ロアナプラから来た男   作:天膳桜

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蜂蜜色の罠

バスジャックを解決した俺達は教務科(マスターズ)に呼び出されていた。

 

「今回の事件で東京武偵局から感謝状が届けられてるわ、はい先ずは遠山くん」

 

「あ、ありがとうございます」

 

探偵科の教師であり俺達の担任でもある高天原ゆとりは嬉しそうにニコニコと笑っている。

 

その笑顔にキンジは少し照れた様に、書状を受け取る。

 

俺は込み上げて来る欠伸をそのまま吐き出した。

 

アホくせえ、こんな事なら下級生の女子を誘って遊びに行けば良かったかもな。

 

「ウチのクラスのメンバーがこんなに活躍してくれるのは担任として鼻が高いわ。これからも頑張ってね」

 

高天原先生はそう締めくくった。

 

 

 

「ああ、かったるい。あの先生の空気はどうも苦手だぜ。で、アリアどうだったよ。キンジの判定は?」

 

「ダメ。着地の制御、爆弾の発見速度、行動のどれを取っても二流にしか見えない」

 

そらそうだ。

キンジは変身できなきゃ、一般人と変わりゃしねえ。

用意をしてなきゃ、一瞬で挽き肉になる。

 

 

「でも、実力は一度見ているもの。あの凄まじさはキンジは自力で引き出せない。ならアタシが引き出せる様に鍛えていけばいいんだわ!」

 

「おい、俺に拒否権はないのか?」

 

「キンジ。お前は一回、武偵を止めようとして一時期完全に依頼を受けてねえ。しかも成績は良くない。……と来れば単位が足りてないんじゃねえか?」

 

俺の言葉にキンジは固まる。

 

「おー、このマヌケにファッキン・クライストの加護あれかし。アリア様々だな、今回で1単位稼げたんだろ」

 

キンジは少し考えた後、頷いた。

 

「わかった。俺でいいならアリアに協力する。だけど、リクとレキお前らもだ」

 

お、良い目をするな。

キンジが『なった』時以外でここまでハッキリ言って来るのは久々だ。

 

「まずはパートナーとしてアリアと息を合わせてから声をかけな。行くぞ、レキ」

 

「はい」

 

後ろ手を振りながら二人から離れる。

 

 

さて、臭う。

今回の事件には裏があるとしか思えねえ。

 

考えをまとめねえと。

 

「レキ、バスジャック中に周囲から観察していた怪しい人影は無かったな?」

 

「半径三百メートル圏内には居ませんでした」

 

車は遠隔操作だったから、かなりの精度がいる。

視認できる位置に居るかと思ったが。

まぁ、レキの様に遠くから見れるほど目が良いとかあるのかもしれないが。

 

犯人はかなり機械に精通しているらしいな。

さらに、キンジの自転車に爆弾を仕掛けられる人間。

 

武偵高の人間か?

 

「めんどくせぇ。家で一杯やりながら考えるか。レキはどうする?」

 

「私は狙撃科から呼び出しがありますので」

 

レキはほんの少し頭を下げるだけの一礼して狙撃科棟へと去っていった。

 

 

 

 

 

「親父ならもう少し何か思いつくだろうがどうにも推理は苦手でいけねえ。コロンボはもう見飽きたんだがな」

 

シャワーを浴び、冷蔵庫からシンハー(タイのビール)を取り出してナイフで瓶を切り裂く。

 

シンハーをグラスに注いだ時、携帯が鳴り響いた。

 

「あん? 峰理子だ?」

 

同じクラスの峰理子。

探偵科Aランク。

騒がしく、馬鹿馬鹿しいが愛される。

そんな女だ。

 

そういや、しつこく番号を聞かれたから教えてやったんだった。

 

「もしもし?」

 

『やっほー! リっくん、おひさー!』

 

相変わらずやかましい。

コイツの声はイエローフラッグの銃撃戦のがマシかもしれねえぞ?

 

「どうした。俺に恋い焦がれて一夜を共に、なんて訳でもないだろ?」

 

『いやー、バレちゃってるか。リっくんとデートがしたいなって』

 

は?

