ヒッパーに赤いマフラーをプレゼントしたい 作:なし
そしてこの話におでんはでていない←うそ
17時ぐらいに大幅に加筆しました、許して
おでんも食べ終わり、明石とポートランドは各々の場所に帰っていき1人執務に戻る。
エアコンから何か異音がしている気がするが多分大丈夫だろう、そう根拠のない見立てをつける。
さっさっさっと溜まった書類を片付けていく、やるべきことはいくらでもある。今は時間が惜しい。
ふと書類から顔を上げると、資料の山から1つの封筒が飛び出ていることに気づいた。
なぜかその封筒が気になり、山を崩さないようにそっと抜き出す。
誰かからの投書だろうか、きちんと蝋で封をしてある。
珍しいもんだなと思い、中身を確認する。
一目見て眉をひそめる。
読みづらい、それでいて異様に達筆だ。
それだけならまだしも、言葉遣いがなんだか仰々しいものがある。
まあ開けちゃったものを無視するのもなんだし、解読しよう、そうしよう。
そう思い、僕は仕事をよそに解読を始めた。
解読した仰々しい文を簡潔に述べると、執務室からおでんの匂いが漂ってくるのが、ものすごく気になるというものだった。そんなにおでんが食べたいか、そうかそうか。ならば一緒におでんを食べようではないか。
そんなことは一言も書いてないが、僕は道連れを見つけたことで少し冷静さを欠いていた。一人気持ち悪い笑みを浮かべそうになるのを必死に咬み殺す。
まだだ、まだ笑うんじゃない。その勇者の名前を見ようと、最後に書いてある名前を確認する。
グラーフという文字まで確認して僕は考えるのをやめ、適当に投書を投げ捨てた。
●
黙々と一人執務すすめる。
チラッと時計を確認すると、もう任務を終えみんなが帰投する時間だった。
仕事をしていると時間が過ぎるのが早い、おでんを食べてる時の方がよほど長く感じる。
首を回してうーんと伸びをする。
さてラストスパートだ、今日も晩御飯はおでんだろう。一人憂鬱を加速させながら書類に向かおうとすると、執務室の扉をノックする音が聞こえた。
誰だろうか?適当に入室を促す。
「入るわよ」
「あぁ、ヒッパーか。ちょっと待ってろ、一旦これを終わらせる」
パパッと最後の資料を確認し、適当に印を押す。
ヒッパーは黙ってじーっとそれを見ていた。
なにか僕に用があるのだろうか?
ヒッパーが何も言わないのでこちらから口を開く。
「怪我は大丈夫か?」
「お陰様で、あの増加装甲のおかげで無傷よ」
「それなら良かった。ポートランドにも伝えた通り、今日はもう休んでていいぞ」
その言葉を聞いても、彼女は机の前から去らなかった。窓から差し込む光が届かない影に佇むヒッパーは何か言いたそうで、なにかをまっているように見えた。
でも僕には何が言いたいのか、何を待ってるのか分からなかった。
察しが悪い僕は、尋ねることしかできない。
「ん、何か僕に用があるのか?」
「……アンタ、私に言いたいことあるんじゃないの?」
「言いたいこと?」
「そうよ」
僕が彼女にいうべきこと、なんだろうか?
少し考えるも特に何も思いつかなかった。
「あぁ、そうだな……」
ゆっくり考える。
僕が彼女に聞きたいことはなんだろうか?
