次にあなたが闇吉備津を見かけたのは、戦地の傍らでのことである。
現在『全国対戦』で一般開放されているマップは、『星めぐりの森』『不思議の森』『千夜の街』など多岐に渡るが、使われていないマップというものも存在している。これら未使用のマップがどうなっているのかといえば、これはキャストの鍛錬や憩いの場として用いられていた。
テイルマスター達に競技の場として提示するには、細かなメンテナンスが必要となる。だが、ちょっとした公園として出しておく分には、軽く雑草を毟ったりする程度で問題ない――という訳だ。
闇吉備津が居たのは、そんなキャスト向けマップの一つ、『龍宮の園Ⅷ』である。四つの池にそれぞれ十字に橋がかけられている、あの場所だ。
彼は今、
選択肢【闇吉備津は普段、何をしている?】
①その一角で、剣を振るっていた。剣戟しか見えておらぬとばかりに、ただただ的に打ち込む。
②戦っている他のキャストを眺めているようだ。あたかも……そう、値踏みをするように。
【①あなたはこの闇吉備津が、武に傾倒している事を知った。……そもそも、鍛錬以外の過ごし方を知っているのだろうか?】
彼は今、【その一角で、剣を振るっていた。剣戟しか見えておらぬとばかりに、ただただ的に打ち込む。】
こちらの存在に闇吉備津が気付いたのは、的の悉くを斬り捨ててしまって、斬る物がなくなってしまったからという、それだけに過ぎなかったのだろう。遠く、建物同士を繋ぐ渡り廊下から鍛錬を見ていたあなたと、視線がかちあった。
「……他のキャストは、皆向こうの、レーンの方に行って訓練をしている。お前が探す者も、そちらに居るだろう」
顎で方向を示すと、それ以上の興味はないと言いたげに、的の回収を始めた。
闇吉備津が今居るのは、マップのかなり隅の方にある、建物群の一角だ。試合中には入れない、城の奥側の部分である。四方を廊下に囲われた、中庭のようなこの場所は、建物の陰となっているのもあるのだろう、一切の整備がされておらず雑草まみれの空き地でしかない。当然居るのは、この白い偉丈夫だけだ。
的に用いられていたのは、人の幅ほどもある太い丸太だ。一太刀に斬り捨てられたと思しきそれらを隅に積み上げると、また新しい丸太を持ってきて、台座に固定する。
「いつまでそこに居るつもりだ」
地面にしゃがみこんで作業をしていた背中、毛玉のようなシルエットが言葉をかけてくる。腰ほどもある髪だ、姿勢を低くすればすっかり地面に着いてしまう。
「お前の探し物は知らないが、ここに居るのは正真正銘我一人。……来る者があっても、その一切を拒否している。お前の望む物はない」
そこまで言われてしまっては、留まってまじまじ見ている訳にもいくまい。あなたは、その場を後にすることにした。歩き去っていく横で、剣技が繰り広げられる。
砂がバッと上がる程強く踏み込むと、闇吉備津と擦れ違った丸太が落ちた。袈裟懸けの形の切口が落ちる音と、抜刀の風切りが鳴ったのはほとんど同時の事。振り抜いた後の一拍の硬直の後、重心を正すついでに、今度は前から後ろに滅鬼刀を振るう。
これを捉えたのは大振りの刀の最先端、勢いがあって『斬る』には向いていても、力が乗り難く『断ち切る』には適さない部位だったが――そんな事はこの人にとって問題ではない。刃のどの部分どの角度で捉えようが、剣で触れたからには致命傷を負わせる。
真っ二つになって転がった丸太の、始めに刃が入った部分は、抉れて歪んでいた。この人が技ではなく、純粋な怪力をもって丸太を切断した事の証明だ。
偉丈夫の手元、刀はその大きさと重さを感じさせぬ程、軽やかに跳ねていた。