 

 

 

夕暮れ時、俺は理子に指定された高級ホテルの一室に来ていた。

 

服装は制服のまま。

802号室、ここか。

 

「あー、遅いよー。リっくん」

 

ドアを開けると理子が俺の腕を取って部屋に引きずり込む。

理子は上目遣いでこちらを見た後、満面の笑みを浮かべた。

 

「やっぱりかっこいいよ、リっくん。出来れば制服じゃない方が良かったケド」

 

「別にドレスコードがある訳じゃないだろ。スーツ着るのは好きじゃねえ」

 

腕を放し笑う理子はそのまま奥の部屋にあるベッドに腰掛ける。

 

「でも来てくれるとは思って無かったよ。リっくんにはレキュがいるから」

 

「アイツは婚約者じゃねーよ。気の合う仲間でチョイと同じベッドに入る事があるくらいの関係だ」

 

「それでも私の所に来てくれた。嬉しいよ。リっくん、私ハジメテなの……」

 

そのまま理子はベッドに横たわり両手を広げた。

 

「ねえ、来て……? リコの事一晩だけリっくんのカノジョにして?」

 

「はん、名演技だな。理子」

 

俺は即座にカトラスを抜いて理子に放つ。

 

「ッ!?」

 

理子は予想通りの身体能力で回避する。

 

「ちょ、ちょっと!? リっくんSMはダメだよ!」

 

理子は半泣きの顔で俺を説得しようとするが話にならねえ。

 

「こちとらお前よか色気ムンムンのメイドさんからハニートラップに関する勉強もしてるんだぜ。お前の動作、アピール全てが作られてる物だよな?」

 

ロベルタからそれを教わるのは生きた心地がしなかったが。

 

「そんな……ひどいよ。リっくん」

 

俺はシラを切る理子に更に二発、鉛玉を放つが全て避けている。

 

「それ以前に臭う。お前から血とドブの混じった様な腹黒い本性がよ。俺に対してアクションはかけねえから見逃してたがな」

 

去年から偽りの自分で本性を隠しているのは分かっていたし、警戒はしていた。

 

「……チッ。バレてるなら仕方ないか。リク。お前には暫く退場して貰うぞ」

 

ガラリと喋り方を変えた理子の目は鋭い捕食者の目だ。

 

「オーケイ、良いじゃねえか理子。今のお前なら抱いてやるぜ!」

 

「ふざけんな! テメエのタマ切り落としてバラバラにしてやる!」

 

理子も銃を引き抜く。

ワルサーP99。

しかも、二丁。

 

「くたばれ。お前が居なけりゃもっと楽に事が進むんだ…!」

 

放たれる弾丸はしっかりと此方の肩を捉えた。

衝撃に肩を揺らすが意に介さず突っ込んでいく。

 

「イェア! もっと上げてこい!」

 

反撃にカトラスが唸りを上げるが理子は中国武術の歩法でベッドの裏側に逃げる。

腕はアリア並みか。

 

「もっと楽しめよ理子!」

 

テーブルを倒して盾にしながらカトラスにアヤから買った煙幕弾を込め天井に向けて放つ。

 

煙幕弾は空中で分解され部屋を煙で埋め尽くす。

 

凄まじい速さだな。

どんな仕組みなんだか。

 

 

「煙幕だと!?」

 

おいおい。

声を出したら場所を教えてる様なもんだぜ。

 

声のした方向にテーブルを蹴り飛ばす。

 

「ぐッ!?」

 

テーブルと肉がぶつかる鈍い音がするが理子が実力通りなら問題ねえ。

 

「クソが! 少しは女に対する手心とか無いのか!」

 

理子は俺からの追撃を避ける為に銃を乱射しながら下がった。

 

その発砲を頼りに煙の中を駆ける。

 

「ハロー、理子! 浮かない顔してるぜ? 生理不順か?」

 

「リク! このヘタレ野郎が!」

 

お互いの腕が交差し、弾き、組み合う激しい銃格闘。

 

理子は技量と速度が高く、俺は力とタフネスが高い。

 

お互いに千日手だ。

理子が撃てば俺が撃つ。

目まぐるしく位置を変えながら攻撃の応酬。

 

「ッ!?」

 

不意に激しい痛みが脇腹を襲う。

見ればコンバットナイフが深々と突き刺さってやがる。

 

「…油断したな、リク。 私は超能力も使えるんだ」

 

理子の髪が生き物の様に蠢いて此方に迫り来る。

 

