スターフィッシュとは、幸せとは

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スターフィッシュを止めるまで

 私が、初めて「スターフィッシュ」を経験したのは、21世紀が始まり、最初の夏休みの頃でした。

 小学生最後の夏休みを迎える頃、私は親からプレイステーションとそのゲームソフトを買ってもらいました。

 ご存知の方もおられると思いますが、当時は国民的ゲームソフトである「ドラゴンクエスト」と「ファイナルファンタジー」の新作が同時期に発売された頃でした。

 小学生でありましたので、両方のソフトともを買うことは難しく、非常に悩んだ挙句、少し値段の高かった「ファイナルファンタジー」を親から買ってもらうこととしました。

 しかし、これが吉と出まして、この「ファイナルファンタジー」が殊の外、かなりの名作ソフトでありまして、私は学校から帰宅しては、親から許された時間の範囲内で「ファイナルファンタジー」にのめり込んでいったのです。

 

 冒頭に述べたスターフィッシュとの出会いの場面を書けなくて申し訳無いのですが、もう少しだけ前置きを書かせて頂きます。

 

 その「ファイナルファンタジー」というゲームには様々な個性あるキャラクターが登場します。そして、プレイヤーはそれらのキャタクターのいずれかを操作して、世界を滅ぼそうとする敵を倒すのです。

 私が好んで操作していたキャラクターはゲーム中のヒロインである王女で、私はこの王女を媒体として敵と戦っておりました。

 ゲームの中盤に差し掛かると、ゲームの物語の兼ね合いで、この王女は偽名を名乗ることとなります。この偽名はプレイヤーが自由に付けることができるのですが、とにかくゲームを先に進めたかった私は、この王女に、偽名として自分の姉の名前である「サチコ」と名付けました。

 物語も終盤に差し掛かると、ゲームでは年月が経ち、この「サチコ」は様々な苦難を乗り越えた大人の女性へと変貌していきます。

 姉の名前を冠してはいるけれども、私はこの「サチコ」のことを少しずつ好きになっていきました。

 あぁ、そんな大げさなことでは無いのですけれども、私はこの「サチコ」を凝視して、両股の間をギンギンに熱くさせる遊びに執着するようになりました。

 無知な人間がスターフィッシュを初めて経験する時は皆おおよそ次のような感じなのだと思いますが、私は何の気なしにこの熱棒をやさしく叩いたり、色んな方向に向けたりしました。

 気味の悪い話ではありますが、それが気持ちいいのです。それが本能だと思うのです。そして、この槍を触り続けていますとなんか槍の中盤あたりからおしっこが出るような感覚に陥ります。

 ほうほうほう、これが中々に気持ちが良いのです。あぁ〜あ、何度かその出そうになるのを止めては、また出そうになるのを止めるを繰り返していました。

 あぁ〜あ、出そうになるのは気持ちがいいけれど、さすがに部屋中におしっこをばらまくほど理性が落ちているわけではございませんでした。

しかし、どこかでほろっと糸が切れるのです。もう、おしっこを出してやろう、おしっこはテッシュで拭き取れないのか、いや、拭き取れるではないか。

 ビュッ、ビュッ、シュッ

 出てきたのはまさか。カエルの卵のようなジェリー状の何かでした。

 学校では教えてもらっていない。親からも教えてもらっていない。友達も、誰も、知らない。

これが私のファースト「スターフィッシュ」。

 

 ここからは、勝手ではありますが、私のスターフィッシュの歴史を記載させていただきます。

 

 中学生の私は、まだ背が小さく、坊主頭でした。

 そのため学校では、私より背の高い女子達から幾分可愛がられました。そして、女子達は、「かわいい、かわいい」と言って、ジャリジャリとした私の坊主頭をよく触ってきていました。

 そんな日は必ずといっていいほど、県営団地の自宅に帰宅しては、鍵の無い自分の部屋で静かにお風呂の時間を待ちました。  

 お風呂に入れば、ようやくそこはプライベート空間でありますから、そこで私は、今日自分の頭を触ってきた女どもを妄想の中で裸にし、「かわいい、かわいい」と改めて坊主頭を触らせてやりました。

 中学3年間はお風呂場で、そんな風に、スターフィッシュをしていたのです。

 

