ヒッパーに赤いマフラーをプレゼントしたい 作:なし
うそ、全然終わらなかった。
はっきり言って、僕は歪んでいる。
僕はある司令部で指揮官をしている。
戦力となるのは艦船少女、つまり年頃の女の子。健常な日本男児なら羨むような立場だ。でも僕は違った。
あまり僕は好意を向けられたくないのだ、面倒臭いから。そう言うわけにして、この仕事はあまり自分には向いていないと常日頃からいっていた。
指揮官と艦船少女は恋愛関係になることも多いと聞く。僕が考えたその理由は、吊り橋効果というやつだ。
艦船少女は死の危険がつきまとう。だからこそ好意をあまり持たない相手だろうと、命を預ける相手に依存してしまう。
それは違うんじゃないか、僕はそう思っていた。でもそう思うのは僕だけなのだろう。
ケッコン指輪という装備の需要から見てもわかる。その装備が発明されるやいなや、瞬く間に売れる売れる。各地司令部にある明石商店の売り上げを総合した時、ケッコン指輪が他を突き放して圧倒的一位だったらしい。
ここの司令部の艦船少女もそうだった。
信頼する目で見て欲しくない、僕はそれほど優れた人物ではない。
失敗して怒られないのを驚かないでほしい、それを命じたのは僕なのだから。
予想外のことを褒められて驚かないでほしい、それに値するだけの働きをしたのだから。
まったくままならない、僕は当然のことをしているだけなのだから。褒められる要素などない、誰かがやらないといけないことだから。代われるものなら代わってほしい、やれる人がいないのなら、僕が指揮官になるしかない。
そんな僕にとって、彼女は異質で全く新鮮なものだった。
ある春の一日、執務室では細々とした着任式がおこなわれようとしていた。通常なら適当に流していいかと思うものの、今回は事情が違う。
よその司令部から一人派遣されてくる、そういうわけだった。
仮に雑な対応をして戻っていった時に、あの司令部は酷いとか言われようものなら面倒だった。
少なくともそう言うところは、僕はちゃんとしていた。
「それにしてもこの基地に派遣されてくるだにゃんて……」
そう着任式の準備をしながら、明石はポツリと呟いた。
僕に対して、好感度が高すぎる子ばっかりの司令部の中で、ビジネスライクな関係を保ってくれる明石の存在はありがたいものだった。
「戦力が足りないともいったつもりはないんだけどね……」
「たぶん問題児の厄介払いにゃ」
「問題児ねぇ……」
問題児と問題児を掛け合わせると、優等生になるとでも思っているのだろうか、呆れてため息をつく。
「ま、問題児ならこっちも楽に対応できるでしょ」
こっちに好意を向けてくれなければ、だが。
「そう言うところ指揮官はちょっとずれてると思うにゃ……」
「なにが?」
「なんでもにゃいにゃ」
「ふーん……」
明石の手伝いのおかげで着任式の準備も終わり、あとは来るのを待つだけだった。
「いつ来るんだっけ?その問題児とやらは」
「ヒトマルマルマルにこちらに到着予定、だからそろそろだと思うにゃ」
「ふーん……」
窓から外を眺めると、丁度黒塗りの車が司令部のゲートの前に止まるのが見えた、おそらくあれがそうだろう。車を降りた彼女の綺麗な金髪が煌めいて見えた。
「はぁ?あんたが指揮官?こんなどこの馬の骨ともわからないやつにまで指揮官をやらせるなんて、戦況はもうそんなに切迫しているわけ!?」
執務室の扉がいきなりバン!と、強く開けられての開口一番がそれだった。
明石が驚愕の表情を浮かべる中、僕は笑いを抑えるのに必死だった。僕の求める理想的な部下の姿がそこにあった。
「し、指揮官になんて口だにゃ……」
「いや、いい。ようこそ舞鶴基地へヒッパー殿」
「……ふん!」
明石はもう泡を吹いて気絶しかけていた。いや別にこの程度で、僕が酷い対応をするわけがないとわかってるだろうに。
「着任式はもう十分だろう、明石!この基地と学園を案内してあげてくれ」
「わ、わかったにゃ、良かったな新入り、あの指揮官は優しい人にゃ」
「なによ、あんな馬のh」
慌てて明石がヒッパーの口を塞ぎ、外へ連行していった。
あぁ、初対面であんな口をきかれたのはどれだけ久しぶりのことか。
未だに笑いを堪えるのに必死だった、抑える必要なんてないのに。
あの金髪が綺麗な彼女のことを思う、赤いマフラーが似合うだろうな。そう思いながら。