この静かに暮らしたい殺人鬼に平穏を!   作:究極生命体になりかけた男

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今頃このすばの原作(書籍版)を購入した愚かな作者でございます。
そのついでに近場で売ってなかったOVER HEAVENを見つけることが出来てハッピーうれピーよろピクね―――――

※2019年2月27日0:02 文章を一人称視点に変更しました。
それに伴う誤字などがありましたらご報告してくださると助かります。


吉良吉影は静かに暮らしたい
吉良吉影は静かに暮らせない


私は気がつくと、広大な草原のド真ん中に一人でポツリと立っていた。

目の前に広がるのは見知らぬ部屋などではなく、屋外、青々とした草原だった。

雲一つない晴天の空の下に広がる雄大な草原。

その草原の中に現代のものとは思えないほど古風で、頑丈そうな外壁を構える街が堂々とそびえたっていた。

ベタな表現だが、私は中世ヨーロッパの時代へとタイムスリップしたかのようか気分を味わった。

 

「どこなんだ…ここは…。一体私の身に何が起こっているというのだ………」

 

私は自分を取り巻く状況に驚き、そして戸惑いを感じていた。

自分の身に何が起きているのか、まるで理解できなかった。

振り向いてはならない小道で振り向いてしまった後、いつの間にか見知らぬ草原に放り出されているという始末。

あまりにも受け入れがたい状況に気分が動転しそうだ。

 

「まさかとは思うが……、いや…違うか…」

 

突如として私がここに飛ばされたのは、なんらかの『スタンド能力』によるものだと危惧した。

しかし、そうだとは思えない。

私は死んだ身(・・・・)なのだから、死後の世界(・・・・・)にいると線引きをするべきなんだろう。

だが、そう考えるにはどうしても拭いきれない違和感(・・・)がある。

 

「死後の世界にしては随分とのどかな景色だ。はたして本当にここは死後の世界と考えても良いのか?仮にもそうだとして、どうしたものか」

 

幻覚の類(スタンド能力)だという可能性もまだ十分にある。

だが、理論的ではないが、私の『スタンド使い』としての勘がそうではないと囁いている。

私はこの状況をどう対処するべきなのか。

一番重要なのはそういう事だ。

 

「落ち着くのだ、『チャンス』というものは最悪な時にこそ訪れる。冷静な判断と対処をして『チャンス』をモノにするのだ」

 

私が学んだ過去からの教訓、それはどんな状況下に置かれようとも決して焦らず冷静な行動をする事。

その教訓こそが『平穏な生活』を送る一番の近道である事を私は知っている。

それと同時に、冷静さが欠けた行動とはつまり『平穏な生活』と相反する行為であり、自分の身を滅ぼす事になりかねない愚か(・・)な行為だという事も知っている。

 

私には【バイツァダスト】で完全なる勝利を約束されていたはずだった。

【バイツァダスト】は『無敵』だ、私はそう慢心していた。

しかし、その慢心が仇となって、東方仗助の目の前で自ら自分の正体を打ち明けてしまう。

その結果、私は追い詰められ、屈辱的な死を迎える事になってしまった。

 

ひとまず、深呼吸をしてこの焦燥感に駆られた心を落ち着けるところから始める。

次に周りの景色を冷静な判断力をもって観察し、状況を整理する。

 

「ウ〜ム…私が突然こんなところに飛ばされた事以外、不自然な事は見つからないか…」

 

周りの状況を把握し理解しない事には、適切な対処を取る事はできない。

何の知識も無い登山者が地図無しに登頂なんてできるだろうか。

私は無意識の内に自分の左胸に手を当てた。

その時、微かな違和感を感じ取った。

 

「こ…これは…ッ!」

 

手に感じたのは心臓の鼓動(・・・・・)

ありえない…私は『死んだ』のだ、確かに『死んだ(・・・)』はずなのだ。

だが、心臓の鼓動は私に確かな『生』を実感させる。

にわかには信じがたい矛盾した事実に、私は驚かずにはいられなかった。

 

