ヒッパーに赤いマフラーをプレゼントしたい 作:なし
ヒッパーが縛られた後の話はもう少し続くけど、こちらを先に。
おでんはでていない
あと日刊の方に長くのってました、ありがとうございます
ボルシチについて後書きに
もう既にすっかり日は落ちていた。
コツコツと足音を廊下に響かせながら執務室へと向かう。
晩御飯もおでん、明石が用意してくれる手筈だ。
何故私室か食堂で食べないのかといわれると、多分気分の問題なのだろう。
私室はおでんの匂いという問題もある。
だれだっておでんの匂いが染み込んだ部屋で生活するのは嫌だろう、そういうことだ。
食堂で熱々のおでんを食べているところを見せつけて、あらぬ趣味を持たせられるのも嫌だった。
最近はおでんを食べてばかりでジャベリンも弁当を持ってきていなかったが、僕の好物がおでんと見れば弁当だろうとおでんを詰め込んでくるのは目に見えていた。
だれがなんと言おうとおでんは好物じゃない。
ほかのデメリットをなんだかんだ言ったところで、結論を言うならば、要するに執務室のあの空気感が好きなのだろう。
整然とした執務室の雰囲気が好きというわけではなく、それが色々なドタバタでガラガラと崩される様が少し痛快だった。
殺伐としたこの世界の、ほんの少しの清涼感。
おでんの苦痛も少し、和らげられる気がした。
あの空気感を執務室が崩される為に作ってるのか、よく訪れてくれている明石や、その他少女たちが作ってくれているのかわからない。それについても深く考える気は無かったが。
そんなことをゆるゆると考えていると、執務室の扉の前にたどり着いた。
扉に手をかけたところで、何かやばいと直感が囁く。いつものおでんとは違う、何かスパイシーな香り。今すぐ逃げるべきだと本能が告げている。
だがしかし、扉の向こうでは明石が待ってくれているはずだった。僕が行かなければ彼女は待ちぼうけだろう。
ならば行くしかない、行かなければならないだろう。
数秒の逡巡を経て、本能を無視し意を決し扉を開ける。
扉の向こうにはグラーフ・ツェッペリンがいた。
鍋にはおでんなどではなく、茶色い何かが煮込まれていた。一人じっくり何かよくわからない鍋をかき混ぜてる横で、何故か明石が口をガムテープで塞がれ、縛り転がされていた。
状況が飲み込めず、思考が停止する。
ようやくグラーフは静止しているこちらに気づき、口を開いた。
「……煮込んでいる、全てを」
「すいません、部屋を間違いました」
すぐさま部屋を出て、扉の上にある札を確認する。
何度見返しても執務室と書いてある。
ため息をつき、呟く。
「よし、帰ろう」
そこから一歩と歩く前に、開かれた扉から出てきた腕に部屋へと引きずりこまれた。
●
グラーフが口を開く。
「日頃頑張っている卿のために、ボルシチを作ったのだ」
「カレーだよね、これ」
どう見ても匂い、色とともにカレーに見えた。
おでんじゃ無かったことに安堵しつつ、明石が作ったおでんはどこへ言ったのかと思う。
とりあえず明石の拘束を解いたものの、明石は目を覚まさなかった。多分呼吸はしてるから大丈夫だろう、そう思いそのまま横に転がしておく。
「ボルシチだ」
「カレ」
「だれがなんと言おうと、これはボルシチだ」
「……」
口を閉ざす。冷静に考えればボルシチがどういうものかわからなかった。
多分ボルシチだと言えば、これはカレーではなくボルシチなのだろう。そう思うことにした。
とりあえず卓袱台につき、グラーフから茶色いボルシチを受け取る。
「お代わりもあるからいっぱい食べて欲しい」
「わかったよ、頂きます」
一口食べる、やはりカレーの味だった。
しかし何故かその中に最近よく食べている物の味がした。
なんだろう、思い出せない。
「美味いか?」
「うん、美味しいよ」
もう一口食べようとスプーンですくうと、何か大きな具材が引っかかった。
「それは当たりだ」
「……は?」
カレーでテラリと艶めいていたが、その黄金色を僕が見間違うはずがなかった。
冷静に皿を見れば、ちくわが皿から飛び出ていることに気づいたはずだ。理解することを脳が拒否していたのだろうか。
