「海兵特急便でカトラス二丁送ってくれ。武偵校だから直接届けてくれて問題ない。料金はブーゲンビリア名義で送っておく。あ、ついでに張さんのケツを北京ダックにしてくれ、頼むよダッチ」
俺は武偵校に通うにあたり得物を手に入れる為、俺の歳が離れた親友でありもう一人の父親とでも言うべき存在に連絡を取っていた。
『リク、ウチは運び屋だ。マイト持って墓穴に突っ込むのは仕事じゃない。あと、レヴィがキレてたぞ?』
「オーケイ、こっちも人のケツを酔っ払って賭けのチップにしてた事、許してねえからな」
『頼むから、ロアナプラで親子喧嘩なんておっぱじめてくれるなよ。ラグーン号が跡形も無くなりそうだ』
「わかってるよ。酔っ払いに責任追及した所で意味は無いし、親父に絞られたみたいだしな」
これで終わりだと思い電話を切ろうとした時、ダッチから思いもかけない言葉が出た。
『そういや、お前あの解体屋の娘に何したんだ? 随分荒れた様子でウチを訪ねて』
「すまん、ダッチ人が来たから切るわ。報酬はしっかり入れておくから」
おい、ヤンデレかよ。
逃げて正解だった様だな。
『はいよ、火遊びは程々にしとけよ』
電話を切ると近づいてくるのは蘭豹とか言う巨乳———いや、あれはラリアットの体勢では。
「オラァ、くたばれぇ!」
振り抜かれる腕は風切り音でとんでもない威力だと理解出来てしまう。
回避間に合わねえ!
「シャア!」
人と人がぶつかったとは思えない様な音が響き俺の身体は宙を舞う。
そのまま一回転して威力を消した。
「生意気に受け流したやとォ?」
あ、あぶねー。
シェンホアが遊びで教えてくれたヤツ覚えてて良かった。
消力。
中国武術の秘伝。
全身の力を抜き空に舞う羽の如く全ての攻撃を受け流す。
しかし、完全に成功した訳ではなく鼻血が吹き出している。
「ちったぁ、マシな動きも出来るなァ! よし、これで勘弁したるわ!」
「なんで唐突に殴りかかって来たんですか?」
「あ、忘れたわ。男ならンな細かい事気にすんな。ハゲるぞ」
銃が無くて良かったな腐れ巨乳。
かならず挽き肉にしてやる。
「イキオクレ、いや先生。寮はどこですかね?」
「おう、案内したるわ。うん?何か言わんかったか?」
「いや、別に」
蘭豹に案内された部屋は男子寮の一室であり角部屋。
「基本二人部屋やけど角部屋で少し狭いんで一人部屋や」
狭いと言ってもモーテル二つ分くらいの広さはあるな。
「入学式には帯剣、帯銃し参加。岡島お前は強襲科(アサルト)やからウチの担当や。ビシバシしごいたるからな。後は適当にやれやァ」
「ありがとうございました。張さんにもお淑やかにお嬢様してるって言っておきます」
「殺すぞ」
蘭豹はドアを勢い良く閉めて出て行った。
「ベッド、テレビに冷蔵庫も付いてる。ベランダはこの物置防弾か」
徹底してる。
制服の胸には生徒手帳。
そこには武偵憲章と言う訓示が記されていた。
1、仲間を信じ、仲間を助けよ。
2、依頼人との契約は絶対守れ。
3、強くあれ。但し、その前に正しくあれ。
4、武偵は自立せよ。要請なき手出しは無用の事。
5、行動に疾くあれ。先手必勝を旨とすべし。
6、自ら考え、自ら行動せよ。
7、悲観論で備え、楽観論で行動せよ。
8、任務は、その裏の裏まで完遂すべし。
9、世界に雄飛せよ。人種、国籍の別なく共闘すべし。
10、諦めるな、武偵は決して諦めるな。
「意外とまともだな」
ベッドに生徒手帳を放り外に出ることにする。
この辺りの地理も調べておきたいしな。
玄関の側にあった鍵を手に取りドアを開ける。
目の前には蛍光色の緑色の髪が見えた。
バタン。
俺は扉を閉めた。
鍵を閉め靴を脱ぎ廊下を引き返しベッドに座った。
おかしいな、知り合いが見えた気がした。
モンゴル付近にいるはずの奴が何故、日本にいるのかわからない。
