「またお前か」
その後ろ背を見かけたのは、『立ち入り禁止』という文字の書かれた扉の前だった。
図書館内部の一角、地下へと続く扉の向こうには、テイルマスター達によって封印され直された禁書や、とにかく機密事項が保管されている――と聞いている。数多のテイルマスターの一人が、御伽世界の全てを管理する図書館の情報を、明確に知っているはずもない。
闇吉備津が振り返ってこちらを見たのは、その言葉を言い終えた後である。名の知れた武人というだけあって、気配や足音だけで、背後に立った相手の特定は出来るようだ。
「何用だ」
あなたは困っただろう。話しかけた事に、特別理由はない。『全国対戦』を終わらせた後の帰り道。その道中で、ただ目に入ったという、それだけである。
素直に「なんとなく声を掛けただけ」と言えば、それで会話は終わるだろう。多弁を嫌う闇吉備津は、それなら良しと黙ってこの場を去るに違いない。あなたは、単純に闇吉備津と親交を深めたかったか、あるいはいずれ戦地に連れ出すのにこのままでは不都合だったか、とにかく話を膨らませようとした。
その時、脳裏を過ったのはノーマルキャストの吉備津彦の存在だった。『桃太郎』という原典らしい人で、お供の三人とも仲が良い。……そういえば、この人にとってお供とは何なのだろう。
ちょっとした好奇心。なんてことない思いつき。あるいは嫌味だったかもしれない。
とにかく、あなたはそれを、眼前に問いかけた。
選択肢【お供の事を聞かれた闇吉備津は、どう反応する?】
①不穏。一瞬の後に漂った空気は、そうとしか形容出来ないものであった。
②「そうか。かつては我自ら喰らってやったが、こちらではまだ生きていたな」
【①この闇吉備津にとって、それは俗に言う『地雷』にあたったらしい。とにかく、触れて欲しくない部分だったのは確かなようだ。】
【不穏。一瞬の後に漂った空気は、そうとしか形容出来ないものであった。】例えるならば一触即発、あともう一度『間違った事』を言えば、眼前は躊躇いなく刀を抜くだろう。
赤色が、ねめつけてくる。隻眼とは思えない視線の強さをもって、あなたに立ち向かう。
「それをお前が知る必要はない」
〆殺される鶏じみた、喉奥から振り絞るような声。
「お前は我の力を、『性能』を、頼って呼び出したのだろう。そのような情報を知って、何になる」
たしかに、威圧感はあった。こちらの言葉を詰まらせるだけの気迫はあった。
だが、それ以上に――
「放っておいてくれ」
――苦しそうだ、とあなたは思ったことだろう。
一つ単語を紡ぐ度、その声量は小さくなった。一つ文を紡いだ後には、視線を床に下ろした。全てを言い切った今、その表情は苦々しく歯噛みするものへと変貌している。
『桃太郎』は、供の三匹と共に鬼を打ち倒し、みな揃って故郷へ戻った。子どもだって知っている筋書きだ。
恐らくこの男は、その当たり前の筋書きを辿れなかったのだろう。戦いのどこかで、お供が死んでしまったのかもしれない。あるいは故郷へ戻った後、新たな戦に駆り出された先の悲劇か。お供に裏切られたか、お供を裏切ったのかも。眼前が語らぬ以上、真実は分からない。分からないが。
「我がここを立ち去るまで、」
あなたが何か言葉を発するよりも、彼が語り出す方が早い。
「何も話してくれるな。今の我は……冷静ではない」
言って、あなたのすぐ真横を通りながら、闇吉備津は彼方へと歩き去っていく。あなたの耳には、鎧や刀が擦れるあの金属音が、遠ざかっていくのが聞こえただろう。
擦れ違いざま、何か、独特な匂いがした気がして、けれど、その残り香もすぐに消えてしまった。
*
あの闇吉備津は、たしかに攻撃的だ。他者を拒み続け、常に一人であろうとする。
そう、『そうであろうとしている』のだ。持ち前の気難しさによって自然とそうなるのではなく、自分からその状況を作り出している。その努力は、決して鬼殺しらしいものではなかった。もっと人間臭い、いじらしいものに思えた。
――「我を呼ぶのはなるだけ控え給え。是なるは鬼殺し。『人を助ける為に鬼を殺す』でなく、『鬼を滅ぼす為に鬼を殺す』在り方だ」
ともすればあの言葉は、自らの呪いが周囲を傷つけることを、防ぐ為のものではないだろうか。
そうだとすれば、彼の性質は――きっと、『偽悪者』と形容すべきものなのだろう。
彼はかつて血に塗れ、理性を捨てた鬼ではない。
ただの、『
Aルート【偽悪者の誉れ】