戦闘も無いけどお兄さん許して。
「リク! 大丈夫か!」
病室に血相を変えて飛び込んできたのはキンジ、その後ろにはアリアもいる。
「よう。どうした随分と深刻そうな顔してるな。まるでナイフで友人が刺された様な顔だぜ?」
救護科に行った所、即座に入院が決まったのでその事を皆にメールで伝えたがこんなに早く来るとは思っていなかった。
俺は救護科の生徒と先生に無理矢理、ベッドにぶち込まれて足を拘束されていた。
まるでマラソンマンだな。
「キンジ、ホラ見なさい。リクはピンピンしてるじゃない。焦って走り出す必要は無かったわ」
アリアは走って来たキンジに付き合わされたんだろう。
それでも軽く息が上がる程度なのは流石だな。
「ああ。よかった……レキは?」
「呼びましたか。キンジさん」
俺が横になっているベッドからレキは這い出して来る。
「あ、アンタたち何してんのよ!?」
「護衛です」
違うだろ。
一番に駆けつけて勝手に潜り込んで来たんじゃねーか。
「レキ、暑苦しいから出ろ」
「わかりました」
シレッとしてるが相変わらずコイツ、イかれてるな。
ほら見ろ、キンジがドン引きしてやがる。
「で、アンタ誰にやられたって」
「峰理子だ。ベッドに誘われた挙句、痴情のもつれで後ろから刺されたのは初めてだった」
「ち、痴情の!?」
はは、アリアは顔が髪の毛くらい真っ赤になって面白い。
「オーケイ、真面目に話をしようか。
このままだと、ミント女に穴開きチーズにされちまう」
だからドラグノフを下ろせよ、レキ。
「すいません、妻としてこうしておく場面かと」
冗談がわかりづれえんだよ。
無表情族はいっつもそれか。
レキから思い返すのはロアナプラで手を出した(出されたが正しい)掃除屋だった。
アイツ一度、俺の事を解体しようとしやがったからな。
「別の女性の事を考えていますね」
「ああ、そうだぜ。俺を半殺しにした峰理子の事を……な」
レキには適当な事を言って誤魔化すに限る。
キンジはその言葉に訝しげな顔をした。
「正直、信じられない。理子は俺に入試で倒されてる。リクを真正面から打倒できるほどの力があるとは考えられん」
痴情のもつれってのがよっぽど理解できると肩をすくめた。
「奴は狡猾だ。念入りに準備していた筈。その中にお前らを騙す事も入っていたんだろうさ」
アリアはその言葉に少し考えを巡らせている。
「だが、今回の交戦で峰理子はほぼ丸裸だ。俺との戦闘で隠していた物まで出してきたんだからな」
「隠し技?」
「超能力(ステルス)だ。峰理子は髪を自在に操る事が出来る。ツインテールの先にナイフを持って視覚外からの攻撃が来るんだよ。まぁ、片方切り落としたが……」
アリアはその情報に満面の笑みを浮かべる。
「でかしたわリク! その情報は万金に値するわ!」
「そりゃどうも。出来れば誠意は金で示していただきたいですな。オルメス殿」
その言葉にアリアはキョトンとする。
「オルメス……調べたの? 私の家の事」
アリアの名前は神崎・H・アリア。
ホームズね。
ずいぶんとビッグネームだぜ。
「オーライ、繋がったな。峰理子が連続爆弾魔『武偵殺し』で間違いないだろうよ」
「理子がだって?」
タイミングで考えりゃ分かるだろ。
「武偵殺しは武偵を狙う爆弾ジャック犯だ。今回、狙われたのはチャリジャックのキンジ。次はバスジャック。だが、しかし実際に事件に関わっているのはアリアだ。キンジじゃない」
「何故、そう言い切れる?」
お、聞くか?