「あの小娘は私を異世界に転生させる(・・・・・・・・・)と言っていたッ!ただの夢だと思っていたが、まさかッ!本当に異世界へと転生してしまった、そんな事がありえるのか!?」

 

私の脳裏に謎の空間での出来事がよぎる

それは幽霊にでも出会うなんかよりも奇怪な遭遇だった。

あれは夢ではなかったのか…。

 

謎の空間で少女が話した事は、あまりにも馬鹿馬鹿しく思える内容だった。

少女は自らの事を女神エリスと名乗っていた。

そして、私を異世界に転生させるとも言っていた。

あの少女は杉本鈴美のような番人だったのかもしれない。

私は異世界に転生したという事実を認めざるをえなかった。

鼓動する心臓と目の前に広がる光景がその事を物語っていた。

これは現実だ。

 

「『『安心』なんてない所』か…。こんなのが現実だとは………」

 

とてもじゃあないが、こんなのを現実として受け入れられる訳がない。

しかし、直面した現実には背中を向ける事はできない。

抜き差しならない現実(・・・・・・・・・・)だ。

 

「逆に考えみればだが、こうやって異世界へと転生できたのだから元の世界に戻れる方法があるんじゃあないのか。フフフ…、元の世界へ戻る方法を見つけて再び『平穏な生活』を勝ち取ってやるッ!」

 

これは自分に対する慰めなどではない。

可能性のある世界線に動機が歯車が噛み合うように合致したのだ。

単純な発想で根拠の無い発想だが、それは私に勇気を与えてくれる。

踏みにじられたプライドは自分で取り戻さなければならない。

再び杜王町で『平穏な生活』を送ってみせる。

 

「だがこれからどうしたものか…。ひとまず向こうに見える街に行くとし…な、何だ…ッ!?」

 

突然地面が音を立てて揺れ始める。

ドシン、ドシン、と地面を揺らす重たい震動が私の足にまで響く。

徐々に地面の揺れは激しさを増している。

奇妙な事に震源が私の方に向かって移動してきている、近づいてきている。

震源の正体が何なのかなんて呑気に考えている暇など無い。

私は思わず後ろを振り返った。

 

「これはたまげた…。私に少しくらい気を休める暇を与えてくれたっていいだろう?…流石は異世界というだけはある、こんな化け物といきなり遭遇する事になるとは…………」

 

私の視界に映り込んだのはカエルの姿。

しかも、そのカエルはただのカエルではない。

像のような、常軌を逸するほど巨大な体をしたカエルだった。

驚くべき事に地面の揺れの正体はコイツのようだ。

規格外の大きさに私は一瞬言葉と語彙を喪失しかけた。

 

「コイツ、人間を食っているッ!なるほど…サイズも大きければ捕食するものも必然的に大きくなるっていう事なんだろうが、それでも私の常識ってヤツを疑いたくなる」

 

カエルの口からだらんと、だらしなく人間の足がはみ出している。

身の毛のよだつゾッとするような光景ではあるが、この世界ではこれが普通なのだろうか。

もしそうだとするなら、この世界での生活は一筋縄ではいかなさそうだ。

ただでさえ私の中の常識ってヤツが覆されつつあるというのに、この世界での常識に付き合わされる事になると思うとつくづく嫌になってくる。

もう少し心を落ち着けたいところだが、そんな猶予は与えてくれないらしい。

そのカエルは、私目掛けて真っ直ぐピョンピョンと飛び跳ねている。

どうやら私を餌として捕食対象に捉えているようだ。

 

「私を餌として喰らおうって訳か。私の趣味じゃあないが、始末するしかなさそうだな。異世界の化け物がどれだけ強力なものか確かめる為にも始末してやる…【キラークイーン】…」

 

私ははスタンド【キラークイーン】を出現させる。

振り向いてはいけない小道で失われたかに見えた【キラークイーン】。

当然か、それもと幸いか、とにかく問題無く出現させられた。

 

『しばばばばばば!しばッ!』

 

