昼休み終了のチャイム、つまり開戦の合図が始まるまで、最終ミーティングをしている。
「午後はBクラスとの試召戦争に突入する予定だが、殺る気は十分か?」
『おおーっ!』
一向に下がらないモチベーション。俺達のクラスの唯一の武器だと言っても過言ではない。
「今回の戦闘は敵を教室に押し込むことが重要になる。その為、開始直後の渡り廊下戦は絶対に負けるわけにはいかない」
『おおーっ!』
今回はDクラス戦とは違い、渡り廊下で決着をつけるのではなく、相手の教室まで押し返し、閉じ込める戦法だ。
「そこで、前線部隊は姫路瑞希に指揮を取ってもらう。野郎共、きっちり死んでこい!」
「が、頑張ります」
男のノリについていけない姫路は若干引きながら一歩前に出る。
『おおーっ!』
このバカ共は一緒に戦えるというだけで士気は最高潮に上がっている。
とりあえずは廊下での戦闘を勝ちに行くため、大量の戦力を注ぎ込む。Fクラス最強の姫路と俺がいる為、負けることは無いだろう。
キーンコーンカーンコーン。
昼休み終了のベルが鳴り響く。いよいよBクラス戦開始だ。
「よし、行ってこい!目指すはBクラスだ!」
目的が敵を教室に押し込むことなので、勢いが重要となる。
俺達は全速力でBクラスへと向かう廊下を駆け出した。
今回のこちらの主武器は数学。Bクラスは比較的文系が多いのと、長谷川先生の召喚可能範囲が広いのが理由だ。他にも英語のリーディング、物理がある。
「いたぞ、Bクラスだ!」
「高橋先生を連れているぞ!」
正面からゆっくりとした足取りで十人程度のBクラスのメンバーが歩いてくる。様子見と言ったところか。
「生かして帰すなーっ!」
物騒な台詞が皮切りとなり、Bクラス戦が始まった。
Bクラス 野中長男
総合 1943点
VS
Fクラス 近藤吉宗
総合 764点
さすがBクラスと言ったところか。やはり桁が違う。
Bクラス 金田一裕子
数学 159点
VS
Fクラス 武藤啓太
数学 69点
Bクラス 里井真由子
物理 152点
VS
Fクラス 君島博
物理 77点
圧倒的な実力差に第一陣がことごとくやられていく。
「気をつけろ!畠山蓮がいるぞ!」
Bクラスからそんな指示が飛ぶ。
うーん。雄二にはあまり戦闘に参加せず、戦場にいるだけでいいと言われているんだけど。どうしたものか……。
そんなことを考えていると、
「お、遅れ、まし、た……。ごめ、んな、さい……」
息を切らした姫路がやって来た。全力疾走について来れなかったのか。まあ予想はしていた。ただ、状況によっては困るのでもう少し体力をつけて欲しい。
「姫路瑞希も来たぞ!」
Bクラスの誰かの叫びに全員の目つきが変わり、警戒を強める。
姫路が前に出ると、女子二人が長谷川先生に数学の立会を頼み、勝負を挑んでいる。
ここで姫路を落として士気を下げるつもりか。
『試獣召喚!』
魔法陣が展開し、召喚獣が顔を出す。
Fクラス 姫路瑞希
数学 412点
VS
Bクラス 岩下律子&菊入真由美
数学 189点&151点
「あれ?姫路さんの召喚獣ってアクセサリーなんてしてるんだね?」
「あ、はい。数学は結構解けたので……」
「?結構解けると、アクセサリーをしてるの?」
明久の言う通り、姫路の召喚獣は左手首に綺麗な腕輪をしていた。
「明久。これは400点以上取った召喚獣にだけ装備できる特殊能力が使える腕輪だ」
「ああ、そんなのもあったね」
「まあ、お前には縁もゆかりも無いから覚えなくても問題ねえよ。因みに俺も持ってる」
「うるさいなぁ」
事実だろうが。
「じゃ、いきますね」
明久と軽口を交わしていると、姫路は顔色を変える二人に腕輪を使用する。
小さな手を握り込む姫路の動きに合わせて、姫路の召喚獣が相手に左手をむける。
姫路の腕輪が光を発し、
キュボッ!