理子が間抜けすぎて笑えるぞ。
「理子は去り際に漏らしていたんだよ。オルメスってな。オルメスはフランス語でホームズ。クソ名探偵シャーロック・ホームズ様の事さ」
「アンタね、私じゃなくて曾お爺様の事まで馬鹿にしたら本当に風穴あけるわよ」
アリアはホームズという家系に随分と誇りを持っている様だな。
まぁ、ガルシアもそうだしマトモな貴族ってのは誇り高いモンだ。
「アリアって、ホームズ家だったのか……」
「そのパートナーだぜ、頑張れよキンジくん。医学でも勉強するか? うん?」
「探偵科の勉強で手一杯だ勘弁してくれ」
お前、探偵科の偏差値も低いじゃねーか。
「とにかく、俺に対する攻撃はアリアに対する攻撃の布石だろうぜ。俺はしばらく動けないからよ、十分に注意するんだな」
俺は普段から女にナンパしたりしているからな。ハニートラップにかけやすいと判断されたんだろ。
「となると、少し予定を早めようかしら。実は英国武偵局から呼び出しが来てるのよ」
英国武偵局だ?
少し前、キンジとレキが別任務で居なかった時に単独で英国武偵局まで行ったが担当の奴がエラく突っかかって来やがったからな。
あの男女、何れ全裸にしてビッグ・ベンから吊るしてやる。
「帰って来いってね。断るつもりだけど一度イギリスには戻らないと行けないの」
「ふーん、気をつけてな」
「何言ってんの、キンジ。アンタも来るのよ」
「は?」
キンジは間抜けヅラを更に悪化させた様な顔をした。
「英国武偵局はアリアをイギリスに帰したいのさ。アリアは有能なSランク武偵にしてホームズ家の貴族だしな。それを断るにはパートナーが出来たからと言うのが一番手っ取り早い」
「そう言う事、峰理子に妨害される前に移動するのが一番だけど『武偵憲章
第7条 悲観論で備え、楽観論で行動せよ』。出来る限りの準備はしておきましょう」
他にも理子の武術の腕。
負傷箇所、銃器の種類など思いつく限りの情報をアリアに伝えるとアリアはキンジを引っ張り病室から飛び出していった。
病室に残ったのは俺とレキだけ。
「リク、口を開けてください」
「今さっきからお前が皿に並べているのはカロリーメイトに見えるんだが」
レキは少し首を横に曲げ不思議そうな雰囲気を漂わせた。
「その通りですが」
「せめて果物とか無かったのか……?」
さらにレキは頷いた。
「ですのでフルーツ味です」
ふざけろ。
口の中パッサパサになるわ。
それでもレキはカロリーメイトを差し出し続ける。
「はい、どうぞ。あーん」
「あー……。もう、いいありがとうレキ」
案の定、カロリーメイトは容赦なく口の中で水分を奪い尽くしていく。
「レキ、俺の部屋からシンハーかバカルディを……」
「ダメです。回復に専念してください。水をどうぞ」
レキの意思は固そうだ。
こりゃ、気合い入れて治さねえと禁酒が始まっちまうな。
「オーケイ、酒は飲まねえよ。レキ、お前はもう部屋に戻れ」
「私はリクの護衛です。離れられません。いえ……」
しばらく、レキは考えて言い直した。
「今は離れたくありません」
そのレキの言葉に俺は自然と笑みが浮かんだ。
「そーかよ。じゃ、一緒に寝るか」
「はい、夜の相手もしますか?」
「舐めんなラブドール。相手は、よりどりみどりだ」
「その話を詳しくして頂きましょうか、リク」
俺とレキの他愛無い会話は夜遅くまで続いた。
数日後、俺が退院すると同時にキンジとアリアが救護科にぶち込まれた。
「で? イギリスに行く途中でハイジャックされて、理子に逃げられたのか」
あれだけ、情報を教えてやったのに。
「まさか、キャビンアテンダントに変装して襲いかかって来るとは思ってなかったのよ!」
「あれは完全に不意をつかれたな……」
アリアは一時的に意識を失っていた為、検査入院。
何も無ければ明日、退院だ。
キンジは比較的に軽傷ですぐ救護科から解放された。
つまり、なったんだな。
「で、アリアさんよ。キンジに何かされなかったか?」
「バカ、リクお前!?」
アリアはしばし、ポカンとした後に茹でタコの様に顔を赤くしていった。
「そ、そうだ!バババババ、バカキンジ! アンタ、私の唇にきき、キスススを!?」
はっはっは、そうかキスでなったのか。
中学生かよ、キンジは。
「なんだ、一発ヤッてキンジも童貞から卒業かと思ったんだがな」
「リク! お前は本当に!」
「どうてい?」
アリアはわかって無いのか。
一応、高二だろ?