「いかん、ヤクなんてキメてないんだが。疲れたから寝よ」
ピンポーン。
インターフォンが鳴り響く。
「よし、現実らしいな」
急いで、玄関へ戻る。
奴の機嫌を損ねると狙撃されるしな。
ドアを開けると既に背負っていたドラグノフを下ろしている。
「よう、久しぶりだなアンドロイド。ちったぁ人間の感情を手に入れたか?」
「お久しぶりです、リク。部屋に上げて貰います」
銃を突きつけて言う言葉かよ。
「入れよ。レキ」
おおよそ二年は経つにも関わらず、姿の変わらないその女は相変わらずの無表情でそこに立っていた。
「レキ、なんでここにいる?」
「風に命令されたからです」
変わってないなコイツ。
二年前、ラグーン商会の仕事でロアナプラに入り込んで一儲けしようとしたバカを逃した時の事だった。
そのバカは報酬の一部として、とある民族地域に歴史的希少価値のある金属の情報を渡した訳だ。
すると、その金属を好事家に高値で売りさばこう考えたエダと母が俺を偵察に向かわせた時にレキと出会った。
最初は盗賊と勘違いされて三日三晩、狙撃され続けたが偶然にも本物の盗賊が現れ一緒に撃退した。
しかし、空腹と疲労、レキに撃たれた傷でぶっ倒れた俺はウルスという民族で暫く過ごしたと言う訳だ。
その後、エダと母には草臥れた村があるだけでそんな良さげな物は無かったと伝えておいた。
「レキの学科は狙撃科か」
「はい」
「怪我や病気は無かったか」
「はい」
「胸は成長したか」
「いいえ」
ほんのりと罪悪感。
「お前は少し羞恥心を持つべきだな」
「リクは未来の夫ですので」
まだ、それ言ってるのか。
「俺が勝ったからそりゃ無しになったろうが」
「ええ、ですが私の腕も成長しますので。いずれ風の言う通り夫婦になって頂きます」
これだ。
会いたくない理由。
レキは美人で可愛い。
拒む理由なんて無いんだが、感情もないまま命令されて何てゴメン被る。
「お前がしっかりと感情を持って俺を好きだってんなら考えてやるよ」
「私は一発の銃弾です。感情は持たない」
俺は嫁にラブドールなんて欲しくは無いんだ。
「せっかく、同じ学校なんだ。友達になって面白いことを教えてやるよ」
「メイドに手を出してターミネーターに殺されかけた話でしょうか?」
勘弁してください。
トラウマなんです。
「はぁ、なんか奢ってやるよ」
「ではカロリーメイトを」
レキは立ち上がり玄関へと向かう。
しっかりと感情あるじゃねえか。
レキにカロリーメイトをダースで買い与えて家で寝た。
入学式。
ほとんど印象に残らない校長の話を聞き流し、欠伸をする。
腰のホルスターにはベレッタの改造モデル『カトラス』が収まっている。
俺が一歳の時から握らされて来た銃だ嫌でも馴染む。
辺りを確認するが教師陣は軒並み化け物だろう。
入学式は蘭豹が二、三回発砲した事を除けばつつがなく終了した。
体育館の入り口には教室の振り分け、そしてランクが張り出されていた。
『1ーA 岡島リク 強襲科 Sランク』
オカジマだからな上から見たほうが早い位置にあった。
さらに下に行くと見知った名前がいる。
『1ーA 遠山キンジ 強襲科 Sランク』
『1ーA レキ 狙撃科 Sランク』
こりゃ、楽しくなりそうだ。
「はーい、入学おめでとうごさいます。私は探偵科担当の高天原です。一年間よろしくね」
随分とほんわかとし雰囲気の教師だが匂う。
俺にはわかる。同族にしかわからない程度に軽く拭き取る。
そんな血の匂いだ。
ヤバそうだから気をつけよ。
「まずは自己紹介しましょうか! みんなバラバラの科ですけどクラスで一丸となってやる行事もありますから」
クラスは別に名前順に並んでいる訳では無いようだ。
「よう、キンジ」
「あ、ああ。岡島か」
あ、岡島?
