ヒッパーに赤いマフラーをプレゼントしたい 作:なし
お待たせしました
臨死体験ではありません
あと10話ぐらいで終わるかな?
多分これは前後編
目の前にコタツがある、それを頭が理解するのに数秒の時間を要した。
どこからどう見てもただの炬燵であった。まだ何も置かれていない、梅の小花模様の炬燵。
どこかで見覚えがある気がしたが、まだはっきりと思い出せなかった。まあ大した問題ではないのだろう。
それはともかく多分これは夢なのだろう、僕はそう思った。たしか僕は冷房器具が壊れた執務室で作業をしていたが、どうやら寝落ちしてしまったらしい。
周りをぐるりと見渡しても炬燵以外は何もない白い空間。
要するにこの炬燵に入れということなのだろう。
これがスイッチであり起点なのは、それ以外の物がないことから容易に想像できた。
だがしかし、僕は素直にそれに入る気はなかった。
天邪鬼な自分は決められたレールに乗せられるのが嫌だった。
夢でぐらい自由にさせてほしいのだ、まあ時間が来れば夢はおのずと覚めるだろう。
そう思いながら適当に時間を潰す方法を考える。はっきりとした感覚から明晰夢だと思ったのだが、それとはまた違うらしい。
もしそうならば思ったものをポンと出せるのだが、そうは問屋がおろさなかった。
布団、扇風機、トランプ…etc
色々考えて見るも何も出てくることはない。
まあそう上手くいかないか。そう思いつつも一つ悪戯を思いつき、すぐさまそれを想像する。
どうせ失敗するだろうと思いながらも必死に念を送る。
来い……来い……来いっ!
まあ成功しなくても良いだろうという僕の考えという裏腹に、ぼわわぁ〜んと目の前に煙が立ち上る。
まさか本当に成功したのか?
その疑問はすぐに解消された。
煙がふっと搔き消え、目の前におでんが現れた
「……はぁ」
1人ため息をつく、こんなところで運を使ってどうするのだろうと。
おでんが入った鍋を炬燵の上に起き、ごろりと寝転がる。
見上げた空の色は、自分がいる床と同じく穢れもなく真っ白く、どこまで続いているのかさっぱり見当もつかなかった。
●
いつまで経っても夢から覚める気配はなかった。
横になっても夢の中で眠れるはずもなく、ただ無駄に長い時間を過ごしただけだった。
仕方なく上半身を持ち上げる、体をあげた目の前に炬燵があった。
気のせいだろうか、横になる前より近づいている気がした。
さあ、入れ。今すぐ入れ。無言で炬燵がそう言っている気がした。
しょうがない、そう思いながらどっこいっしょっと立ち上がる。
うーんと横になっていて強張った身体を伸ばし、ちらっとそれを見やる。その上にはあいも変わらずおでんが入った鍋が置かれていた。
よし決めた、決意を固め一回深呼吸。
くるりと振り返り、炬燵とは正反対の方向へと一歩、大きく踏み込んで歩き出した。
なんでぇという声が後ろから聞こえた気がするが、振り返ることはない。多分幻聴だろう。
炬燵が近づいていたことから、それに座る気がさらに失せたことは言うまでもないことだった。
スタスタと白い空間の果てに向かってひたすら歩く。
そう歩いているうちに、一つ気づいたことがある。
自分が着ている服のことだ。
寝る前は軍服だった、起きた直後もそうだった筈だ。
それが知らないうちに士官学校時代の制服になっていた。
懐かしくも、あまり覚えてはいないあの時の記憶。
元々指揮官に適性のある人物は本当に少なく、僕の世代が2人で大当たりの年だと言われていたぐらいだった。
適性があっても謎の死を遂げるものも、行方不明になるものも多かった。行方不明になった者はセイレーンに降ったとも噂されていた。
そのせいでいつでも指揮官は不足していた、適性があっても拒否をする者もいた。
そういう流れの中での2人だった。資質も抜群に優れ、今や同期のあいつは『英雄』とすら言われるようになっていた。
もう一つの『脳筋ゴリラ』と言う通り名で呼ばれるとブチ切れる、その彼女のことを思い出す。
女性につける通り名ではないのはわかるが、それを付けられることに相応しいエピソードは確かにあった。
確かに護身術の訓練だったか、彼女は某戦艦級の艦船少女をハンデなしの生身で叩きのめしたのだ。
その話に尾鰭が付いて、セイレーンを生身で仕留めた、駆逐級三人ぐらいを纏めて締めた、投石で空母級から発進した戦闘機を撃ち落としたとか噂されるようになったのだ。
それをプリプリと怒りながら僕に愚痴るのだが、できるのは苦笑することだけだった。
艦船少女に陸上とはいえ、戦艦級を生身で制圧できるのは脳筋ゴリラの呼び名にふさわしいと僕も思っていたが、それを言うことはなかった。己の身の安全が第一である。
僕がヒッパーを抑えたのは冷静さを欠いていたから、それとはまた違う問題だろう。
そう言えばヒッパーはその彼女が指揮する基地から来たんだったか。
そんなことを考えていると、白い空間の中にポツンと黒い点が見えた。
どうやら何かあるらしい、それに向かって歩くスピードを上げる。
炬燵とおでん鍋だった
僕は黙って通り過ぎた。
●
イカめしが目の前に落ちていた。
ツンツンとそれをつつくと、それに合わせてプルプルと振動する。どこからどう見ても、縁日で屋台に置かれているようなイカめしだった。
二個目の炬燵から通り過ぎてから、体感時間で10分ぐらいのことだった。何の脈絡もなく空からぺちゃっとイカめしが落ちて来たのだ。
空を見上げても雲ひとつなく、イカめしを落とすようなものもなかった。
まあイカめしが降る天気もあるのだろう。そう結論付け、それを放置しまた歩き始める。
さらに歩くこと5分ほど。
はるか遠くに、また黒い点が現れていた。どうせ炬燵だろうと思いつつ歩き続ける。
ただ通り過ぎればいいだけのこと、そう思いながら。
予想外だったのは、夢の中に僕以外の誰かが現れることだった。夢なのだから何でも起こり得るべきだと想定するべきだった。
目の前でイカめしをはぐはぐと下手くそに食べてる彼女をちらりと見やる。
彼女は確か、あの英雄どのの初めに絆を結んで一緒に横須賀基地に入った筈だったが。
夢の中ではその縛りにとらわれないらしい。
黙って横を通り過ぎようとすると、声をかけられた。静かでいて、どすの利いた声。
「どこへ行こうとするの……?」
「……おでんがないところを探しに」
彼女の方を見ることは出来なかった、少し恨みを感じる声だったからか。
「そんなところないわよ、早く座りなさい」
「僕の夢なんだから、僕が決めていいだろう?」
次の瞬間、彼女が座っている方から何かが砕けるような音がした。
恐る恐る振り返ると、炬燵に拳が突き刺さっていた。
ヒッと声を上げるのを必死に堪える。
「最終通告よ、座りなさい」
「でも」
「炬燵の中でずっとスタンバイしてた私の気持ちがわからないの……?」
此方からは彼女の背中しか見えなかったが、少しその背中が煤けて見えた。
少し哀れに思いながらも、大人しく対面に回り込み炬燵に入る。
特に何の変哲も無いただの炬燵だった。
「……これでいいのかい、特に何も変わった様子はないけど?」
「すぐにわかるわよ」
その言葉の通り、次の瞬間白い世界がぐるりと一変した。
旧デザイカめしpowすき