「騙されたっ!」
顔は腫れ、制服は破れ、ボロボロになった明久が転がりながら教室に入ってきた。
「やはりそうきたか」
「やはりってなんだよ!やっぱり使者への暴行は予想通りだったんじゃないか!」
「当然だ。そんなことも予想できないで代表が務まるか」
「少しは悪びれろよ!蓮も僕を騙してさ!」
明久が睨んでくるが、別に俺は悪いことをしていないはずだ。
「明久、俺は別に騙してないぞ?ちゃんと言っただろ。雄二は友達は騙さない。友達はなって、念も押したぞ?」
「僕は友達じゃないってこと!?」
涙目になる明久に姫路が駆け寄って行く。
「吉井くん大丈夫ですか?」
「あ、うん。大丈夫。ほとんどかすり傷」
明久なんかを心配するなんてやっぱ姫路は優しいよな。
「吉井、本当に大丈夫?」
「平気だよ。心配してくれてありがとう」
おお⋯、島田が心配するとは。いくら明久の天敵でもその辺の常識と優しさを持って────
そうして島田は安堵の息を吐いて、
「そう、良かった⋯⋯。ウチが殴る余地はまだあるんだ⋯⋯」
「ああっ!もうダメ!死にそう!」
────るわけないよね。はいはい。期待した俺が馬鹿でしたよ。
「そんなことはどうでもいい。それより今からミーティングを行うぞ」
別の場所でミーティングを行うようで、雄二は扉を開け出て行く。俺も俺だが、頼んだ身なんだから少しくらい労ってもいいのではないのだうか。そんなことを思いながら俺は雄二の後を付いて行った。途中廊下で調教とか折檻とか聞こえた気がしたが、多分気のせいだろうと、何も聞かなかったことにした。
「明久。宣戦布告はしてきたか?」
屋上で雄二がフェンスの前に腰を下ろす。
「一応今日の午後に開戦予定と告げてきたけど?」
俺達もそれにならい、円になるように腰を下ろす。
「それじゃあ先にお昼ご飯ってことね?」
「そうなるな。明久、今日の昼くらいまともな物を食べろよ?」
「そう思うならパンでもおごってくれると嬉しいんだけど」
明久はジト目でそう言ってくるが、圧倒的にお前が悪いだけだぞ?
「え?吉井君ってお昼食べない人ですか?」
驚いた表情の姫路が雄二に尋ねる。
「いや。一応食べてるよ」
「嘘つくなよ明久」
「⋯⋯⋯あれは食べてると言えるのか?」
俺と雄二の横槍に明久が少しムッとする。
「何が言いたいのさ」
「いや、お前の主食って────水と塩だろう?」
「こいつは砂糖も食ってるぞ雄二」
雄二の哀れむ声に少し訂正を入れると、明久がそうだぞと雄二に食ってかかる。
「まったく雄二は!間違えるなんて失礼だな!」
「あの、吉井君。水と塩と砂糖って食べるとは言いませんよ⋯⋯」
「舐める、が表現として正しいじゃろうな」
明久のご飯事情にみんなの目が優しくなる。その目に明久は少したじろぐ。
「ま、飯代まで遊びに使い込むお前が悪いよな」
「し、仕送りが少ないんだよ!」
明久が反論するように言うが、前聞いたけどそんなに少なくなかったぞ。海外で働いてる両親に感謝しろよってレベルだったわ。なにが趣味はお金かかるよねだバカ。
「⋯⋯あの、良かったら私がお弁当作ってきましょうか?」
流石に哀れだと思ったのか、恥ずかしそうに姫路がそう提案する。
「ゑ?」
言語がタイムスリップするくらいにはびっくりした明久の機能が停止する。
「本当にいいの?」
「はい。明日のお昼でよければ」
「貰っとけ明久。久しぶりの食べ物だぞ」
「良かったじゃないか明久。手作り弁当だぞ」
「うん!」
俺と雄二のからかいの言葉を気にしないほど嬉しそうに明久は頷く。
「⋯⋯ふーん。瑞希って随分優しいんだね。吉井だけに作ってくるなんて」
一方一人面白くなさそうに島田は睨みつける。おいおい、それで姫路が取り消したら明久が可哀想だろ。嫉妬は程々にしとけよ?
「あ、いえ!その、皆さんも⋯⋯」
「俺たちにも?いいのか?」
「はい、嫌じゃなかったらですが」
「それは楽しみじゃのう」
「⋯⋯⋯⋯(コクコク)」
「⋯⋯お手並み拝見ね」
姫路のお誘いに皆が嬉しそうに感想を述べる。姫路の弁当はすっげえ気になるが⋯⋯
「あー、悪い姫路。俺作ってくれてるやついるから遠慮しとく」
弁当を取り出し、それを姫路に見せて断る。
今日の具材はなんなのだろうかと少し考えていると、明久と康太が肩に手を置いてきた。
「蓮⋯⋯いくらなんでも⋯⋯」
「⋯⋯母親の弁当を⋯彼女に作ってもらったと言うのは⋯いけない」
そう哀れみの目を向けてくる二人。違うわボケ!そんな悲しいことするわけねえだろ!
「バカかお前ら、そんな意地張るかよ。あれだ。お前らもよく知ってるやつだよ。木下優子だ」
誤解を解くために弁当の作り主を言うと、二人の肩を掴む力が強くなってきてるんですけど。おい!おいこら離せ!
