Dクラス代表 平賀源二 討死
『うぉォーッ!』
その報せを聞いたFクラスの勝鬨とDクラスの悲鳴がが混ざり、耳をつんざく様な大音響が校舎内を駆け巡った。
「凄ぇよ!本当にDクラスに勝てるなんて!」
「これで畳や卓袱台ともおさらばだな!」
「坂本はやっぱり凄い奴だったんだな!」
「坂本万歳!」
「姫路さん愛してます!」
がっくりとうなだれているDクラスの奥で、Fクラスの皆に囲まれながら褒め称えられている雄二の姿があった。相変わらず姫路にラブコールを送っている奴は本当に誰なの?
「あー、まあ。なんだ。そう手放しで褒められると、なんつーか」
雄二は意外にも照れていて、頬をポリポリと掻きながら明後日の方向を見ていた。
そんな雄二にFクラスの皆は握手を求める。まるで英雄扱いだ。それほどまでにあの教室に不満を抱いていのだろう。
「ねえ、蓮」
「ん?どしうた明久?」
少し離れた所から雄二の光景を見ていると、明久が話しかけてきた。
「確かに雄二の指揮や最後の姫路さんは凄かったけど、少しでも被害を抑えようと、皆を守ろうとした蓮も、とっても凄かったと思うんだ」
「明久……」
明久は笑顔で俺を讃えてくれている。俺の事をちゃんと観ていてくれたことに、少しばかりの感動を覚える。
「だからさ、僕と握手をしようよ」
そう言って明久は手を突き出してくる。俺は笑みを浮かべて、その手を────
ガシィッ
「蓮……!どうして握手なのに手首を押さえるのかな……!」
「押さえるに……決まってんだろうが!」
「ぐあっ!」
手首を捻りあげられ、悲鳴を上げる明久から、握りこんでいた包丁が落ちる。
「……」
「……」
「……ちょっと雄二と握手してくるね」
再び包丁を握りこんだ後、笑顔を貼り付けて颯爽と駆けていった。同じように手首を捻りあげられて包丁を落としていたが。
「おーい、誰かペンチを持ってきてくれ」
明久が笑顔で必死に言い訳をしていると、雄二がそんな要求をする。一体何をするつもりなのだろうか。
「す、ストップ!僕が悪かった!」
危険を感じとった明久が慌てて謝って開放される。雄二は舌打ちをした後、何かブツブツ呟いている。何を言っているのだろうか。
「……生爪……」
剥ぎ取るの?もしかしなくても剥ぎ取っちゃうの!?
「まさか姫路さんがFクラスだなんて……信じられん。あ、あと蓮も」
なんでそんなついでみたいな感じで言うんですか平賀君?
「あ、その、さっきはすいません」
違う方向から姫路は駆け寄ってきて平賀に謝る。騙し討ちのようなものだったから罪悪感を感じているんだろう。
「いや、謝ることはない。全てはFクラスだなんてを甘く見ていた俺達が悪いんだ」
ただしこれは勝負。結果が全てだ。卑怯汚いなんてのは敗者の戯言。姫路が謝る必要は全く無い。
「てか、なんでお前俺がFクラスって知らねえんだよ。情報とか無かったのか?知ってたら勝てただろ」
戦争中に思った疑問を口にする。俺と平賀は一年の頃から友達だ。俺の苦手科目とかは知ってるはず。そこをつかれてたら危なかった。だから戦争中にそれが一切無いのが腑に落ちなかった。
「いや、Aクラス並みの奴がいるってのは聞いてたんだよ」
だけど、と平賀は前置きをして携帯の画面を見せてくる。そこには、一通のメールが書いてあった。
「蓮から『Aクラスで優子とイチャイチャするぜぇ!』ってメール来てたから、蓮じゃないって思ってたんだよ」
思わず目を逸らしてしまった。確かそれは振り分け試験前日に送ったメール。いくらその後メールしてないからといってこんな意気込んでる奴が本番寝坊するとは思わねえよな。ああ、つまり俺が悪いんじゃねえか!平賀は少し笑って、賭けは勝ちだなという表情でウインクしてくる。俺の諭吉が……。
「さて、ルールに則ってクラスを開け渡そう。ただ、今日はこんな時間だからら作業は明日でいいか?」