【キラークイーン】の拳のラッシュをカエルに浴びせる。

一発一発のパンチが人の体を、障子を破るよりも容易く貫く事のできる破壊力がある。

それはどんなに相手の体格が大きかろうと変わりのない話だ。

このカエルもコンクリートの道路の隅で行列をなすアリのように取るに足りない存在に過ぎない。

もっとも無視(・・)できない存在ではあるが。

そう思っていたが、現実は非情である。

 

「な、こ、これは…」

 

拳を包み込むのは、ゴムのように弾性のある感触。

【キラークイーン】の拳はカエルの腹によって包み込まれるように受け止められていた。

拳のラッシュの衝撃は、カエルの分厚い脂肪の前に吸収されてしまいダメージは無い。

 

「【キラークイーン】は既に触れている(・・・・・・・)…」

 

ラッシュが効かなくても、それは大した問題ではない。

何も殴ったり蹴ったりという単純な動作をするのだけがスタンドではないからだ。

スタンドには特殊な能力『スタンド能力』がある。

私の【キラークイーン】の場合『触れる』だけで良い。

 

「第一の爆弾ッ!」

 

【キラークイーン】の右手のスイッチを親指でカチッと押す。

すると、カエルはたちまち爆散して地上からその肉体ごと姿を消した。

吹き飛ばされた肉片は一欠片たりとも残らない。

カスの一つさえもこの世から例外なく全て消え失せる。

ただし、カエルに食われかけていた人物は、爆発に巻き込まれ黒焦げになって地面に放り出されていた。

 

【キラークイーン】のスタンド能力は『触れた物なんでも爆弾に変える能力』。

我ながら恐ろしく思う能力であり、その扱いには注意しなくてはならない。

でなければ、他ならぬスタンド本体である私が爆発の巻き添えを食らってしまう。

私はその能力によってカエルを爆弾に変えて爆発させた。

私は【キラークイーン】を引っ込める。

 

「うっうぐ…また粘液まみれされぢゃったよう…。しかも何が(わげ)の分がんない爆発に巻き込まれて(・・・・・・・・・)黒焦げだよう…、ひぐっ……」

 

カエルの口から放り出された人物は、口から黒い煙を吐きながらわんわん泣き始めた。

その人物は【キラークイーン】の爆弾の爆発に巻き込まれながらも生きていた。

超能力だとか体が丈夫だとかそんなものじゃ断じてないタフネスさだ。

粘液まみれで黒焦げになっていて、どんな顔をしているのかまでは判別できなかったものの、その声や見た目などから少女であろうという事だけは辛うじて認識できた。

 

「何だ今の爆発(・・・・)はー!おーいアクアー!大丈夫かー!」

 

日本人を彷彿とさせる顔立ちの少年が爆発音を聞きつけて(・・・・・・・・・)私と少女のいる所に猛ダッシュで駆け寄ってくる。

その少年は粘液まみれで黒焦げの少女の仲間と見て間違いなさそうだ。

少年がいた方向には粘液まみれで黒焦げの少女とは別に粘液まみれ赤い服の少女が倒れ込んでいる。

赤い服の少女もカエルにやられたのだろう。

だが、注意を向けるべきなのはこちらに駆け寄ってくる少年の方だ。

 

「あの二人、【キラークイーン】の爆発を認識している!異世界にもスタンド使いはいるのかッ!?」

 

スタンド使いにしか認識出来ないはずの【キラークイーン】の爆発に少年と黒焦げの少女は気付いていた。

もし、この二人が新手のスタンド使いだったらならば非常に厄介だ。

能力も分からない上にニ対一では形勢的に不利なのは一目瞭然。

そうでないにしろ、この状況を見られるのは色々とマズい。

 

「ま、マズいぞ…ッ!小娘はカエルの粘液まみれで黒焦げ…。間違い無く私の仕業だと勘違いされてしまう…ッ!!勘違いされるのは非常にマズいッ!!」

 

