ヒッパーに赤いマフラーをプレゼントしたい   作:なし

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夏は鍋よりおでん



≠ハムマンがおでん芸を習得するということ

 

 

執務室には、彼女と僕がいた。

 

 

春に派遣されてきた彼女、ヒッパーは肌にじっとりと汗をにじませていた。

汗でべったりと張り付いた服と肌を伝う汗は、僕にはとても艶めかしく見えた。

いつも活発に動いてるアホ毛は、元気なく垂れ下がり、僕に涙目で懇願する。

 

 

「もう許して……」

「いやだめだ」

 

 

即答、彼女を逃すわけにはいかなかった。荒い息を吐きながら次の目標を狙う。むわっとした海産物の特有の匂いが鼻をつく、なんで僕がこんなことをしなきゃいけないんだ。

 

 

「……口を開けろ」

「(ふるふる)」

 

 

首を振り明確に拒否をしめす。口を開いたら、僕が掴んでいるそれを突っ込まれるとわかったのだろう。そりゃそうだ、こんな熱くて太いものを突っ込まれたくはないだろう。下手したら火傷しそうだ。

 

 

「はぁ……」

 

 

ため息をつく、なんでこんなことになったのか。夏は僕らを狂わせる季節らしい、そう僕に思わせるぐらい淫靡な場面だった。

 

 

 

 

 

両者の間に、煮えたぎったおでんがなければだが。

 

 

 

 

ヒッパーが派遣されてきて数ヶ月経った、夏のある日のこと。

 

夏の真っ盛りながら、執務室にはエアコンがなかった。正確に言えばエアコンはあった。修理予定、という紙が貼られたものだったが。

 

僕が知らないうちに、明石がエアコンを魔改造しようとして失敗したらしい。さらに酷いことに元に戻すこともできないという。

 

 

「ごめんなさいにゃ……」

僕の目の前で、涙目になりながら土下座をする明石を責める気にはならなかった。まあ、僕のためを思ってやったことだし。適当に流して今に至る。

 

それが昨日のこと、今日になっても未だ修理担当がやってくることはなかった。明石さんよ、もしかして依頼するの忘れてないか。そう尋ねようにも何故か明石の姿が見えなかった。まあ、商店でなんか問題があったのだろう。

 

冷房器具がない執務室での仕事はあまり捗るものではなかった。食堂で仕事をすることも考えたが、流石に周りの目線がきになる。結局、僕はいつもの執務室に戻ることになった。

 

 

 

 

暑い暑いといいながら執務をこなす。こんな暑い部屋には、誰も寄りたくはないのだろう。いつもはよく現れる明石ですらいなかった。

 

まあ静かなのはいいことだ、僕はそう思った。片手で団扇を仰ぎながら、淡々と溜まった資料を処理する。水着装備による作業効率の上昇なんてくだらないものもあった。

 

チラッと目を通す。水着には能力を直接的にあげる効果はないが、精神面にいい影響を与えるらしい。装備を試しているのはハムマンだったか。確かに最近の委託任務でも、大成功続きだったはずだ、オカルトじみたものな気がするが、試すの価値があるかもしれない。そう思いながらハンコを押す。

 

暑さでの効率ダウンと、一人で黙々と作業を進めたことによる効率アップはプラマイゼロだった。

 

目を通していた資料から顔を上げる。誰かがこちらに慌ただしく近づいて来るらしい。扉の向こうから、ドタドタという足音が次第に大きく聞こえて来る。

 

「指揮官助けてくれにゃ!!」

誰が来るんだと身構えていたら、今日一日姿を見せなかった明石が突然執務室に飛び込んできた。

 

 

 

「……なんだよ」

「間違って商店に海鮮出汁香る熱々おでんを50食分入荷しちゃったにゃ!!」

「それで?」

「指揮官にも消費するのを手伝って欲しいにゃ!」

 

思わず天を仰ぐ、これは怒ってもいいんではないだろうか。

 

「この猛暑でサウナとかした執務室で」

「にゃ」

「熱々おでんを食べろと?」

「そうにゃ」

 

あまりの怒りに、思考が一周回る。

そうだ、素晴らしいアイデアを思いついた。

 

「そうだ、ヒッパーとおでんを食べよう」

「……正気かにゃ?」

 

正気じゃないとしたら、君のせいだろうに。

そんな言葉は飲み込み、漏らさない。

確か、ヒッパーは今日は寮舎で休日を満喫してるはずだ、明石におでんの準備とヒッパーの回収を命じ、執務室の外へ放り出す。

 

夏の暑さは、確かに僕の頭を蝕んでるらしかった。

 

