「え?私?まぁいいけど…」
と承諾を得たので若干戸惑っているこの人を商店街から連れて、人が少ない街のところに移動した。
「とりあえず…お前の名前は?」
「私の名前は1-33-43アムルだよ。」
は?なんだその名前は。ここはマイナンバーを苗字にしてるのか?てかアムルって…
「そ、それはニックネームかなんかだよな?俺は本名を聞いているのだが…」
「あのぉ、言っている意味がわからないんだけど…私の名前は本名だよ。あなただってそうでしょ?」
どういうことだ。俺はそんなニックネームはないし機械みたいに単純な名前の奴と出会ったことなんてない。アムルと言ったな、そもそもなんでこいつはなんで髪が紫なんだ。そういえば商店街にいた人達の髪もみんな青か紫だったような…
「あ、いや、俺…」
「そういえばなんで君の髪は黒色なの?普通じゃないわ。」
お前には言われたくない。だが、ここではこれが普通なんだろう。とりあえずでまかせでなんか言わなければ。
「実はだな、俺は色々と記憶をなくしてるんだ。だからこの世界のこと教えてくれよ」
最低だな。バレるのは時間の問題だ。
「…」
当然アムルは固まった。まぁ希望的に考えて迷っているということだろう。しばらくの沈黙が続き、そして破られた。
「分かった。でも、あなたの名前を教えて。そうじゃないと何も始まらないわ。まぁ覚えていたらの話だけど…」
「あ、ああ。えーと、きし…いや、きっしーだ。俺の名前はきっしー。そう呼んでくれ。」
恥ずかしながら俺の苗字と名前どちらも色々と普通じゃないので友達からのあだ名であるきっしーを採用した。念のため言うが決して本名ではない。
「じゃあきっしー、言うけどここはなんの変哲もない、どこにでもある普通の街だよ。」
「訳のわからない名前に青や紫の髪、これのどこが普通なんだ。」
これが俺達の当然の答えだろう。だが次の彼女の言葉で俺は戦慄を覚えた。
「普通って意味知ってる?いつ、どこにでもあるような、ありふれたものであることだよ。他と特に異なる性質を持ってる人やモノはここにはあなた以外誰もいない。私達はみんな決められた番号で名前が決まるし、髪は青か紫。街だって世界中どこまで行っても同じだし。みんな全く同じ授業、全く同じ仕事をしている、何か恐ろしい事件が起きるわけもなく、面白い出来事も起きない。それが普通でしょ?」
確かに。決して間違ってはいない。だからといって普通という概念を徹底しすぎだろ。面白くない。面白くない世界は普通じゃないっていうのか?それに普通じゃないっていうのはもっと特撮的な感じのことじゃないのか。もう意味がわかんねぇ。えぇとつまりここは俺がいた場所とは違う五次元世界、普通を徹底しすぎたパラレルワールドってことでいいのか?そういえば五感はもうとっくのとうに治っていて、現在自分の身体は異常な状態ではない。じゃああの死にそうな感じだったのは、異世界転移された、みたいなことなのか?ではなぜ俺なんだ、誰が俺をここに転移したというのだ。
「…………る」
「…………いてる」
「…………聞いてる」
「きっしーぃぃ‼︎さっきからぼっーとしてぇ、ちょっと聞いてる⁉︎」
「あ、ああすまない。色々考えててな。」
「もう…きっしーが普通じゃない世界かなんかから来たことに関しては大体分かった。だからいかに普通が素晴らしいか教えてあげる。ついて来て!」
それは良いけど今アムル君は俺が嘘をついていて尚且つ異世界人ということをどうやって理解したんだろうね?