粘液まみれで黒焦げの倒れ込んだ少女がいて、その前には三十代の大人が立っている構図。

あまりにも限定され過ぎたこの状況。

こんな状況を見て勘違いしない者はおそらく一人もいない。

私だってそうする。

この状況を誰かに伝えれられようものなら、私は再び追い回される事になるだろう。

『平穏な生活』と正反対の『追われる者』として生活は、いかなる手を使ってでも避けなければならない。

私が持ちうる知恵や経験をフルに動員して、この危機から脱しようと思考を巡らせるが、もう目の前まで少年は来ている。

私に与えられた猶予はもはや無かった。

チッ、手荒な真似はしたくはなかったが始末するか。

私はそう決断すると歯をグッと噛み締めた。

 

「ううう…カズマさぁん…。あァァァんまりよォォオォ

 

「良かった、無事のようだな。はあ…駄女神といいあのロリっ子といい全く。気苦労ばかりで鬱になりそうだぜ」

 

少女の無事を確認した少年は安堵のため息をつく。

その様子を見るに少年は、その少女にかなり手を焼いているように見える。

 

「しっかし、あのロリッ子が爆裂魔法を唱えた訳じゃないのに、何で爆発が起きたんだ…?」

 

少年は気怠そうに頭を掻きながら独り言を呟く。

そして、少女を担ぎ上げようとして顔を見上げようとする。

その時、少年と私の目が合ってしまった。

やはり、どう足掻こうとも接触は避けきれなかったか。

 

「うおっびっくりしたっ!あんた誰だよっ!もしかして…これ、あんたがやったのか!?」

 

少年はリアクション芸人さながら驚きっぷりで腰を抜かす。

初対面の年下の人間にため口をきかれるのは、どうしようもなく苛立ちを感じる事だが、今はそんな事を気に留めている場合ではない。

まだスタンド使いかも分からないの相手の反感を買って敵対する事にでもなったら最悪だ。

 

「私の名前は吉良吉影、三十三歳独身、仕事はカメユーのチェーンデパートで会社員をして…説明したところで何を言ってるか分かる訳がないか…。まあ…とりあえずこれをやったのは…、私だ」

 

几帳面に自己紹介をしているというのに、それを相手に理解してもらえないのは、キリも無く虚しい事だ。

しかし、異世界人に私の身元の理解を求めるのは野暮だと言える。

どうせ始末してしまうのだから、理解してもらおうと理解してもらわなかろうと同じ事か。

私は再び【キラークイーン】を出現させようと、相手に悟られぬよう軽く身構える。

少年が敵だと判断した瞬間、即時に仕留めてやる。

 

「あなたがこの馬鹿を助けてくれたんですか!どうもありがとうございますっ!」

 

予想外。

少年の口から真っ先に飛び出してきたのはお礼の言葉だった。

結果的に言えば、私はこの気持ちの悪い粘液に塗れた少女を助けた事にはなる。

だが、私としてはただ自己防衛の為だけにやった行為に過ぎない。

 

そもそも私は最悪のケースを想像して、スタンド使いとしての先入観だけで勝手に少年を敵視していただけの事。

少年が必ずしも敵とは限らなかった。

私はそっと胸を撫で下ろす。

最悪の事態だけは運良く避けられた。

 

上手く状況を理解してくれたのは幸運だ。

この様子だと、私がどんな手段で爆破を起こしてるのかなんて疑問に思っていないようにも見える。

ひとまず安心はしたが、少年がスタンド使いである可能性はゼロという訳ではない。

【キラークイーン】の爆弾の爆発に気づいているのだから。

 

「礼はいらない。自分の身を守る為にあの怪物をやっつけただけなのだからな」

 

「それでもありがとうございますっ!そして、うちの馬鹿が本当にすみませんでしたっ!」

(となると、爆発を起こした犯人はこの人って訳だ)

 

少年は深々と頭を下げて礼を述べる。

そして顔をゆっくりと上げながら、観察するかのように私の方をジロジロと見てきた。

この小僧、私の事を警戒しているのか…?

いや、異世界人にとってスーツ姿が珍しいというだけだろう、そうに違いない。

ここは怪しまれないように立ち振る舞うのだ。

 

「つかぬ事をお伺いしますが、さっきカメユーのチェーンデパートとおっしゃられていましたという事は、もしかして日本人じゃないでしょうか?」

(サラリーマン風の服装だし絶対転生者だろ)

 

今何と言った…?