それでも否応無く現実が叩きつけられた。
カレーのルーの中に餅巾着が入っていた。
「……なんでカレーにおでんの具材が入っている?」
グラーフは心底嬉しそうに笑いながら
「何故って常識は壊すものだと、卿が教えてくれたのではないか」
そう言った。
●
涙目になりながら、カレーを食べる。
おでんの具材がカレーに混入してることに気づいてからは、ほとんどおでん味な気がしてきた。
それでも食べ続けることができたのは、多分カレーのおかげだろう。
明石が倒されていたのは、多分カレーにおでんを入れようとしたのを拒否したからだろう。
おでんそのまま食べるのと、カレーおでんを食べるのどっちがいいかと言われると微妙なところだが。
カレーを食べるところを満足げに見ていたグラーフは言った。
「今日の本題だが、卿に頼みがある」
「なんだ?」
「アドミラル・ヒッパーのことだ」
スプーンを置く、真面目に話を聞くべきだろう。
「……あいつは口下手だ」
「君ほどじゃないだろう」
少し彼女の顔が赤くなった気がするが、多分気のせいか。
「私のことはいい、あいつの話だ。口下手な分手が出やすいのだ、椅子と平手打ちもそのせいだろう」
そう言って椅子と僕の顔を見やる。
もうグラーフまで話は広まっていたのか。
でもなんでそれをしたのか、ヒッパーは言ってないのはわかる。椅子を破壊した理由が僕に非があると伝わってないからそう判断した。
椅子は発言の代償として仕方ないと思っているが、他人から見てどんな理由があろうと、上官に平手打ちなんて言語道断なのだろう。グラーフが頭を下げるのを僕は黙って見ていた。
「……どうか彼女を許してやって欲しい」
「顔を上げろ、グラーフ」
「卿が許してくれるまで動かんぞ」
「しのごの言わず顔を上げろ、処分するならとっくにしてる」
少なくとも僕に非があると認めた上で相手を処分するほど、落ちぶれているつもりはなかった。グラーフもわかってそうだが。
彼女はゆっくりと顔を上げた。
「そうか……」
「それで話は終わりか?」
「正直、卿がヒッパーを処分するとは思ってなかった。彼女に非が有ろうと無かろうと」
少し面白いなと思った、僕はそう思われているのか。確かにヒッパーに非があっても、彼女をどうにかしようと考えないのかも知れない。
「僕を聖人君子だと思ってないか?」
「私はそう思ってる」
「いいや、僕は俗人だよ。じゃあなんでここに来た?」
「……一緒に手料理を食べたかったのだ」
そう言って、目深く帽子をかぶり込んだ。
特にいうこともなく、僕は少し冷めたカレーおでんを掻き込んだ。
なるほどと思った。手料理を振る舞おうにしても、明石が既におでんを作っていたのだろう。
それを捨てろというほど彼女は優しくないわけではない、だから折衷案としてカレーとおでんを混ぜ込んだ。そういうことだろう。
もうちょっと食べる側の気持ちを考えて欲しいが。
完食し、手を合わせる。
「ボルシチ美味しかったよ、ご馳走様」
「あぁ、いい食べっぷりだった」
グラーフの方がいい食べっぷりだった気がするが、そこに突っ込むほど自分は野暮ではなかった。
「次は明石のおでんを混ぜたやつじゃないやつにしてくれ」
「次?」
そう言って彼女は動きを止めた。
「次はないのか?まあおでんを食べきった後の話で、今度は本場のボルシチをお願いしたいんだが」
「……次、次か。あぁわかった覚えておこう」
それっきり会話はなく黙々と片付けをする。
明石をどうするかと考えていたら、グラーフが明石を持ち上げた。
彼女に任せれば大丈夫だろう。
そのままグラーフは執務室から出ようとしたところで、こちらを振り向いて言った。
「卿はずるいな」
「……何がずるいのか全くわからないが」
返事を返すことなく、そのままグラーフは去っていった。
鉄血の領域がわからない
今まで鉄血の領域はヨーロッパ一部を除いてほぼ全域かと思っていたのですが、今のイベントでなんかよくわからない国が出てきてしまった。
そうなると本場のボルシチではなくなってしまうのでは?と思った。
多分ポーランドの海軍はでないと思うので杞憂に過ぎないと祈っている。(フラグ)