「にしても、何で雄二は教室がこんなことになってるのに気づかなかったんだ?」
教室にいたはずの雄二がこんなこと許す筈ないと思うんだが。
「協定を結びたいという申し出あってな。調印のために教室を空にしていた」
「協定じゃと?」
「ああ。四時までに決着がつかなかったら戦況をそのままにして続きは明日午前九時に持ち越し。その間は試召戦争に関わる一切の行為を禁止する。ってな」
「それ、承諾したの?」
「そうだ」
「でも、体力勝負に持ち込んだ方がウチとして有利なんじゃないの?」
「明久、体力勝負に不利な姫路が俺達の武器だろ?姫路には万全の状態でいてもらわないと困る」
「そういう事だ。この協定は俺達にとって都合が良い」
雄二の言う通り、俺達に都合がいい。
ただ、幾ら机に嫌がらせしたいからって、俺達にメリットのある協定をあの根元が出してくるのか?何かおかしい気がする。
「明久、蓮。とりあえずワシらは前線に戻るぞい。向こうでも何かされているかもしれん」
秀吉はそう言った後、教室を駆け足で出て行った。
「ん。雄二、あとよろしく」
「頼んだぞ」
「おう。シャープや消しゴムの手配をしておこう」
手を挙げる雄二に背を向け、秀吉を追いかけて走り出す。
秀吉はそこまで全力で走っていなかったのか、直ぐに追いつくことが出来た。
「なんか、まだまだ色々やってきそうだね」
「気をつけろよ。何しでかすか分かったもんじゃない」
「そうじゃな。この程度で終わるとは思えん。気を引き締めた方が良さそうじゃ」
っと、話してる間に戦場が見えてきたみたいだ。
「では、くれぐれも用心するんじゃぞ!」
「秀吉もね!」
「頑張れよ!」
互いに警戒し合い、それぞれの部隊に戻る。
「吉井、蓮!戻ってきたか!」
そう言って出迎えたのは須川。部隊は副官の島田が指揮をとってるはずだろ?
「待たせたね!状況は?」
「かなりマズイことになっている」
「どうかしたのか?」
あの有利な状況で負けることなんてあるわけない。向こうの本態が出てきたわけでも無いみたいだし。
「島田が人質に取られた!」
「なっ!?」
「はあっ!?」
何で指揮官の島田が敵に捕まるんだよ。
「おかげで相手は残り二人なのに攻めあぐんでいる。どうする?」
「……そうだね。とりあえず状況を見たい」
「案内してくれ」
「それなら前に行こう。そこで敵は道を塞いでいる」
須川が前を歩き、俺達はそれに着いて行く。
人垣を抜けると、須川の言った通り二人のBクラス生徒と捕えられた島田及び召喚獣がいた。
そばには補習担当教師もいる。
「島田さん!」
「よ、吉井!」
明久と島田が安っぽいドラマの真似事をしている。お前余裕あるだろ。
「そこで止まれ!それ以上近づくなら、召喚獣に止めを刺して、この女を補修室送りにしてやるぞ!」
……上手いな。島田の補習室送りをちらつかせて、此方の士気を挫くのと同時に援軍を待ち、自身の補修室送りを避ける作戦か。
……なら仕方ないか。
「総員突撃用意。島田ごとやるぞ」
島田にはわるいが、ここでBクラスと死んでもらおう。
「それでいいのか!?」
「これが一番だ。それでいいな、明久?」
「うん、構わないよ!戦争に犠牲は付き物なんだから!これは仕方ないんだ!決して日頃痛めつけられている仕返しじゃないからね!」
私情を挟むなこのバカ。
「ま、待て!コイツがどうなってもいいのか!?」
「アホか。Fクラス一人を助けるか、Bクラス二人を戦死させるか。取るなら後者に決まってんだろ」
島田の犠牲でBクラス前線部隊二人を戦死できるんなら万々歳だろ。
「クッ……!おい、吉井!コイツがどうして俺達に捕まったと思っている!?」
「馬鹿だから」
「殺すわよ」
何も間違ってないだろ。
「コイツ、お前が怪我をしたって偽情報を流したら、部隊を離れて一人で保健室に向かったんだ」
Bクラス一人の言葉に吉井は目を開く。
というか、島田は何やってんだ。
「島田さん……」
「な、なによ」
「怪我をした僕に止めを刺しに行くなんてアンタは鬼か!」
何故お前はそういう考えに至るんだ……?
