「ここは、どこ……?」
先程島田に襲われ、気絶した明久が目を覚ました。
「やっと目を覚ましたか。意味わからんことで一々気を失ってんじゃねえよ」
「いや、あの虐殺じゃ仕方なかったと思うんだけど……」
「お前の自業自得だろ。バーカ」
まあ、確かに散々殴られた後に廊下に叩きつけられてたから仕方ないのかもしれんが。
「それで試召戦争は?」
「予定通り休戦中だ。続きは明日」
「戦況は?」
「一応計画通り教室前に攻め込んだ。もっとも、こちらの被害も少なくはないがな」
代わりに雄二が被害の書かれたメモを読み上げる。廊下側は全力を注いだから圧勝に見えるが、他は良い状態ではない。
「…………(トントン)」
「お、ムッツリーニか。何か変わったことはあったか?」
いつの間にか康太が来ていた。今回康太は情報係で、戦闘に参加せず、周囲を警戒し相手の動きをチェックしていた。
話によると、Cクラスが試召戦争の用意をしているらしい。漁夫の利でも狙うつもりだろう。最低なヤツらだ。
「雄二、どうするの?」
「んー、そうだなー」
チラリと時計を見るが、時刻はまだ四時半。そこまで遅い時間じゃない。
「協定結びに行くか?」
「ああ、そうするか。Dクラスを使って脅せば俺達に攻め込む気もなくなるだろ。よし、今から行くか」
「そうだね」
「了解」
体の痛みで立ち上がりにくそうな明久を手伝ってやる。
「秀吉は念の為ここに残ってくれ」
「ん?なんじゃ?ワシは行かなくても良いのか?」
「お前の顔を見せると、万が一の場合にやろうとしている作戦に支障があるんでな」
「よくわからんが、雄二がそう言うのであれば従おう」
ふむ。万が一とは何を想定してるのだろうか。
「じゃ、行こうか。人数が少なくてちょっと不安だけど」
秀吉を残し、俺、明久、雄二、姫路、康太のメンバーでCクラスに向かう。
「吉井、アンタの返り血こびりついて洗うの大変だったんだけど。どうしてくれのよ」
「それって吉井が悪いのか?」
廊下に出たところで、ハンカチで手を拭っている島田とカバンを肩に担いでいる須川に会った。
ほんと、なんて理由でイチャモンつけられてんだ明久は。
「あ、島田さんに須川君。ちょうど良かった。Cクラスまで付き合ってよ」
お、それは有難い。この人数では心もとないと思ってたところだ。
「んー、別にいいけど」
「ああ。俺も大丈夫だ」
「おい。急がないとCクラスの代表がが帰ってくるぞ」
「うん。急ごう」
こうして、さらに仲間を二人増やし、Cクラスへ向かうことになった。
「Fクラス代表の坂本雄二だ。このクラスの代表は?」
教室の扉が開くなり、教室にいる全員に告げる。
Cクラスの教室にはまだかなりの人がいた。康太が言ってた漁夫の利を狙って試召戦争の準備でもしてるのだろう。
「私だけど、何か用かしら?」
俺たちの前に出てきたのは黒髪をベリーショートにした気の強そうな少女。確か小山という名前だった気がする。バレーボール部のホープらしい。
「Fクラス代表としてクラス間交渉に来た。時間はあるか?」
「クラス間交渉?ふぅ~ん……」
小山は雄二の言葉を聞いていやらしい笑みを浮かべる。
なんだ?何か裏でもあるのか?
「ああ。不可侵条約を結びたい」
「不可侵条約ねぇ……。どうしようかしらね、根本クン」
小山は振り返り、教室の奥に居る人達に声をかけた。
は……?根元、だと?
「当然却下だって、必要ないだろ?」
奥から現れたのは、短く刈り揃えた黒髪と口の周りには整えられていないヒゲを生やし
た根元恭二だった。
「酷いじゃないかFクラスの皆さん。協定を破るなんて。試召戦争に関する行為を禁止したよな?」
そこで全て理解した。そうか。協定を利用して手薄な俺達をここで叩く気か!