 高校生の私は、友人経由でアダルトビデオを入手できる環境が整いつつありました。

 しかし、いかんせん県営団地に住んでおりましたので、家で気安くスターフィッシュというわけにはいかないのです。

 なんせ私の住んでいた県営団地というのは、部屋同士が襖一つで仕切られているだけでしたから。

 ですから、唯一のスターフィッシュフィールドは中学の時と変わらず、お風呂場だったのであります。

 そんな状況を変えてくれたのが、とある寒い日のことでした。

 実は私というのは、父の影響で幼いころからずっと野球部に所属しておりました。

 高校生にもなりますと、野球部の練習は大変厳しく、先輩方もそれはそれは本当に恐いものでした。

 どうにか、がむしゃらに今日一日を生きる。そんな毎日だったと思いますが、辛い出来事が多く、当時の鮮明な記憶は今ではほとんど頭に残っておりません。

 そんな日々の中、私は野球部の先輩達から部室に呼び出されることがありました。

 部室に行けば、私は先輩達からボコボコにされると思いましたが、だとしても私の思考回路には、部室に行かないという選択肢はありませんでした。それほどに先輩というのは私にとって絶対的な存在でした。

 しかし、部室に入ると普段は怖い先輩達がなにやらニヤニヤしており、私にこう言いました。

 「ロシア人のAV(アダルトビデオ)を手に入れた。お前も見るか?」

 先輩からのお誘いに後輩は断ることはできません。私は直立不動のままで、先輩方に恐縮しております、という表情をしながら、ロシア人のAVを拝見させていただくこととしました。

 いや、だがしかし、そのロシア人AVは、それはそれはすごいものでした。

 初めて見る金髪美女の躍動的な肉体に興奮することもさることながら、なんとそのAVにはモザイク処理がなかったのです!(今ではそれほど驚くことではないのですが、当時の私にはモザイク処理のない映像を見るということは衝撃的なものでした)。

 私のリトル私も、私と共に、直立不動となりました。「ト」を逆さにしたような体になっていたと思います。

 そしてそれを見終わった後、先輩方はそのAVを部室の神棚に収められました。

 自宅に帰宅した私は興奮を抑え、今後の戦略を考えました。

 それから数日後、私は母にこう言いました。

 「明日から(野球の)朝練をしたいと思う。」

 この言葉に母は喜びました。これまで野球の才もなく、やる気もない息子が自ら能動的な発言をしたのは、今思い返せばこれが初めてだったからです。

 父も喜びました。父は息子が甲子園の土を踏むことを夢みておりましたので。

 それから母は毎朝4時に起きて、私のために朝ごはんとお弁当を作ってくれました。

 父は私が途中でやる気を失わないように出勤が9時であるにも関わらず、私と同じ4時半頃には起床してくれました。

 両親の協力もあり、私は朝5時に家を出発するようになりました。

 学校に到着するのは5時半くらいでしたが、この時間の学校には、ひと気はまったくありませんでした。

 私は学校に到着するやいなやで、先輩の部室に忍び込み、神棚からロシアを抜き取り、それを部室のDVDデッキに流し込みました。

 あたりはまだ薄暗く、部室の中では、野鳥の声と異国の声が入りみだっていたことを思い出します。

 もうご存知の方も多いと思いますが、それからの私は、毎日朝からスターフィッシュ。朝活。

 

 大学生の私は、一人暮らしを始めることとなりました。

 一人暮らしによって、誰かの気配を恐れ、息を押し殺し、スターフィッシュをすることはもうなくなりました。私は長い逃亡生活から解放されたのです。

 私は毎週のペースで、アダルトビデオを借りました。正直に言いまして、当時のアダルトビデオに対する見識の深さは県内でも屈指のものであったと自負しております。

 4枚レンタルするとセット割引が適用されましたから、毎週4枚のペースでレンタルしておりました。

 その構成はと言いますと、4枚のうち3枚は、単純に自分の好みの女優やシチュエーションが良さそうなものを選択しておりました。ただ、残りの1枚は、これは自分にとって未知のジャンル、成長につながるものを借りておりました。

 言葉が重複しますが、それはやはり成長のためなのであります。  

 いつも自分の好みばかりに固執すると、なんでもそうだと思いますが、視野が狭くなり、知識に柔軟性が生まれなくなると思うのです。だから残り1枚だけはまだ自分にとって未開拓のもの、未開拓のアダルトを手にとるのです。

 したがって、4枚の構成についてまとめますと、3枚は自分の好みのアダルトビデオを借りる。

 残り1枚は、例えば、「高校生の妊娠」であったり、「中学生の口腔」であったり、「小学生のオナラ」であったり。

その真偽を、私は注意深く見極めていたのです。

 