「いつからここはXファイルの撮影所になったんだ!?」

 

カトラスで蠢く髪の毛を撃つが手応えがない。

 

「さぁ、もらったぞ! リク!」

 

「何も、やってねえよ!」

 

アリアにも使った脚力に任せた前蹴りを理子に叩き込む。

 

「ガハッ!?」

 

 

身体を捻り、煙の中に身を隠すが芳しくない。

 

脇腹のナイフを抜けば間違いなく血が吹き出すだろう。

今は抜かねえ方が良さそうだな……。

 

「ゴホッ、形勢逆転だな」

 

理子は腹を抑えてはいるが戦闘不能という程では無い。

さらに煙は段々と晴れて来ている。

 

「私は髪を自由に動かす事が出来る。近接戦で使える手数が多いって事だ。お前に勝ち目はないぞ」

 

「俺、お前の髪、千ドルで買うぜ」

 

軽口を叩きながら、薄れた煙から飛び出し蹴りを放つが避けられてしまう。

 

「ふふっ、もうダメだよ。リっくん。その出血量じゃマトモに闘えないでしょ?」

 

返答にカトラスを放つが回避された。

既に機敏に動けないのを見抜かれているな。

 

「頑張れー! 頑張ればリっくんをイ・ウーに招待しちゃうぞー?」

 

イ・ウー?

聞いたことがある名前だが段々と意識が朦朧として来やがった。

 

「こりゃ……全力しかねえか」

 

「ああ?」

 

俺は自分のナイフを抜き、左手に突き刺す。

 

「リク!?何をするつもりだ!?」

 

痛みで意識が覚醒してクリアになって行く。

 

「楽しい事をするのさ。サンタ・マリアの名には誓えねえがな」

 

痛みを一時的に無視してカトラスを早撃ちする。

 

理子のワルサーを弾き飛ばした。

 

手にナイフを突き刺すという蛮行に理子の意識は離れていた。

 

「クソ!?」

 

俺は全力で理子に突撃する。

 

「無駄だって、言ってんじゃん!」

 

理子の髪のナイフが迫る。

は、コイツを待ってたんだ。

 

「オーライ、左手持ってきな。クロスカウンターは取らせて貰うぜ」

 

ナイフを左手で受ける。

左手はナイフが貫通し、激痛を訴えるが無視する。

 

そのまま、痛む左手で理子の髪を掴む。

 

「くっ、リクお前!」

 

「これで逃げれないよなぁ?」

 

理子は銃で撃とうとする前にナイフで髪を切り裂く。

 

「こちらはスウィーニー・トッドの理髪店だ。気分は如何かなお客さん」

 

左手に掴んでいた理子の髪を地面にばらまく。

 

これで片方は使えねえ筈だ。

更にカトラスを構えるが、理子はバケモノを見るかの様な顔で此方を睨んだ。

 

「最悪だ……割に合わない。お前を殺す為にオルメスを取り逃がしたら本末転倒だな。リク、今回は見逃してやる。その傷なら前線には出てこれないだろうしな」

 

「は、言うじゃねえか。次はベッドの上でやり合うとしようぜ」

 

理子は中指を立てて、あっかんべーをしてから窓から飛び降りた。

 

後を追って、後ろ姿を見る気力もねえ。

 

「クソッタレの阿婆擦れめ、痛え……超能力は大嫌いだ。日頃の行いはいい筈なんだがな」

 

こりゃ、あんなのが相手だとカトラスだけじゃ足りねえな。

せめてもう少し武器がいる。

そして気になったのは理子の発言だ。

 

「オルメス……ホームズか?」

 

理子が言っていたのはホームズを倒すって事か。

 

「一応、キンジとアリアにも連絡しておくか」

 

理子に襲われた武偵殺し事件と関与しているかもしれないとメールを送る。

 

これでキンジの童貞野郎がハニートラップにかかる可能性は無くなったな。

 

「救護科、まだ開いてたら縫ってもらうか」

 

俺はボロボロの状態でフロントに行き、峰理子と言う犯罪者が銃を乱射し煙幕を炊いたりしたと武偵高に連絡を入れさせて救護科に向かった。

 

すまんな、理子。

俺の罪状も背負ってくれ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




理子戦です。

超能力に弱い主人公です。
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