ヒッパーに赤いマフラーをプレゼントしたい 作:なし
コンビニおでんが始まって、店員の悲しい顔を再度見ることになったので投稿です。
水平線まで何マイルって作品のことを初めて知りました。
視点がぐるりと変わった先は、一時期を過ごした士官学校の一室だった。
炬燵に見覚えがあったのは当然だろう、自分の持ち物だったのだから。
そんなことを考えていると、突然隣でパンパンパンと破裂音が連続した。
「第一回闇鍋大会ー!!」
クラッカーを撃ち鳴らしながら、そのようなことをのたまうのはあいつしかいなかった。
「なあ、これ本当にやる必要あるのか?」
夢の中、それも過去の記憶の再現だからか、自然と口は動いていた。何処か他人事のように思いながら周りを見やる。
「当然!こんな騒げるのももう無いからな!」
「PoWの目が死んでるんだが……おいお前の指揮官だろう、なんとかしてくれ」
「……私は指揮官の命令に従うのみ」
世界が変わる前から齧っていたイカから口を離して、心底嫌そうにそういった。
そう喋っている途中に僕の身体は動いていた、一瞬の隙のうちにPoWのイカを奪い取る。
「あっ、返して返してよ」
「ダメだ、これを理由に闇鍋食べない気だろ」
思惑はお見通しだった、イカを取り返そうとする手をかわしながら炬燵の右側に座る奴にそのイカをパスする。
隣の奴?
今さらながら同期のあいつ、PoW、自分以外にもう一人居たことに気付く。
黒い、そう黒く潰された何か。まるで墨で塗りつぶされたような。そうとしか形容できないものがそこに居た。
こんなものは自分は見た記憶がなかった。
されど周りは平然とそれを受け止めているのが、何より怖かった。いやいかれてるのは僕なのだろう。
その闇が、放ったイカをキャッチして口を開いた。
「────、──────」
「おい、お前の番だぞ」
「……え?」
「闇鍋だよ!食べたくないからってそうはいかないぞ!」
同期のあいつがそうがなり立てる、どうやら少しぼーっとしていたらしい。
さっきまでは勝手に体が動いていたのに、その便利なオートモードは止まったようだった。
今尚ぼーっとしてる自分を英雄どのは胡乱な目で見ていた。
「おい、本当に大丈夫か?」
「闇鍋を食べることを除けばね」
その言葉に爆笑する。
一先ず状況の整理をしよう。
こたつに座っているのは僕、あいつにPOW。
「闇鍋、誰からスタートだったけ?」
「おいおい、そんなことも忘れたのかよ。POWだよPOW、自分で入れた生きたイカを引き当てて爆死してただろ?」
そう言ってPOWを見やる、POWは首に『私は闇鍋のルールも守れなかった負け犬です』という看板を吊り下げていた。
自分の目線に気づいたのか、睨み返しながら言った。
「なによ、何か文句でも?」
「滅相もございません」
ぶんぶんと首を振る、引いたものを食べきれなかったからあの罰ゲームなのだろう。イカを入れるのはPOWぐらいしか予想出来なかった、まあ自業自得だ。
生のイカを入れると言う異常性には見て見ぬ振りをした。
そうすると僕と英雄どのが入れたものだけがわからないということになる。
闇鍋の記憶はすっかり薄れ、自分が入れたものも覚えてなかったが、そう過激なものを入れなかったはずだ。
「一人何品まで入れることができるルールだった?」
「二品だよ、最大二品まで。お前本当に大丈夫か?闇鍋の臭気に当てられてないか?」
「そうだといったらにげれるのか?」
「絶対逃がさん」
まあそうだろうな、意を決して箸を鍋に突っ込む。
選択肢は六品、一品はイカだった。
残りの最大五品の内、自分の二品を引けばいいのだ。そう低くない可能性のはず。
濁った汁の中、えいやと掴んだものを引き上げる。
白くコーディングされた棒が顔を覗かせ、すぐに沈下させる。
「おい、ちゃんと引きあげろ!お前が食べなかったらこっちに回るだろうが!」
「食べられる物かよ、これが!」
「知るか!!」
渋々引き上げる。下の方を見るとなんてこともなく、ただのCucumberだった。
「いやおかしいだろ!この白いのなんなんだよ!」
「マヨネーズよ」
今まで沈黙していたPOWがようやっと口を開いた。
「新鮮なキュウリほどマヨネーズに合うものはない、知ってる?」
「「だし汁のことを考えろ!!」」
珍しくあいつと声があう。
キュウリは普通に美味しかった。
●
順番は回る。
英雄どのはマヨネーズがくっついたハムを引き(多分自分が入れたものだ)、POWがニシンの燻製を引き、イヤイヤ言っているところに口に押し込まれ再び撃沈し、また自分の番がやってきた。
残り一品、英雄どのがニシンの燻製しか入れてないとゲロったため、わかってないのは自分が入れた一品だけ。
POWがイカ、キュウリ。あいつがニシンの燻製。自分がハムとなにか。
地雷は全部外したはずだ。
意気揚々と箸を鍋に突っ込む、あとは夢が覚めるのを待つだけだ。
「はやくしろよなー」
「まあ待てって」
キュウリほどの手応えはなかった、時間稼ぎをしながらゆっくりと引き上げる。
それはこの数日間飽きるほどみてきたものだった。
しかして、それを自分が入れることは絶対にあらず。
「それ、私が入れた」
右側からPOWでもあいつでもない、誰かの声が聞こえた気がした。
闇鍋に餅巾着が入っていた。
●
意識が次第にはっきりとしていく。
いつも見上げる天井、どうやら僕は自室に運ばれていたようだった。
多分明石のおかげだろう、あの時間執務室に近づくのは明石ぐらいしか思い浮かばない。後で感謝しよう、そう思った。
体をゆっくりと起こす、汗ばんだシャツを冷房の風が冷やして行く。
何か悪夢でも見たのだろう、しかしそれをはっきりとは思い出せなかった。
まあ覚えてなかったのなら思い出す必要もない夢なのだろう、そう結論づける。
それにしても薄暗かった。部屋はすでに暗く、窓から見る外には、夜の帳がすっかり降りていた。
昼飯をすっぽかして晩飯までも飛ばすとは。まあおでんキャンセルが出来たから、御の字だろう。
そんなことを考えていると、思い出したかのように腹がぐーっとなった。久しぶりに食堂でも行くか。そう思いベットから立とうとして、腕が重いことに気づく。
「なんでここで寝てるんだ……」
そう小声で漏らす。僕の左手をギュッと握り、スースーと安らかな寝息を立てているヒッパーがそこに居た。
なぜここで寝ている?なぜ僕の手を掴んでいる?明石は何をしていた?
色々疑問は浮かんだが、それをはっきりさせる気は無かった。
なんとなくヒッパーの前髪をいじる、寝ている素顔はいつもの険が取れ安らかな顔だった。
「……しかめ面よりはずっと似合う」
そう独り言を漏らす、まあしかめ面させてるのは自分が悪いのかもしれないが。
その言葉にぴくっとヒッパーが反応するも、起きる様子はなかった。
ここでヒッパーをずっと眺めてもいいが、起きた時何を言われるか分からないし、何よりも何か食べたかった。
名残惜しく思いながら、ヒッパーの手をそっと外す。
「いい夢を」
その言葉に返事はなかった。
第1部完!
ここで折り返し
ウマ娘のほう書いてて遅くなった、許してね