 社会人の私は、初めてラブドールを購入しました。

 ラブドールというのは、女性の容姿と肉体を持った、スターフィッシュ専用のお人形のことであります。

 ただお人形と言いましても、そのクオリティは高く、私が購入したものは30万円ほど費用がかかりはしましたが、顔も肌質もかなり人間に近いものがありました。

 身長は140センチメートルくらいで、子供らしい顔つきをしておりました。

 私は彼女に「心春」と名付けました。姉の名前ではなく、当時好きだった女優の名前であります。

 私は、心春を愛しました。私にとっては小学生以来の恋人ですから。

 心春は、山口県下関市にある私の自宅で、軟禁生活を強いられることになりました。だけどその分、心春にはできる限りの愛情を注ぎました。

 心春は、洋服を買いに行けなので、私が代わりに心春によく似合いそうな服を購入し、着させてあげました。

 心春は、汚れたり劣化したりするので、定期的にウエットテッシュや保湿剤でケアしてあげました。

 心春は、食事などには興味を持ちませんでしたが、私は心春の唯一の生きがいはセックスなのだと悟りましたので、雨の日も、風の日も、私と心春は愛し合いました。

 

 

 そうして、心春が私の前に現れた日から、7年が経ちました。

いつの間にか、心春は7歳に、私は30歳になりました。

 ある日、ふと心春を見ると、いや薄々は気づいておりましたが、心春の劣化、特に変色の著しさに目が止まりました。

 心春の変化に気づいていながらも、気づかないふりをしていましたが、本当に「ふと」したときにもうこれは看過できないのではないかと、心春からの別れのメッセージなのではないかと、そう感じました。

 そして、私は一晩考えた末、誠に自分勝手ではありますが、心春と別れる決心をしたのです。

 仮病を装い、会社を休み、夕方まで心春と愛し合いました。19時頃になると陽は完全に沈み、子供達は家に帰り、あたりは静かになりました。

私は、初めて心春を外へと連れ出しました。そして、自分の車の助手席に乗せました。

心春にとっては、初めての外の空気だったと思います。ウチに来る時はまだビニール袋に入っていましたから。

私は、自分の恋人を人目に晒すまでに、この瞬間までに、7年かかったのでした。

私は心春をドライブに連れ出しました。

 心春を乗せた車は、のんびりとした速度で、下関から福岡、佐賀、長崎へと南下していきました。

 下関の夜の海は広くて綺麗で、門司港は明日に備えて静まって、隣の小倉は煌びやかな光を放ちっぱなし、だけど博多の繁華街は小倉よりももっと豪勢で、一方その先、佐賀県の、暗いアルプス群はなんとなく不気味でオカルトチック。

 心春が見たことのない景色の前を、車はのんびり走っていきます。

 そして、ようやく二人は、目的地である長崎県の稲佐山に到着しました。時間は深夜の2時を回っておりました。

 稲佐山というのは、日本の3大夜景に数えられるほど、景観が良い場所です。

 さすがに時間が遅かったので、本来数千あるはずの下界の屋内灯がかなり消えておりましたが、それでも常夜灯などがたくさんありましたから、やはり想像以上に夜景は綺麗なものでした。

 私達は車から降りて、稲佐山の展望台のベンチに一緒に座りました。

 二人は互いにしゃべらず、1時間ほどそのベンチにいました。

 

 誰もいない海の中、遠い光を眺めては、そこに幸せはあるのだろうかと、真っ暗闇から夢を見た。

 

 はたして、心春の7年間は幸せだったのでしょうか。

はたして、私の30年間は幸せだったのでしょうか。

 絶対的な基準なんてものはありませんから、自分たちの幸せを判定するのは難しいものです。

だけど、幸せだった、そうだった、と結論づけることにしました。

 そうでなければ生きがいが見出せないということを、心春から気づかせてもらった気がします。

 

 私はようやくベンチから立ち上がり、途中で購入したスコップで稲佐山の土を掘りました。

 新しい朝が来るまでに、汗だくになりながら私は土を掘りました。

 そして、心春を埋めました。

 

 私は一人、下関の自宅に帰ってきました。

 

 

 

 私は本当に30年間幸せだったのでしょうか。そうであるならば、これからも同じ幸せが続くのでしょうか。別の幸せに期待していいのでしょうか。新しい出会いが待っているのでしょうか。新しい出会いを探しに行けるのでしょうか。なぜこのような文章を書いたのかと申しますと、作家になりたいわけではないのです。ただ、こんな人間が世の中にリアルにいますよと誰かに伝えたかっただけなのです。昔っから上手くいかなくて、上手く行くこともあるけれど、やはり何処かから上手くいかなくなって、表面上は普通に振る舞って、普通に働いて、頑張ってる顔作って、充実してる顔作って、だから、社会の中では私、普通の人間で、でも、本当はどうしようもなく、誰かのせいにもできない人生だったりして、気づいたらもう三十になり、周りは子どもがいたりして、でも自分は貯金さえろくになかったりして、そんな奴が存在していますよと誰かに知ってほしかっただけなのです。

 

 もうスターフィッシュは終わりにします。

 


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