 

 

 

そして冒頭に戻る。

 

明石はおでんの準備をし終えるなりそそくさと逃げ、僕とヒッパーだけでおでんが煮込まれた鍋を囲むことになった。

 

ちくわぶの押し付け合いは結局僕が折れ、涙目になりながら少しずつかじっているとヒッパーが口を開いた。

 

「で、なんで私がこんな暑い日に、マヌケとおでんを仲良くつつかなきゃいけないのよ」

「僕の道連れが欲しくてね」

「このカス……そんなことだと思ったわ」

 

春に来てから数ヶ月たっても、僕に対するキツイあたりは変わらなかった。

だからなのだろうか。

 

「うん……本題に入ろう」

「なに?」

「ほかの仲間に馴染めていないと聞いたが、大丈夫か?」

「……」

 

多分他の仲間に対しても、僕と同じような口を聞いているのだろう。それは反感を買うのは当然だ、僕のようなものは少数派なのだから。

 

「明石から色々聞いた、駆逐艦の子を怖がらせているとかね」

「あんたになにがわかるのよ!」

「うん、なんにもわからない」

「ッだったら!!」

 

「だから謝る、すまなかった」

「……は?」

素直に頭を下げる、これは全面的に僕に非がある。そう思っていた。

 

「僕がもっと早く把握するべきだった、間に入るべきだった」

「あんたは関係ないでしょう、それは私が!」

「いや、違わないね。僕の怠慢だ」

 

言葉を遮り、言葉を紡ぐ。

 

「司令官はそういうものなんだよ。部下の個性を把握し、適切な仕事を割り振っていく。僕にはそれができていなかった」

 

彼女は押し黙っていた。納得してくれただろうか?

 

 

「君は僕のことを嫌いだろう?」

「……は?」

「いや、言わなくてもわかってる。僕以外に内心を打ち明けられる人を見つけるんだ。例えば明石とか、あいつはいろいろ迷惑ごとを引き起こすが」

 

エアコンとか、このおでんとかね。そう言って苦笑いをする。

 

「あれでいて、良いところもたくさんある。僕が司令官を続けられているのは彼女のおかげだよ。拠り所が1つあるだけで人は強くなれる、そういうもんだよ」

 

らしくもないことを語った、ちゃんと伝わっただろうか。でも、まあこれで後で明石に仲介しとけばなんとかなるだろう。

そう思い、対面の彼女を眺める。いつもぴょこぴょこ動くアホ毛は完全に静止し、ヒッパーの顔から感情を読み取ることはできなかった。

 

 

 

 

 

気まずい空気が続く中、突然扉が開いた。

 

「にゃ!?」

「おい指揮官、任務完了のお知らせだ。感謝するんだぞ」

 

沈黙を破ったのは扉が開いて転がり込んで来た明石と、水着姿のハムマンだった。

 

とりあえず地面に転がったまんまの明石に声をかける。

 

「遅かったな明石、なにやってんだ」

「な、なんでもないにゃ」

「指揮官、明石は扉の前で聞き耳を立ててたぞ」

「嘘だにゃ!!」

「本当のことじゃない!!」

 

フーッと猫のように毛を立て、明石とハムマンは威嚇し合っている。そこまで喧嘩をすることじゃないだろうに。

 

「とりあえず明石、おでんを食うぞ」

「よ、用事を思い出したにゃ!」

「ハムマン、確保」

 

逃げ出そうとした明石はあっさりとハムマンに捕まった、駆逐艦に速度で勝てるはずがないのだ。

 

「ハムマンも隣座れ、一緒に食べるぞ」

まさか自分にまで矛先が向くと思わず、そのまま帰ろうとしていたハムマン。

ギギギと壊れたおもちゃのようにハムマンは振り向いた。

 

「し、指揮官?ハムマンは水着姿なのだけど?」

「……ヒッパーと俺はハムマンと一緒におでん食べたいと思ってたんだけどな」

「しょうがないわね!感謝しなさいクソ指揮官!」

 

即座に隣に座るハムマンは、やっぱり友達思いのいいやつだな、そう思った。

 

ヒッパーもハムマンも遠慮なく僕のことを罵倒してくる貴重な相手だし、仲良くなれそうだなという浅い計算をしてたのは、いうまでもないことだ。

 

 

 

「それじゃあハムマン、ヒッパー、明石。僕は少し外の空気を吸ってくるから」

 

「「「は?」」」

 

 

 

このあとめちゃくちゃ縛り上げられて、おでんを口に流し込まれた。

 




ハムマンが熱々おでんを食べる世界線はどこ
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