いつの間にか言いたいことが、聞きたいことにすり替わっていることには全く気づかなかった。
1つだけ思いついた。
常日頃から気になってることが1つだけあった。
でも、今までそれを口にすることは憚れた。
今ならそれを聞ける気がする。
「脇が無防備すぎるけど、それって趣味?」
一瞬の沈黙の後、ヒッパーの顔が真っ赤に染まった。
これは不正解だったか。
ぷるぷるとふるえながら彼女は声を絞り出した。
「ま、まさかこの格好が私の趣味だと……?」
「わからないから僕は聞いてるんだ、世の中そういう趣味の人がいるのは理解している。」
沈黙、それを破ったのはヒッパーだった。
俯いていた顔を上げ、彼女は叫んだ。
「ッ死ね!死んじゃえ!キールの海に沈んじゃえ!!」
何か、やばい気がする。一瞬の判断、頭の警鐘に従って頭を下げる。
ヒュッと頭を屈めた上を実体化した艦装の杖が、風を切って通りすぎていった。
こいつ、手加減無しの本気じゃないか。
モーションが見えなかった、それだけの速さで振り回したということだろう。恐らく頭に直撃したらただでは済まなかった。
一瞬ざくろのように割ける頭を幻視し、身震いをする。
もう一回杖を振りかざしてるヒッパーを見て、慌てて椅子から飛び退く。
大上段からの振り下ろし一閃、間一髪回避は間に合ったが、お気に入りの椅子が犠牲になった。
あの椅子、日頃から節制して明石から特注したのに。
涙をこらえる、今はそんな感傷に浸っている暇はない。
「ちょっと待って、落ち着け!」
「私だってね、こんな服着たくないのよ!!あの開発局のヘンタイどものせいで!!」
ああ、地雷だったのか。
後悔するも手遅れだ。既にヒッパーの攻撃から避けるだけで精一杯になりつつある。
当たればタダですまない一撃をかわしつつ、必死に逃走経路を探す。
大振りの杖に遮られてなかなか見つからない、これはまずい。
「謝るから!本当に死ぬ!!」
「だから死ねって言ってるのよ!このヘンタイ!」
感情的に攻めていると思えたが、逃走経路はしっかりと塞がれていた。
じわりじわりと追い詰められ、背中がとんと壁に着く。
もう逃げ場はない、部屋の隅に追いやられたのだ。
息を荒げながらヒッパーが迫る。
「ちょろまかとッこれで終わりよ!!」
お気に入りの椅子を破壊した杖が、あの大上段からの一閃が再び僕に迫っていた。
僕にとって幸運だったのは、其の一撃が既に見たものであるということだった。
「なッ…!?」
真剣白刃どりとまではいかない。そんな芸当ができるほど生半可な一撃ではないし、そんなに強くもない。
頭上に迫る杖の身を手のひらで強く横に押し出し、速やかに逆方向に踏み込む。
それだけで杖は空を切り、地面をしたたかに打ち付けた。
一度その一撃を見ていたからこそできた芸当だった。もう一度同じことをやれと言われても、同じことをできる気がしない。
すぐさま逃げ出そうとして、まさか避けられるとは思っていなかったヒッパーの体が泳いでることに気づく。
後ろから追いかけるリスクと、ここで無力化するメリットを瞬時に判断し即座に決断する。
ここで決めるべきだ、後ろから杖を投げられでもしたらまずい。
まさか渾身の一撃を、見事に避けられるとは思ってなかったヒッパーはあっさりと組み伏せられた。
●
「命が何個あっても足りない……」
右手を決め、ヒッパーに体重をかけながら呟く。
とりあえず紐が欲しかった、ベルトでもいいだろうか。
左手でカチャカチャとベルトを外そうとするも、効き手じゃないからか、なかなかうまくいかない。
「ちょっと!ベルト外して何しようとしてんのよ!」
「勘違いしないでくれ、縛るようだよ」
「あぅ……」
やっとの事でベルトを外してヒッパーの両腕をしばる。
これで多分安心だろうと立ち上がる、あとは明石でも呼ぶべきだろうか。
「なんでそんなに強いのよ……」
「指揮官に護身術は必須だからな、じゃあ他の誰か呼んでくるからそこで待ってろ」
指揮官が狙われるかもしれないということで、強制的に一週間護身術講習を受けさせられたことを思い出した。あの頃は狙われたら諦めるしかないんじゃないか、そう思っていた。
まさか護身術が本当に役に立つときがくるとは。
執務室から去ろうとする途中、疑問が1つ浮かんだ。
「そういえば、何を言われると思ったんだ?」
後ろを振り返り問いかける。
脇のことではなかった、ならば何だったのか。
「……なんで、任務に失敗したのに怒らないのかわからなかったのよ」
「……?」
僕にはそれがどういう意味なのかわからなかった。
任務が失敗したのは、僕のせいだろう。
ヒッパーが悪いと思う必要がないじゃないか。
少し考えて、手を叩く。
「なるほど、君は叱られたかったわけだな?」
「……は?」
彼女は呆れた声をあげた。
こっちの更新少し開くかもしれません、許して