「いや、その必要はない」
クラスを開け渡そうとする平賀の言葉を、雄二は断った。
「え?どういうこと?せっかく普通の設備を手に入れる事が出来るのに」
「明久、俺達の目標はAクラスだ。Dクラスじゃないだろ」
明久はまだ納得出来ないのか、反論する。
「でもそれなら、なんで標的をAクラスにしないのさ。おかしいじゃないか」
回りくどいことをせずに一気に攻めればいいとでも思っているのだろうか。
雄二は呆れたような声で口を開く。
「少しは自分で考えろ。そんなんだから、お前は近所の中学生に『馬鹿なお兄ちゃん』なんて愛称をつけられるんだ」
「なっ!そんな半端にリアルな嘘をつかないでよ!」
「おっとすまない。近所の小学生だったか」
「……人違いです」
「まさか……言われたことがあるのか……?」
俺の友達は小学生にまで馬鹿にされるのか……。
「ハハハ。面白いな。船越先生の彼氏クンは」
「だから彼氏じゃないって言ってるでしょ!」
何それ超面白い。後で広めよう。
雄二は気をとりなおすように咳払いをする。
「と、とにかくだな。Dクラスの設備には一切手を出すつもりはない」
「それは俺達にはありがたいが……それでいいのか?」
「もちろん、条件がある」
そりゃそうだ。このまま無条件で解放しても意味が無い。
「一応聞かせてもらうが」
「なに、大したことじゃない。俺が指示を出したら、窓の外にあるアレを動かなくしてもらいたい。それだけだ」
雄二が指したのはDクラスの窓の外に設置されているエアコンの室外機。しかし、これはBクラスのものだ。
「設備を壊すんだから、当然教師にある程度睨まれる可能性があるとは思うが、そう悪い取引じゃないだろう?」
上手くいけば厳重注意で済み、三ヶ月をFクラスで過ごすことも無い。悪い取引なはずがない。
「それはこちらとしてもありがたい提案だが……何故?」
「次のBクラス戦の作戦必要なんでな」
「そうか。ではありがたくその提案を呑ませてもらう」
「タイミングについては後日に詳しく話す。今日はもう帰っていいぞ」
「ああ、ありがとう。お前らがAクラスに勝てるよう願っているよ」
「ははっ。無理するなよ。勝てっこないって思ってるだろ?」
「それはそうだ。AクラスにFクラスが勝てるはずがない。ま、社交辞令ってやつだ」
じゃあ蓮、明日焼肉店な。そう約束を取り付けてから、平賀は去っていった。
「さて、皆!今日はご苦労だった!明日は消費した点数の補給を行うから、今日のところは帰ってゆっくり休んでくれ!解散!」
雄二の号令でクラスメイトがゾロゾロとFクラスへと向かう。
「さて、帰るか秀吉」
「そうじゃな」
明久と雄二も誘おうとしたが、姫路と何か話していたので置いて行くことにした。
身支度を終え校門を出ると、優子が校門の横の壁に背中を預けていた。
「あれ、優子?帰ってなかったのか?もしかして、友達できなかった?」
試召戦争で遅くなってたのでもう帰ってるとばかり思っていたので、少し驚いた。
「友達くらいいるわよ。別に、色々と話を聞こうと思っただけよ。試召戦争のこととかね」
「姉上。素直に蓮と一緒に帰りたいと言えばよかろうに」
「え、そうなの?なんだよ恥ずかしがらずに言ってくれれば……あ、いえなんでもありません」
すごい目で睨まれたんだけど。ヤバい怖い。ほら、秀吉も顔青ざめちゃってるから。
優子はそっぽを向いて少し顔を赤くしながら手を繋いでくる。俺はそれを受け入れると、より一層顔を赤くして、強く握ってくる。
あ、ダメ、超可愛い。死ぬ。
秀吉は苦笑いを浮かべながらも微笑んで、そんな俺たちを眺めている。
「それで、聞かせてくれるんでしょ?」
「ああ、そうだな……」
空を見上げると、沈み始める太陽に代わって昇り始める月は、美しい三日月だった。