「とりあえず、無事で良かったじゃねえか。飛行機が墜落したんだ、生きてる方が不思議だろ?」
「不時着だ。あんな事は二度とゴメンだね」
今回のハイジャックを解決した事で英国武偵局にキンジの情報が伝わり、パートナー(仮)として認められたらしい。
「よかったな、キンジ」
「良くねえ……全然良く無いぞ」
そう言うなって。
「そうだ、明日。リクとレキに来て欲しい場所があるの。パーティを組むなら知ってて欲しいから」
ふむ、キンジは真面目な顔をしてるって事はかなり重要な事だろうな。
「いいぜ。キンジはもう知ってるみたいだしな」
「私も構いません」
翌日、アリアが案内したのは新宿警察署。
その中にある留置人面会室に出てきた美人。
「まぁ、アリア。本当にパーティを組めたのね?」
「ママ、私だってやれば出来るわ」
なるほど。
アリアの母親ね。
「こっちの目付きが悪い男が岡島リク。私に正面から白兵で勝てる武偵高の生徒。もう一人はレキ。凄腕のスナイパー」
「リクさん、レキさん、初めまして。わたしは、アリアの母……神崎かなえと申します」
なるほど、アリアが美人なわけだ。
口説きたくなる程の美人だ。
「ママ、武偵殺しの正体が掴めたわ。一度交戦して逮捕寸前まで行った。次は必ず捕まえてママの懲役を864年から742年まで減刑してみせる」
懲役864年か。
口ぶりからして冤罪だろう。
アリアの母からは道理で善人の様な気配しかしないと思った。
「大丈夫、アリア。あなたはパートナーを見つけた。しかも、頼れる仲間たちまで。あなたは今なら何処までも羽ばたいていけるはずよ」
「ママ……」
なるほど、アリアがあそこまでパートナーを求めていたのはこれか。
シャーロック・ホームズは天才だが視点が欠如している。
天才ゆえに凡人の感覚が。
それをワトソンが補う。
つまりパートナー。
すぐに面会の時間は終わった。
「懲役864年か」
「そう、アタシのママは秘密結社イ・ウーから罪を擦りつけられたの」
なるほど……な。
思い出したぜ。
イ・ウー。
ロアナプラで聞いた事があった。
シスター・ヨランダばあちゃんが言っていたんだ。
無法者の武装集団。
この街とぶつかり合ったら第三次世界大戦が起こると。
あん時はついにボケたか、このババアと流したがマジだったみてえだな。
「リク、レキ。アンタたちはどうするのキンジは付き合ってくれるらしいけど降りてくれても構わない……ワプッ⁈」
俺はアリアの頭を乱暴に撫でる。
「無法者にも無法者なりの流儀ってもんがあるんだ。イ・ウーの奴らはソレを守っちゃいない。それによ……面白そうだ」
「遊びじゃ無いのよ?」
アリアは俺の手を払い除ける。
「ああ、そうさ。だが面白いってのは重要なんだぜ、アリア。他人に罪を着せて逃げる臆病な豚に『風穴』を開けてやろうぜ。それを成し遂げたら……最高に気持ちいいだろ?」
「私はリクについて行く。それだけです」
しばらく、アリアは俺たちを見て固まっていたが直ぐに前を向いて歩き始めた。
「さ、さぁ、キンジも連れて作戦会議でもしましょ!」
照れてるらしいな。
レキと顔を見合わせてアリアの後ろについて行く。
後でキンジに伝えて揶揄ってやろうと思いながら。
次からは二巻です。
段々とラグーンや緋弾のキャラが入り混じり(予定)って行きます。