「きゃあぁぁっ!」
「り、律子!」
左腕から光線が迸り、敵の召喚獣一体を灰にした。
そして、大きく避けてバランスを崩した敵に大剣を振り下ろし、一刀両断する。
「い、岩下と菊入が戦死したぞ!」
「なっ!そんな馬鹿な!?」
「姫路瑞希、噂以上に危険な相手だ!」
Bクラスの残り八人の表情に驚愕の色が見える。無理もないか。
「確か畠山蓮も腕輪を持っていると言ってなかったか?」
「アイツ姫路瑞希よりも成績良かったよな?」
「何だそれ!?勝てるわけないだろ!」
これはラッキーだ。俺に対する警戒も強まり、敵の士気を完全に挫くことが出来た。
「み、皆さん、頑張って下さい!」
姫路は指揮官らしくない指示を出し、後ろに下がる。
例外はあるが、威力が高い特殊能力の使用にはその分点数の消費が激しい。連発は望めないし、戦死を避けるために後ろに下がらせるのは基本だ。それに、姫路抜きでも前線部隊崩壊は時間の問題だろう。
「やったるでぇーっ!」
「姫路さんサイッコーッ!」
美少女の応援にFクラスの士気が大幅に上がる。どうやら信者は増え続けるようだ。
「中堅部隊と入れ替わりながら後退!戦死だけはするな!」
そんな相手の指示が聞こえる。とりあえず狙いは成功だ。このまま下がらせて行って、Bクラスを教室に押し込んで今日の戦闘を終了したいところだ。
「明久、蓮、ワシらは教室に戻るぞ」
俺達の所に秀吉がやって来る。
本陣で何かあったのか?
「Bクラスの代表じゃが……」
「うん」
「あの根本らしい」
「根本ってあの根本恭二?」
「卑怯で有名な?」
「うむ」
根本恭二。噂には疎い俺でも何度か耳にしたことがある。とにかく評判が悪く、噂ではカンニングの常連とか、球技大会で相手に一服盛ったとか、喧嘩で刃物は当然装備だとか。
流石にそこまで酷くないだろうが、火のないところに煙は立たないし、卑怯なのは嘘ではないのだろう。
「なるほど。戻っておいた方が良さそうだね」
「面倒臭いことになってないといいんだが……」
「そうじゃな。雄二に何かがあるとは思えんが、念のためにの」
姫路に一言報告し、俺達は何人かを連れて教室へと引き返した。
「……うわ、こりゃ酷い」
「まさかこうくるとはのう」
「ったく、めんどくせぇ」
教室に引き返した俺達を迎えたのは、穴だらけになった卓袱台とへし折られたシャーペンや消しゴムだった。
地味だが点数に影響が出る嫌がらせだ。これじゃあ補給もままならない。
立派な作戦とは言えるが、にしても根元は器が小さいようだ。
「あまり気にするな。修復に時間はかかるが、作戦に大きな支障はない」
「雄二がそう言うならいいけど」
「けどこれっきりにしてくれよ。何度もされたら面倒だし、シャーペンとか消しゴムだってただじゃないんだ」
というかこれ器物破損じゃないのか?ちゃんと弁償してもらえるんだろうな。……ん?
「これ……」
目に映るのは一つのシャーペン。黒を基調とし、所々に星が散りばめられているそれは、文月学園の入試前に優子から貰ったシャーペンだった。
「それは姉上から貰った……。なんてことを……!」
他と同じようにへし折られているシャーペンを見て、秀吉は怒りを露わにする。秀吉もこのシャーペンのことを知っているから余計に。
それに比べて俺はどこか冷静だった。怒ってない訳ではないが、相手の作戦だと理解はしてるし、言ってしまえばたかだかシャーペンだ。優子も怒ることは無いだろう。
「根本の奴、覚悟は出来てんだろうな」
シャーペンをへし折られた程度で怒りはしない。けど、大事な人から貰った物を壊されたんだ。少しくらい報復しても構わないだろう。
「ぜってぇぶん殴ってやる」
ニヤリと、笑みを浮かべる。
根元を討ちとる時が楽しみだ。