「ちくしょう⋯⋯なんで蓮なんかに⋯⋯」
「⋯⋯殺したいほど妬ましい⋯⋯!」
明久は血涙を流し、康太はなんかこうだしちゃ駄目そうな真っ黒なオーラがでている。絶対ヤバい奴だよ。頼むから仕舞って?
「雄二こいつら止めて!戦争の話しなきゃだろ!?」
「あ、ああ、そうだな。話を戻すぞ」
ニヤニヤしながら話を聞こうとする雄二に叫ぶと、雄二はハッとして話を戻す。
「雄二。一つ気になっていたんじゃが、どうしてDクラスなんじゃ?段階を踏んでいくならEクラスじゃろうし、勝負に出るならAクラスじゃろう?」
当然の疑問だ。Dクラスに攻める意味は無い。けど雄二のことだからなにか考えがあるんだろう。
「そういえば、確かにそうですね」
「色々と理由はあるんだが、とりあえずEクラスを攻めない理由は簡単だ。戦うまでもない相手だからな」
「え?でも、僕らよりクラスが上だよ?」
「ま、振り分け試験の時点では確かに向こうが強かったかもしれないな。けど、実際のところは違う。オマエの周りにいる面子をよく見てみろ」
「えーっと⋯⋯」
雄二に言われた通りに明久は俺たちの顔を一人ずつ見ていって、
「美少女が二人とバカが三人とムッツリが一人いるね」
「誰が美少女だと!?」
「ええっ!?雄二が美少女に反応するの!?」
「⋯⋯⋯⋯(ポッ)」
「ムッツリーニまで!?どうしよう、僕だけじゃツッコミ切れない!」
「俺がムッツリとは⋯⋯酷すぎるぞ明久⋯⋯」
「やめてよ蓮!無理だって言ってるでしょ!?」
ムッツリーニと一緒にされるとか、まったくもって心外である。天才にしとけよそこは。
「まあまあ。落ち着くのじゃ、三人とも」
「そ、そうだな」
「り、了解」
「いや、その前に美少女とムッツリで取り乱すことに対してツッコミ入れたいんだけど」
要するにだ。と、雄二は明久を無視してコホン、と咳払いをして説明を再開する。
「姫路と蓮に問題がない今、正面からやってもEクラスに勝てる。Aクラスが目標である以上はEクラスなんかと戦っても意味が無いってことだ」
「それだとDクラスとは正面からぶつかるのは厳しいってこと?」
「ああ、確実に勝てるとは言いきれんな」
まあ、そうだ。いくら俺や姫路が点数が高いからといって、それで勝てるほどDクラス以降は甘くない。というか俺は参加したくないからより厳しくなるだろう。
「だったら最初からAクラスに挑もうよ」
「初陣だからな。派手にやって今後の景気づけにしたいだろ?それに、さっき言いかけた打倒Aクラスの作戦に必要なプロセスだしな」
さっき言いかけただとか必要なプロセスだとかはよく分からんが、きっと二人で廊下に出てた時に話してたことだろう。
「でもその作戦ってのはDクラスに勝てなかったら意味無いんだろ?」
負けて設備がこれ以上下がったらたまったもんじゃない。
「負けるわけないさ」
俺の言葉に雄二はそんな心配を吹き飛ばすように言う。
「お前らが協力してくれるなら勝てる。いいか、お前ら。ウチのクラスは───最強だ」
根拠も何も無い、笑い飛ばされるような言葉だ。それなのにそんな気になれない。それほどの力が、雄二の言葉にあった。
「いいわね。面白そうじゃない」
「そうじゃな。Aクラスの連中を引きずり落としてやるかの」
「⋯⋯⋯⋯(グッ)」
「が、頑張ります!」
打倒Aクラス。絵空事で、荒唐無稽な夢物語なのかもしれない。しかし皆はそれに燃える。その中で一人だけ、そうではないヤツがいた。
「俺、参加する気ないよ?」
そう、俺である。
「ちょっと、皆がやる気になってるのに、なんでそんな事言うのよ!」
俺の発言に島田は怒りを露わにする。周りも少なからずそんな気持ちがあるようで俺に視線を向ける。
「理由はなんだ?」
雄二は俺が参加しないのは計画が狂うらしく、真剣な表情で聞いてきた。だから俺も真剣に答える。参加したくない、その理由を。
「いや、だって────恥ずかしくない?」
『は?』
さすが最強のクラスだと思わずにはいられないほどにピッタリとみんなの声が重なる。すごいね、ビックリしたよ。その言葉の威圧感に。
「え?だって
いや別にこれだけが理由ってわけじゃない。優子がF組に落ちるのが嫌だって理由もあるけど大半がこれ。
「もうね、これは若かりし頃の男子を傷つけるもんだよ。殺しに来ちゃってるよ俺死んじゃうよ?だから俺は⋯⋯⋯あ、いえなんでもありません。畠山蓮、Fクラスのためにこの身をもって尽くします」
ポカンとしていたみんなの顔がだんだんと呆れと殺意に変わっていった。島田とかマジやばい。明久もなかなかだったけど一番ヤバいのは秀吉が優子に連絡しようとしたことかな。まあ何はともあれ、こうして俺は戦争に参加することとなったのだった。