数日後。あなたは再び、『竜宮の園』を訪れていた。
建物と建物を繋ぐ渡り廊下は、あなたが足を踏み出す度にぎしぎしと軽く鳴る。昼終わりの穏やかな日差しが、床板にきらきらと反射していた。
ふと、遠く視界の奥。部屋の縁側に、もはや見慣れた人陰を見かけた。胡坐を組んだ人の横顔は、滅鬼刀と向き直っている。傍らに置かれた道具を見るに、恐らく手入れをしているところなのだろう。
こちらが彼に気付いた以上、向こうもこちらに気付いているはずだ。キャストと人間の違いは、ヴィランに襲われたあの時に、嫌という程分かった。
だからこそ。こちらに特別意識を向けることなく、黙々と刀身を磨いている姿に、迷う。
選択肢【久々に出会った闇吉備津。どう対応しよう】
①ここはお茶でも淹れてきて、腰を据えて話をしよう。
②軽く挨拶をするだけに留めておこう。
③話しかけるには、まだ日が必要なのではないか。
【①ちょっとした親切を思いついた時には、既に体は動いていた。】
だからこそ。こちらに特別意識を向けることなく、黙々と刀身を磨いている姿に、迷う。
【ここはお茶でも淹れてきて、腰を据えて話をしよう。】仕度をしている間に闇吉備津が場所を移す不安はなきにしもあらずであったが、お盆に湯呑みを二つ乗せて縁側に引き返す。
穏やかな日差しの下で佇んでいる為か、闇吉備津の姿はどことなく穏やかに見えた。病的に白い肌や髪も、この時ばかりは人間的な温かさを取り戻しているようで。
あなたは挨拶を一つ、闇吉備津の隣に何食わぬ顔で転がりこんだ。湯呑みをさしだされた闇吉備津は、相変わらずの仏頂面で一瞥する。
「キャストに飲食の必要性はない。あれはただ、娯楽として摂取しているだけだ」
返答に際し、一度武器を手入れする手を止める辺り、律儀な人であった。
「それで、此度は何用か。ようやと出陣許可でも下りたか。正直言って、これ以上の療養は無意味と思っていたところだ。
……我が真に死ぬのは、この腕が鈍らと化した時。我という刀は、倉庫に捨て置かれるつもりはない」
とてつもなく極端な解釈にはなるが、闇吉備津なりに拗ねているのだろう。他のキャストからの報告で、日課の鍛錬をしようとして咎められていたらしいことは知っていた。傷はもうだいぶ良くなったが、闇吉備津である彼は戦闘に関してあまりにストイック過ぎるので、ここを考慮してのことだった。
ふと思い至って、闇吉備津に耳打ちなどする。
「金木犀が見たい、と」
あなたはこの理由について、こう語った。
つまり、以前鍛錬をする闇吉備津を見かけた時には、途中で帰るように言われてしまったので、今回こそ最後まで見届けたいのだと。ようするに、二人でこっそり息抜きをしようという話であった。一つしか食べてはいけないお菓子を、こっそり二個食べてしまうような、些細な悪行である。
これに対して、闇吉備津は呆れた様子で溜め息などついた。
「つくづく、我が儘が過ぎる奴だ」
隣に置かれていた湯呑みをぐいっと呷る事をすると、胡坐を掻いていたところから立ち上がる。あなたも、慌てて後を追おうとして――
「……お前、今の短時間で足を痺れさせたのか。余程正座慣れしていないと見える。逆に器用だ」
見下ろす偉丈夫のなんとも言えない顔は、見ていてどことなく面白かった。