「クソっ……!やられた!」
「先に協定を破ったのはソッチだからな?これはお互い様、だよな!」
そんな根元の声と同時に取り巻きが動き出す。その後ろには先程まで戦場にいた長谷川先生の姿があった。
「長谷川先生!Bクラス芳野が召喚を────」
「させるか!Fクラス須川が受けて立つ!試獣召喚!」
Bクラスが雄二に攻撃を仕掛ける前に須川が身代わりとなってくれた。
「僕らは協定違反なんかしていない!これはCクラスとFクラスの────」
「無駄だ明久!根元は条文の『試召戦争に関する一切の行為』を盾にしらを切る気だ!」
「そういうこと」
どう考えても完全な屁理屈だが、そんなことを言ったところで通用しないだろう。屁理屈も立派な理屈という訳だ。
「明久!ここは逃げるぞ!」
「くそっ!」
戦闘を行っている須川に背を向け、Cクラスから離脱しようと駆け出す。
「逃がすな!坂本を討ち取れ!」
背後から根元の指示と複数の足音が聞こえてくる。
長谷川先生を呼んだのはさっきの戦闘で姫路が負傷していることを知っているからだろう。だが、俺はほぼ万全に近い。これなら……、
「いけるか、雄二?」
「いや、駄目だ。お前なら突破できるかもしれんが、相手も警戒はしてるだろう。少しでもお前が足止めされたらそこで終わりだ。今賭けるべきじゃない」
「そうか。なら仕方ねえな!」
クソっ!他の教科ならまだ勝てたかもしれんのに!汚いやり方だけど効果的だよちくしょう!
「はぁ、ふぅ……」
「姫路、大丈夫か?」
廊下を走っていると、姫路が遅れだした。運動が得意ではない上に身体の弱い姫路にこの全力疾走は厳しいか。
「あ、あの、さ、先に……行って……ください」
このまま姫路を連れていたら確実に追いつかれるだろう。だが、こんな所で姫路を失う訳には行かない。
「雄二、蓮!」
「なんだ明久!」
「ここは僕が引き受ける!雄二と蓮は姫路さんを連れて逃げてくれ!」
明久は立ち止まり、こちらを振り向く。
「よ、吉井君、私のことは、きに、しないで」
「……わかった。ここはお前に任せる」
「死ぬなよ、明久」
姫路には悪いが今はこれが最善だ。誰が犠牲になっても主力の姫路と俺。代表の雄二は生き残らなければならない。
「…………(ピタッ)」
手助けをする。という目を向ける康太に、明久は首を振る。
「いや、ムッツリーニも逃げて欲しい。いざと言う時の為にムッツリーニの力が必要になるはずだから。それに、こ島田さんが残ってくれてるから、これ以上犠牲はだせない」
「…………(グッ)」
康太は明久達に親指を立て、走り去って行った。
「よし、俺達も行くぞ」
「で、でも、吉井君達が……」
「いいから行くぞ、姫路!」
「本当にあれで良かったんですか?」
教室に着いた後、姫路が心配そうに聞いてくる。先程の明久達のことだろう。確かに、普通は助かる見込みはない。けど、
「大丈夫だ。明久は馬鹿だけどバカじゃない」
「そうだな。心配するな、姫路。あいつは伊達に観察処分者じゃないさ」
観察処分者は確かに色々と不利だが、操作面では確かなアドバンテージになる。そもそも、アイツの生命力はゴキブリ並みだ。そうそう戦死したりしない。
そんな確信を持って、俺達は明久達の帰りを待っていた。
~暫くして~
「あー、疲れたー」
「よ、吉井君!無事だったんですね!」
戻ってきた明久達を見て、姫路が駆け寄っていく。明久よ。揺れる胸に視線を向けるな。気持ちは分かるが。
「うん。このくらいなんともいだぁっ!」
そんな明久の爪先を、島田が踵で踏み抜く。アレは絶対に痛い。
「し、島田さん。僕が何か悪いことでも」
「(キッ!)」
「あ。い、いや、美波」
射殺すような眼光で睨まれ、明久は慌てて言い直す。
ほう……。何があったかは知らんが、明らかに距離が縮まっているな。足を踏みつけられるのが仲良いのかは疑問だが。
「お。戻ったか。お疲れさん」
「無事だったようじゃな」
「お疲れ。知らない間に仲良くなってるな」
「ん。ただいま。あと蓮。本気で言ってる?」
三割くらい本気だ。
「さて、お前ら。こうなった以上、Cクラスも敵だ。正直Bクラス戦の直後にCクラス戦はきつい」
同盟戦がない以上、連戦という形になる。それが相手の目的なのだろう。俺達が勝ったとしても、直ぐにCクラスが攻め込んでくるだろう。そうなれば、勝ち目はない、
「心配はするな。向こうがそう来るなら、こっちにだって考えがある」
「考え?」
悩む俺達に、雄二は活き活きとした顔で告げる。
「ああ。明日の朝に実行する。目には目を、だ」