「この前みたくリクでいいぜ。色男」
「いや、前はテンションが上がっていたと言うか何と言うか・・・」
「オーライ。深く詮索はしねえよ。他人の便器を覗く奴は長生きできねえしな」
お、次は俺か。
「俺は岡島リク。強襲科のSランク。生まれは辺鄙な田舎でこっちには慣れてない。よろしく」
「はいはーい! 特技はなんですかー? リコリン気になるー!」
胸が大きいが背の低いハニーブロンドの女が異様なテンションで質問してくる。
「特技? 特技は語学と斬鉄」
語学は子供の内から散々やらされた。
英語、日本語、ロシア語、タイにコロンビア、フランス、中国の方も少々。
斬鉄は銀二さんから。
鷲峯組の武器仕入れの依頼の時に色々仲良くなって教えて貰った。
鷲峯組にも顔を出さねえと。
「はーい、ありがとうー!」
辺りから流石はSランクとか。
バケモノとか聞こえてくるのは傷つくなァ。
次はヘッドホンをつけたアンドロイド。
ロボコップの方がまだ人間味がある。
「狙撃科Sランクのレキです」
それだけ言うとレキは席に座った。
「えー、それだけー?」
また、不満を漏らした女にレキは立ち上がる。
「では岡島リクの未来の妻です」
「えー! できちゃってるの!?」
「以上です」
座るな座るな。
「最近の子は進んでるのね。次の人どうぞー」
「お前、婚約者がいたのか」
自己紹介後、軽い歓談の時間。
キンジは驚いた様な顔をして話しかけて来た。
「天地神明、ジーザスに誓えるが婚約者ではない」
あいつがロアナプラまで追いかけて来なかったから助かった様なモンだ。
「リクさん」
「おいでなすったな。レキ、お前がどう思っても勝手だが外堀を埋めて追い詰めようとするんじゃねえよ」
「その様な意図はありませんでした」
レキは本気で策略も無しに婚約者です宣言したと?
子供か!
「あー、キンジ。こいつがレキだ。狙撃の腕は俺が知る中でも1、2を争う程だ」
「ど、どうも。よろしく?」
キンジの挨拶にレキは軽く頭を下げる程度だった。
「なんかビビってないか?」
「実は女子は苦手なんだ」
ああ?
フェミニストみてえな事を言ってたじゃねーか。
詮索はしないがここまで情報が揃えば予想はつく。
変わるタイプだな。
時々いるんだ戦闘のプロにも。
普段は一般人と変わらぬ素人くさい動きをするがトリガーが入った時は豹変する。
キンジもそう言うタイプなんだろう。
「そらそうだ。レキは美人だし可愛いからな。緊張する気持ちはわかるぜ童貞キンジ」
「お前は1秒でも早く死んでくれ」
そう言うなって。
キンジは席を立ち、強襲科棟へ向かう様だ。
「おーい、一緒に行こう。レキもな」
「離れろよ、暑苦しいから」
「…………」
これから一年間、仮パーティを組む事になる伝説のチーム『S3』の始まりであった。
そして時間は飛ぶ。
一年後の空から降ってくる女の子まで。
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