てなわけなのでアムルの後をついていったのだが、これまた普通な街並みで謎じみた場所はみじんもなかった。せめて東京タワーみたいなのはあるだろうとは思ったが、結局そんなものは存在しなかった。ああやっぱりここは俺がいた場所じゃないんだなぁと納得しつつも困惑していた自分がいたのであった。完!という訳にはいかず、俺はアムルの後をついていってようやくどこにでもある家に到着した。
「ここがお前の家なのか?」
「違う違う、ここは42-18.5-6の家。」
「え?なんて?日本語でお願い。」
「日本語?そんな言語はないよ?私達が使っているのは世界語だけだもん。まぁしいて言うなら、彼女の名前はレッカ。」
驚いた。まさか日本語というものまでないとは。どうやら日本語が世界唯一の共通語であり、それ以外は存在しない、ということだろう。これのどこが普通だが。だが世界がアホみたいな戦争をせずに1つになりゃ、そうなる可能性もあっただろう。しっかし、レッカねぇ…なんかポンコツ名前だな。てか日本語がメインなのになんで名前は海外風なんだよ。ツッコミどころは満載だが、これがこの世界の普通だというなら抗いようがない。
「そうか。で、レッカはどこに?」
「家の中だよ。じゃあ入ろう!」
「おいおい、ちょっと待ってくれよ…」
こうして、レッカという女子の家にお邪魔した。アムルは適当にノックをして扉を開けて中に入った。どうやらアムルとレッカは親友らしく、アムルは前にも家に来たことがあるようだ。俺も後に続いた。中に入った先では、アムルとレッカと思われし女子がいた。青い髪にポニーテール。俺は趣味というわけではないがこういう髪型が好みだ。つまりレッカは好きな女子のタイプだ。
「レッカ、お久しぶり‼︎」
「お久しぶりです、アムル。今日はなんのようですか?ってそ、そそそそその隣の人はだっだだだ誰?」
前言撤回、こいつ大っ嫌いだ。新種のゴギブリを見たかのような反応をするな。
「この変な髪の色の人はきっしー。なんか普通じゃないところから来たみたい。」
「よ、よろしく…」
「あ、ああいや、あたっ、てってたよよよよよろしく……お願いしします……‼︎」
俺はハリウッド俳優じゃないぞ。普通に接してくれ。
「ああああのさ、なんでそっそのいや髪がくろっでななんとういかぶらっ、くくなんですか?」
そろそろ殴りたくなってきたな。こいつの方が普通じゃないだろ。
「俺、この世界の住人じゃないから髪の色が違うんだよ。あのさ、頼むから落ち着いて話してくれよ…」
「だってよ、レッカ。ようはきっしーって普通の人じゃないんだよ~」
「おいおい人聞きが悪いぞ。」
「だってそうじゃん!」
「なるほど…確かに普通じゃない、ですねぇ…」
「お前ら少しは話聞けよ…」
と俺が故意にそんな発言をしたその時!
レッカが何やら普通について語り始めた!
その内容は俺が生涯苦悩した演説シリーズトップ3に入るだろう。
コレのせいで俺は普通ということが嫌いになったんだ。以上!では詳細をどうぞ!
「きっしーさん、普通じゃないというのは良くないことです!それは、人をやめるようなことと同じです!だから、普通になってください!」
「はっ、はぁ?」
「いよ‼︎レッカ大先生のご講義、待ってました!」
お前は少し黙ってろ。
「いいですか?普通じゃないというのは実に良くないことなんです!どこにでもあるようなありふれたモノや人ではないというのは自分は化け物だ、と言ってるのと同じものなんですから、普通の存在になるべきなんです!」
「なぜだ。その理由や証拠はあるのか?」
「それは…それが私達この世界、いや宇宙中とでも言っていい、常識的に認知されていることだからなんです‼︎」
なんだよ、それ…そんな理屈でもなんでもないただ単純でクソみたいな考えで通るわけないだろう!
だが俺がそれを言いかけた瞬間、ふと頭を横切った。
俺達だって、理屈もないのに少し変わった奴をいじめて、ドッキリ番組で騙される哀れな芸人を面白いという単純なものであざ笑っている。
そういうことは誰もやっていることと認知しているだろう。
俺達と何も変わってないことに関してそれを全否定するなんて間違っているのではないか?
ああ、もうやだ。
こんな悪夢、夢なら早く覚めてくれ。
されども一向に覚める気はないらしい。やっぱ自分の力で起こすしかないのか…