異世界に来て初めて出会った人間が『日本人』だとッ!

私を試しているのか…?

本当の事を答えて相手の様子を伺うべきか…。

いざという時は【キラークイーン】で爆破するッ!

 

「なぜ君が日本を知っているのかは分からないが、君の言う通り私は日本人だ。もしかして君も私と同じ(・・・・)とでも言うのかね?」

 

「え、日本人っていったら転生者じゃない」

 

私のいち早く質問に反応したのは、激しく泣きじゃくっていた少女だった。

さっきまで泣いていたようには見えない程の感情の切り替えの早さだ。

世の中には優れたスポーツ選手のみができるスイッチングウィンバックという精神回復の方法があるらしい。

それを激しく泣き喚く事で実践していたのか?

フーーースッとしたぜと言わんばかりに少女は立ち上がる。

 

「いやあ、俺も転生者なんですよ。武器も持ってないないところと服装を見たところ転生したばかりなんじゃないでしょうか?」

 

「察しが良くて助かるよ。自分でも信じられないが見ての通り右も左も分からないただの転生者だ」

 

私以外にも転生者がいるとは…。

そういえば女神エリスという小娘は死んだ魂を導くと言っていた。

つまり、まだこの世界にはまだ他に私と同じ日本人がいるという事になる。

私がかつて始末した者がこの世界に来ているとしたら非常に厄介だ。

 

「あの余計なお世話かもしれませんがお礼させてもらえないでしょうか?」

(何か怖え顔してるし機嫌損ねたら俺達まで爆破させられるかもしれねえ…。何より俺の危険感知センサーがビンビン反応している…)

 

フム…礼か。

やはり『チャンス』は訪れたのかもしれない。

普段であればそういったお礼は受け取るようなタチじゃあないが、今は状況が違う。

簡単にこの世界の情報について聞き出すだけでもしておくとしよう。

 

「お礼っていうんなら、この世界について詳しく教えて欲しいのだが…?」

 

「それくらいお安い御用ですっ!この俺に任せてくださいっ!」

 

「ところで君の名前を教えてくれないか?」

 

「俺の名前は佐藤和真ですっ!」

 

少年カズマは思い切り自分の胸に手を叩きつけた。

 

♦︎

 

駆け出し冒険者の街アクセル

そこは、多くの駆け出し冒険者が集まる魔王軍の侵略の手から最も遠い街、らしい。

冒険者やら魔王軍やら普段使わない単語を羅列されても理解不能だ。

そんな街にカズマの案内の下、私は訪れていた。

カズマ達もさっき巨大カエルと戦闘していたようで、体が巨大カエルの粘液のせいで汚れてしまったと言って、街の大衆浴場に行ってしまった。

何も無い私は冒険者ギルドとやらに置いてけぼりだ。

街の中を色々と散策してみたいところだが、私は生憎の無一文。

私はテーブル席に腰掛けて、カズマ達が来るのを待つしかなかった。

 

私はカズマ達を助けたつもりもなければ、恩を売るつもりも無かった。

あの化けガエルにやられたのはよく分かる。

とはいえ、結果的には命の恩人となってしまった私を待たせるとはどういう神経をしているのだ?

ここに来るまでにも粘液まみれの二人のせいで、街の人間のあらぬ疑念や誤解による注目を浴びる事にもなったし、この吉良吉影に恥をかかせたいのか?

あの小僧、私にペコペコする様子からしても本当に悪い奴じゃあないんだろうが、人を待たせるという神経はどうしても許せん。

 

私はやり場の無い苛立ちを感じていた。

アイツらは常識もロクに身に付いていない阿保共の集まりなのか?

それに加えてここは騒々しい。

盛況するのは結構だが、少しは静かにできないのか?

