ヒッパーに赤いマフラーをプレゼントしたい 作:なし
ハムマンはウィンナーコーヒーに詳しいとか、そんな設定はないと思うよ。
日刊総合ランキングに入ってました、ありがとうございます。
相変わらずヒッパー出番なし、9割おでん。
今日も今日とておでんを消化する日々、ふと1つ思いついた。
「……ハムマンってやっぱりウィンナーのこと嫌いなのだろうか?」
「唐突過ぎるにゃ……」
呆れた顔をしながら明石は鍋から大根をとった、そろそろ練り物も飽き始める頃だろう。
ウィンナーをまた一口かじる。
「ハムマンがおでんを食べなかった理由を考えててさ、やっぱり気に入らないのはこのウィンナーな気がして来たんだが」
「それもしかしてハムに掛けてるにゃ?」
「もちろん」
「……つまらないにゃ」
少しだけ、ほんの少しだけ僕は傷ついた。
上の蛍光灯を見上げる。
多分目にゴミが入ったのだろう、ジワリと視界が滲んだ。
「泣くんじゃないにゃ」
「……泣いてないよ」
そう言いながら、視線を戻す。
とりあえずこの
取り皿に入った餅巾着を掴む。
餅巾着?
餅巾着がたしかに4つ、取り皿の中に入っていた。
やあ、僕はお●んくん、よろしくね。
そんな幻聴が聞こえた。
「なあ、明石」
「なんだにゃ?」
「だれがこの餅巾着を僕の所にいれた?」
次の瞬間、明石は逃げ出した。
あいつあの一瞬でやりやがった!
慌てて僕は扉から逃走を図る明石を追う。
おそらく僕がおでんから視線を逸らした、その一瞬の隙だろう。あの瞬間までは餅巾着の動向に僕は気を使っていた。
昨日の話で僕と明石の一番嫌いなものが、餅巾着と被っていることはわかっていた。
ならば、警戒するべきは餅巾着の押し付け合いだ。明石がおれて、自身からそれをとることは考えられない。絶対に最後まで残るか、どちらかに押し付けるかしか決着はない。
しかし、あの一瞬。
ほんの数秒の間に音もさせず、此方に押し付けるとは。
なるほど、あいつもおでんによって成長しているのだな。
僕は明石に追いつくことを諦めながら、そう思った。
既に明石は扉の直前にたどり着いていた、後はもう扉を開けるだけでおでんからの逃亡は完了する。
明石も逃げ切ることに成功した、そう思ったはずだ。
「指揮官、ただいまー」
次の瞬間、勢いよく開かれた扉に弾き飛ばされるまでは。
「ぐぇ」
年頃の女の子が出すとは思えないような声を出して、明石はノックダウンされた。これがおでんから逃げた罰なのだろう。
いまだに自分が何をしでかしたのか、何もわかっていないポートランドにいう。
「……執務室はノックしてから入りなさい」
任務からの帰還にしてはあまりにも早いな、そう思いながら。
●
とりあえず明石を逃げないように縛り上げ、ポートランドの報告を聞いていると不穏な言葉が聞こえた。
「魚雷が直撃した?」
「そう、たまたま流れ弾がね。ついてなかったねーあれは」
ヒッパーに直撃、それがなにか引っかかる気がした。
なにか重大な見落としがあるんじゃないか?しかし報告の途中なので、それについて深く考えることをしなかった。
「それで大事を取って帰還したと」
「うん、ヒッパーちゃんムキになりそうだったし」
戦場において冷静さを失ったものからやられていく。
それをポートランドはちゃんと理解していた。
インディが物事に絡んでくる時、彼女の判断と思考は恐ろしく冴え渡るものがあった。
もう少しインディインディ言ってないで、自分に自信を持てばいいものを。
ポートランドも指揮官に対して同じことを考えていることなどまさか思いもよらなかった。
「……確かにな、たいした怪我にはならなそうなんだな?」
「それはもう全然大丈夫!バルジ待たせといたんでしょ?」
「一応な、僕だけの考えじゃないさ。明石の提案もあったし」
そういいながらはんぺんを明石に押し付ける。
「感謝してるならはんぺんを押し付けるのやめてほしいにゃ」
「それはそれ、これはこれ」
「私の目の前でイチャイチャを見せつけないでほしいんだけどー」
ポートランドが不満げな声を上げる。
これがいちゃついているように見えるのだろうか。
おでんで育まれる愛などあるのだろうか、いや無い。
「まあ、今日はゆっくり休んでていいぞ。」
「あつい、あついにゃ!餅巾着はしっかり冷ますにゃ!」
本当に注文が多い、そう思いながら餅巾着をフーフーと冷ます。
「はい、アーン」
「……」
「おい、どうした明石」
餅巾着を口に入れたまま明石の反応がない、なにかあったのだろうか。
「指揮官、そっとしてあげて」
「なんで?」
「いまさらアーンの恥ずかしさに気づいたのよ」
「なんでだよ……」
僕に食べさせてもらうぐらい今まで何度でもあったろうに、主なシャケの皮とかスルメとか。
「ポートランドもおでん食べてくか?餅巾着しかもうないけど」
「え」
「やっぱりいやか。明石、あと2個だ気をしっかりもて」
「やめるにゃ、もう限界にゃ……」
「私食べます!食べます!」
そう言ってポートランドは、明石が縛られてる隣に座り込んだ。まさかこんなに時期におでんを食べたがる酔狂な奴がいるとは思えなかった。
インディを信仰してるとそういう効果があるのだろうか?
「……?」
「……食べないのか?」
何かを待つようにこちらを見たまま、動きを止めたポートランド。おでんを食べるんじゃなかったのだろうか。
「アーンしてくれないんですか?」
「いや、とくに縛られてもないから自分で食べれるんじゃないか?」
「指揮官、ポートランドはアーンしてもらいたいんだにゃ」
「違います、箸が!そう私の箸がないんですよ!!」
あぁ、確かに。
明石の箸は扉に吹き飛ばされた時に、どこかに飛んでいっていた。これはアーンするしかないか。
「しょうがないな……はい、アーン」
「(箸を渡すという考えはないのかにゃ)……指揮官、冷まさないと熱いと思うにゃ」
「おい明石、餅巾着あと2つ行くか」
「お口チャックするにゃ」
あーんと餅巾着をポートランドの口の前にぶら下げると、餅巾着が一瞬で消えた。
「……は?」
「おいしい〜♪」
どうやら餅巾着はしっかりポートランドがとったらしい。
モギュモギュと餅巾着を噛みしめるポートランドをみて、僕は恐怖に震えていた。
これは明らかにおかしい、ポートランドが餅巾着を掻っ攫う姿が一瞬も見えなかった。
「も、もう一個食べるか?」
「うん!」
もう一度餅巾着をぶら下げる、今度は瞬きを絶対にしない。
次の瞬間餅巾着はどころか、箸まで消えた。
「な、なあ明石。今の見えたか?」
「み、見えなかったにゃ。箸は、箸はどこにゃ」
満面の笑みを浮かべるポートランドとは裏腹に、こんな真夏なのに僕たちは恐怖から震えが止まらなかった。
「間接キスかぁ……えへへ」
だからだろう、ポートランドのその声を聞くものは誰もいなかった。
餅巾着餅巾着って、そろそろおで●くんに謝るべき