「違うわよ!ウチがアンタの様子を見に行っちゃ悪いっての!?これでも心配したんだからね!」
「島田さん。それ、本当?」
「そ、そうよ。悪い?」
「気をつけろ!あの島田さんは偽物だ!変装している敵だぞ!」
「どうしてよっ!?」
どういう思考回路してるんだお前は……。
ともかく、島田が明久を心配して保健室に行ったのは間違いないようだ。なら、
「総員突撃用意」
『何でだよ!?』
突撃準備の指令を出すと、明久以外からツッコミが入る。
「何でだよはこっちのセリフだ。さっきも言っただろ。島田如きの命を守るくらいなら、お前ら倒した方が得なんだよ」
「なっ……!?最低じゃない!」
島田はそう喚く。まあ、別に最低でもいいが。
「あのな、島田。悪いのお前って分かってる?指揮官が部隊を離れてどうするんだよ」
「だからそれは、吉井が心配で……」
「明久が言った通り、戦争に犠牲はつきものだ。それは試召戦争でも例外じゃない。何か事故があるつもりでいろ」
仮にもこれは戦争なんだ。怪我が起きるのは想定しておくべきだ。
「それに、様子が見たいんなら終わってからだろ。戦争中にに、しかも指揮官が離れるのは論外だ」
とりあえず島田を黙らし、俺はBクラスの方を向く。
「さて、俺達は人質なんてどうでもいい。どうする?Bクラス」
「クソ……っ!こんな最低な奴がいたんなんて!」
「ああ、想定外だ……!」
そろそろ泣いてもいいんじゃないだろうか。
目から零れそうになる雫をなんとか抑えながら焦るBクラス二人に笑みを浮かべる。
この場をどう切り抜けるかを考えたところでもう────
「チェックメイドだ」
瞬間、Bクラス二人の召喚獣が戦死する。
「「なっ!?」」
Fクラス 畠山蓮
英語W 386点
VS
Bクラス 鈴木二郎&吉田拓夫
英語W DEAD&DEAD
「い、いつの間に!?」
「召喚獣が見えなかったぞ!?」
Bクラス二人は驚きの声を上げる。
「お前らと会話してる時に召喚してそのまま攻撃しただけだよ」
「卑怯だぞ!」
「そーだそーだ!」
話に気を取られているお前らが悪いんだろ。
恨み言を言いながら二人は補修室に連行されて行く。今日の第一目標は達成だ。
さて、後は戦死寸前の奴を調べてBクラスの教室に乗り込みにでも────
「皆、気をつけろ!変装を解いて襲いかかってくるぞ!」
お前はまだやってたのか。
「どんな演技をしたって無駄だぞ!この大根役者め!」
「酷い吉井……。ウチ本当に心配したんだから!」
「取り囲むんだ!いくらBクラスでもこの人数なら勝てるかも」
「本当に、『吉井が瑞希のパンツで鼻血が止まらなくなった』って聞いて心配したんだから!」
「包囲中止!コレ本物の島田さんだ!」
確かにこんな嘘に騙されるのはFクラスくらいだろう。
「島田さん。大丈夫だった?」
手首がへし折れる程に手のひらを返した明久は島田に手を差し伸べる。
「無事でよかったよ。心配したんだからね」
「…………」
島田からのリアクションは無い。
「それにしても、卑怯な連中だね。人として恥ずかしくないのかな?」
友達を変装した敵扱いしたお前の方が人として恥ずかしいと思う。
「あー、島田さん。実はね」
「……なによ?」
やっとリアクションが帰ってきたことが嬉しかったのか、明久は満面の笑みを浮かべる。
「僕、本物の島田さんって最初から気づいてたよ?」
さすがに無理がある。