しかし、ここは酒場のようだし飛び交う声に文句を言うのはお門違いか。

 

「吉良さーん!待たせてしまってすみませーん!」

 

冒険者ギルドの入り口に二人の少女を連れたカズマの姿が見える。

ようやく戻ってきたか…。

私を何分待たせたと思っている…。

腕時計を確認しようと右腕を見るも、腕時計は破損していてまともに時間を確かめられるものではなかった。

川尻早人が【猫草(ストレイキャット)】で私の制服の胸ポケットに入っていた腕時計を破壊したのをすっかり忘れていた。

 

(あの駄女神とロリっ子、吉良って男を待たせるのにどんだけ精神をすり減らしたと思ってんだ…。殺されるかと思ったぞ…)

 

「全然気にしてくれなくても構わない。お礼とはいえ君は私のお願いを受け入れてくれるのだからね」

 

冗談じゃあない。

なぜ私が周りの危険に警戒してこんな歳下の小僧に気を遣わなければならんのだ。

目の前の敵に怯えて暮らすのはまっぴらだ。

 

「ねえ、あなたってキラヨシカゲって言っていたわよね?良かったら私達のパーティに入ら…ふぐっ!?」

 

さっき【キラークイーン】の爆破に巻き込まれ黒焦げになっていた水色の髪をした少女が私に話しかけてくる。

いきなり私の名前を呼び捨てか…。

しかし、その様子を見ていたカズマが慌てて少女の口を手で強引に抑えその場を離れる。

少女を止めるカズマの表情は妙に必死に見えた。

 

「どうしたんだあの二人は…?」

 

「さあ…」

 

私は独り言をポツリと呟く。

帽子を被った赤い服の少女は私の独り言に答えた。

その場に何とも言い難い微妙な雰囲気が流れるのを感じる。

 

「ちょっと何すんのよこのヒキニート!」

 

「それはこっちのセリフだこの駄女神!何勝手にあの人をパーティに勧誘しようとしてんだ!」

 

「いいじゃない!あの人転生者よ!ジャイアントトードを木っ端微塵にぶっ飛ばしてたのよ!あの人がパーティに入ってくれれば百人引きよ!!魔王軍なんかチャチャっと倒して女神として返り咲いてやるんだからっ!!」

 

「そういう事を言ってるんじゃねえ!!見ろあの男の顔を!怒らせたら絶対にぶっ飛ばすって顔してるぞ!!」

 

「あんたがそう思う気持ちは分かるわ。確かにちょっと影の薄そうで怖い感じの見た目してるけどそれはヒキニートのあんたの偏見よ。私の見る限りあのキラヨシカゲって転生者、相当ヤバいチート転生特典を持っているわ。この手を逃す手は絶対ありえないんだから!!」

 

水色の髪の少女とカズマが口論を始める。

何を言っているのか聞こえはしないが、他人の迷惑を考慮せず身内だけで勝手に話を進められるのは、どうしても私の癪に触る。

口論をするのは個人の自由だ。

しかし、時と場合というモノをわきまえろ。

やはり、カズマとかいう小僧にホイホイとついて行くべきじゃなかった。

 

「おい!ちょっと待てよ!!」

 

私の苛立ちをよそに、水色の髪の少女がカズマが引き止めるのを振り切り私の下に再び駆け寄ってくる。

それをカズマが必死に止めようとするも間に合わない。

 

「どうしたんだい?何か不都合でも…?」

 

「いえ何でもないわ。あそこのヒキニートがあなたがパーティに入るのを反対してるとかそんな事じゃないわ。実はねあなたには私達のパーティに入ってもらいたいの」

 

「パーティ?」

 

「あ、パーティっていうのは私達のような冒険者が作る一つのチームの事よ。あなた異世界に来たばかりで何も分からないでしょ?そこで私達のパーティに入ってくれさえすれば住む所までは用意出来ないけどお給料はちゃんと出すわ」

 

つまりは、遠回りに私に冒険者とやらになれと言うのか。

そして、そのついでに私を仲間に引き入れる気でいると。

カズマと出会ってからの様子を見る限りでは、うんともすんとも言えない。

むしろ断ってやりたいところだ。

 

(あの駄女神、あの男をパーティに勧誘するだけじゃなく勝手に給料も出すなんて言いやがって…。何も気にしてないみたいだからいいが俺が吉良のパーティ入りを反対してるとまで…。後で絶対ぶん殴る………)

 

カズマは水色の髪の少女を怒りと苦悩が混じった視線で私をパーティに勧誘する様子を見る。

何を考えているのか依然分からない。

カズマは肥溜めで溺れた鼠みたいな絶望した表情をしている。

なぜかは知らないが、もう既に負け犬ムードだったようだ。

 

それはそうだとして、結局パーティの勧誘についてはどうしたものか。

冒険者とは常に命の危険と隣り合わせで、尚且つ給料が安定しない職業だという。

冒険者になる事とは、つまり私の求める『平穏な生活』とかけ離れる事になるかもしれない。

だが、その反面で元の世界に戻る手掛かりを見つけられる可能性だってある。

あの小僧も本当に転生者のようだし水色の小娘も何かしらの事情を知っているようだ。

彼らの挙動や言動からして嘘を言っているようには見えない。

 

「元の世界に戻る手伝いしてくれるというのなら君達のパーティに入っても良いだろう。ただし『雇われる(・・・・)という形で(・・・・・)、だがね」

 

なぜ私がわざわざ『雇用』という条件を出したかというと、あまり深く彼らと関わり合いたくないからだ。

根も葉もない話だが、彼らと関わり合いになればロクな事が起こらない気がする。

 

「そのくらいの事ならするわ!するする!…今何してほしいって?」

 

「元の世界に戻る手伝いをしてほしいと言ったのだ。何かおかしな事でもあるのかい…?」

 

「い、いや別におかしいとは言わないけれどあなたって天国に行くんじゃなくて異世界に行くのを選んだじゃないの?」

 

異世界に転生する者は全員あの小娘との面会を経ているのか。

 

「ああ、もちろん異世界への転生を選んだ。しかし、それは『望んだ』のではない、『選んだ』のだ。死んだ自覚はあったが目の前に現れた少女が女神エリスと名乗っていたものだから私をコケにしているのだと思った。そこで転生させられるものならやってみろと言ってしまったのが間違いだった…」

 

「要するに本当に異世界に転生してしまうなんて思ってもいなかったって事ね」

 

「その通りだ」

 

「ふーん、それは何とも可哀そうな話ね。やっぱり女神はこのアクア様にしか務まらないわ」

 

「ん?」

 

何を言っているのだこの小娘は?

私を馬鹿にしているのか?

私を小馬鹿にするその態度が気に入らん。

 

「そういえば言い忘れていたわ。何を隠そう、私こそ偉大なる水の女神でありエリスは私の後輩よっ!」

 

「なるほど。気前だけは十分の、ただの思い込みの激しい少女って訳か。これならエリスって少女が女神っていう方がまだ説得力があるぞ。…この吉良吉影を馬鹿にするんじゃあないッ!!」

 

水色の髪の少女はキリッと決める。

自分の事を本気で女神だと思い込んでいるのか?

もしそうだとするならどうしようもないくらいの重症だ。

この世界にも病院があるのなら、今すぐにでも連れて行った方が良い。

 

「何であんな奴より私の方が女神として見られないのよおおおお!!」

 

「落ち着け、駄女神。もう反対しねえから泣くな。吉良さんは誠実ってだけなんだよ」

 

「誠実って何よ!誠実って!うわあああああん!!」

 

「とりあえず君達が私を手伝う代わりに私が君達のパーティに雇われる、そういう認識で構わないね?」

 

カズマは泣く少女を慰めながら無言で頷く。

私はこれ以上何も言わなかった。

冒険者としてこの小僧のパーティに入る事が吉と出るか、凶と出るのか。

それは私にも分からない。

ギルド内には少女の泣く声が響き渡るのであった。

 

『『安心』なんてない所』…。

私に植物のように平穏な心さえ与えてくれないって訳か………。

くそったれがッ!!




後書きは小ネタ的なものを基本的に書いていきたいと思います。

カズマ「ちょっと魔法試してみてもいいですか?」

吉良吉影「魔法?いいだろう」

カズマ「ありがとうございます。では遠慮なく…『スティール』!!」

シアーハートアタック「コッチヲ見ロォ」

カズマの手元に来るシアーハートアタック

カズマ「え?何だこれ?」

ボオン 爆発音
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